軽量鉄骨(LGS)をやさしく解説:意味・使い方・寸法・施工のコツまで
「軽量鉄骨ってよく聞くけど、具体的に何を指しているの?」そんな疑問に、内装工事の現場で日々使っている職人の視点で、ていねいにお答えします。この記事では、軽量鉄骨(LGS)の基本から、現場での言い回し、寸法の目安、施工の流れ、失敗しがちなポイントまでを一気に理解できるように整理しました。初めての方でも安心して読み進められるよう、専門用語はかみくだいて説明します。読み終わるころには「これで現場の会話についていける」「発注や施工指示がしやすくなった」と感じてもらえるはずです。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | けいりょうてっこつ |
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英語表記 | Light Gauge Steel(LGS), Light Steel Framing(LSF) |
定義
軽量鉄骨(LGS)は、内装の間仕切りや天井下地などに用いる薄板の軽量形鋼を総称する現場ワードです。溶融亜鉛めっき鋼板などの薄い鋼板を成形してつくられ、主に「スタッド(C形)」「ランナー(U形)」と呼ばれる部材を組み合わせて壁や天井の骨組み(下地)を作ります。構造体(建物の骨組み)として使われる重量鉄骨やS造の部材とは役割が異なり、非構造部材として室内の仕上げを支えるのが基本です。材料は軽く、まっすぐで狂いが少なく、不燃であるため、石こうボード(PB)仕上げと相性がよく、オフィス・商業施設・マンションリフォームなど幅広い内装で用いられています。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「軽量鉄骨」を省略して以下のように言い換えます。
- LGS(エルジーエス)
- 軽鉄(けいてつ)
- 軽天(けいてん)…本来は「軽量天井下地」を指す言い方ですが、職種名や工種名として広く使われます
- Cチャン(C形鋼全般の通称)/スタッド・ランナー(壁下地の主要部材)
使用例(3つ)
- 「このラインでLGSのランナー打って、スタッド@455で立ててください。」(間仕切り壁の割付指示)
- 「天井は軽天でいきます。吊りボルトW3/8、C-38の野縁で@900ピッチね。」(天井下地の仕様伝達)
- 「この壁、後で棚が付くから軽鉄の補強入れておいて。」(重量物取付に向けた下地補強の指示)
使う場面・工程
軽量鉄骨を使うのは、内装下地工事の工程です。墨出し(位置出し)→ランナー取り付け→スタッド建て込み→補強・振れ止め→断熱材・遮音材充填→石こうボード張り→仕上げ、という流れが代表的。天井の場合は、インサート・アンカー設置→吊りボルト施工→野縁受け(チャンネル)→野縁→ふれ止め・レベル調整→ボード張りという順で進みます。
関連語
- スタッド(C形の縦材)、ランナー(U形の床・天井の受け)
- 野縁(C-38等の天井組用部材)、野縁受け、吊りボルト、ハンガー、ターンバックル
- 石こうボード(PB)、GL工法(直貼り工法の一種)、胴縁、ふれ止め
- @ピッチ(割付間隔のこと。例:@303、@455)
- 重量鉄骨/S造(構造躯体の鋼構造)との対比語
どんな材料?種類と形状の基本
壁:U形のランナーを床と天井(場合によっては壁)に固定し、C形のスタッドを縦方向に建て込んで骨組みを作ります。必要に応じて横胴縁(横桟)や補強プレートを入れ、開口部や設備配管用の開口を確保します。
天井:吊りボルトで上部から下地を吊り、チャンネル(野縁受け)とC-38などの野縁で格子状に組みます。レベル(高さ)と通り(直線性)を調整し、石こうボードを張ります。
付属金物・消耗品:ハンガー、クリップ、ジョイナー、ビス(テックスねじ等のドリルねじ)、アンカー、止水材、気密材などを現場条件に合わせて選定します。
規格・寸法・ピッチの目安(初心者向け早見)
製品寸法はメーカーや地域流通によって差がありますが、内装でよく見る目安は次の通りです。図面・仕様書がある場合は必ずそちらを優先してください。
- スタッド(壁の縦材)幅:おおむね45〜100mm程度(45・60・65・75・90・100など)
- 板厚(t):間仕切りで0.5〜0.8mm程度が一般的。高さが高い、遮音・耐震等で必要なら0.8〜1.2mmを選定することもあります
- スタッドのピッチ:@303mmまたは@455mmが定番(石こうボードの幅910mmに合わせた割付)
- 天井野縁の割付:野縁受け@900〜1200mm、野縁@300〜450mm程度が一例(天井仕上げ重量や仕様により決定)
- 石こうボード厚さ:9.5mm、12.5mmが一般的。遮音・耐火では二重張りや不燃特殊ボードを用いることがあります
- 開口補強:ドア枠・設備開口部は周囲に補強(ダブルスタッド、横桟、プレート)を入れるのが基本
なお、軽量鉄骨の材料自体はJIS等に準拠しためっき鋼板から成形されるのが一般的です。具体の規格番号は品種により異なるため、採用する製品の仕様書で確認してください。
軽量鉄骨の長所と短所
長所
- 軽い・まっすぐ:乾燥収縮や反りが少なく、精度を出しやすい
- 不燃・耐火区画に有利:石こうボードとの組み合わせで各種性能が取りやすい
- 工期短縮:切断・成形が容易で、ビス留め中心の乾式工法
- 安定供給:流通が安定し、規格化された部材で見積・手配がしやすい
- リサイクル性:鋼材はスクラップとして回収・再資源化しやすい
短所・注意点
- 下地単体では遮音不足:吸音材(グラスウール等)充填や二重張りが必要な場面が多い
- 重量物の取り付けに下地補強が必須:TV、棚、手すりなどは合板二重下地や補強プレートを計画する
- 切断端面の処理:切り口で手を切りやすい。防錆・清掃・養生も忘れずに
- 熱橋・結露への配慮:外壁面では断熱・気密計画とセットで検討が必要
- 耐震設計:天井は特に揺れに弱い部分があり、仕様により「特定天井」対策が必要
施工の流れとポイント(壁・天井)
壁下地(LGS間仕切り)
- 墨出し:通り芯・仕上げライン・開口位置を明確に。レーザーで通りを確認
- ランナー取り付け:床・天井にU形ランナーを固定。下地の種類(コンクリート・デッキ・木軸)に合わせてアンカーやビスを選ぶ
- スタッド建て込み:C形スタッドを所定ピッチ(@303/@455等)で立てる。開口周りはダブルスタッドや横桟で補強
- 配線・配管:設備ルートをスタッドの配線孔に通す。防火区画では貫通部の処理(モルタル・耐火材)を忘れない
- 充填材:遮音・断熱が必要ならグラスウール等を充填。密度・厚さは仕様に従う
- ボード張り:ビスピッチ、目地ずらし、ジョイント処理を守る。化粧仕上げに合わせて下地精度を確保
天井下地(軽天)
- 吊りボルト:インサートやアンカーを所定ピッチで施工。荷重・スパン・耐震仕様に合わせて径(例:W3/8)を選定
- 野縁受け・野縁:水平レベルを出しながら格子組。ターンバックルで微調整し、ふれ止めを入れて剛性を確保
- 点検口・設備機器:重量物位置には補強を先行。ダクト・照明の開口サイズも確認
- ボード張り:ジョイント位置・ねじピッチ・張り方向を守る。耐火・遮音仕様では張り順と層構成が重要
安全・品質チェック
- 手袋・長袖で切創防止。切り粉の清掃、端材の回収で現場の安全を保つ
- 固定ビスの打ち忘れ、ゆるみ、めり込み過多を全数目視
- 通り・直角・水平垂直をレーザーと定規で確認。仕上げ厚を見越して誤差を管理
選び方のコツ(設計・積算・現場手配)
- 壁高さと板厚のバランス:高い壁ほどスタッド幅・板厚を上げたり、横桟・振れ止めを適切に配置
- 遮音等級:スタッドのピッチ、二重ボード、グラスウールの種類・厚みで性能が大きく変わる
- 防火・準耐火:仕様書に沿ってボードの種類・層数、ジョイント処理、貫通部処理までセットで計画
- 荷重計画:壁掛けTVや棚、手すりなどの位置に合板下地や補強スタッドを事前組み込み
- 設備との取り合い:床・天井のレベル、開口部、ルート確保を他職と早期に調整
- 湿気・結露対策:外周部では断熱層、気密ライン、ベーパーバリアの連続性を意識
- 物流と加工性:現場搬入経路(エレベーター寸法、養生)と切断・加工スペースを確保
メーカー選定は、地域流通・入手性・必要な形状(穴あきスタッド等)・付属金物の互換性・納期で判断します。ブランド名よりも「必要性能を満たすか」「供給が安定するか」を優先しましょう。
よくある失敗とその回避策
- ビスピッチが粗く、ボードが波打つ → 仕様通りのピッチで打設。端部は特に詰める
- 開口部の補強不足 → 建具や点検口の重量・使用頻度を考慮し、ダブルスタッドや横桟で枠を堅固に
- 遮音材の欠落・隙間 → 柔らかく詰めすぎず、隙間ゼロを目指す。コンセントBOX周辺も気密処理
- 天井のたわみ・鳴き → 吊りボルト間隔と野縁のスパン管理、ふれ止めの入れ忘れ防止
- 後付け金物が効かない → 先行して合板下地やインサート位置を決め、施工図で共有
- 切創事故・サビ → 切断面のバリ取り、保護具着用、濡れた場合は乾燥と清掃を徹底
木下地・重量鉄骨との違い
木下地は加工が容易でビスの効きが良く、DIYや小規模改修で有利ですが、反り・収縮の影響を受けやすい側面があります。軽量鉄骨は寸法安定性・不燃性・施工スピードで優位。重量鉄骨は構造躯体の領域で、内装下地としての軽量鉄骨とは用途が全く異なります。現場で「鉄骨」とだけ言うと構造を指すことがあるため、「軽鉄」「LGS」と言い分けると誤解がありません。
コストと工期の考え方
内装の標準仕様であれば、LGS下地+石こうボード仕上げはコスト・工期のバランスが良い選択肢です。コストに効くのは、部材の標準化(@455ピッチ・定尺利用)、搬入動線の最適化、他職との段取り(先行配線・開口確定)です。やみくもな板厚アップや過剰な補強はコスト増に直結するため、性能要件に基づいて、必要なところに必要なだけ入れるのが最適解です。
環境・リサイクルの視点
軽量鉄骨は鋼材由来のためリサイクルが進んでいます。現場では端材や切粉を分別回収するだけで資源循環に貢献できます。また、乾式工法は水を使わず、解体・改修時も分別しやすいのが利点です。遮音・断熱性能を適切に確保できれば、運用段階の省エネにも寄与します。
よくある質問(Q&A)
Q1. 軽量鉄骨と軽天は同じですか?
A. 現場ではほぼ同義で使われることがありますが、厳密には「軽天」は軽量天井下地の略称として使うことが多く、壁も含む下地材全般は「軽量鉄骨(LGS)」と呼ぶのが無難です。
Q2. 木下地とどちらが安い?
A. 工事規模・仕様によります。量産のオフィス間仕切りや大面積天井ではLGSが段取り良くコストメリットを出しやすい一方、狭小・複雑形状や既存木造の改修では木下地が適することもあります。
Q3. 重い物は直接ビス留めできますか?
A. 原則、軽量鉄骨単体では強度が不足します。位置を特定し、合板下地や補強スタッド、専用インサートを事前に組み込むのが基本です。
Q4. 防音を高めるには?
A. スタッドのピッチを適正化し、グラスウールの充填、ボード二重張り、遮音シートの併用、コンセントBOX周囲の気密処理などを組み合わせます。床・天井との取り合いも遮音の弱点になりやすいので留意を。
Q5. 法規で気をつける点は?
A. 防火区画や準耐火・耐火の要求に合わせ、仕様書通りの層構成・ジョイント処理・貫通部処理を守ること。大規模空間の天井は「特定天井」に該当する場合があり、耐震対策や落下防止対策が必須です。最新の基準と設計図書を必ず確認してください。
法規・安全の要点(実務メモ)
- 天井:大空間や重い天井は耐震設計・ブレース・クリアランスを確保。設備機器との取り合いを明確化
- 防火:認定仕様の逸脱(ビスピッチ、目地位置、ボード種類の変更)は性能低下に直結
- 貫通部:ケーブル・配管の貫通は防火・遮音上の弱点。適切な処理材で目止め
- 安全:切創・落下・粉じん対策(保護具・養生・集じん)を徹底
現場で今日から使えるチェックリスト
- 墨と通りは合っているか(壁芯・仕上がりライン)
- ランナー下の下地は適材のアンカーで固定されているか
- スタッドピッチは図面通りか(@303/@455)
- 開口部・重量物位置の補強は入っているか
- 配線・配管ルートは確保済みか(干渉なし)
- 断熱・遮音材の充填に隙間はないか
- ボードのビスピッチ・めり込み・継ぎ目処理は適正か
- 天井のレベル・たわみ・ふれ止めは良好か
まとめ:軽量鉄骨を正しく使えば、仕上がりと工期が劇的に安定する
軽量鉄骨(LGS)は、内装の品質とスピードを両立させるための要となる下地材です。意味や言い回し、寸法の目安、施工の流れを押さえておけば、現場での指示や発注、チェックが一気にスムーズになります。特に、ピッチ・補強・法規(防火・耐震)の3点は失敗を防ぐ最重要ポイント。この記事を現場の共通言語として活用し、確実で安全な施工につなげてください。困ったときは「図面に立ち返る」「仕様書どおりに作る」「他職と早めに擦り合わせる」。この基本が、軽量鉄骨工事を成功させるいちばんの近道です。