遮音シートの基礎を丸ごと理解!現場で失敗しない選び方・使い方・施工のコツ
「遮音シートって、貼れば静かになるの?吸音材と何が違う?床と壁どっちに使う?」——初めての防音対策で、こんな疑問を持つ方は多いはずです。この記事は、建設内装の現場で日常的に使われる“遮音シート”というワードを、初心者にも分かる言葉で丁寧に解説します。プロの視点で、効果の出る使い方や失敗しやすいポイント、施工の実務的なコツまでまとめました。読み終えるころには、「どの場面で、どの遮音シートを、どう貼れば良いか」がイメージできるようになります。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | しゃおんしーと |
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英語表記 | Sound insulation sheet / Sound barrier sheet / Mass-Loaded Vinyl (MLV) |
定義
遮音シートとは、主に塩化ビニル(PVC)など高比重の樹脂を用いた薄いロール状のシートで、音を通りにくくする(空気中を伝わる音の透過を減らす)ために壁・床・天井・設備シャフトなどの建築下地に貼る内装用の材料です。厚みはおおむね0.9〜3mm程度、面密度(重さ)は約2〜5kg/m²程度の製品が一般的で、単体で音を吸収するものではなく、主に“質量を足して音の通り道を重くする”ことで、話し声・テレビ音・給排気の通過音などの空気音を小さくします。
遮音シートで何ができる?仕組みと効果の考え方
「遮音」「吸音」「防振」の違い
防音と一口に言っても役割は3つに分かれます。遮音は音を通りにくくすること(音の壁を作る)。吸音は反射を減らし残響を抑えること(室内の響きを整える)。防振は振動を抑えて固体伝播音を減らすことです。遮音シートはこのうち「遮音」を担当する部材で、吸音材(グラスウール・ロックウールなど)や防振材(防振ゴム・防振吊り金具など)と組み合わせると効果が最大化します。
なぜ効く?“質量則”の基本
音の通過は、相手が重くて密なほど通りにくくなります。これを“質量則”と呼び、遮音シートは薄くても重い性質を持つため、石膏ボードや合板の裏側に重ねるだけで透過損失(音の通りにくさ)が向上します。特に中高音域(話し声・テレビ・高めの家電音)で効果を得やすい一方、低音(ドンドンという足音やサブウーファーの重低音)は質量だけでは止めにくく、防振・浮き床・二重天井など構造的な対策が必要になります。
どこに使う?用途と狙い
遮音シートは以下のような場面で活躍します。
- 壁:隣室・隣戸への話し声やテレビ音の漏れを軽減。LGS間仕切りでボードの間に挟む、もしくはボードの表面に直貼りして仕上げで覆う方法が一般的。
- 床:階下への空気音の漏れを抑えたり、床仕上げの下地に面密度を足して総合的な遮音性能を上げる。なお足音などの床衝撃音対策には、遮音シートに加え防振下地や置床・直貼り防音フロアなどの構成が必要。
- 天井:上階・機械室からの空気音の低減。吸音材と併用し、防振吊りで固体音もケアすると効果が安定。
- 設備シャフト・PS:管路や機器騒音の空気音漏れを抑える目的で内張りに使用。継ぎ目の気密処理が重要。
現場での使い方
遮音シートは「とりあえず貼る」では本領を発揮しません。どんな音を、どの経路で、どれくらい減らしたいのかを決めたうえで、下地と仕上げの“構成”を組むのがプロのやり方です。以下に現場での言い回し、具体的な使用例、工程、関連語をまとめます。
言い回し・別称
- 遮音シート(正式・一般的)
- 防音シート(現場では同義で使われることが多いが、厳密には「防音」は総称)
- 遮音マット(床用途で厚めのタイプを指す場合あり)
- MLV(Mass-Loaded Vinyl:海外資料や輸入品での呼称)
使用例(現場での声・指示の仕方)
- 「このLGS間仕切り、片面ボードの内側に遮音シート一枚挟んで。コンセント周りはテープで気密忘れないように。」
- 「床は捨て貼り合板の上に遮音シートを全面敷き。端部は10ミリ立ち上げて、見切りで押さえる段取りにしよう。」
- 「天井の機械室側、ダクトの回りは継ぎ目無しで巻いて、突合せはブチル系の気密テープで塞いでね。」
使う場面・工程
代表的な工程は次のとおりです。
- 墨出し・下地確認(ビス位置、貫通予定箇所の洗い出し)
- 下地清掃(粉じん・油分除去)
- シート仮合わせ・裁断(巻きクセを取る、巻き径を考えて逆巻きで癖直し)
- 仮固定(タッカー・ホチキス・両面テープ・点着の弾性接着剤など)
- 継ぎ目処理(10cm程度の重ね、または突合せ+気密テープ)
- 端部・貫通部のコーキング処理(変成シリコンなど)
- 仕上げ貼り(石膏ボード、合板、床材などで覆って完成)
関連語
- 吸音材(グラスウール・ロックウール)
- 防振材(防振ゴム、防振吊り金具)
- 捨て貼り合板、二重床、置床、二重天井
- 石膏ボード(高比重タイプ)、遮音ボード
- 気密テープ、コーキング、見切り材
- L値(床衝撃音の指標)、質量則、透過損失
選び方のポイント(目的別の考え方)
1. 音の種類を特定する
まず、問題が「空気音(話し声・テレビ・機械音)」なのか「床衝撃音(足音・物の落下音)」なのかを切り分けます。空気音中心なら遮音シートが有効。床衝撃音は遮音シートだけでは限界があるため、防振下地やクッション性のある床材、上階側の対策などを併用します。
2. 厚み・面密度(重さ)で選ぶ
厚い・重いほど遮音は有利ですが、下地の許容荷重や取り回しとのバランスが必要です。一般的な室内壁には2〜3kg/m²クラス、機械室やシャフト、より高い遮音が必要な場合は4〜5kg/m²クラスを検討する、といった考え方が現実的です。カタログの透過損失データや推奨構成も参考にします。
3. 下地・仕上げとの相性
石膏ボードを二重貼りする場合、間に遮音シートを挟むと効率良く質量を稼げます。床では捨て貼り合板の上、あるいは置床の上に全面敷き。突起や段差があるとシートが浮き、仕上げに影響するため、下地は平滑に調整しましょう。仕上げ前に“面で密着”させられるかが鍵です。
4. 重量・施工性・安全
ロール一本の重量は製品によっては20〜40kgになることもあります。搬入は二人以上、無理に抱えず台車を使う、腰・手指の保護具を着けるなど安全を優先しましょう。冬期はシートが硬くなり割れやすいことがあるため、室温に馴染ませてから施工します。
5. 法規・認定の確認
内装制限が掛かる用途(避難経路等)では不燃・準不燃などの認定が必要な場合があります。遮音シート自体の難燃性能、F☆☆☆☆等のホルムアルデヒド放散等級、使用可能部位など、必ずメーカーの最新資料で確認してください。火気・高温部への近接使用にも注意が必要です。
施工方法(プロの手順とコツ)
共通の準備
下地を乾燥・清掃して粉じんと油分を除去。割付を決め、巻きクセを逆巻きで矯正。切断はカッターで数回に分けて切るとエッジが潰れにくく安全です。ジョイントは“隙間ゼロ”が鉄則。重ね張りか突合せ+気密テープで確実に塞ぎます。
壁への施工(LGS間仕切りなど)
- 吸音材(必要に応じて)をスタッド間に充填し、配線・ボックス位置を先に確定。
- 遮音シートを縦張りまたは横張り。スタッドにかかる位置でタッカーや両面テープで仮留め。
- コンセントボックス周りの切り欠きは最小限にし、周囲を気密テープやコーキングで必ず処理。
- 上から石膏ボードを貼る。継ぎ目がシートの継ぎ目と同じ位置に重ならないよう割付に配慮。
床への施工(捨て貼り合板や置床の上)
- 床を平滑にし、釘頭・ビス頭の出を撤去。段差はパテで均し、掃除機で粉じん除去。
- 全面に敷き込み、端部は10mm程度立ち上げて見切り材や巾木の内側に隠すと気密が取りやすい。
- ジョイントは10cm重ね、または突合せ+気密テープ。浮きが出る場合は点着で弾性接着剤を使用。
- 上から合板や仕上げ材(フロア・シート・タイル等)を施工。仕上げの接着剤適合性を確認。
天井への施工(上階・設備騒音対策)
- 粉じん落下に注意し、保護メガネ・マスクを着用。二人作業でたるみなく貼る。
- 防振吊りを併用できると固体音に有効。吸音材との組み合わせで総合的に効かせる。
- 照明・配管の開口は最小限にし、貫通部はコーキングを確実に。
貫通部・端部処理のポイント
- 貫通部はスリーブに抱かせて巻き込み、周囲をブチル系テープ+変成シリコンで二重止水ならぬ“二重気密”。
- 端部は見切りや巾木で押さえ込み、空気の通り道を作らない。目地からの漏気は遮音性能を大きく下げます。
ありがちな失敗例
- 継ぎ目に微小な隙間が残る(実感できるほどに効きが落ちる原因の筆頭)
- 仕上げのビスがスタッドから外れてシートのみを貫通(局所的な弱点になる)
- コンセントボックスとボードの隙間を気密処理しない(音の抜け道ができる)
- 床で立ち上げを省略(巾木裏で音の回り込みが起こる)
- 低音対策を遮音シートだけで済ませようとする(構造対策が必要)
メンテナンス・取り扱い・廃棄
完成後の庇護は基本的に不要ですが、可塑剤を含む製品では一部仕上げ材との相性に注意が必要です(相溶や移行の懸念がある場合はメーカーの適合表を確認)。保管は直射日光・高温を避け、立てかけ保管は変形の原因になるため推奨されません。廃材はプラスチック系の産業廃棄物として適切に分別・処理します。古い鉛シートなどを撤去する場合は、安全対策・処分方法について法令に従い専門家の指示を仰いでください。
メーカーと入手先(代表例)
遮音シートや関連する防音下地は、内装建材メーカーや床材メーカーから幅広く供給されています。具体的な型番や仕様は各社の最新カタログで確認してください。
- 大建工業(DAIKEN):室内音環境に強みがある建材メーカー。防音床、吸音・遮音関連の提案が豊富。
- 東リ(TOLI):床材総合メーカー。床仕上げと相性の良い遮音下地・マット類を展開。
- サンゲツ:内装総合メーカー。壁紙・床材と併せたトータルな内装提案の中で遮音下地を扱うことが多い。
- ノダ(NODA):木質系フロアや建材を展開。フロアと組み合わせる遮音下地の構成提案がある。
入手は建材流通、内装材の一次店、工務店経由のほか、プロ向けECでも取り扱いがあります。性能・認定・施工条件はロットや仕様変更で変わるため、必ず最新資料で確認しましょう。
用途別の構成例(考え方のサンプル)
以下は設計・施工の考え方の一例です。実際の仕様は現場条件・法規・仕上げ仕様に合わせて調整してください。
- 住居の間仕切り壁(隣室の話し声対策):LGS(スタッド)+片側二重ボード構成。ボード間に遮音シートを一層挟み、スタッド間に吸音材を充填。コンセントは背合わせを避け、配線周りは気密処理。
- 集合住宅の床(階下への空気音+軽微な衝撃音対策):捨て貼り合板上に遮音シートを全面敷き→仕上げフロア。軽量衝撃音には下地の剛性を上げつつ、必要に応じてクッション性や防振部材を併用。
- 機械室に面する壁(機器騒音対策):高比重遮音シート+高比重石膏ボードの複合+空気層に吸音材。隙間ゼロの気密施工を徹底。
よくある質問(Q&A)
Q1. 遮音シートと吸音材、どちらを入れれば良い?
A. 役割が違うため「どちらか」ではなく「両方」を適所に使うのが基本です。壁なら、スタッド間に吸音材、ボードとの間に遮音シートを挟む構成が定番。吸音材だけでは音は止まらず、遮音シートだけでは室内の響きが残ることがあります。
Q2. 一枚貼れば完全防音になりますか?
A. いいえ。遮音シートは“質量を足す”アイテムで、隙間のない施工と、下地・仕上げとの組み合わせがあって初めて力を発揮します。低音や床衝撃音には構造対策(防振・二重化)が必須です。期待値は現実的に設定しましょう。
Q3. 賃貸でも使えますか?
A. 原状回復が前提のため、直貼りやビス止めが難しいケースが多いです。置き敷きできる遮音マットや、フロアタイルと組み合わせる仮設的な方法を検討してください。管理規約も必ず確認しましょう。
Q4. 自分で施工しても大丈夫?
A. 小規模な壁・床であればDIYも可能ですが、隙間ゼロの気密処理や重量物の取り扱いに注意が必要です。性能を確実に出したい、低音やシャフト周りの対策が必要、といった案件はプロに相談するのがおすすめです。
Q5. 厚いほど良い?重いほど効く?
A. 基本的にはその通りですが、下地の許容荷重・仕上げの納まり・運搬性・コストとのバランスが重要です。壁なら面密度2〜3kg/m²クラスから検討し、必要に応じて上げていくと良いでしょう。
チェックリスト(現場で使う前に)
- 音の種類(空気音/衝撃音)を特定したか
- 面密度(kg/m²)と厚みは目的に合っているか
- 下地の平滑性・強度・許容荷重に問題はないか
- 継ぎ目・端部・貫通部の気密処理方法が決まっているか
- 仕上げ材の接着剤・工法との適合を確認したか
- 難燃・F☆☆☆☆等の必要な認定を確認したか
- 搬入・施工の安全対策(人員・道具・PPE)を用意したか
まとめ:遮音シートは“隙間ゼロ+正しい構成”で効かせる
遮音シートは、薄いのに重く、空気音を通しにくくする頼れる現場資材です。ただし、単体で万能ではありません。吸音材・防振材・下地の二重化などと組み合わせ、継ぎ目や端部、貫通部まで気密を徹底したときに、初めてカタログに近い効果が得られます。どの音を、どの経路で、どれくらい減らしたいのか——そこを明確にして選定・施工すれば、住まいもオフィスも確実に“静けさの質”が上がります。迷ったら、現場に慣れた内装業者や建材メーカーの技術窓口に相談してください。最適解は、目的と現場条件から必ず導けます。