建築内装の「シール材」完全ガイド:意味・種類・選び方・現場での使い方
「シール材ってコーキングと同じ?」「浴室まわりはどれを使えばいいの?」——内装の現場でよく耳にするけれど、意外と違いがわかりづらいのがシール材。この記事では、現場で日常的に使っている職人の視点と、初心者にもわかる言葉で、シール材の基礎から実践的な使い方までを丁寧に解説します。読めば、「何を選ぶべきか」「どの手順で施工するか」「失敗しないコツ」がスッキリ理解できます。
現場ワード(シール材)
読み仮名 | しーるざい |
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英語表記 | sealant / sealing material(場合によっては caulking) |
定義
シール材とは、建築の目地や部材の取り合いに充填して「すき間をふさぐ」「水・空気・汚れの侵入を防ぐ」「動き(伸縮・振動)に追従する」ためのペースト状材料の総称です。内装では、巾木やカウンター・天板と壁の取り合い、サッシまわり、キッチン・洗面・浴室などの水まわり、ガラスや金物の取り付け部周辺などで使用します。似た言葉に「コーキング」「シーリング材」があり、現場ではほぼ同義として使われることが多いです。
現場での使い方
言い回し・別称
内装現場では、以下のような言い回しが一般的です。
- 「シール」「シーリング」「コーキング」:いずれもほぼ同じ意味で使われます。
- 「シール打ち」:シール材を充填する作業のこと。
- 「増し打ち」:既存シールの上に追加で充填すること(条件あり)。
- 「打ち替え」:既存シールを撤去して新しく充填し直すこと。
- 「ヘラ押さえ」:充填後にヘラで表面を仕上げる工程。
- 「三面接着を避ける」:目地底にボンドブレーカー等を入れ、両側面のみで接着させる基本ルール。
使用例(3つ)
- 「このカウンター回り、変成でシール打っといて。あとで塗装かけるから非汚染で。」
- 「浴室のカランまわりはシリコンで。防カビグレード指定ね。」
- 「アルミ框と床の取り合い、目地が動くから低モジュラスをプライマー入れて打ち替え。」
使う場面・工程
シール材は内装の仕上げ工程の終盤で使うことが多いですが、工程や部位によって使い分けが必要です。
- 水まわり(キッチン・洗面・浴室):耐水・防カビに優れたシリコーン系が定番。
- 内装の取り合い(建具枠、巾木、カウンター、笠木、金物、サッシ室内側):塗装仕上げを想定するなら塗装適合の変成シリコーン系が万能。
- 石材・タイル・金属との取り合い:非汚染(ノンブリード)タイプを選定。目地は三面接着を避ける。
- 防火区画貫通部や設備配管まわり:指定の耐火・難燃等級を満たす専用品を使用(現場仕様書に従う)。
- 仮固定・気密補助:ブチル系テープ状シール材などを使う場合あり(設計仕様に従う)。
関連語
- プライマー:付着を高める下塗り材。
- バッカー材(バックアップ材):目地底に入れる発泡材。深さ調整と三面接着防止に使用。
- ボンドブレーカー:目地底の接着を切るためのテープ等。
- モジュラス:硬さ・反発力の指標。低モジュラスほど柔らかく動きに追従。
- ノンブリード:可塑剤がにじみ出て汚染しにくいタイプ。
- 可使時間/指触乾燥/完全硬化:施工後に触ってよい時間や完全に固まるまでの目安。
- 一成分/二成分:缶やカートリッジからそのまま使うタイプと、主剤・硬化剤を混合して使うタイプ。
シール材の種類と特徴
主な化学系の違い
代表的な種類と内装での使い分けポイントは次のとおりです。
- シリコーン系
- 特徴:耐水・耐候・耐熱に優れ、浴室・洗面など水まわりの定番。防カビグレードも豊富。
- 注意:多くは塗装不可(塗料をはじく)。塗装前提の部位には不向き。非汚染タイプを選べば金属や石材にも対応しやすい。
- 変成シリコーン系(MS系)
- 特徴:塗装可・汎用性が高く、内装〜外装まで幅広く使われる。においが比較的マイルドな製品が多い。
- 用途:枠まわり、カウンター取り合い、屋外開口部など多用途。非汚染タイプを選ぶと尚よい。
- ポリウレタン系(ウレタン)
- 特徴:強靭で耐久性が高く、床まわりや外装にも用いられる。塗装可のものが多い。
- 注意:紫外線に弱い製品があるため屋外露出は注意。室内では下地との相性確認を。
- アクリル系(水性)
- 特徴:水性で扱いやすく、においが少ない。隙間充填や簡易用途に。
- 注意:耐水性や伸縮追従は限定的。動きの大きい目地・水まわりには不向き。
- ブチル系
- 特徴:粘着性が高く、テープ状もあり気密・防水の補助に用いられる。
- 注意:表面は長期間ベタつきやすい。見切り仕上げ用途には向かないことが多い。
一成分と二成分
一成分はカートリッジやソーセージパックからそのまま使用でき、汎用の内装工事に便利。二成分は主剤と硬化剤を混ぜて使い、硬化管理や肉やせが少ないなどのメリットがあり、大きな目地や仕様が厳しい現場で採用されます。どちらもメーカーの可使時間・硬化条件を守ることが重要です。
モジュラス(硬さ)とムーブメント(追従性能)
低モジュラスは柔らかく伸びやすいので「動きが大きい目地」に適し、高モジュラスは硬めで「動きが小さく、形状保持や打ち増しが必要な場面」に向きます。製品ごとに許容変位量が設定されています。目地の幅・深さ設計と合わせ、カタログの推奨に従って選定しましょう。
室内で選ぶチェックポイント
- 塗装の有無:塗る場合は「塗装可」を明記した変成シリコーン等を選ぶ。塗らない水まわりはシリコーン系が無難。
- 非汚染性:石材や目立つ仕上げ面に接する場合はノンブリードタイプを選ぶ。
- 防カビ性:浴室・洗面・キッチンは防カビグレードを。
- におい・室内環境:低臭・低VOC、室内向け規格に適合する製品を選ぶと安心。
- 下地適合:塩ビシート、金属、ガラス、木、塗装面など、材質に応じてプライマー要否を確認。
- 可使時間・硬化速度:工程や養生のタイミングに合うものを。
施工の基本手順(失敗しないコツ)
使用する主な道具
- コーキングガン(カートリッジ/ソーセージ対応)
- マスキングテープ・養生材
- プライマー(必要に応じて)と刷毛
- バッカー材またはボンドブレーカー
- ヘラ(仕上げヘラ、ゴムベラ、スパチュラ等)
- ウエス、掃除用アルコール等(下地清掃)
- 仕上げ液:メーカーが推奨するもの(中性洗剤の代用は仕上げ不良の原因になることがあるため要注意)
下地処理
良い仕上がりは下地の清掃から。粉じん、油分、水分は付着不良の原因です。古いシールを撤去する場合は、残りカスを丁寧に除去し、表面を乾燥させます。特に塗装面・化粧面は傷付けないように注意します。
養生とバックアップ材
マスキングテープで見切りラインをきれいに取ります。目地が深い場合はバッカー材で深さを調整し、三面接着を避けます。ボンドブレーカーでも可。これだけで仕上がりと耐久性が大きく変わります。
プライマー塗布
下地や製品によりプライマーが必要です。塗りムラや塗りすぎを避け、指示された乾燥時間を守りましょう。プライマーを省くと早期剥離のリスクが一気に上がります。
充填とヘラ押さえ
ノズルは目地幅に合わせて斜めにカット。底までしっかり押し込みながら連続して充填し、すぐにヘラで押さえて空気を追い出します。表面の仕上げは過度に何度もなでないこと。仕上げ液はメーカー指定のものを使用します。
養生撤去と養生時間
マスキングテープは表面がなじんだタイミングで、シールが糸引きしない角度でゆっくりはがします。指触乾燥〜完全硬化までは製品と環境(温度・湿度)によって大きく異なります。水がかかる可能性がある部位は完全硬化まで濡らさない段取りが基本です。
よくある失敗と対策
- 早期剥離:プライマー未使用・三面接着・下地の油分残りが原因。下地処理と目地設計を見直す。
- ひび割れ・肉やせ:目地深さ不足や硬化不良、過度な仕上げ。適正な幅・深さと可使時間厳守。
- 汚染・にじみ:可塑剤ブリードや仕上げ液の残留。非汚染タイプの選定と清掃の徹底。
- 塗装はじき:シリコーン系の上に塗ろうとしたことが原因。塗装可の材料へ切り替え、既存は撤去を検討。
よくある質問(Q&A)
Q1. シール材とコーキング、シーリング材の違いは?
現場ではほぼ同じ意味で使われます。厳密には「シーリング材」が正式寄りの表現、「コーキング」は米国由来の呼び名、「シール材」は総称というイメージです。
Q2. 浴室で使うならどれ?
基本は防カビグレードのシリコーン系。塗装はできない前提で選びます。カウンターや洗面の天板取り合いも水がかかるならシリコーンが安心です。
Q3. 塗装する予定がある場合は?
塗装適合の変成シリコーン系を選びます。塗料との相性はメーカーの適合表で確認してください。シリコーン系は原則塗れません。
Q4. 既存シールの上から「増し打ち」しても大丈夫?
増し打ちが許容される条件(既存が健全・汚染なし・相性が良い等)を満たせば可能な場合もありますが、基本は「打ち替え(撤去→新規)」のほうが確実です。仕様書と製品指示に従いましょう。
Q5. どれくらいで乾きますか?
表面が触れる程度(指触乾燥)まで数十分〜数時間、完全硬化まで1〜数日が一般的ですが、種類・厚み・温湿度で大きく変わります。水まわりは特に完全硬化まで濡らさない計画が必要です。
Q6. 石材や塩ビの汚染が心配です。
ノンブリード(非汚染)タイプを選び、必ず現場で事前試験を。接する面にプライマーや保護テープを活用し、仕上げ液の拭き残しにも注意します。
Q7. 目地の幅・深さはどう決める?
製品ごとの推奨値に従います。深さは幅に対して過剰にならないようバッカー材で調整し、三面接着を避けることが基本です。
部位別の選び方・実践ポイント
建具枠・巾木・カウンター取り合い
塗装仕上げや上塗りの可能性があるなら変成シリコーン系。動きが想定される幅広の取り合いは低モジュラスが安心。木口や集成材は吸い込みによる気泡を防ぐためプライマーを検討。
サッシ室内側・ガラス取り合い
結露や微細な動きがあるため、追従性のある材を選定。金属・ガラスは付着性の相性を確認し、必要に応じてプライマーを使用。汚染が目立ちやすいのでノンブリード推奨。
水まわり(キッチン・洗面・浴室)
防カビシリコーン系が基本。シンク周り、浴槽エプロン、シャワーまわりなど、常時濡れる可能性がある部位は特に確実な下地処理と乾燥養生を徹底。石鹸カスや皮脂汚れはアルコール等でしっかり除去。
床材取り合い・金物見切り
踏まれる可能性がある部位は高モジュラスや耐摩耗性に配慮。床暖房や温度差がある場合は熱変化の追従性も確認。清掃機械の薬剤がかかる施設では耐薬品性のチェックを。
チェックリスト(現場前に確認)
- 用途と部位(水まわり/非水まわり)
- 塗装の有無(塗装可否・塗料の相性)
- 非汚染(ノンブリード)要否
- 防カビ・低臭・低VOCなどの室内環境配慮
- 下地材質(木・金属・ガラス・石・塩ビ)とプライマー要否
- 目地幅・深さ・バッカー材の準備
- 可使時間・硬化時間と工程段取り(濡らさない計画)
- メーカーの施工要領・TDS(テクニカルデータシート)確認
代表的なメーカーと簡単な特徴
以下は日本の建築内装で流通の多いメーカー例です。各社、内装用(低汚染・塗装可)、浴室用(防カビ)、外装用(高耐候)など、用途別のラインアップがあります。具体的な選定は現場仕様書とメーカーの最新カタログをご確認ください。
- セメダイン株式会社:老舗の総合接着・シーリング材メーカー。内装用から浴室用まで幅広い。
- コニシ株式会社(BONDブランド):接着剤・シーリング材の大手。塗装可タイプや低臭タイプも展開。
- オート化学工業株式会社:シーリング材専門色が強く、非汚染タイプや長期耐久の製品で知られる。
- シャープ化学工業株式会社:建築用シーリング材・接着剤を幅広く展開。内装向けのバリエーションが豊富。
- 信越化学工業株式会社(信越シリコーン):シリコーンの大手。耐水・耐熱性に優れるシリコーン系の代表格。
- 横浜ゴム株式会社(ハマタイトブランド):建築・自動車向けのシーリング材を展開。外装・サッシまわりなどでも実績が多い。
材料選定の実践フロー
迷ったら次の順で絞り込みます。
- 部位を特定(例:浴室のカウンター回り)→ 必須性能(防水・防カビ)を挙げる。
- 仕上げ条件(塗装の有無、見切りの美観、汚染リスク)を確認。
- 下地材質を確認し、プライマー要否と相性表をチェック。
- 目地の動き・幅・深さ・形状を確認し、モジュラスや許容変位で選ぶ。
- 工程(可使時間・硬化時間・臭気制限)と現場ルール(室内環境基準)に適合するか確認。
安全・品質面の注意
- 換気:室内での施工は換気を確保。低臭でも長時間密閉は避ける。
- 手袋・保護具:皮膚刺激や可塑剤汚れ対策に使う。
- ゴミ処理:残材・汚染ウエスの処理方法は現場ルールに従う。
- 試し打ち:目立たない場所で付着・汚染・仕上げ感を確認してから本番へ。
まとめ:今日から現場で迷わない「シール材」の基本
シール材は、すき間を埋めるだけでなく、仕上げの美観と耐久性を左右する重要な材料です。要点は次の3つ。1)部位と用途で系統(シリコーン/変成シリコーンなど)を選ぶ、2)下地と仕上げ条件(塗装・非汚染・防カビ)で絞る、3)正しい施工手順(下地清掃→養生→プライマー→充填→ヘラ押さえ)を守る。これだけでトラブルの多くは防げます。迷ったときは、メーカーのTDSと現場仕様書に立ち返れば大きく外しません。