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高力ボルトとは?現場で失敗しない選び方・締付け方法・規格を徹底解説

高力ボルトをやさしく理解する:種類・現場での言い回し・締付けの基本と注意点

「高力ボルトって何?普通のボルトとどう違うの?」──現場で初めてこの言葉を聞くと、だれでも少し不安になりますよね。とくに内装系の職人さんは、普段は軽天ビスやアンカー類が中心で、高力ボルトは鉄骨屋さんの仕事というイメージが強いはず。それでも、重い吊り物の受けや既存鉄骨と絡む補強、機器架台の据付などで「高力ボルト指定」と書かれている図面に出会うことがあります。この記事では、現場で迷わないために、高力ボルトの基礎知識から種類、正しい締付けの考え方、よくあるミス、関連する工具や検査のポイントまでを、やさしく丁寧に解説します。読んだその日から、図面と現場で自信を持って対応できるはずです。

現場ワード(キーワード)

読み仮名こうりきぼると
英語表記High-strength bolt (for friction grip joints), Tension control bolt

定義

建設現場で「高力ボルト」といえば、一般的にはJIS規格(JIS B 1186)に基づく「高力ボルト・高力ナット・平座金のセット」を指します。所定の締付け力(導入軸力)を確実に与えることで、鋼材同士の接触面の摩擦力で荷重を伝える「摩擦接合」に用いられるボルトで、六角ボルト形(例:F10T)と、ピンが折れるまで専用レンチで締めるトルシア形(例:S10T)などの種類があります。一般の六角ボルト(強度区分8.8や10.9など)とは用途・管理方法が異なり、ナットや座金も同一ロットのセット品を組み合わせて使用し、所定の施工手順・検査により締付け品質を担保します。

どんなときに使う?用途と内装との関係

高力ボルトは主に鉄骨造の柱梁接合やガセットプレート、ブレース、鉄骨階段の取合いなど、構造耐力に関わる接合で使われます。内装工事の職人さんが直接扱う機会は多くありませんが、以下のようなときに関わりが出ます。

  • 既存鉄骨に重い下地フレームや機器架台、キャットウォーク、看板、舞台装置などを取り付けるとき
  • 耐震補強で鉄骨ブレースや補強プレートを追加する工事に協力するとき
  • 設備・サイン・什器の仕様に「高力ボルト接合」「F10T指定」「S10T指定」と明記されているとき

ポイントは、「高力ボルト」は単なる“強いボルト”という意味ではなく、接合設計と施工・検査の一連のルール(指針・規格・手順)まで含む言葉だということ。指定がある場合は、必ず元請・設計・鉄骨業者と整合を取り、指示通りの製品・方法で施工することが大切です。

規格・種類のきほん

高力ボルトの基本を、混乱しやすいポイントだけに絞って整理します。

主な種類(呼び方)

  • 六角ボルト形(例:F8T、F10Tなど)
    • 通常の六角ボルト形状。所定の方法で規定の軸力を導入して使うタイプ。
  • トルシア形(例:S8T、S10Tなど)
    • ナット側にスプライン付きの先端(ピン)があり、専用のシアレンチ(トルシアレンチ)で締めると、所定の締付けに達した時点でピンが“プチッ”と破断して完了を知らせるタイプ。

いずれも、ボルト・ナット・座金はセットで使うのが原則。同一ロットの組み合わせで性能が出る設計です。単品の寄せ集めや他メーカーとの混用はNGです。

規格と表記

  • 代表規格:JIS B 1186(高力ボルト・高力ナット・平座金のセット)
  • 表記例:
    • F10T M22×80 セット(六角ボルト形、呼び径22mm、長さ80mm)
    • S10T M20 セット(トルシア形、呼び径20mm)

「F10T」「S10T」の“10”は強度レベルを示し、建築鉄骨で一般的に使われる代表格です。詳しい数値や許容値は規格・設計指針に従います。

対応する部材と孔

高力ボルトは、ボルト自身の強度より「導入軸力」×「すべりにくさ」を確保して性能を発揮します。なので、鋼材の接合面(摩擦面)の処理や孔の精度がとても重要。孔径や長孔の可否、摩擦面処理の指示(黒皮のまま、ブラスト面、めっき品の扱い等)は、設計図書・指針で決まります。特にめっき(溶融亜鉛めっき等)はすべり係数に影響するため、指定がない限り勝手に採用・変更しないのが鉄則です。

現場での使い方

言い回し・別称

  • 「F10(エフテン)」:F10Tの略称
  • 「トルシア」「S10」:S10Tの略称(トルシア形)
  • 「セット」:ボルト・ナット・座金のセット品のこと
  • 「検査成績書」「ミルシート(材質証明)」:製品証明書の総称として言われることがある
  • 「仮締め」「本締め」「マーキング」:締付け工程と確認印

使用例(現場での言い方)

  • 「このフレーム、F10TのM22指定だよ。ロット混ぜないでね。」
  • 「今日はトルシアで本締めまでいく。ピン折れたやつ色付け(マーキング)忘れないで。」
  • 「検査前にトルクレンチの校正確認して。仮締めはインパクトでOKだけど、本締めは指示の方法で。」

使う場面・工程

  • 受入れ:数量・サイズ・ロット・証明書の確認。保管は乾燥・ロット別に。
  • 仮組み:部材の位置出し・孔の通り確認。必要に応じて仮ボルト。
  • 仮締め:全数を軽く締め、接合面を密着させる。締め順は中心から外へ、対角で均等を基本に、図書の指示に従う。
  • 本締め:指定の方法(トルク法、回転角法、トルシア法等)で所定軸力を導入。
  • 検査・マーキング:目視・記録。必要に応じて管理トルクで再確認。

関連語

  • 摩擦接合/すべり係数/導入軸力
  • トルクレンチ/シアレンチ(トルシアレンチ)
  • 座金(ワッシャ)/ナットの向き
  • 図書(設計図・仕様書・指針)/検査成績書/ロット管理

施工手順(基本の考え方)

現場・仕様により細部は異なりますが、外さないための共通手順をまとめます。

  • 準備
    • 図面と仕様書で「種類(F or S)・呼び径・長さ・めっきの有無・締付け方法・検査方法」を確認。
    • 受入時にロット・数量・サイズ・証明書類をチェックし、混在を防ぐ。
    • 摩擦面に油・塗料・錆がないか確認。必要に応じて指示に従い清掃。
  • 仮締め
    • 全本数を軽く当て付け。インパクトを使う場合も、過大な締付けは避ける。
    • 締付け順序は、原則「接合部の中心から外周へ」「対角」など、指針・施工計画に合わせる。
  • 本締め
    • 六角ボルト形:トルク法や回転角法など、計画で決めた方法に従う。
    • トルシア形:専用レンチでピンが破断するまで締め、破断後は再締めしない。
  • 検査・表示
    • マーキング(色)で本締め済みを識別。日付・担当者・ロットなどを記録。
    • 必要に応じて管理トルクで確認。異常があればやり直し。

重要なのは「誰が」「どの方法で」「どこまで締めたか」を明確にすること。チーム内での共通ルール作りと記録が、手戻りと責任の曖昧さを防ぎます。

締付け方法と工具の選び方

主な締付け方法

  • トルク法:指定の管理トルクで締め付ける方法。トルクレンチの校正が前提。
  • 回転角法:仮締めからナットの回転角で管理する方法。ボルトの伸び量で軸力を確保しやすい。
  • トルシア法:トルシア形(S形)専用。ピン破断まで専用レンチで締める。

どの方法を採用するかは、設計・施工計画に従います。現場判断で切り替えないことが重要です。

工具

  • インパクトレンチ:仮締め用。最終締付けに流用しない(過大・不安定になりやすい)。
  • トルクレンチ:本締め・確認用。使用前に校正(トルクチェッカー等)を確認。
  • シアレンチ(トルシアレンチ):トルシア形専用。ピン破断で完了が分かる。

工具は、締付け方法に合ったものを使い、日々の点検・校正記録を残しましょう。

検査と記録のポイント

  • 目視検査:ナットの掛かり、座金の位置、ピン破断(S形)、マーキングの有無、摩擦面の状態。
  • トルク確認:必要に応じて管理トルクで再確認(方法は施工計画に従う)。
  • 記録:使用したボルトの種類・径・長さ、ロット、締付け方法、締付け日、担当者、検査者。
  • 保管記録:残材の数量とロット、開封日、保管場所、湿気対策。

記録は品質とトレーサビリティの要。後日問い合わせが来ても、自信をもって説明できます。

よくあるミスと対策

  • セット混用:別ロット・別メーカーのボルト/ナット/座金を混ぜる
    • 対策:保管段階からロット別に区分。現場では箱を開けたらラベル写真と一緒に配置。
  • 仮締めのやりすぎ/本締めのやり忘れ
    • 対策:工程ごとのマーキング色を分ける。日次で締付け進捗を集計。
  • 摩擦面の油・塗料付着
    • 対策:施工前に接合面確認。タッチアップ塗装は指示範囲のみで、摩擦面に塗らない。
  • 工具の校正不良
    • 対策:トルクレンチは使用前点検。シアレンチもメーカー推奨の点検周期を守る。
  • S形での“ピン折れ後”の再締め
    • 対策:NG。やり直しは部材交換・再セットを検討。判断は施工管理者と協議。
  • めっき品の安易な選定
    • 対策:めっきはすべり係数に影響。仕様書にないめっき品への変更は必ず設計承認を得る。

保管・取り扱いのコツ

  • 乾燥環境で保管し、結露・雨水を避ける。
  • 開封後はなるべく早く使い切る。長期保管は防錆と湿気対策を徹底。
  • 油分や汚れを付けない。摩擦面や座金に手油を付けない工夫(手袋の選定等)。
  • ロット混在防止のため、現場では箱ごとセクション管理し、使い切りを基本に。

内装職人が特に押さえたいチェックポイント

  • 「高力ボルト指定=鉄骨工事扱い」が基本。内装側で作業する場合は資格・体制含め、元請の承認を必ず得る。
  • 重い吊り物・補強金物で「F10T」等の表記があれば、アンカーや一般ボルトに置き換えない。必ず設計と協議。
  • 塗装やシーリングのはみ出しで摩擦面を汚さない。仕上げ工種と取り合う部分の養生ルールを事前に共有。
  • 既存鉄骨への後付けの場合、孔の精度・摩擦面処理・めっきの有無など、事前調査と試験体制を打合せ。

関連する基準・指針(概要)

  • JIS B 1186:高力ボルト・高力ナット・平座金のセット
  • 日本建築学会「高力ボルト接合設計施工指針・同解説」
  • (参考)鉄骨工事に関する各種技術指針・標準仕様書(最新の版を参照)

数値や許容差、検査方法の詳細は、これらの規格・指針と設計図書の指示を必ず優先してください。

代表的メーカーと入手のヒント

高力ボルトは、製造ロット管理と証明書類が重要なため、信頼できるルートから調達しましょう。国内で高力ボルトを手がける代表的なメーカーの一例です。

  • 日鉄ボルテン株式会社:建築・橋梁向けの高力ボルトで知られるボルト専業メーカー。製品証明や品質管理の体制が整っており、現場からの信頼が厚い。
  • 中部ボルト株式会社:自動車・建築分野向けの高強度ファスナーを製造。建築向けのボルトでも実績を持つ。

購入は、鉄骨向け部材を扱う専門商社・建材商社・メーカー代理店経由が一般的。発注時は「種類(F or S)」「呼び径・長さ」「表面処理」「セット数」「証明書の必要有無(提出先)」を明確に伝えましょう。

FAQ:よくある疑問

Q1. 高力ボルトと“強度区分10.9の六角ボルト”は同じですか?

A. 一般には別物と考えてください。高力ボルトはボルト・ナット・座金の“セット”で性能を発揮する摩擦接合用。対して10.9はISO等の「機械的性質の区分」で、単体の六角ボルトの強度区分を表すもの。設計・施工・検査の前提が異なります。

Q2. インパクトレンチだけで本締めしてもいい?

A. 原則不可です。仮締めまでは可としても、本締めは指定の方法(トルク法・回転角法・トルシア法)で行い、工具もそれぞれに適合したものを使います。

Q3. めっき(亜鉛めっき)の高力ボルトを選べば、錆びにくくて安心?

A. すべり係数に影響し、摩擦接合の性能に関わるため、図書の指示がない限り安易な変更はNG。必要な場合は、設計者・メーカーと協議し、指定の製品・施工で行います。

Q4. S10Tのピンが折れた後、念のためもう一回締めてもいい?

A. ダメです。ピン破断が所定軸力到達の合図。再締めは不適切で、やり直し基準は施工計画・管理者指示に従います。

Q5. 座金の入れ忘れに気づいた。ナットだけ外して座金を入れて締め直しても大丈夫?

A. 原則、適切な手順でやり直しが必要。ボルト・ナットの再使用可否、周辺への影響を含め、管理者と協議の上で対応します。

現場メモ:図面の指示の読み取り方

  • 「F10T M20×○○」:六角ボルト形の呼び径・長さ。セットで手配。
  • 「S10T」:トルシア形。専用レンチが必要。
  • 「摩擦面処理:○○」:ブラストや無塗装指示など。仕上げ工種と取り合いに注意。
  • 「締付け方法:回転角法(○○)」:方法と角度の具体指示に従う。
  • 「検査:管理トルク○○」:監理者立会いの検査段取りを事前に調整。

まとめ:高力ボルトで失敗しない三原則

  • セットを守る(同一ロット・同一メーカーのボルト/ナット/座金を組に)
  • 方法を守る(仮締め→本締め→検査、指定の締付け方法と工具で)
  • 面を守る(摩擦面を汚さない・塗らない・油ささない)

高力ボルトは、ただの“強いボルト”ではありません。設計意図と施工・検査がセットになって初めて性能が出ます。この記事を手元のガイドに、図面の指示を正しく読み取り、関係者と擦り合わせ、現場で確実に形にしていきましょう。わからないことがあれば迷わず相談する——それが、一番の品質管理です。