現場ワード「スプリングワッシャー」をやさしく解説—意味・効果・使い分け、プロの実践ポイント
「スプリングワッシャーって何?どこにどう入れるの?」——はじめて現場に出ると、そんな素朴な疑問が次々に湧いてきますよね。この記事では、建設内装の現場で職人が当たり前のように使う「スプリングワッシャー」を、専門知識がなくてもイメージできるように、意味から使い方、選び方、よくある失敗まで丁寧に解説します。読み終えるころには、先輩に「これお願い」と言われても迷わず手が動くようになります。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | すぷりんぐわっしゃー/ばねざがね |
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英語表記 | spring washer(split lock washer) |
定義
スプリングワッシャーは、切れ目が入って少しねじれている輪状の座金(ばね座金)のこと。ボルトやナットの座面に弾性力を与え、座面同士を押し付けることで、ゆるみにくくする目的で使われます。JISでは「ばね座金」と呼ばれ、現場では「スプワッシャ」「ばね座」などと略されることもあります。
現場での使い方
基本は、ボルト・ナットで金物や部材を固定するときに「振動や微動で緩みやすい箇所」「増し締めがしにくい箇所」で使います。特に、軽量鉄骨(LGS)下地の金物、設備機器の固定、軽量器具の支持金物など、内装現場でも出番は多めです。
言い回し・別称
現場でよく飛び交う言い方を知っておくと、意思疎通がスムーズです。
- スプリングワッシャー → 「スプワッシャ」「スプリング」「ばね座」「スプリングロック」
- 正式・規格名 → 「ばね座金(JISの呼び)」
- 関連略語 → 「平ワッシャ(平座金)」「セレート(歯付き)ワッシャ」
使用例(現場の会話)
- 「このブラケット、振動出るからスプリングワッシャーかませて締めといて。」
- 「順番は、平ワッシャ→スプリング→ナットで。座面キズつけないようにね。」
- 「ステン金物にはステンのスプリング使って。鉄だと後でサビるよ。」
使う場面・工程
内装の実務でよく使うのは、以下のような場面です。
- 軽天・LGS下地の補強金物や受け金物の固定
- 天井内のダクト・配管・ケーブルラックなど軽中量物の支持金物(吊りボルト周りの副資材と併用)
- 器具・什器のブラケット固定、点検口や副資材の固定
- 電設のボックス・トレイ固定など、微振動が出やすい部位
なお、重量物や安全性が厳しく求められる箇所では、二重ナット、専用のゆるみ止めナット、くさび式(ウェッジロック)座金、嫌気性接着剤など、より確実な方法を選ぶのが一般的です。スプリングワッシャーは「軽中程度のゆるみ対策」として位置づけるのが無難です。
関連語
- 平座金(平ワッシャ):座面保護・荷重分散用の基本座金
- 歯付き(セレート)ワッシャ:座面に刻みで食いつかせて回り止め
- 二重ナット:ナットを2枚使ってゆるみ止め
- ナイロンナット(Uナット等):樹脂リングで回り止め
- くさび式座金(例:ノルトロック):振動に強い高性能座金
- ねじゆるみ止め剤(嫌気性接着剤):ねじ部を化学的に固定
構造と働き(なぜゆるみに効くの?)
スプリングワッシャーは輪が一か所で切れており、全体が螺旋状にわずかに反っています。この「ばね性」によって、締め付けた後も座面に押し付け力(軸力)を残し、部材同士が密着した状態を保とうとします。また、角の立った切り口やエッジが座面に軽く食い込むことで、回り方向の微小な動きを抑制します。
ただし、強い衝撃や大きな振動が連続する環境では、スプリングワッシャー単独の効果は限定的です。荷重変動が大きい、温度変化で伸縮がある、潤滑で摩擦が落ちる、といった条件が重なる場合は、より確実なゆるみ止め(くさび式座金、二重ナット、接着剤など)と使い分けるのがプロの判断です。
メリット・デメリット
メリット
- 安価で入手しやすい。サイズも豊富で汎用性が高い
- 取り付けが簡単で、既存ボルト・ナットに追加するだけ
- 座面に初期の押し付け力を持たせ、軽中程度のゆるみを抑制
デメリット
- 強い振動・衝撃には決定打にならないことがある
- 座面がやわらかい(樹脂・木・薄板)と食い込みすぎて効きづらい/傷がつく
- 過大締めでつぶれると、ばね性が失われ効果が落ちる
- 再使用は基本不可。繰り返し使うと性能低下や破断リスク
正しい組み順と締め方(プロの基本)
スプリングワッシャーは「回す側(ナットまたはボルト頭)の直下」に入れるのが基本です。平座金を併用するなら、多くの現場で次の順番を採ります。
- 部材(座面) → 平座金 → スプリングワッシャー → ナット(またはボルト頭)
理由はシンプル。平座金で座面を保護・荷重分散し、その上でスプリングワッシャーのエッジを効かせ、回す側でしっかり押し付けるためです。平座金を使わない場合は「部材 → スプリングワッシャー → ナット」としますが、やわらかい母材や塗装面では傷やめり込みを防ぐため平座金の併用が無難です。
締め付けのコツは以下。
- 呼び径(M6、M8など)に合うサイズを選ぶ。内径が合わないと座屈・偏心の原因
- 座面にゴミ・バリがないか確認し、平行に当たるようにセット
- インパクトドライバーで一気に締めすぎない。最終はトルクレンチで適正トルク管理が理想
- 割れや変形のあるワッシャーは使わない。迷ったら交換
選び方ガイド(材質・表面処理・サイズ)
用途や環境に合わせて、次の観点で選ぶと失敗が減ります。
呼び径・形状
- ボルト・ナットの呼び径と同じもの(例:M8ボルトにはM8のスプリングワッシャー)
- ワッシャー外径や厚みは規格に準拠した一般品を選ぶのが安心
材質
- 鉄(スチール):一般内装で最も汎用。コスパ良好
- ステンレス(SUS304等):湿気・結露・水回り・外部に。腐食に強い
表面処理(鉄の場合)
- 三価クロメート(シルバー系):防錆と外観のバランスが良く内装で一般的
- ユニクロ相当の外観品名で流通する場合もあるが、成分・性能はカタログで確認
- 黒染め:屋内での鉄同士の意匠合わせに使うことも。防錆力は低め
組み合わせの相性
- 電食対策:異種金属の組み合わせは腐食の原因。原則、ボルト・ナット・座金は同じ材質・近い表面処理で合わせる
- ステンレス同士は焼付きに注意。必要に応じて潤滑(防錆潤滑剤、焼付き防止剤)を検討
よくある失敗と対策
- 順番を間違える(スプリング→平座金→ナットの順にしてしまう)→効きが弱くなる。基本の順番を守る
- 過大締めでつぶす→ばね性が死んで機能低下。適正トルクで管理
- 塗装面に直接当てて塗膜を傷める→平座金を併用し、必要なら保護シートを挟む
- 薄板や樹脂に使って座面がめり込む→広径の平座金で面圧を下げるか、別のゆるみ止め方法に切り替え
- 再使用して割れ・欠け→基本は使い捨て。外したら新しいものに交換
- 穴径や座面が合わず片当たり→部材の下穴・座面の精度も確認する
代替・併用のゆるみ止め(状況別の使い分け)
「本当に緩ませたくない」箇所は、より信頼性の高い手段を選びます。状況別のおすすめは次の通り。
- 強い振動・衝撃:くさび式座金(例:ウェッジロック系)、二重ナット、ゆるみ止めナット
- 狭所で部品点数を増やしにくい:ナイロンナット(樹脂インサートナット)
- 分解頻度が低い・脱落厳禁:嫌気性ねじゆるみ止め剤(中〜高強度)
- 座面を保護しつつ回り止め:歯付き(セレート)ワッシャの併用
スプリングワッシャーは「まずはこれ」で対応できる軽中荷重向け。要求度が上がるほど、別の方法を検討しましょう。
メーカー・入手先の例(代表例)
内装現場で手配しやすい、国内で広く流通している代表的なメーカー・商社・ブランドの例です。
- 八幡ねじ:ねじ・金物の国内大手。ホームセンターから工事現場まで幅広く流通し、サイズ展開が豊富
- サンコーインダストリー:大阪の総合ファスナー商社。JIS相当の座金類を幅広く取り扱い、現場手配がしやすい
- TRUSCO(トラスコ中山):プロツールの卸・ブランド。現場調達の定番で、スプリングワッシャーも各サイズを展開
いずれも一般的な入手先の一例です。仕様はカタログで規格・材質・表面処理を確認し、現場条件に合うものを選定してください。
規格・表記の読み方
カタログでは「ばね座金 M8 三価」「SW M6 SUS」などと記載されます。読み方のコツは以下。
- 呼び径:M6、M8、M10…(ボルト・ナットと同じ呼び)
- 材質:鉄(スチール)、SUS(ステンレス)
- 表面処理:三価(クロメート)、黒(黒染め)など
- JIS呼称:ばね座金(JIS規格に準拠したサイズ体系)
特別な性能が必要な場面では、メーカーが示す推奨用途や注意事項を必ず確認しましょう。
実践チェックリスト(朝礼前の5ポイント)
- 用途の要求度(荷重・振動・再点検可否)を把握したか
- ボルト・ナットと呼び径・材質・処理が合っているか
- 組み順は「平座金→スプリング→ナット(回す側直下)」になっているか
- 目視で欠け・変形・めっき剥がれはないか
- 適正トルクで締めたか、回転マーキングや再点検の段取りはあるか
よくある質問(Q&A)
Q. 平座金とスプリングワッシャー、どっちを先に入れる?
A. 基本は「部材→平座金→スプリング→ナット(またはボルト頭)」です。平座金で座面を守り、スプリングは回す側の直下に入れて効果を出します。
Q. 再使用しても大丈夫?
A. 原則NGです。取り外し時の塑性変形や微細な割れで性能が落ちるため、使い回さず新しいものに交換してください。
Q. インパクトでガチ締めしていい?
A. 仮締めまでならOKですが、最終は適正トルクで管理しましょう。過大締めはワッシャーがつぶれて逆効果になります。
Q. スプリングワッシャーだけで本当に緩まない?
A. 軽中程度の振動なら有効ですが、強い振動や衝撃には限界があります。重要部位は二重ナット・くさび式座金・ゆるみ止めナット・接着剤などの併用や代替を検討してください。
Q. ステンレスのボルトには何を使う?
A. 原則ステンレスのスプリングワッシャーを選びます。異種金属の組み合わせは電食の原因になりやすく、屋内でも結露環境では錆が進行します。焼付き対策も忘れずに。
現場で役立つ小ネタ(プロのワンポイント)
- 仮組み時に平座金だけ先に差しておくと、塗装面を守りつつ位置決めが楽
- 振動が強い箇所は「スプリング+歯付き」のように座金側で工夫するか、思い切って二重ナットに切替
- 吊りボルト周りは、仕様書や設備側の標準が決まっていることが多い。自己判断せず元請け・監督に確認
- マーキング(締結後にペンで線を引く)で緩みチェックが楽になる
まとめ
スプリングワッシャー(ばね座金)は、内装現場で「まずはこれ」で使える頼れる座金です。ポイントは、正しい組み順(回す側直下)、適正トルク、材質・表面処理を環境に合わせること。軽中程度のゆるみ対策としては十分に働きますが、強い振動・衝撃への万能薬ではありません。重要度に応じて、二重ナットやくさび式座金、ゆるみ止めナット、接着剤などを使い分けるのがプロの判断です。
この記事の内容を現場で一つずつ実践していけば、「スプリングワッシャーどうする?」と聞かれても、自信を持って選定・施工・説明ができるはず。迷ったときは、用途(荷重・振動・点検可否)→材質・処理→組み順→トルク、この順で確認していきましょう。