ケーブルラックを基礎から理解する:種類・選び方・施工のコツを現場目線で解説
「ケーブルラックって何を指すの?ダクトと何が違う?どれを選べば失敗しない?」——初めて現場に入ると、こんな疑問がたくさん出てきますよね。この記事では、建設内装の現場で職人が日常的に使う現場ワード「ケーブルラック」を、やさしい言葉で丁寧に解説します。種類や選び方、施工の流れ、よくある失敗と対策まで、現場で本当に使える情報だけをコンパクトにまとめました。読み終える頃には、図面打ち合わせや現場での会話がグッとスムーズになるはずです。
現場ワード(ケーブルラック)
読み仮名 | けーぶるらっく |
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英語表記 | Cable tray(または Cable rack) |
定義
ケーブルラックとは、電力・弱電・通信ケーブルを「露出でまとめて支持・保護・誘導」するための金属または樹脂製の支持材です。天井内や機械室、倉庫・工場などでルートを作り、ケーブルを安全に載せて通すために使われます。蓋で密閉する「配線ダクト」と違い、基本は開放型で放熱・点検・増設のしやすさに優れます。形状はラダー(はしご)型、パンチング(トレー)型、ワイヤーメッシュ型などが代表的です。
ケーブルラックの種類と特徴
ラダー型(はしご型)
サイドレールと横桟で構成される最もポピュラーなタイプ。長手方向の通気・放熱に優れ、重量ケーブルにも強いのが特長。電力幹線など、荷重が大きい系統に採用されやすい一方で、細径ケーブルは落ち込み防止の配慮(結束ピッチや副資材)が必要です。
パンチング/トレー型(ソリッド・パンチングトレイ)
板状の底面に穴(パンチング)があるタイプ。細径ケーブルやLANケーブルでも載せやすく、機器直近の立ち上がりなど短区間にも使いやすい。埃が溜まりやすい点や、放熱はラダーより劣る点に留意。荷重は型式次第ですが、中〜軽荷重に向くことが多いです。
ワイヤーメッシュ型
細いワイヤーを網状に溶接した軽量タイプ。加工・現場追従性が非常に高く、障害物回避や曲げ施工がしやすいのが魅力。弱電や通信系に人気です。屋外や粉塵環境ではコーティング・材質選定に配慮が必要。支持間隔は比較的短めになる傾向があるため、メーカー指針を厳守します。
素材と表面処理の選び方
スチール(溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき鋼板)、ステンレス(SUS304/316)、アルミなどが一般的です。屋内の一般環境なら溶融亜鉛めっきがコスパ良好。沿岸・薬品・厨房など腐食リスクが高い場所はステンレスや特殊塗装を検討します。クリーンルーム、病院、データセンターは粉塵や発塵性、清掃性の観点から材質・表面仕上げを慎重に選びます。
サイズ・規格の見方
サイズ表記はおおむね「幅×サイドレール高さ(×長さ)」で表します。幅は100〜600mm程度がよく使われ、サイドレール高さは50〜100mm程度が一般的です。許容荷重や支持間隔は同じ見た目でも型番で大きく異なるため、必ずメーカーの荷重表を確認しましょう。支持間隔は目安として1.5〜2.0m前後が多いですが、選定したラックの荷重性能と実荷重から決めるのが正解です。
選び方のポイント(現場で失敗しないコツ)
ラック選定は「荷重」「環境」「経路」「施工性」「将来余裕」を押さえると大きな失敗が減ります。
- 荷重:敷設するケーブルの総重量と支持間隔から必要強度を算定
- 環境:屋内外・湿気・塩害・薬品・美観要求(意匠天井)
- 経路:障害物、点検口、設備機器、ダンパー、建具開口の干渉回避
- 施工性:現場加工のしやすさ、継手位置、搬入経路、足場条件
- 将来余裕:充填率と増設余地、分離板の有無、系統追加の見込み
荷重の考え方(簡易計算法)
総荷重(N/m)=ケーブル単重(N/m)×本数の合算。支持間隔L(m)をかけて、1スパン当たりの荷重を求めます。例:単重0.5kg/mのケーブルを10本、支持間隔1.5mの場合、0.5×9.8×10×1.5≒73.5N/スパン。ラック自重と作業荷重(点検時の局所荷重)も見込むのが安全です。最終的な可否はメーカー荷重表と継手位置(スプライスの位置)込みで判断します。
充填率と将来余裕
ラックは「今ちょうど」よりも「将来の増設」を見込むのが実務の常識。現場では、設計条件や社内規程に従いながら、満杯にせず余裕を確保します。経験的には50〜60%程度の充填に抑えておくと、後の引き直しや系統追加に柔軟です(最終判断は設計条件・規程・メーカー指針に従う)。
他設備との離隔・分離
電力系と弱電系は可能な限り分離し、ノイズの影響を低減します。ラック内に仕切板を入れる、別ラックに分ける、高低差を付けるなどが定番。高温ダクトやスプリンクラーとの干渉、点検口の開閉を妨げない位置取りも重要です。
施工の流れと現場ノウハウ
1. 事前確認(図面・現地)
設計図、天井伏図、設備図、意匠図を突き合わせ、ルート・高さ・支持点を確認。梁成、スリーブ位置、ダンパー、消防設備との干渉を洗い出します。天井点検口の位置は必ずチェックし、点検性を確保します。
2. 墨出し・支持金具の計画
水平墨とルート墨を出し、支持点ピッチを決定。インサート(打込み・打設済み)やアンカー、吊りボルト(W3/8等)を用いてハンガー金具を取り付けます。耐震ブレースや振れ止めが必要な区間は設計者と合意してから施工に入ります。
3. ラックの組立・継手処理
ラック本体を支持金具に載せ、スプライス(継手金具)で接続。メーカー指定トルクで締付け、継手位置は支持点近傍に寄せるのが基本です。曲がりは既製のエルボ・ティ・クロス、または現場加工で対応します(加工可否とRは仕様書に従う)。エッジはケーブル傷防止の面取りや保護材を施します。
4. 接地(ボンディング)
ラックは金属長尺物のため、設計方針に基づき接地を取ります。継手で電気的連続性を確保できない場合は、ボンディングジャンパを併用。端部や分岐部の接地ポイントは図面に明記し、マーキングします。
5. ケーブル敷設と固定
重いケーブルから下層に、弱電・通信は上層に、系統ごとに分離して敷設。結束は結束バンドや金属バンドを使用し、必要に応じて仕切板や落下防止金網を追加。曲がり・立上り部は負荷集中が起きやすいので、結束ピッチと曲げRを丁寧に管理します。
6. 防火区画貫通と端末処理
防火区画を貫通する箇所は必ず認定工法または仕様に従い、難燃充填材・防火措置を実施。端末はケーブル保護ブッシングやストッパを使用し、鋭角部での被覆傷を防ぎます。ラベル・タグで回路識別も忘れずに。
7. 安全・品質チェック
締付トルク、支持間隔、水平・通り、接地連続性、干渉の有無、充填率、落下防止の有無を確認。高所作業では墜落防止・落下物対策を徹底し、通路上は仮設養生を行います。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「ラック」「トレイ」「ラダー」と省略されます。弱電系では「メッシュトレイ」と呼ぶことも。図面では「ケーブルラック(ケーブルトレイ)」と併記されるケースも一般的です。
使用例(3つ)
- 「この区間はラック幅300で、支持ピッチ1.5mで吊っといて」
- 「弱電はメッシュトレイで分けて、仕切板入れて離隔確保しよう」
- 「防火区画前後はラックを一旦切って、認定の貫通処理でつなぎ直して」
使う場面・工程
主に天井内・機械室・EPS/IDF周り・工場の高所通線路で使用。工程としては下地(ボード貼り前)〜仕上げ前のタイミングで取り付け、通線は仕上げ後半〜機器据付に合わせて行うことが多いです。天井見せ仕上げの場合は意匠確認が重要です。
関連語
- スプライス(継手金物)/サイドレール/横桟
- 吊りボルト/ハンガー金具/インサート/アンカー
- 仕切板/落下防止金網/エンドプレート/ブッシング
- 配線ダクト(密閉型)/バスダクト(大電流母線)/ケーブルモール(露出小配線)
- PF管・CD管(可とう電線管)/Cチャン(支持材)
よくある失敗と対策
- 支持間隔オーバーでたわむ:設計荷重とメーカー荷重表を再確認。スパン短縮やラックの剛性アップで対策。
- 弱電ノイズトラブル:電力系と弱電系の分離不足。仕切板・別ラック・ルート変更で離隔確保。
- 防火区画の未処理:図面確認不足。貫通部は必ず認定工法で処理し、写真記録を残す。
- 継手の締付不足:トルク管理未実施。指定トルクで本締め、マーキングで再緩み点検。
- エッジでケーブル被覆傷:端部保護材や面取りを徹底。曲がり部・立上り部は特に注意。
- 充填率が限界で増設不可:初期計画で余裕確保。将来用の予備スペースや空ラックを設ける。
- 意匠干渉(見せ天井での見栄え):色・材質・ルートを意匠と事前調整。水平通り・直線性を重視。
代表的なメーカー・製品(例)
ネグロス電工:国内の電設資材大手。ラダー型・トレー型・支持金具まで品揃えが広く、荷重表・施工要領が充実。全国供給体制で現場対応がしやすいのが強み。
日栄インテック:支持金具・配管支持・ラックに強い総合メーカー。耐食仕様や特殊環境向けの提案力があり、工場・プラント案件でも採用実績が多い。
レグラン(Cablofil):ワイヤーメッシュトレイの代表格。曲げ加工の自由度が高く、弱電・ICT分野での採用が多い。アクセサリ類が豊富で施工性に定評があります。
上記はいずれも国内で流通実績のある代表例です。最終選定は設計仕様・入札条件・供給可否・現場環境を踏まえて行ってください。
法規・基準に関する留意点
ケーブルラック自体は機器ではありませんが、電気設備の一部として関連法規・規程(例:電気設備技術基準、社内標準、メーカー施工要領)に従って設計・施工します。防火区画の貫通処理、接地方針、耐震・振れ止めなどは設計者指示と最新のメーカー資料を必ず確認してください。案件により、建築・設備・電気の取り合い基準が異なるため、着工前の擦り合わせが重要です。
現場のチェックリスト(抜粋)
- ルート・高さ・点検口・建具干渉は解消済みか
- 支持間隔は荷重表内か、継手位置は支持近くか
- 接地の連続性は取れているか(必要に応じボンディング)
- 充填率・将来余裕・分離(弱電/電力/通信)は確保したか
- エッジ保護・落下防止・識別表示は完了しているか
- 防火区画貫通は認定工法・写真台帳で証跡が残っているか
- 仕上がりの水平・直線性・意匠性(見せ天井)は合格か
よくある質問(FAQ)
Q. ケーブルラックと配線ダクトの違いは?
A. ラックは開放型で放熱・点検・増設に強く、ダクトは蓋付きで埃や外観保護に強いのが特徴。幹線や長距離・増設前提ならラック、見栄えや防塵を重視する短距離ならダクトが選ばれる傾向です。
Q. 支持間隔はどれくらいが目安?
A. 一般的には1.5〜2.0mが多いですが、正解は「選定したラックの荷重表と実荷重から決める」です。同じ幅でも剛性・材質で差が大きいため、必ずメーカー資料を確認してください。
Q. 電力と通信は同じラックで良い?
A. ノイズや保守性の観点から分離が望ましいです。同ラックの場合は仕切板で分ける、ルートを別にする、高低差をつけるなどで影響を低減します。最終は設計方針・規程に従います。
Q. 屋外で使える?錆は大丈夫?
A. 材質・表面処理の選定次第で屋外使用は可能です。溶融亜鉛めっき厚板やステンレス、耐候塗装を選び、端部処理とメンテ計画をセットで検討します。塩害地・薬品環境は特に注意。
Q. メッシュトレイはどんな時に有利?
A. 曲げ加工が多い、短工期で追従性が求められる、弱電中心で軽量が良い——といった条件で有利です。支持間隔は短めの設計になることが多いので、金具計画をしっかり立てます。
用語ミニ辞典
スプライス:ラック同士を繋ぐ継手金物。電気的連続性・剛性確保に重要。指定トルクで締付。
仕切板:ラック内で系統を分ける板。ノイズ低減や保守性向上に寄与。
落下防止金網(カバー):地震時や点検時の落下リスクを低減。高所通路上で採用されやすい。
インサート/アンカー:天井や梁に支持金具を固定するための部材。許容荷重・施工方法を遵守。
ボンディング(接地)ジャンパ:継手を跨いで電気的連続性を補うケーブル。要締付管理。
現場で役立つ実践テクニック
通線前の養生:角部や開口端部に養生テープや保護材を貼っておくと、被覆傷を防げます。
継手の見える化:本締め済みのボルトヘッドにマーカーで印を付け、定期点検時に緩みを即発見。
曲げ部のゆとり:直角に見せても内側Rは緩やかに。細径ケーブルの詰まり防止に効果的です。
タグ運用:系統名・行先・敷設日をタグに記録し、将来のトレース時間を短縮。
まとめ:ケーブルラックは「計画7割・施工3割」
ケーブルラックは、見た目はシンプルでも「荷重・環境・経路・将来性」を丁寧に詰めることで、施工が驚くほどスムーズになります。種類(ラダー/トレー/メッシュ)と素材、支持間隔、分離・離隔、防火・接地の基本を押さえ、メーカーの荷重表・施工要領を必ず確認する。これが現場での失敗を最小化する近道です。本記事を手元のチェックリストとして活用し、安心・安全で気持ちの良い配線ルートをつくっていきましょう。