現場ワード「納まり図」を完全解説—意味・施工図との違い、作り方とチェックリストまで
「納まり図って何?」「施工図とどう違うの?」——はじめて現場に出ると、こうした用語に戸惑う方が多いはずです。この記事では、建設内装現場で職人や監督が当たり前のように使う現場ワード「納まり図」を、初心者にもわかりやすく整理して解説します。違い・使い方・作成のコツ・チェック項目まで、実務でそのまま使える情報に絞ってまとめたので、読み終わる頃には「どこまで描けば良いか」「どの場面で必要か」がスッキリ理解できるはずです。
現場ワード(納まり図)
読み仮名 | おさまりず |
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英語表記 | Detail Drawing(Installation Detail)/Shop Drawing |
定義
納まり図とは、部材同士の取り合い(接続・見切り・仕上がり)を具体的に示すための詳細図のことです。壁と天井、建具枠と壁、床と巾木、造作家具と設備配管など、実際に施工する際に干渉や寸法不足が起きやすい部分を拡大して、寸法・クリアランス・目地・段差・固定方法・下地条件・施工順序などを明記します。設計図の意匠意図を現場で再現する“手順と寸法の翻訳書”の役割を担い、工程間・業種間の合意形成の核となります。
納まり図と「設計図」「施工図」の違い
設計図との違い
設計図は建物全体の意匠・性能・法規適合を示す図で、主に平面図・立面図・断面図・仕上表・詳細図などから構成されます。一方、納まり図は設計図だけでは曖昧になりがちな「取り合いの具体」を明確にするための現場側の詳細化です。設計図の“意図”を、施工可能な“寸法と手順”に置き換えるのが納まり図の役割です。
施工図との違い
施工図は一般に、施工者が作成する総合的な実施図面の集合で、平面調整図・天伏図・建具図・設備図との取り合い調整、割付図などを含みます。納まり図は施工図の中でも、取り合いディテールに特化した“部分詳細図”という位置づけです。つまり、施工図の一部であり、納まり図は「干渉や仕上がり品質に直結するところだけを拡大したもの」と考えると理解しやすいでしょう。
よく混同される言葉
「詳細図」「ディテール」は広い意味で使われ、納まり図もその一種です。漢字表記は「納まり図」「収まり図」の双方が見られますが、現場では「納まり」が多用されます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下のような言い回しがよく使われます。
- 「ここ、納まり図切っておいて」=この部分の詳細図を描いて共有して、の意味
- 「納まりが苦しい」=寸法的に余裕がない、干渉する可能性がある
- 「取り合いディテール出ました?」=関係業種間で合意した納まり図はできているか
- 別称:取り合い図、詳細ディテール、部分詳細
使用例(3つ)
- 使用例1:造作家具天板と壁面タイル取り合いの納まり図を作成し、天板の壁際クリアランス3mmとシーリング仕様を明記。タイル割付と干渉しない寸法で発注へ。
- 使用例2:天井点検口まわりのLGS下地と照明器具の干渉を断面で確認。ハンガー位置を@900から@600に変更し、器具の支持と点検スペースを両立。
- 使用例3:建具枠と床仕上げのレベル差を詳細化。框見付寸法、巾木納め、ドア下端の隙間(例:10~12mm)を示し、気密材と見切り材を指定。
使う場面・工程
納まり図は、主に以下のタイミングで必要になります。
- 実施計画の初期:設計意図の確認、各業種(LGS・ボード、木工、サッシ、設備、電気)との干渉洗い出し
- 発注前:製作物(造作家具、建具、金物、特注金属)の寸法確定
- 施工前会議:着手前の合意形成、チェックリストに基づく確認
- 施工中:予期せぬ現場差異(寸法誤差、設備変更)への対応として改訂版を発行
関連語
- 取り合い:異なる部材が接する部分
- 目地:仕上材の継ぎ目。意匠と伸縮吸収の両面で重要
- クリアランス(逃げ・チリ):施工誤差や動作に必要な余裕寸法
- 見切り:仕上材を端部で納めるための部材・線
- 下地:仕上げを支える骨組み(LGS、木下地など)
- RFI/質疑:図面だけで不明点がある場合の公式照会
納まり図に入れるべき情報チェックリスト
描き忘れが多いポイントを網羅的にリスト化しました。現場での「言った・言わない」を防ぐために、最低限以下は図上で明記しましょう。
- 基準:通り芯、GL/FL、天井レベル(CH)などの基準線と基準点
- 寸法:見付・見込み・厚み(t/T)・高さ(H)・幅(W)・奥行(D)・R寸法
- クリアランス:動作・施工・熱膨張に必要な余裕(例:3mm/5mmなど。数値は仕様に従う)
- 目地・段差:仕上げの継ぎ目幅、意匠目地と伸縮目地の区別、段差の理由
- 下地仕様:LGS(スタッドサイズ、@ピッチ、ランナー)、木下地の材種・サイズ
- 固定方法:ビス種別・ピッチ、アンカー・インサート、接着剤の種類と塗布範囲(製品仕様に準拠)
- 仕上げ構成:材料名、厚み、貼り方向、役物の有無、塗装番号・品番
- 納め方の断面:平面だけでなく断面/部分詳細で層構成を明確化
- 設備・電気との取り合い:器具寸法、点検スペース、引き込み経路
- 施工順序:先行・後行、養生・硬化時間、注意事項
- 許容差・公差:製作品の許容寸法、取り付け許容
- 改訂履歴:版数(Rev.)、日付、変更箇所の明示
誰でも描ける「基本の描き方」ステップ
- ステップ1:前提整理——設計図・仕様書・各メーカー標準図を確認。関係者の意匠意図と性能要件をメモ化。
- ステップ2:基準設定——通り芯、GL/FL、レベルを図に入れる。先に基準線を固定すると寸法がブレません。
- ステップ3:ビュー選定——平面・立面・断面・部分詳細のどれで伝わるかを決め、必要最小限で重複を防止。
- ステップ4:取り合いの“断面”を先に描く——層構成、厚み、クリアランス、固定方法を断面で具体化。
- ステップ5:寸法・注記——必要寸法は“基準から”入れる。注記は番号付けで本文と紐づけ、曖昧語を避ける。
- ステップ6:干渉チェック——設備・電気の器具、開閉・点検域を重ねて確認。可動部は動作軌跡で検証。
- ステップ7:第三者レビュー——他業種(電気・設備・製作業者)にレビュー依頼。差異はRFIで記録化。
- ステップ8:版管理——承認日・版数を明記し、クラウドで最新版のみを「共有」。旧版の誤使用を防ぐ。
よくある納まりディテールと要点
壁と天井の取り合い(見切りの有無)
見切り材を使うか、突き付けか、陰影(シャドーライン)を設けるかで印象が変わります。LGS下地の止め位置とボード端部の支持、目地割りに注意。照明器具が近い場合は光だまりや影の出方も検討しましょう。
- ポイント:見切り材の見付寸法と色、シーリングの有無、下地の連続性
- 例:シャドー目地を設ける場合、目地幅3~6mm程度とし、清掃性・塵溜りの説明を添える(数値は仕様に従う)
床と巾木
床仕上げの伸縮・クリアランスと巾木厚みの関係を詳細化。巾木上端の見切りラインとコーナー見切り(内外角)の処理も明記します。
- ポイント:床材の伸縮吸収(伸縮目地・コーキング)、巾木の入隅・出隅役物の有無
建具枠と壁
枠見付・見込み、壁厚、戸当たり、気密材、床との隙間などを断面で明示。丁番ビスの効き代確保や、レバーハンドルと巾木の干渉も要チェック。
- ポイント:枠と壁の取合いにシーリングか見切り材か、額縁の有無、シャープエッジの保護方法
造作家具と設備
天板奥の配線スペース、コンセント・給排水位置、換気開口の必要寸法を計画。背板着脱や点検口の確保も忘れずに。
- ポイント:可動域(引き出し・開き扉)、コード径、R角処理、化粧材小口の納め方
開口部(サッシまわり)
サッシカバーと内装仕上げの納め、結露対策の断熱連続性、見切り材の段差処理を明確に。ブラインドボックスやカーテンレールの支持位置も併記。
失敗しやすいポイントと対策
- クリアランス不足:動作や製作公差を見込まず干渉する。対策=製作物の許容差・施工誤差を合算して余裕を設定。
- 基準不一致:各図で基準がバラバラ。対策=通り芯・GL/FL・レベルを全図面で統一、寸法の起点を固定。
- 下地の欠落:仕上げに意識が向きすぎて支持下地を描いていない。対策=断面図で層構成から描き起こす。
- 設備との干渉:器具サイズ更新の反映漏れ。対策=版管理と合意記録、施工前会議で最新版のみ確認。
- 注記の曖昧さ:「等」「程度」の多用。対策=数値で指定、仕様書番号やメーカー標準図の参照を併記。
図面表現の基本ルール(読みやすさのコツ)
- 線の優先度:切断線(太)>見える線(中)>見えない線(破線)>中心線(鎖線)
- 寸法の取り方:基準から連鎖しない。できるだけ片側基準で独立寸法を入れる。
- スケール:詳細は1/5、1/2、1/1など拡大。実寸指示が必要な役物は1/1を推奨。
- 注記番号:丸数字やタグで指示書とリンク。長文注記は別紙化。
- メタ情報:図名、縮尺、作成者、チェック者、承認者、版数、日付、参照図のリストを枠内に整理。
CAD・ツール活用のヒント
2Dでの作図にはAutoCADやJw_cadなどが広く使われます。3Dで干渉チェックを行うならBIM(例:Autodesk Revit等)も有効です。重要なのはツール選びより「基準の一貫性」と「版管理」。クラウドで最新版のみを共有し、旧版はアーカイブ化して誤使用を防ぎましょう。PDF化の際はレイヤ名・しおり・ハイパーリンクで参照性を高めると、現場での閲覧速度が上がります。
現場コミュニケーションと承認プロセス
- 納まり検討会:各業種が集まり、干渉箇所を洗い出す会議。意思決定は議事録化し、図面に反映。
- RFI(質疑):不明点は口頭で終わらせず、質疑票で記録し、回答を図面・注記に落とし込む。
- モックアップ:意匠・施工の難所は実寸サンプルで確認。納まり図の正しさを現物で検証。
- 承認フロー:作成→社内チェック→元請・設計確認→承認。改訂は版数を進め、変更箇所を雲形で明示。
初心者が最初に覚えるべき略語・記号
- GL:仕上がり面基準、FL:床レベル、CH:天井高さ
- W/H/D:幅・高さ・奥行、T/t:板厚、@:ピッチ
- ±:許容差、R:曲率半径、▽:勾配、⌀:直径
- 通り芯:建物の基準となるグリッド線(A–D、1–5など)
ケーススタディ:一枚の納まり図で現場が変わる
オフィスの受付カウンターで、天板と壁タイルが干渉する懸念がありました。設計図では寸法の余裕が読み取れず、施工側は発注を躊躇。そこで納まり図を作成し、天板厚40、壁際クリアランス5、タイル割付中心、下地の受け位置、シーリング仕様を断面と平面で明示。結果、造作・タイル・電気が同じ図で合意でき、追加手直しなしで施工完了。小さな一枚の図面が、工程短縮とコスト抑制に直結しました。
よくある質問(FAQ)
Q1. 納まり図は誰が作るの?
一般に施工者側(内装工事業者・製作業者)が作成し、元請や設計の承認を得ます。複数業種が絡む場合は、取りまとめ役(施工図担当)が総合調整します。
Q2. どの程度まで描けば十分?
「発注先が迷わない」「現場が迷わない」レベルが基準です。具体的には、固定方法・クリアランス・下地・施工順序が明記され、第三者が見ても同じ納めが再現できる状態を目指します。
Q3. 目地やクリアランスの数値に“標準”はある?
材料や意匠によって適正値は変わります。一般論を鵜呑みにせず、メーカーの標準納まり図・仕様書・設計意図に従って検討してください。数値は必ず図面上に明記しましょう。
Q4. 設計図の詳細図があるのに、納まり図は必要?
必要です。設計詳細は意匠の考え方を示しますが、現場の実寸・製作品の公差・設備の納まりを踏まえた“可施工性”の確認は施工側の責任範囲となることが多いからです。
今日から使える「納まり図」作成ポイント5選
- 1. 断面優先で考える——取り合いは断面が命。平面だけで判断しない。
- 2. 基準から寸法を入れる——芯・GL/FL・レベルを先に決めてブレを防止。
- 3. 余裕を見込む——クリアランスと公差を足し込む。可動域は軌跡で検証。
- 4. 他業種の合意を取る——設計・電気・設備・製作のレビューを必ず一周。
- 5. 版管理を徹底——Rev.と日付、変更雲形、配布リストで誤施工ゼロへ。
納まり図テンプレの構成例(文字だけで確認)
- 表題欄:図名/物件名/縮尺/作成者・チェック・承認/版数/日付
- 参照欄:関連図面番号(設計図、設備・電気図、仕様書番号)
- 図1:部分断面詳細(基準線、層構成、固定、寸法、注記番号)
- 図2:部分平面詳細(割付、中心、クリアランス、見切り)
- 注記:材料・品番・仕上げ番号、施工順序、注意事項、参照標準図
- 改訂履歴:Rev.ごとの変更要旨
仕上げ材料とメーカー標準図の扱い方
仕上げや金物にはメーカーが推奨する標準納まり図があります。たとえば石膏ボード(国内では複数の大手メーカーが供給)やアルミ見切り材、造作金物などは、製品ごとに留め付け方法・目地幅の推奨値が異なります。納まり図を作る際は、各メーカーの最新カタログ・技術資料を参照し、その引用元と版(発行年月)を注記に記すと確度が上がります。
安全・品質・コストを同時に守るために
納まり図は単なる“図のきれいさ”ではなく、安全な施工手順の明文化、仕上がり品質の事前保証、不要な手戻りを減らすコスト抑制の三位一体で機能します。目の前の一箇所を明確化することが、工程全体の安定に直結します。迷ったら描く、わからなければ質問する、決まったら記録する——このシンプルな運用が最強です。
まとめ:納まり図は“現場の共通言語”
納まり図は、設計意図と現場施工の間をつなぐ共通言語です。取り合いを断面で見える化し、寸法・クリアランス・固定・順序を明記することで、関係者全員が同じゴールを目指せます。まずは基準の統一、断面優先、他業種レビュー、版管理の4点を徹底してください。この記事のチェックリストと作成ステップをそのまま活用すれば、初心者でも“迷わない図面”が描けるようになります。現場で困っている特定の納まりがあれば、その箇所名を出して検討ポイントを洗い出すところから始めてみましょう。あなたの一枚の納まり図が、現場をスムーズに動かします。