現場ワード解説:シリコン塗料の基本・使いどころ・選定ポイント
「シリコン塗料ってよく聞くけど、何が良いの?どこに使うの?内装でも使うの?」——そんな疑問を持つ初心者の方に向けて、現場で本当に役立つ視点からやさしく解説します。内装寄りの現場でも、外装塗装との取り合いやシーリングとの相性確認などで「シリコン塗料」という言葉は頻出。この記事では、定義から特徴、使い方、注意点、関連語までを一気に整理し、迷いなく現場で判断できる状態を目指します。
現場ワード(シリコン塗料)
読み仮名 | しりこんとりょう(一般的呼称)/しりこーんとりょう(化学的にはシリコーン) |
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英語表記 | Silicone resin paint(Silicone paint) |
定義
シリコン塗料とは、主成分の樹脂(バインダー)にシリコーン系樹脂を用いた塗料の総称です。現場では「シリコン」と略され、屋根・外壁などの外装用で高い耐候性・撥水性・低汚染性が期待できるカテゴリーとして広く使われます。商品名や仕様上は「アクリルシリコン(アクリル-シリコーン共重合)」などのハイブリッド樹脂も多く、純粋なシリコーン100%だけを指すわけではありません。一般に、アクリル<ウレタン<シリコン<フッ素<無機(セラミック系)の順で耐候性が上がるとされ、その中核に位置する“コスパの良い上塗り塗料”という理解が現場的です。
シリコン塗料の特徴とメリット・デメリット
メリット
シリコン塗料のメリットは次の通りです。
- 耐候性とコストのバランスが良い:外装での実績が多く、10年前後~の更新サイクルを狙いやすい(実際の耐久は下地・環境・仕様で変動)。
- 撥水性・低汚染性:雨垂れ汚れが付きにくい設計の製品が多い。
- 光沢保持性:艶あり仕様での美観が長持ちしやすい。
- ラインナップが豊富:水性・溶剤、1液・2液、艶の段階、機能付加(防カビ・防藻・ラジカル制御など)が選べる。
デメリット
反対に、注意すべき点は以下です。
- 価格はアクリル・一部ウレタンより高め:ただしフッ素・無機よりは安い。
- 「シリコーン」と「シリコーンシーリング材(コーキング)」の混同リスク:シーリング材上は基本的に塗料が乗りにくく、はじきや付着不良の原因に。
- 室内用途は製品選定が重要:VOC(揮発性有機化合物)や臭気、安全面から、内装可かつF☆☆☆☆などの適合表示を確認する必要がある。
- 既存下地の状態に敏感:チョーキング(白粉化)や汚染、油分、既存シーリングのブリードなどにより、付着不良や艶ムラが起き得る。
向いている場所・向いていない場所
向いている場所は、一般的な外壁・屋根・付帯部(雨樋・破風・鉄部など)です。内装では、空気環境基準に合致し、用途に適合する製品に限り、居室以外の高湿空間(洗面・脱衣所・機械室など)や汚れが気になる共用部で使われることがあります。向いていないのは、常時水没する箇所、極端な高温部、食品工場など厳格な衛生・規格がある空間(専用塗料が望ましい)です。
種類と仕様の基礎知識
樹脂の種類と呼称
カタログ上「シリコン塗料」と言っても、実際は「アクリルシリコン樹脂」を使ったハイブリッド設計が多数派です。純シリコーン系に近いものほど耐候性は期待できる傾向ですが、製品での配合比率や添加技術(ラジカル制御顔料など)により性能は変わります。判断は「製品仕様書(TDS)」で行いましょう。
水性/溶剤
水性は低臭・扱いやすさが魅力で、屋内や近隣環境配慮に向きます。溶剤は乾燥性・付着性に優れ、金属部や低温期の外装で採用される場面が多いです。内装は基本的に水性を優先、ただし下地・仕様により溶剤が指定されるケースもあります。
1液/2液
1液型は可使時間の制約が少なく扱いやすい。2液型(主剤+硬化剤)は硬化反応によりより高い付着・耐久を発揮しやすい反面、計量・攪拌・可使時間の管理が必要です。工期や環境、求める性能で選び分けます。
艶の段階
艶あり、7分艶、5分艶(半艶)、3分艶、艶消しなど。艶ありは汚れに強く、艶消しは落ち着いた意匠となる一方、汚れが付きやすい傾向。外装は艶あり~半艶が主流、内装は意匠性や照度計画で選定します。
機能付加
防かび・防藻、低汚染、遮熱、ラジカル制御、弾性(クラック追従)など。建物の立地や用途別に必要な機能を選び、過剰仕様や不足仕様を避けます。
比較:ほかの樹脂系塗料との違い
現場把握のためのざっくり比較(代表的な傾向)です。実力は製品・仕様依存なので、あくまで目安として捉えてください。
- アクリル:低コスト。耐候性は控えめ。仮設や短期保護向けに。
- ウレタン:密着・硬度・塗膜性能のバランスが良く、付帯部で多用。耐候性はシリコンに劣る傾向。
- シリコン:コストと耐候の中核。外装の定番。
- フッ素:高耐候・高価格。長期美観を重視する外装に。
- 無機(セラミック系):最上位クラスの耐候性をうたう製品群。設計・下地適合が重要。
カタログ上の耐用年数の目安は、アクリル(数年)→ウレタン(約7~10年)→シリコン(約10~15年)→フッ素(約15~20年)→無機(20年~)とされることが多いですが、日射・塩害・施工品質・下地条件で大きく変動します。実務では「仕様書通りの下地調整+塗布量+乾燥条件」が耐久の鍵です。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のように呼ばれます。
- 「シリコン」:シリコン塗料の略称。
- 「シリコン系」「シリコン樹脂」:同義で使われがち。
- 「アクリルシリコン」:ハイブリッド樹脂タイプ。
- 「シリコーン」:化学的表記。シーリングとの混同注意。
使用例(会話・指示の3例)
- 「外壁は下塗りシーラーのあと、上塗りは水性シリコンで2回仕上げて」
- 「この目地、シリコーン打ってあるから塗料はじくよ。塗装可のコークに入れ替えか、専用プライマー検討して」
- 「共用廊下は汚れが気になるから、低汚染型のシリコンで半艶にして照りを抑えよう」
使う場面・工程
代表的な工程は次の通りです(外装の基本フロー/内装は用途と製品指定に準拠)。
- 事前調査:下地の劣化、チョーキング、ひび割れ、旧塗膜、既存シーリング材の種類(シリコーンか否か)を確認。
- 下地処理:高圧洗浄、ケレン、補修(クラック・欠損)、不適切なシリコーンの除去・打ち替え。
- 養生:マスカー、テープで開口部・仕上げ材保護。
- 下塗り:シーラー/プライマーで吸い込み止め・付着確保(下地別に選定)。
- 中塗り・上塗り:同一製品で2回塗りが基本。所定の希釈、塗布量、乾燥時間を厳守。
- 検査・手直し:膜厚、色差、艶ムラ、ピンホール、はじきの有無を確認。
関連語
- シーラー/プライマー:下塗り材。付着と吸い込み調整の要。
- ラジカル制御:顔料や添加剤で塗膜劣化因子の発生・拡散を抑える設計。
- 低汚染:汚れを雨で洗い流しやすくする、帯電・親水性などの工夫。
- F☆☆☆☆:建材のホルムアルデヒド放散等級。内装での採用判断に重要。
- シリコーンシーリング材:防水用シーリング。基本的に上から塗装不可が多い(塗装可タイプは別途)。
内装目線での注意点と取り合い調整
内装工事に関わる職長・監督・多能工が知っておくとトラブルを避けられるポイントです。
- VOC・臭気:居室や医療・教育施設では低臭の水性、F☆☆☆☆が前提。夜間作業や引渡し直前の溶剤使用は苦情の元に。
- シーリングとの相性:シリコーン打設面に塗料は乗りにくい。塗装仕上げ部は塗装可タイプのシーリング材に指定するか、取り合いで見切りを設ける。
- 設備・家具との干渉:熱源周り、結露が多い機器周辺は、耐熱・防カビ等の機能を加味して選ぶ。
- 艶調整と照明:半艶・3分艶は室内の照り返し軽減に有効。モックアップで確認すると安心。
- 工程管理:乾燥時間を守らない上塗りは縮み・割れ・艶ムラの原因。暖房・除湿・送風で環境を整える。
よくあるトラブルと対策
- はじき(ビーディング):原因はシリコーン汚染、油分、離型剤、手垢。対策は汚染除去、適合プライマー、塗装可シーリングへの切替。
- 付着不良:チョーキング未処理、旧膜脆弱、湿潤下地が原因。対策は洗浄・ケレン・下塗り選定と乾燥管理。
- 艶ムラ:塗布量不足、希釈過多、乾燥差。対策は規定膜厚の確保、均一なローラー圧とウェットエッジ維持。
- 白化・ベタつき:低温高湿や溶剤の残留が原因。対策は気温・湿度管理、インターバル厳守。
- ブリード汚染:可塑剤やシーリングが原因。対策はブリード止めプライマー、打替え、見切り詳細の見直し。
施工のコツ(職人メモ)
- 撹拌は底から確実に:着色剤・添加剤の偏りは色ムラ・性能低下に直結。
- 希釈は規定内で:薄めすぎは隠ぺい・耐久低下、濃すぎは伸び・平滑性が悪化。
- 道具選定:外装広面は中長毛ローラー、平滑仕上げはマイクロファイバー系、縁回りは腰のある刷毛。
- 温湿度管理:一般に気温5~35℃、湿度85%以下が目安。朝露・結露の時間帯は避ける。
- 塗り重ね間隔:最短を守るだけでなく「下塗りの完全乾燥」を待つと仕上がりが安定。
- 見切りの先行決め:塗れない素材(ステンレス、シリコーンなど)との境界はテープ・ジョイント部材で明確化。
メーカー例と位置づけ
国内でシリコン塗料(シリコーン樹脂塗料)を幅広く展開する代表的な塗料メーカーです。具体製品は用途・仕様で大きく異なるため、必ず製品仕様書で適合を確認してください。
- 日本ペイント(ニッペ):総合塗料メーカー。外装・内装向けに水性・溶剤のラインを多数展開。
- 関西ペイント:汎用から高機能まで幅広いシリーズ。工業・建築の実績が豊富。
- エスケー化研:建築仕上げでの採用が多く、下塗りから上塗りまで体系化された製品群。
- 菊水化学工業:建築仕上げ材・塗料メーカー。外装仕様の選択肢が多い。
- アステックペイント:高機能系の建築塗料を展開。遮熱や低汚染などの機能型も扱う。
メーカーが異なっても「下塗り(シーラー・プライマー)+上塗り(シリコン系2回)」の基本構成は共通することが多く、下地・環境に合わせた組み合わせ提案がカギです。
選定のチェックリスト(内装・外装共通)
- 使う場所:外壁/屋根/鉄部/室内(居室・非居室)
- 下地:モルタル、サイディング、ALC、金属、木部、既存塗膜の種類
- 環境:日射・塩害・工場粉じん・高湿・温度条件
- 求める機能:防汚、防かび、防藻、遮熱、弾性、艶
- 水性/溶剤、1液/2液の指定
- 安全・衛生:F☆☆☆☆、低臭仕様、VOC規制
- 工程と工期:乾燥時間、気象条件、夜間作業の有無
- コストバランス:材料単価だけでなく塗回数・塗布量・養生手間まで含めて検討
勘違い注意:「シリコン塗料」と「シリコーンシーリング材」は別物
現場で最も多い混同です。シリコーンシーリング材(コーキング)は防水材で、塗料がはじかれる・付着しない傾向があります。塗装仕上げが前提の目地には「塗装可タイプ」のシーリング材を指定するか、塗装前に打ち替え・ブリード止め処理を行う必要があります。打合せ段階で取り合いを確認し、詳細図や仕様書で明記しておくと安心です。
安全衛生と環境配慮
- 保護具:手袋、保護メガネ、マスク(有機溶剤用・防塵)。
- 換気:溶剤系は特に十分な換気と火気管理。引火性・中毒に注意。
- 廃材処理:残塗料・洗浄水は地域ルール・メーカー指示に従って適正処理。
- 周辺配慮:車・植栽・近隣への飛散防止、臭気クレーム対策の時間帯配慮。
ケーススタディ:内装で言及される典型シーン
- 浴室改修での注意喚起:「目地がシリコーンだから、塗る前に塗装可のコーキングへ変更要」
- 共用廊下の汚れ対策:「低汚染性のシリコンで半艶仕上げ。手摺接触部は汚れにくさ優先」
- 設備室の環境対応:「臭気を避けたいので水性シリコン。乾燥時間を夜間で確保」
よくある質問(FAQ)
Q1. シリコン塗料は内装にも使えますか?
A. 製品によります。内装可の表示(F☆☆☆☆・低臭など)と、用途適合(下地・機能)を満たすことが条件です。居室では特に空気環境に配慮してください。
Q2. シリコーンコーキングの上に塗れますか?
A. 基本的に不可です。塗装可タイプへ打ち替える、もしくは専用プライマー等の対策が必要です。事前の相性試験を推奨します。
Q3. 耐用年数は何年くらい?
A. 立地・日射・塩害・下地と施工品質で大きく変わります。カタログ上は「おおむね10~15年」を目安とする製品が多いですが、実態は条件依存です。
Q4. DIYでも使えますか?
A. 可能ですが、下地処理・養生・乾燥管理で結果が大きく変わります。特に外装や高所は安全・品質の両面で専門業者に依頼するのが無難です。
Q5. 「ラジカル制御型シリコン」とは?
A. 紫外線で発生する劣化因子(ラジカル)の影響を抑える設計(顔料・添加剤など)を取り入れたシリコン塗料です。光沢保持や耐候性の向上が狙いです。
実務で役立つチェックポイント(サマリ)
- 定義:シリコーン樹脂をバインダーに含む塗料。現場では“外装の定番”という位置づけ。
- 選定:場所・下地・機能・水性/溶剤・1液/2液・艶・F☆☆☆☆の有無で総合判断。
- 工程:下地調整と下塗りの適合がすべての土台。塗布量と乾燥時間を厳守。
- 注意:シリコーンシーリング材上は基本的に塗れない。取り合い調整は事前に。
- 品質:温湿度・希釈・撹拌・道具選定が仕上がりを左右。記録と現場検査をルーチン化。
まとめ:迷ったら「用途・下地・環境」から逆算
シリコン塗料は、現場での使い勝手・耐候性・コストのバランスに優れた“中核的な上塗り材”です。ただし「シリコン」という名前だけで選ぶのではなく、使う場所(内装か外装か)、下地の種類、周辺環境、必要な機能(低汚染・防かび・艶)、安全性(F☆☆☆☆・低臭)を揃えて初めて、その良さが活きます。また、シリコーンシーリングとの混同によるはじき・付着不良は定番のトラブル。取り合いの仕様決めと、施工前の下地確認こそが最良の品質管理です。この記事をチェックリスト代わりに、現場での会話や仕様検討に役立ててください。悩んだときは、製品の仕様書とメーカー技術相談、そして現場の実情(温湿度・工期・人員)を見比べて、無理のない最適解を選びましょう。