通信用配管をやさしく解説:現場で迷わない基礎知識・選び方・施工の勘所
「通信用配管って、電気の配管と何が違うの?」「CD管とPF管、どっちを使えばいいの?」——初めて現場に入ると、こうした疑問が必ず出てきます。この記事では、建設内装の現場で職人が日常的に使う現場ワード「通信用配管」について、意味から種類、選び方、施工のコツ、注意点までを現場目線でわかりやすく解説します。読むだけで、図面や合番、先輩との会話がぐっと理解しやすくなります。
現場ワード(通信用配管)
読み仮名 | つうしんようはいかん |
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英語表記 | Telecommunication conduit(Communication conduit, Low-voltage conduit) |
定義
通信用配管とは、電話・インターホン・LAN(情報)・監視カメラ・放送・各種センサーなどの「通信・信号(弱電)」ケーブルを通すための配管(ダクト・管路)の総称です。電力(照明・コンセント)用の配管と区別され、ケーブル同士の干渉防止、保護、更新・追加のしやすさ、見栄え(内装品質)を目的に設けられます。材質は樹脂製の可とう管(CD管・PF管)や硬質塩ビ管(VE管)、現場条件により金属電線管などが選ばれます。図面上では「通信」「情報」「弱電」系統のラインや、情報盤/HUB/MDF・IDF等と機器・コンセントを結ぶ管として表現されます。
まず押さえる基本:電力配管との違い・弱電の考え方
現場では「電力(強電)」と「通信・信号(弱電)」を分けて考えます。通信用配管は弱電用で、一般に取り扱う電圧やケーブル構造が異なります。代表例はUTPケーブル(LAN)、メタル電話線、同軸(テレビ・監視)、制御線など。電磁ノイズや曲げ、引張りに弱いものも多く、配管径や曲げ半径、他系統との離隔に配慮するのがポイント。更新(あとからケーブルを増やす/入れ替える)を見越して、空配管(予備管)を入れる判断も大切です。
通信用配管の主な種類と使い分け
CD管(合成樹脂製可とう電線管:主にコンクリート埋設用)
オレンジ色でよく見かけるコルゲートの可とう管。主にスラブや壁のコンクリート埋設で使用されます。曲げやすく施工性が高い一方、露出や屋外・紫外線環境には不向き。内装では床内(置床)や壁内でも仕様書により使用されます。通信用でもよく使われますが、露出が求められる箇所や防火上の指示がある箇所では別の管種を選ぶのが一般的です。
PF管(合成樹脂製可とう電線管:難燃・露出対応品あり)
グレー系が多い可とう管。難燃性や耐候性に優れ、露出や天井内など幅広い場面で使いやすい管です。通信用配管で「柔らかくて曲がる管」が必要な場合はPF管が第一候補になることが多いです。器具接続やボックス立ち上がりもスムーズで、通線性も良好。型番・仕様の確認は現場の標準/仕様書に従いましょう。
VE管(硬質塩化ビニル電線管:直管)
直管タイプで、見た目がきれいに収まりやすく、露出配管でのライン出しに向きます。曲げはエルボやベンダー加工で対応。オフィスの露出配管やラックからボックスまでの短距離など、仕上がりを意識する箇所に選ばれます。
金属電線管(薄鋼電線管など)
機械室や耐久性が求められる箇所、機械的強度が必要な場所などで採用。通信用でも環境や仕様次第で選定されます。施工は部材・工具の管理と曲げ加工の精度が重要です。
付属品(共通)
通信用配管でも電気配管同様に、カップリング、サドル・クリップ、エルボ、コネクタ、ブッシング、ボックス、スリーブ、グロメット、防火パテ・モルタルなどを使用します。情報用アウトレットボックス、情報盤(HUBラック)周りのダクト・バー、ケーブルラックへの接続金具なども関係します。
配管径の選び方とルート設計のコツ
配管径の目安(現場感覚)
通信用はあとからケーブルが増えやすいので、余裕を持った径選定が大切です。一般的にはケーブルの太さ・本数に対し、占有を詰め込み過ぎない(余裕を30〜40%以上残すイメージ)と通線・更新が楽になります。Cat6Aなど太めのLANケーブルは特に注意。1条でもCD16では厳しいケースがあるため、CD22/28やPF22/28を選定することが多いです。最終的には設計・仕様書に従い、承認を得たうえで決定してください。
曲げ・経路の考え方
通信用ケーブルは曲げに弱いものが多く、急角度や折れ(エビ曲げ)は通線不良や性能劣化の原因になります。可能な限り緩やかなルート、曲がり回数を減らす、途中にプルボックスを設置するなどで通線性を確保します。二重天井・床下では設備との干渉を避け、点検口から手が届く位置にボックスを配置すると保守性が向上します。
他系統との離隔・交差
電力配線や高周波ノイズ源(インバータ機器、照明安定器など)から適切に距離を取り、やむを得ない交差は直角に行うのが基本。通信性能を守るための配慮として、現場ではよく意識されます。詳細距離は基準・仕様の指示に従ってください。
予備管(空配管)の考え方
オフィスや店舗はレイアウト変更・増設が付きもの。主要ルート(情報盤〜各ゾーン)には1本予備の空配管を入れておくと後の工期短縮につながります。空配管には通線ワイヤー(ガイド)を残し、両端を識別表示しておくと親切です。
施工手順(内装現場での実践フロー)
1. 図面・仕様の確認
系統(通信・情報・監視など)、管種指定、配管経路、貫通部の防火・防水処理、接続ボックスや情報盤の位置・高さを確認。内装建込みの進捗(軽天、GL、置床、OAフロア、天井下地)との取り合いも調整します。
2. 墨出し・ルート合意
他業種(電気、設備、空調、内装)の取り合いを現場打合せし、干渉しないルートと高さを合意。ケーブルラックや天井内の吊配管は、支持金具のピッチやアンカー位置も合わせて決めます。
3. スリーブ・ボックスの先行
壁・床の貫通がある場合はスリーブを先行設置。情報アウトレットボックス、端子盤・HUB足元のボックスも先回りで取り付けます。防火区画は後で確実に処理できるよう、写真管理・マーキングを行います。
4. 配管敷設
指定の管種でルートに沿って敷設。サドルやバンドで適切なピッチで支持し、端末はブッシング・グロメットでケーブルを保護。曲げは最小限・緩やかに。長距離や曲がりが多い場合は途中にプルボックスを入れて通線性を確保します。
5. 貫通部処理(防火・防水・遮音)
区画貫通は、仕様に従って耐火材(ロックウール充填+耐火パテ/モルタルなど)で処理。床貫通で水気がある場合は防水処理、ホテル・病院など遮音性能が必要な壁は遮音仕様を遵守します。
6. 通線(ケーブル挿入)
通線ワイヤーやフィッシュテープを使い、必要に応じて潤滑剤を使用。LANケーブルは強い引張り・圧迫・ねじれに注意。複数条を同時に引く場合はヘッドをきれいにまとめ、通線方向を計画して無理のない作業を心がけます。
7. 表示・試験・写真記録
両端のラベル表示、経路・貫通処理の写真、通線前後の配管状態の写真を残すと、検査や将来の改修で役に立ちます。通信の試験(導通、LAN認証など)に支障がないよう、配管内の圧迫や潰れを再確認します。
防火・防水・仕上がりでの注意点
防火区画貫通
通信用配管でも防火区画を貫通する場合は、指定の耐火材料・工法で確実に処理。あとでケーブルが増える可能性があれば、再施工しやすいモジュール型の防火措置を検討します。必ず写真を残し、検査に備えます。
露出部の仕上げ
オフィスや店舗で露出配管にする場合、ラインの通り、サドル間隔、機器周りの納まりが見栄えを左右します。VE管やPF管は色味や曲がりのキレイさが品質に直結。見えるところほど慎重に施工しましょう。
床・屋外・湿気環境
床下や屋外は防水・耐候性、結露リスクに配慮。水が溜まりやすい低部は避け、必要に応じて立ち上げてから機器へ接続します。仕様書や現場標準に従い管種・付属品を選定します。
通線のコツと工具選び
通線でのストレスを減らすポイントは以下の通りです。
- 長距離や曲がりが多い場合は、途中にプルボックスを入れて分割通線。
- フィッシュテープ(スチール・グラスファイバー)を使い分け、傷をつけないように。
- LANケーブルは引張荷重・曲げ半径を守り、結束は緩めの面ファスナー等で。
- 潤滑剤を使用する際は、ケーブル仕様に適合するものを選定。
- 先端のヘッドは小さく滑らかにまとめ、絶縁テープで段差を無くす。
- 通線方向は「下り重力」を活かすなど、現場の状況に合わせて計画。
現場での使い方
言い回し・別称
通信用配管は、現場では「弱電管」「情報配管」「通信管」「LAN配管」と呼ばれることがあります。管種で「CDで」「PFで」と指示されるケースも多く、スリーブやボックスを含めて「通信用一式」とまとめて使う言い回しも一般的です。
使用例(3つ)
- 「この会議室、通信用配管はCD22で床から立ち上げておいて。情報コンセントはW=250で。」
- 「将来増設ありそうだから、情報盤まで空配管を1本、PF28で入れて通線ワイヤー残しておいて。」
- 「ここ防火区画だから、通信用配管の貫通部は耐火パテで処理。写真も忘れずに。」
使う場面・工程
二重天井・置床・壁内の配管工程、ボックス取付、スリーブ先行、通線、ラベリング、竣工検査まで、内装・電気・通信が交わる多くのシーンで登場します。取り合い調整(干渉回避)や見栄え重視の露出配管では特に重要です。
関連語
- 弱電、情報盤、MDF/IDF、HUB、ケーブルラック、OAフロア、プルボックス
- CD管、PF管、VE管、金属電線管、サドル、ブッシング、スリーブ、グロメット
- 耐火パテ、ロックウール、モール、フロアコア、識別ラベル、通線ワイヤー
よくある失敗と対策
- 曲げがきつくて通線できない
対策:曲がりを減らし、Rを大きく。途中にプルボックスを追加。径を一回り上げる。 - 配管径が足りず、増設時に詰まる
対策:余裕を見た径選定と予備管の敷設。将来計画を設計者と共有する。 - 防火区画の処理漏れ
対策:事前マーキング・写真管理。完了時に相互確認(チェックリスト化)。 - 電力配線と近すぎてノイズ懸念
対策:ルート再検討、ラック分離、交差は直角、離隔の確保。 - 露出配管の見栄えが悪い
対策:直線・水平垂直の通り出し、サドルピッチ統一、曲げ精度の向上。
代表的メーカー・ブランド(例)
通信用配管や関連金具・工具は多くのメーカーが扱っています。以下は現場でよく見かける代表例です(一般的な例であり、採用は仕様書・現場標準に従ってください)。
- 未来工業:可とう管(PF・CD)、ボックス、各種配線材。現場での使い勝手に配慮した製品が豊富。
- ネグロス電工:サポート金具・吊り金具・ラック関連。配管の支持・固定に役立つ部材が充実。
- ジェフコム(デンサン):通線工具(フィッシュテープ、通線ワイヤー)、潤滑剤、計測器など。
- パナソニック:配線器具・情報コンセント・盤用部材など、情報端末まわりの機器が強い。
このほか、現場や用途に応じて各地域の商社経由で多様なメーカーが採用されます。型式・仕様は必ず図面・仕仕様書で確認しましょう。
現場で役立つチェックリスト
- 図面の系統(通信・情報・監視など)と管種指定を確認したか。
- ルートは他業種と干渉しないか、サドル・支持間隔は適正か。
- 曲げ回数・角度は通線に無理がないか、プルボックスは必要十分か。
- 防火区画・防水・遮音の処理計画と写真管理はできているか。
- 配管径に余裕はあるか、将来の増設に備えた空配管は入れたか。
- 端末の保護(ブッシング・グロメット)、ラベル表示は完了しているか。
- 露出部の見栄え(通り・ピッチ・色味)は仕様通りか。
よくある質問(Q&A)
Q1. 通信用配管と電力用配管は一緒の管に入れていい?
基本的に分けます。通信性能・ノイズ対策・保守性の観点からも分離が原則。図面・仕様書に従ってください。
Q2. CD管とPF管の違いは?どちらを選べばいい?
CD管は主にコンクリート埋設に使う可とう管、PF管は難燃・露出にも対応できる可とう管という捉え方が一般的です。屋内露出や天井内、見栄えや難燃性が求められる場合はPF管、埋設はCD管と使い分けることが多いです。
Q3. LANケーブルを通す最小曲げ半径は?
具体値はケーブル仕様に従います。現場では「無理な折れを作らず、ゆったり曲げる」ことを徹底。不明な場合は、曲げはできるだけ大きく、通線後の性能試験で確認します。
Q4. 予備管はどれくらい入れておくべき?
用途・規模によりますが、情報盤から各ゾーンへ1本以上の空配管を敷設しておくと増設が容易。仕様・コストと相談して決めます。
Q5. 防火区画の処理は誰がやる?
現場の取り決め次第ですが、配管を施工した業者が責任を持って指定工法で実施するのが一般的。写真・書類での記録も合わせて対応します。
ケース別のポイント
オフィス改修(居ながら運用)
既存配線との共存、夜間・休日作業、粉じん・騒音対策が重要。新旧の系統を確実に識別し、誤切断を防ぐためのマーキングと試験手順を明確化します。
ホテル・病院など遮音重視の建物
壁・床の貫通処理は遮音仕様に適合させること。隙間が性能低下に直結するため、材料・工法の適合確認を徹底。点検口の位置計画も重要です。
商業施設(意匠露出)
VEや金属管で意匠性を高めるケースでは、ライン出しと曲げ精度が品質の決め手。付属品(バンド・化粧カバー)の色合わせや納まり図の事前確認で仕上げをコントロールします。
現場メモ:安全・品質・工程のバランス
通信用配管は、見えない部分の丁寧さが通信品質と保守性に直結します。無理な曲げ・詰め込み・未処理の貫通は後戻りコストが大きく、工程を圧迫します。最初に「余裕の設計」と「将来性」を織り込み、記録(写真・ラベル・竣工図)を整えることが、現場の信頼と引き渡し後の安定運用を支えます。
まとめ:通信用配管は「守りと余裕」が肝
通信用配管は、弱電ケーブルを守り、性能を確保し、増設・更新を見据えるための「通り道」です。管種の使い分け(CD・PF・VE・金属管)、配管径の余裕、曲げ・ルートの丁寧さ、防火・防水・遮音の確実な処理、そして通線・表示・記録の徹底——この基本を押さえれば、初めての方でも現場で迷いにくくなります。最後は図面・仕様書・現場標準に忠実に。分からない点は早めに設計者・元請・先輩職長に確認する。これが通信用配管をうまくまとめる一番の近道です。