現場の職人が教える「ガラス」用語ガイド:種類、呼び方、発注・施工のコツまで一気にわかる
「図面に“ガラス”ってあるけど、どれを指しているの?」「カスミとワイヤー、何が違うの?」——内装の現場に入ると、ガラスまわりの呼び方や選び方で戸惑うことがよくあります。この記事では、建設内装現場で職人が日常的に使う“ガラス”というワードを、やさしい言葉で丁寧に解説。種類・特徴・使い方から、発注や施工のポイント、トラブル予防まで、初心者でも現場で迷わない実践情報をまとめました。
現場ワード(ガラス)
| 読み仮名 | がらす |
|---|---|
| 英語表記 | glass |
定義
建設内装の現場でいう「ガラス」とは、主に窓・建具・パーテーション・手すり・ショーケース・ミラーなどの開口部や意匠面に使用する板状の無機素材の総称です。一般の透明板ガラス(フロート板ガラス)に加え、型板(カスミ)、網入り(ワイヤー)、強化(テンパー)、合わせ(ラミ)、複層(ペア、Low-E)、鏡(ミラー)など多様な種類を含みます。用途や法規、安全性、意匠、断熱・遮熱性能に応じて使い分け、施工方法や納まりも種類により異なります。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では、ガラスの種類や仕上げを短く略して呼ぶことが多いです。図面記号や口頭指示でよく出る言い回しを押さえておきましょう。
- フロート(透明板ガラス)=一般的な透明ガラス
- カスミ(型板ガラス)=片面に凹凸がある目隠し用ガラス
- ワイヤー(網入りガラス)=金網入りの防火用途向けガラス
- テンパー(強化ガラス)=熱処理で表面強度を高めた安全ガラス
- ラミ(合わせガラス)=中間膜で板を挟んだ安全・防犯向け
- ペア(複層ガラス)/Low-E(低放射複層)=断熱・遮熱向け
- ミラー(鏡)=室内意匠や洗面、フィットネスルームなど
- フロスト=すりガラス風(サンドブラスト・酸処理・フィルム等)
使用例(3つ)
- 「この間仕切りはテンパー8ミリで。小口は磨き、角はR3の糸面で。」
- 「サッシの腰窓はカスミ5ミリに変更、飛散防止フィルムは室内側に。」
- 「ここ防火区画だからワイヤー型板で。ビートの色は黒で合わせて。」
使う場面・工程
内装でのガラス工事は、採寸 → 発注(仕様確定) → 加工(穴あけ・切欠・面取り) → 搬入・仮置き → 取り付け(はめ込み・金物固定・コーキング) → 清掃・検査 の流れが一般的です。サッシや建具、方立・見切など他職との取り合いが多く、納まり・クリアランス・シーリング材の指定確認が重要です。
関連語
- サッシ:アルミ・樹脂・スチールなどの枠材。ガラスを保持する器。
- ビート/グレチャン(グレージングチャンネル):ガラスを押さえるゴム材。
- パテ:鋼製建具等の古い納まりで使う充填材。近年はガスケットが主流。
- 押縁:木・金属などの押さえ縁材。ガラスを縁側から固定。
- スペーサー/セッティングブロック:ガラス下端に噛ませる支持部材。
- テンパー、ラミ、ペア、Low-E、ワイヤー、カスミ:現場略称。
- 吸盤(サッカー)、ガラスカッター:取り扱い・加工の代表的工具。
ガラスの主な種類と特徴
フロート板ガラス(透明)
最も一般的。視界を確保しつつ光を取り入れる用途に向きます。厚みは3〜12mm程度が内装でよく使われ、建具の小さな明かり取りには3〜5mm、パーテーションや手すりには8〜12mmなど、強度とサイズで選定します。
型板ガラス(カスミ)
片面に凹凸模様があり、視線をぼかす目隠し用途向け。トイレ・洗面・共用部建具などで定番。凹凸面の向き(室内側/室外側)は清掃性や意匠で指定します。フィルム施工時は凹凸面には貼れないため、平滑面側で検討します。
網入りガラス(ワイヤー)
ガラス内部に金網が入った防火用途向け。火災時の飛散抑制が目的で、衝撃に対する安全(割れたときの破片特性)は強化ガラスや合わせガラスに劣る点に注意。熱割れが比較的起きやすいので、フィルムやカーテン、看板密着などの周辺条件には配慮が必要です。
強化ガラス(テンパー)
熱処理により表面強度を高め、割れても粒状に砕ける安全ガラス。自立パーテーション、ドア、床ガラス、手すりなどに採用。加工(穴あけ・切欠・面取り)は強化処理前に行う必要があり、後加工はできません。ヒンジや金物位置は発注前に確定させます。
合わせガラス(ラミ)
複数のガラス板を中間膜で貼り合わせた構成。割れても中間膜が破片を保持し、落下・貫通を抑制。防犯・防音・安全性が求められる部位に適します。中間膜の種類や厚みにより性能が変わります。フィルムを別貼りする場合は相性を確認しましょう。
複層ガラス(ペア)・Low-E
2枚以上のガラスを中空層で組み合わせ、断熱・遮熱性能を高めたもの。Low-Eは金属膜をコーティングし、日射遮蔽や放熱抑制を強化します。Low-E面の位置(室内側/室外側)は製品仕様で決まっているため、施工時に向きを間違えないようにします。
ミラー(鏡)
裏面に反射膜を持つ鏡。ダンススタジオやエントランス、洗面などで使用。接着はミラー対応の材料(変成シリコーンや専用ボンド)を用い、酸性シリコーンは腐食の恐れがあるため避けます。大判は落下防止の機械固定や受け材を併用します。
厚み・サイズ・端部加工の基本
厚みは“t(ティー)”で呼び、t3、t5、t8…のように表記します。用途とサイズ、必要強度で決めます。
- t3〜t5:建具の小窓、欄間、室内窓など小さめ開口
- t6〜t8:室内パーテーション、ドア明かり取り、腰壁
- t10〜t12以上:自立ガラス、手すり、床ガラスなど高強度用途
端部加工は安全性と意匠を左右します。現場でよく出る指定は以下です。
- 糸面(糸面取り):角の稜線を軽く落としてケガ防止
- 小口磨き(ポリッシュ):断面を磨いて透明感と安全性を確保
- C面・R面:面取り形状の指定。Rは丸み(例:R3)
- 穴あけ・切欠:金物用。強化ガラスは“強化前加工のみ”が鉄則
採寸や加工指示はミリ単位で、タテ(H)・ヨコ(W)・厚み(t)・枚数・加工内容・面の向き(例:凹凸面/Low-E面/フィルム面)まで図示・記載すると誤りが減ります。
発注・採寸のコツ(現場目線)
ガラスは「1〜2mmの差」が納まりと強度に効いてきます。以下を押さえると初めてでも失敗が減らせます。
- 開口の実測は上下左右3点以上で採り、最小寸法を基準にクリアランスを見込む
- ガスケット・ビートの種類と溝寸法(深さ・見込・押さえ寸法)を確認
- セッティングブロックの位置・厚みを事前に決め、扉や障子の稼働干渉をチェック
- 金物(ヒンジ・クランプ・金具)位置は図面化し、穴径・切欠寸法を製品推奨値で指定
- Low-Eや型板の表裏、ミラーの上下(割付・継ぎ)を明記
- シーリング材の種類・色(透明・黒・グレーなど)を決め、下地との相性を確認
- フィルムを貼る場合は、熱割れ・視界・清掃性・貼る面の可否を事前検討
チェックリスト例:W×H×t/枚数/種類(フロート・テンパー等)/加工(穴・切欠・面取り)/面の向き(Low-E、凹凸)/保持方法(押縁・ビート・金物)/シーリング材/フィルム有無/搬入経路・重量。
施工上の注意・トラブル対策
安全と仕上がりの品質を左右するポイントをまとめます。
- 安全装備:防刃手袋、長袖、保護メガネ、吸盤(サッカー)は必須。大板は複数人で。
- 枠掃除:溝内の粉塵・金属片を除去。異物はチッピング(欠け)の原因。
- 支持:セッティングブロックは左右対称に配置し、荷重を均一に受ける。
- 小口養生:金物挟み込み部はシムを適切に。点荷重での割れを防ぐ。
- シーリング:指定材を使用。ミラーやポリカ部材とは相性確認(腐食・クラック防止)。
- 熱割れ対策:網入り、Low-E、濃色フィルムは温度差が出やすい。直射・局部的遮蔽(ポスターベタ貼り、カーテン密着)を避ける。
- 清掃:乾拭きで砂粒を引きずらない。微粒子はキズの元。最後に中性洗剤+柔らかい布で。
フィルム・コーティングの活用
既存ガラスの性能を後付けで高める手段として、ガラスフィルムが有効です。
- 飛散防止:割れた際の破片飛散を抑える、内装では基本装備レベル。
- 目隠し:フロスト、グラデーション、パターン印刷など意匠性も高い。
- 断熱・遮熱:日射熱をカット、居住性と省エネに貢献。
- 防犯:貫通しにくくする高機能タイプもあり。
- UVカット:日焼け・褪色対策。
注意点として、ガラス種類や環境により熱割れリスクが変わるため、施工前に適合確認を行います。とくに網入りやLow-Eはメーカーの推奨と熱割れ評価に従いましょう。フィルムの代表的なメーカーには、3M、リンテック(WINCOSブランド)、サンゲツ(各種ガラスフィルム取扱)などがあります。
主なメーカー・流通の位置づけ
国内で広く流通する板ガラスは、大手メーカーが供給し、地域の加工工場やガラス店を通じて現場に届きます。
- AGC(旧・旭硝子):建築用板ガラス・ミラー・機能ガラスなど幅広く展開。
- 日本板硝子(NSGグループ):板ガラス・真空ガラスなどを提供。
- セントラル硝子:建築用ガラス原板などを供給。
- サッシ一体製品としては、YKK AP、LIXIL、三協アルミなどが複層ガラス組込みの建具を展開。
現場では、製品メーカー名だけでなく「地域のガラス店(加工・運搬・施工)」との連携が品質と段取りの鍵になります。大板や特殊加工は納期が延びやすいので早めの手配が安心です。
用語辞典ミニ(知っておくと便利)
- 可視光透過率:明るさの指標。数値が高いほど明るい。
- 日射遮蔽係数/U値:遮熱・断熱の指標。低いほど性能が高い。
- 熱割れ:部分的な温度差により生じる亀裂。周辺遮蔽や濃色フィルムでリスク増。
- チッピング:エッジの欠け。運搬・取付時の衝撃や異物噛みで発生。
- アニール:通常の非強化ガラス状態。強化処理はアニール材に施す。
- 合わせ中間膜:PVBなどの樹脂膜。厚み・種類で防音・防犯性が変化。
よくある疑問Q&A
Q. ワイヤー(網入り)と強化ガラス、どっちが「安全」ですか?
A. 目的が異なります。ワイヤーは主に防火用途(火災時の飛散抑制)、強化ガラスは割れ方が粒状で身体に対する安全性が高いのが特長。人が触れる内装の可動部や衝突リスクがある場所では、強化・合わせなどの「安全ガラス」を検討します。防火区画では指定に従ってワイヤーや認定品を選びます。
Q. すりガラスとカスミの違いは?
A. すりガラスは表面をブラストや酸処理で曇らせた加工、カスミは片面に凹凸模様のある型板ガラスが一般的な呼び名。見え方や清掃性が異なり、フィルムでフロスト表現を行う方法もあります。
Q. フィルムはどの面に貼るのが正しい?
A. 通常は室内側の平滑面に貼ります。型板の凸凹面には貼れません。Low-E複層などは仕様によって適合が変わるため、貼付面の指定や熱割れ評価を必ず確認してください。
Q. 強化ガラスにあとから穴を開けられますか?
A. できません。強化処理後の後加工は不可です。穴・切欠は必ず「強化前」に加工内容を確定して発注します。
現場で失敗しないためのまとめ
ガラスは「種類選定」「採寸・加工指示」「納まり・周辺条件」の3点をきちんと押さえれば、仕上がりも安全性も大きく向上します。現場では略称(テンパー、ラミ、ペア、カスミ、ワイヤー)で話が進みがちですが、最後は“ミリ単位の具体指定”が勝負どころ。面の向き、加工内容、保持方法、シーリング材、フィルム適合まで一枚の指示書にまとめる習慣をつけましょう。
悩んだら、ガラス店やメーカーの技術資料に当たり、周辺条件(直射日光、カーテン、フィルム、看板)も含めて相談するのが安全です。この記事を手元のチェックリストとして、現場での不安が少しでも減ればうれしいです。安全第一で、きれいなガラス納まりを実現していきましょう。









