内装職人が教える「複合フローリング」完全ガイド|構造・工法・選び方・現場の言い回しまで
床材えらびで「複合フローリング」という言葉を見かけたけれど、無垢との違いは?直貼りってなに?マンションの遮音や床暖にも使えるの?——こんな疑問、よくいただきます。この記事は、建設内装の現場で実際に使われている言い回しと、現場で失敗しないための基礎知識を、やさしく丁寧にまとめたものです。読み終えるころには、カタログの見方や工務店との会話がぐっとラクになり、あなたの住まいに「ちょうどいい」床材を自信を持って選べるようになります。
現場ワード(複合フローリング)
| 読み仮名 | ふくごうフローリング |
|---|---|
| 英語表記 | Engineered Wood Flooring (Multi-layer Wood Flooring) |
定義
複合フローリングとは、合板やMDFなどの基材の上に、木の突板(つきいた)や化粧シートなどを貼り合わせ、表面に硬い塗装を施した「多層構造の床材」です。寸法安定性・メンテナンス性・機能性(耐傷・防音・床暖対応など)に優れ、一般住宅からオフィス・賃貸まで幅広く使われます。JAS(日本農林規格)では「複層フローリング」とも呼ばれ、無垢フローリング(単層)と対になるカテゴリーです。
複合フローリングの基本構造と特徴
多層構造のイメージ
複合フローリングは、サンドイッチのように層を重ねて性能を最適化しています。一般的には以下の構成です。
- 表面層:天然木の突板、挽き板(厚めの単板)、あるいは高耐久の化粧シート
- 中間層(基材):合板・LVL・MDFなど。反り・伸縮を抑える要
- 裏面:バランス層。背面にもシートや単板を貼って反りを防止
- 表面塗装:UV塗装、セラミック配合塗装などで耐摩耗性・汚れにくさを向上
厚みは9〜12mmが標準。マンションの防音タイプや下地条件に合わせて6mm台の直貼り用、15mmクラスの重歩行向けもあります。
表面仕上げの種類
見た目やメンテナンス性に関わる重要ポイントです。
- 突板仕上げ:本物の木目。0.3〜0.6mm程度の薄い木を貼る。自然な表情を楽しめる反面、深い傷は研磨でのリフレッシュが難しいことも。
- 挽き板仕上げ:2〜3mm程度の厚めの単板。より無垢に近い質感と重厚感が得られます。
- 化粧シート仕上げ:木目を再現したシート。均一で色ブレが少なく、耐傷性・メンテ性に優れる。水回りに強い商品も。
工法の種類(貼り方)
- 直貼り(じかばり):コンクリートスラブや合板下地に接着剤で直接貼る。マンションやリフォームで多用。下地の平滑度が非常に重要。
- 捨て貼り:12mm合板を全面に捨て貼りし、その上にフローリングを釘・接着で施工。戸建てで定番。床鳴りリスクを抑えやすい。
- 根太貼り:根太組の上に貼る昔ながらの方法。最近は合板捨て貼りが主流。
- 浮き床・フローティング:クリック継ぎ手で「置く」方法。解体性に優れるが、日本の住宅では適合下地や商品選定に注意が必要。
無垢フローリングとの違い
複合は安定性と機能性、無垢は素材の手触りと経年変化が魅力。一般的に複合のほうが反り・伸縮に強く、床暖や防音などの機能商品が豊富。生活利便の観点では複合が扱いやすい場面が多いのが現場の実感です。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「複合フロア」「複層フロア」「複フロ」「化粧フロア」「シートフロア(シート仕上げの場合)」などと呼ぶことがあります。JASの呼称は「複層フローリング」。カタログ上も「複合(複層)」の表記が混在します。
使用例(会話の実例)
- 「今日は複フロ直貼り。レベル拾ってからウレタンでいこう。目地は突かせないでね。」
- 「ここは床暖対応の複合だから、タッカーはNG。指定接着剤で全面圧着で。」
- 「このマンションはL-45指定。防音フロアで見切りはT見切り入れて、巾木は仕上がり後に。」
使う場面・工程
新築・リフォーム問わず、居室・廊下・LDKを中心に最も採用の多い床材です。工程としては、下地確認→墨出し→材料搬入・馴染ませ→割付→施工(接着・釘/タッカー・圧着)→見切り・框・巾木→養生の順が基本。マンションでは遮音や直貼り指定が絡むことが多く、下地の平滑度と接着剤の選定が肝になります。
関連語
- 無垢フローリング/捨て貼り合板/直貼り工法/床暖対応/遮音等級(L-45、ΔLL表記)
- 巾木/見切り材(T見切り・ノンスリップ)/上り框・玄関框/フロアタッカー・フロアネイル
- F☆☆☆☆(ホルムアルデヒド放散量)/UV塗装/セラミックコート/耐傷・キャスター対応
施工の流れと現場のチェックポイント
1. 下地の確認(これで仕上がりの8割が決まる)
直貼りならコンクリートの平滑・乾燥が命。3m直定規で隙間やうねりを確認し、必要に応じてパテやセルフレベリングで調整します。木下地なら捨て貼り合板の増し締め・増し打ちで床鳴りを予防。含水率が高い場所は乾燥を優先します。
2. 材料の馴染ませ(アクライメーション)
現場環境に半日〜1日置いて温湿度に馴染ませます。急激な乾燥・加湿は反りや隙間の原因に。直射日光や暖房の吹き出し直下は避けるのが無難です。
3. 割付・墨出し
入口や廊下の見付け、窓際の目地、部屋ごとの継ぎ目位置など「見え方」を設計。細巾の端材が出ないよう割付を調整し、見切りや框の納まりも先に決めます。マンションは躯体と周辺のクリアランス(伸縮逃げ)を確保。
4. 施工(工法別の要点)
- 直貼り:指定の床用接着剤をクシ目で均一に塗布。張り進めながらローラーで圧着し、ジョイントに接着剤が噴き出したら速やかに拭き取り。温度・湿度によるオープンタイムを厳守。
- 捨て貼り:フロアタッカーやフロアネイルで実(さね)側を斜め打ち+部分接着が一般的。釘ピッチや釘長さはメーカー基準に従う。床暖対応品は釘・タッカー禁止の場合があるので注意。
- 浮き床:クリック継ぎ手のかみ合わせと伸縮逃げが生命線。壁際にスペーサーを入れ、回り縁・巾木で隠す納まりに。
5. 納まり部材(見切り・框・巾木)
床の色柄と高さ、隣室の床仕上げとの段差で部材選定が変わります。玄関框は傷が出やすいので先行養生、見切りはT型・段差見切りを使い分け。巾木は床仕上がり後に取り付けるのがきれいに収まりやすいです。
6. 養生・引き渡し
硬化前は歩行・荷重を避け、硬化後も養生ボード+テープでしっかり保護。粘着跡が残らない養生テープを選ぶこと。家具搬入時はフェルト貼り・養生シートで表面を守ります。
性能・規格の見方(カタログで迷わないために)
- ホルムアルデヒド放散量:F☆☆☆☆が最上位。内装の面積制限なしで使用可。
- 遮音性能:集合住宅ならL-45(またはΔLL等級)相当を求められることが多い。フローリング単体での遮音と、下地・床組み全体での遮音は別物なので仕様書を確認。
- 床暖房対応:床暖対応表示のある商品を選ぶ。熱による伸縮・接着剤適合・施工方法の制約がある。
- 耐傷・キャスター適合:ペットやオフィスチェアのある環境では重要。表面塗装やシートの仕様を確認。
- 滑り:住宅用は日常歩行に適した設定だが、高齢者配慮や店舗用途では別途滑り規格に注意。
メリット・デメリット(現場目線の本音)
メリット
- 寸法安定性が高く、反り・隙間が出にくい
- 汚れや傷に強い商品が多く、日々の手入れがラク
- 遮音・床暖・ワックス不要など、機能の選択肢が豊富
- 色柄のばらつきが少なく、施工後のイメージが読みやすい
デメリット
- 深い傷や日焼けのリペアは限定的(全面研磨再塗装は基本想定外)
- 天然木突板は厚みが薄く、無垢のような大幅な再仕上げは難しい
- 化粧シートは「木の経年変化」を楽しむ方向性とは異なる
用途別の選び方(失敗しない指針)
集合住宅(マンション)
管理規約の遮音等級を確認。多くはL-45相当が基準。直貼り指定が一般的で、下地レベリングと接着剤の適合が重要。床暖房がある場合は「遮音+床暖対応」の両立商品を選ぶ。
戸建て(LDK・廊下)
捨て貼り合板+複合フローリングが扱いやすい王道仕様。掃除のしやすさと耐傷性でシート系、木の表情を重視するなら突板・挽き板を選ぶ。水はねの多いキッチンは耐水性の高い表面仕上げが安心。
子ども・ペットと暮らす
耐傷・耐汚れ・ワックス不要タイプが手堅い。爪傷やおもちゃの落下に強い表面塗装、すべりに配慮した仕様をチェック。コルクバックの足あたりが柔らかい商品もあります。
リフォーム(既存床の上から)
6〜9mmの上張り用(重ね貼り)やクリック式を検討。扉の下端・巾木・見切りの納まり、段差解消材の有無を事前に確認。
代表的なメーカーと特徴
パナソニック(Panasonic Housing Solutions)
内装建材のトータルコーディネートがしやすく、表面塗装の耐久性と意匠の幅広さに定評。建具・枠材と色合わせしやすいラインアップ。
永大産業(EIDAI)
突板からシート、防音、床暖対応までバリエーションが豊富。住宅・賃貸・店舗と用途に合わせた選択がしやすい。
ダイケン(DAIKEN)
表面強度や耐汚れ性に配慮した住宅用フロアが充実。マンション向けの遮音フロアもカタログが見やすく選びやすい印象。
NODA(ノダ)
インテリアトレンドに合った木目の再現性が高く、コスパの良いシリーズが多い。戸建て・賃貸の定番選択肢。
LIXIL
建具・造作とのトータル提案が得意。空間全体のコーディネート重視の人に向くラインアップがあります。
どのメーカーもF☆☆☆☆や耐傷・床暖などの基本性能はクリアしているため、最終的には色柄、機能の優先順位、価格、納期で選ぶのが現場的なコツです。
よくあるトラブルと予防策
床鳴り(キュッ・ミシッ)
原因は下地のたわみ、合板の留め不足、接着剤不足、目地への接着剤噛み込みなど。対策は下地補強、適正な釘ピッチ、全面圧着と圧着ローラーの徹底、ジョイント部の接着剤拭き取り。
反り・すき間
急激な乾湿変化や直射日光による過乾燥が要因。材料の馴染ませ、湿度管理、窓際の遮光、伸縮逃げ(壁際クリアランス)確保が有効。
表面の白化・跡残り
強粘着テープや合わないワックスによるもの。養生材は床材適合タイプを使用し、メーカー推奨以外の薬剤やワックスは避ける。
水濡れ・膨れ
長時間の水溜まりは複合でもNG。こぼしたらすぐ拭き取り。観葉植物の鉢や冷蔵庫下は受け皿・マットで予防。
床暖での不具合
床暖非対応品の使用、急加熱、温度設定ミスが原因。床暖対応品+指定工法+段階的昇温を守ること。
メンテナンスと日常のケア
- 掃除:乾拭き→固く絞った雑巾。微量の中性洗剤はOKだが、水浸しは避ける。
- ワックス:多くは「ワックス不要」または「不可」。カタログの指示に従う。必要な場合は推奨品のみ。
- 傷対策:椅子・家具はフェルト貼り。キャスターは床保護マット併用が安心。
- 日焼け:直射日光はカーテン・ブラインドでコントロール。ラグや家具の配置替えで色ムラを予防。
- プチ補修:浅い傷は補修用クレヨン・パテ、エッジ欠けは樹脂パテ+タッチアップで目立ちにくく。
コスト感(目安)
相場は地域・仕様・物量で変動しますが、概ねの目安は次の通りです。
- 材料費(複合フローリング):1m²あたり 約3,000〜8,000円(機能・意匠で幅)
- 施工費(下地良好・一般住宅):1m²あたり 約3,000〜6,000円
遮音・床暖対応や挽き板など高性能・高意匠になるほどコストは上がります。見切り・框・巾木、下地調整費、養生費も合わせて見積りで確認しましょう。
チェックリスト(発注前に確認しておくと安心)
- 床の用途(住宅/賃貸/店舗)と必要性能(遮音・床暖・耐傷)
- 工法(直貼り/捨て貼り/上張り)と下地状態(レベル・乾燥)
- 巾木・見切り・框の納まりと色合わせ
- 搬入経路・エレベーターサイズ・養生計画
- メンテナンス方針(ワックス不要/可)と保証条件
小さな疑問に答えるQ&A
Q. 複合フローリングは水拭きしても大丈夫?
A. 固く絞った雑巾であれば多くの商品で問題ありません。水浸しや強アルカリ洗剤は避け、こぼれたらすぐ拭き取るのが基本です。
Q. 床暖房にはどれでも使える?
A. 床暖対応表示のある商品を選び、指定の接着剤・工法・昇温手順に従えば安心です。非対応品は反り・割れ・接着不良のリスクがあります。
Q. ペットの爪傷が心配です。
A. 耐傷塗装やシート表面の製品を選ぶと効果的。さらに、爪切り・マット併用・足裏の滑り対策も合わせると傷・関節負担の両面で有利です。
Q. マンションで防音カーペットからフローリングに変えたい。
A. 管理規約の遮音等級と工法制限を必ず事前確認。ΔLL(I)やL-45相当など、規約を満たす仕様で設計・見積りしましょう。
Q. 無垢と複合、どちらがいい?
A. メンテの手軽さ・機能性重視なら複合、素材感・経年変化を楽しみたいなら無垢。住まい方と優先順位で選ぶのが正解です。
現場からのひとこと(まとめ)
複合フローリングは、現場でもっとも採用頻度の高い床材です。なぜ選ばれるかといえば、「反りにくい」「傷に強い」「機能が選べる」から。ポイントは、下地を整え、工法に合った材料・接着剤を選び、逃げ(クリアランス)をきちんと取ること。これさえ守れば、仕上がりも長持ちもグッと安定します。
記事の内容をチェックリスト代わりに、カタログと図面を見ながら、施工店や管理組合とすり合わせていけば「こんなはずじゃ…」を防げます。迷ったら、用途・下地・工法・性能の4点に立ち返って検討してみてください。きっと、あなたの暮らしにフィットする一枚が見つかります。









