現場ワード「シート防水」をやさしく解説|種類・工法・費用・現場チェックまで丸わかり
「シート防水って何?塗る防水とどう違うの?」――はじめて現場に入ると、職人同士の会話に出てくる専門用語に戸惑いますよね。この記事では、建設・内装の現場で本当によく使われる現場ワード「シート防水」を、はじめての方にもわかりやすく整理して解説します。種類や工法の違い、現場での言い回し、チェックのコツ、費用の目安まで、実務で役立つポイントだけをコンパクトにまとめました。読み終える頃には、図面や打ち合わせで自信を持って会話できるようになります。
現場ワード(シート防水)
| 読み仮名 | しーとぼうすい | 
|---|---|
| 英語表記 | Sheet waterproofing | 
定義
シート防水とは、主に塩化ビニル(PVC)や合成ゴム(EPDM)、TPOなどの「防水シート(単層膜)」を下地の上に張り、継ぎ目を熱溶着または接着して連続した防水層をつくる工法の総称です。屋上・バルコニー・外廊下・庇・ルーフバルコニーなど、外部水平面の防水に幅広く用いられ、既存防水の改修にも新築にも対応します。薄くて軽量、施工が比較的スピーディー、仕上がりの品質が安定しやすいのが特長です。
シート防水の基礎知識
どんな場所で使う?
もっとも多いのが屋上やルーフバルコニー、共用廊下などの外部水平面です。立上り(パラペット・壁)やドレン(排水金物)周り、笠木の取り合いなど細部まで専用役物や板金・シーリングで納め、雨水の浸入を防ぎます。内装工事の職種とも取り合うことが多く、サッシや外壁、金物工事との調整が仕上がりを左右します。
主なシートの種類と特徴
シート防水と一口に言っても材料はいくつかの系統に分かれます。現場での使い分けの感覚をつかんでおくと意思疎通がスムーズです。
- 塩化ビニル(PVC)シート:熱可塑性で熱風溶着が容易。色や意匠のバリエーションが豊富で、耐候性・耐久性も高い。屋上改修での採用が多い。
- EPDM(合成ゴム)シート:弾性に優れ、下地の微細な動きに追随しやすい。施工は接着が中心で、重ね部の専用テープや接着剤を用いる。
- TPOシート:熱可塑性オレフィン系。熱溶着が可能で、PVCとゴムの中間のような扱いやすさ。近年の新築で選択されることがある。
いずれも「合成高分子系シート防水」と呼ばれ、塗膜防水(ウレタン等)やアスファルト防水とは区別されます。シートは工場製品のため厚みが一定で、品質のばらつきが出にくいのが利点です。
工法(張り方)の種類
同じシートでも、下地との固定方法により工法が分かれます。
- 密着工法:専用接着剤で下地に全面接着。風荷重に強く、仕上がりがフラット。下地精度が重要で、含水が多いと不具合の原因に。
- 機械的固定工法:アンカーやディスクで下地に機械固定し、上から熱溶着。既存防水を大きく撤去せず改修できるケースが多く、雨養生がしやすい。
- 絶縁工法:下地とシートの間に絶縁層を設けて密着させない納まり。水分の影響を受けにくく、改修時の選択肢として有効。脱気筒を併用することが多い。
現場では「密着」「機械固定」「絶縁」と短く言われ、図面や仕様書にも略して表記されます。どの工法にもメリット・デメリットがあり、下地の状態、建物の用途、風圧区画、勾配、既存防水の種類などを総合して選定します。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような言い方がよく使われます。
- シート(だけで通じることも多い)/塩ビシート/ゴムシート/TPOシート
- 合成高分子系シート防水(図面・見積での正式名称)
- 単層防水(シングルプライ)/機械固定/密着/絶縁
使用例(会話の例・3つ)
- 「今日、屋上はシートの機械固定で回るから、アンカー位置は墨出し優先でね。」
- 「立上りのコーナーだけ先にパッチ当てて、明日まとめて熱溶着しましょう。」
- 「ドレン周りは既存撤去後に改修ドレン入れてからシート巻き込み、最後にシール打ちで仕上げます。」
使う場面・工程
新築・改修いずれも、外部水平面の防水工程で登場します。内装工事の段取りと絡むのは、サッシ取合い・パラペット笠木・手すりベース・設備貫通部の前後関係。たとえば、設備貫通のスリーブ位置が確定していないとシートの穴あけができない、金物の先付け後付けで端末納まりが変わる、など調整事項が多いのが実態です。
関連語
- ドレン(改修ドレン)/脱気筒/笠木/立上り/役物(コーナー、端末)
- 熱風溶着(溶接)/ジョイント/パッチ/プライマー/シーリング
- アンカー/ディスク/押さえ金物/水勾配/通気/水張り試験
施工の流れと現場ポイント
1. 下地確認・調整
ひび割れ補修、段差調整、清掃、含水の確認を行います。埃・砂・レイタンス・油分は接着不良の大敵。勾配が足りなければ水たまりができやすく、長期的に劣化が早まります。改修では既存防水の種類・層厚・ふくれの有無を調査し、撤去の要否や絶縁の可否を判断します。
2. プライマー・接着準備
密着工法では専用プライマーや接着剤を規定量・規定オープンタイムで施工。EPDMは接着テープ・プライマーの相性がシビアです。機械固定ではアンカーの引抜き強度試験を行い、打ち込み深さ・ピッチを決めます。
3. シート敷設・仮固定
展開方向は排水方向に沿わせ、継ぎ目(ジョイント)は追い風側に重ねるのが原則。温度で伸縮するため、夏冬の伸び代を考慮してシワ・突っ張りを防止します。仮固定の段階で端部の浮きや曲がりを整え、出来栄えが大きく変わります。
4. 継ぎ目の処理(溶着・接着)
PVC・TPOは熱風溶着(ハンドまたは自動溶着機)でジョイントを連続化します。圧着ローラーで押さえ、試し剥がしで溶け込みと接着幅を確認。EPDMは指定幅で重ね、専用テープ・プライマーで接着し、ローラー圧着を丁寧に行います。コーナーや貫通部はパッチや成形役物で三次元のしわを解消します。
5. 立上り・端末・役物
立上りは最小高さ(一般に150mm以上が目安)を確保し、押さえ金物や見切りで端末を機械固定。サッシや笠木との取り合いは、事前の納まり確認が重要。ドレンは口径・位置・既存配管の状態を確認し、改修時は改修ドレンで既存管に差し込み一体化させます。
6. シーリング・仕上げ・清掃
端末金物・役物のジョイント、板金取り合い、ビス頭など必要箇所にシーリングを丁寧に充填。シート表面の汚れやバリを除去し、排水の流れを最終確認します。
7. 検査・試験
目視での溶着不良・隙間の有無、端末固定の緩み、ドレン周りの納まりをチェック。状況に応じて散水試験や水張り試験を行い、漏水がないか確認します。試験は荷重や排水計画に配慮して安全に実施します。
よくある不具合と原因・対策
ふくれ(ブリスター)
原因は下地の水分や残留溶剤、直射日光による熱膨張。絶縁工法+脱気筒で水蒸気を逃がす、含水が多い下地は乾燥期間を設ける、濡れた状態での施工を避けることで予防します。
シワ・突っ張り
敷設時の伸び代不足や温度変化、固定ピッチ不良が原因。展開方向と温度条件を考慮し、仮置きで歪みを取ってから本固定します。
ジョイント不良(漏水)
溶着温度・速度・圧力の不適合、接着面の汚れ、重ね幅不足が主因。テストピースでの確認、毎日の条件記録、作業者間の標準化が有効です。
端末の剥離・金物の緩み
下地の強度不足、アンカー効き不足、シーリングの劣化で発生。端末は機械固定を基本とし、下地強度確認・適正なピッチ・防錆処理・定期点検で対応します。
ドレン周りの漏水
改修ドレン未使用や巻き込み不足、ゴミ詰まりが原因。改修では既存管と一体化できる部材を使い、清掃しやすい納まりにします。
品質検査と確認のコツ
- 目視点検:ジョイントの連続性、端部の浮き、コーナーパッチの密着、ビス頭の処理を重点確認。
- 試し剥がし:溶着・接着直後にテストピースを取り、所定の接着幅・強度が出ているかを確認。
- 散水・水張り試験:バルコニーやルーフで実施。排水経路を事前に養生し、下階の天井や配管周りも観察。
- 写真・記録:下地状況、固定ピッチ、溶着条件(温度・速度)、材料ロット、試験結果を残すと、後工程やメンテで役立ちます。
費用相場と見積もりの見方
金額は地域・仕様・規模・下地状態で大きく変動しますが、目安として以下のレンジが参考になります(材料・施工一式、平場部、税別の概算)。
- 塩ビシート(密着工法):5,000〜7,500円/m²
- 塩ビ・TPO(機械的固定工法):6,500〜9,500円/m²
- EPDM(接着工法):5,000〜8,000円/m²
- 下地調整(不陸調整・補修):1,000〜3,000円/m²
- 既存防水撤去・処分:1,500〜3,000円/m²
- 立上り部・役物・改修ドレン・脱気筒などは別途拾い(数量・箇所で大きく変動)
見積もりチェックのポイントは「平場単価」と「役物・端末・付帯工事」の内訳が分かれているか、既存撤去の範囲、仮設・養生費、保証年数と範囲、材料メーカーと工法の明記の有無です。安い単価でも端末や役物が別途で、総額が高くなるケースもあるため注意しましょう。
安全・段取りの注意点
- 気象条件:雨天・結露時は基本NG。強風時の機械固定はシートが煽られるため危険です。
- 火傷・熱:熱風溶着機の先端は高温。耐熱手袋・長袖を着用し、可燃物の近くでは使用しない。
- 墜落・転落:屋上端部・開口部は先行手すり・親綱・墜落制止用器具を確実に。
- 溶剤・臭気:プライマーや接着剤は換気を確保し、近隣への臭気配慮を行う。
- 他工種調整:手すり・笠木・設備貫通の先後関係を工程表で共有し、やり直しを防止。
代表的な工具・副資材とメーカー
- 熱風溶着機・自動溶着機:ジョイントの熱溶着に使用。代表例としてLEISTER(ライスター、スイスの熱加工機メーカー)は屋上防水で広く採用されています。
- ハンドローラー・シームプローブ:溶着後の圧着・確認に使用。
- アンカー・ディスク:機械的固定工法でシートを固定。
- 改修ドレン・脱気筒:改修での排水・通気の要。既存管と一体化できる専用部材を使用。
- 防水シート(材料メーカー):国内では田島ルーフィング株式会社、ロンシール工業株式会社などが合成高分子系シートと各種工法システムを展開しています。製品ごとの仕様に従って施工・検査を行うことが重要です。
内装工事目線でのチェックポイント
- サッシ・外装との取り合い:端末高さ(一般目安150mm以上)と押さえ金物位置を干渉なく確保。
- 貫通部の確定:スリーブ・支持金物の位置を先行で決め、シートの穴あけ・巻き込みを一回で完結。
- 笠木・板金:シートの立上り完了後に笠木をかぶせる順番を厳守。ビス貫通部は防水側に露出させない。
- 排水計画:勾配とドレン位置を踏まえ、仕上げ床高さ・段差見切りを調整。水が滞留しない納まりに。
よくある質問(Q&A)
Q:塗る防水(ウレタン)と何が違うの?
 A:シート防水は工場製の膜を張るため厚みが一定で、乾燥待ちが少なく工期が読みやすいのが利点です。凹凸の多い複雑な形状は塗膜防水が得意、広い平場や改修はシート防水が選ばれることが多い、という使い分けが一般的です。
Q:どのシートを選べばいい?
 A:下地の状態(含水・強度)、風圧、勾配、既存防水の種類、建物用途(耐火・歩行・メンテ頻度)などで選定します。迷ったら、メーカーの標準仕様書にある「用途別仕様」から当てはめるのが確実です。
Q:メンテナンスは?
 A:定期的な清掃(落ち葉・砂埃の除去)、ドレン周りの詰まり解消、端末金物・シーリングの点検が基本。表面洗浄と簡易補修で寿命を伸ばせます。
Q:耐久年数はどれくらい?
 A:材料や環境で差がありますが、適切な材料選定と施工、定期点検が行われれば、おおむね10〜20年程度が目安です。保証年数と実耐用年数は別なので、仕様書の確認が大切です。
用語ミニ辞典(覚えておくと便利)
- ジョイント:シート同士の重ね部。最重要の漏水リスク部位。
- パッチ:コーナーや貫通部に当てる増し当てシート。
- 端末金物:シート端を押さえる金物。見切り・押さえ縁とも。
- 改修ドレン:既存配管に差し込み一体化するドレン部材。改修の定番。
- 脱気筒:下地から上がる水蒸気を逃がす筒。ふくれの抑制に有効。
まとめ(これだけ押さえればOK)
シート防水は「工場製のシートを張って継ぎ目を連続化する」防水工法で、屋上やバルコニーの定番です。材料はPVC・EPDM・TPOが主流、工法は密着・機械固定・絶縁の三本柱。要所は「下地の含水管理」「ジョイント品質」「端末とドレンの納まり」。費用は平場単価だけでなく役物・撤去・下地調整の内訳まで確認しましょう。現場では、設備や金物との先行後行をすり合わせ、天候・安全に配慮して丁寧に進めるのが成功の鍵です。この記事を手元のメモ代わりに、図面・見積・現場での会話に役立ててください。









