オールアンカー入門:意味・用途・施工のコツを内装現場目線で徹底解説
「オールアンカーって何?」「ランナー留めるときに先輩が“オールでいこう”って言ってたけど、どれを選べばいいの?」──内装の現場に入って間もないと、こうした用語が次々に登場して戸惑いますよね。この記事では、職人が日常的に使う現場ワード「オールアンカー」を、やさしい言葉で、でも実務で困らないレベルまでしっかり解説します。仕組み・使い方・選び方・失敗しないコツまで、具体的にお伝えするので、今日から自信を持って使えるはずです。
現場ワード(オールアンカー)
| 読み仮名 | おーるあんかー | 
|---|---|
| 英語表記 | wedge anchor(through-bolt expansion anchor) | 
定義
オールアンカーとは、コンクリートに開けた下穴へ差し込み、内部のくさび(ウェッジ)を広げて固定する「金属製の拡張式あと施工アンカー」の一種です。ナット側から締め込むだけで拡張・定着できるため、基礎や躯体のコンクリートに各種金物・下地材・ベースプレート等を直接固定する用途に用いられます。内装現場では、ランナー(CW・スタッドの受け材)の床・壁への固定、支持金物の取り付け、手すり・機器ブラケットのベース固定などに幅広く使われます。
オールアンカーの仕組みと主な種類
基本の仕組み(拡張=ウェッジ効果)
オールアンカーは、コンクリートに開けた穴へ本体を挿入し、ナットを締め込む(または軽く打ち込む)ことで、本体末端のテーパー部がスリーブやクリップを外側に押し広げ、周囲のコンクリートに食い込む力(摩擦+くさび効果)で定着します。施工がシンプルで、締め込みと同時にセットできるのが大きな利点です。
主なバリエーション
現場で見かける代表的な違いは次の通りです(詳細は各メーカー仕様に従ってください)。
- 呼び径:M6/M8/M10/M12/M16/M20など(内装で多いのはM6〜M10)
 - 材質・表面処理:亜鉛めっき鋼(屋内一般)、溶融亜鉛めっき(屋外・湿気多め)、ステンレスSUS304/316(腐食環境)
 - 形状:ナット付きの貫通ボルト型(一般的)、ボルト頭付き、座金一体型など
 - 適用下地:主にプレーンコンクリート(ALC・モルタル・ブロックは別種アンカーを検討)
 
ポイントは、「穴径=アンカー呼び径」が基本であることと、「有効埋込み長さ(効き代)」が設計強度に直結すること。強度・縁端距離・芯間距離などの条件はメーカーの技術資料を必ず確認しましょう。
現場での使い方
言い回し・別称/現場の会話では次のように呼ばれます。
- 「オール」「オールで留めといて」=オールアンカーで固定しておいての意
 - 「オールM8、首長め」=オールアンカーのM8で長さのあるもの
 - 「ウェッジ」=英語のWedge Anchor由来の呼び方(地域・会社によって)
 
使用例(会話の実例を3つ)
- 「床のランナーはオールM6で@600ピッチ、開口周りは@300で詰めよう」
 - 「このブラケット、引き抜き出るからオールはステンのM10にしようか」
 - 「穴、粉残ってると効かないよ。ブロアしてからオール打って、トルクで締めて」
 
使う場面・工程
- LGS(軽量鉄骨)下地のランナー固定(床・壁がコンクリートの場合)
 - 金物・アングル・サポートのベース固定(機器・ブラケット・手すり受けなど)
 - 設備・配管支持金物の補助固定(母材がコンクリートのとき)
 - 改修現場でのあと施工固定全般(既存スラブや躯体へ直接取り付け)
 
関連語
- カットアンカー(ドロップインアンカー):内部ねじタイプ。吊りボルト(W3/8等)で天井を吊る際などに多用。オールアンカーは貫通ボルトで直接締結する用途が主。
 - スリーブアンカー:外側スリーブが広がるタイプ。薄い母材にも比較的対応しやすいが、用途・強度の設計が異なる。
 - ケミカルアンカー(接着系アンカー):高強度・縁端近接時・ひび割れ対応などに有効。養生時間が必要。
 - インサート:コンクリート打設時に埋め込む金物。あと施工ではない。
 
道具と準備:まずはここから
効きを左右するのは「下穴精度」と「清掃」。下記の準備を整えましょう。
- ハンマードリル(SDSプラス等)とコンクリート用ビット(呼び径に適合)
 - 深さゲージ(またはビットにテープでマーキング)
 - 集じん機・ブロワー・穴ブラシ(粉じん除去)
 - ハンマー(セット時の軽打用)
 - スパナ・ソケット・トルクレンチ(適正トルク管理)
 - マーキング用具、下地探知(鉄筋・配管・電線確認)、養生材
 - PPE(保護メガネ、マスク、耳栓、手袋)
 
施工手順(基本)
1. 位置決め・下地確認
墨出し後、下地探知器等で鉄筋・配管・電線の有無を確認。鉄筋に当たると穴精度が落ち、効き不良・躯体損傷の原因となります。不可避な場合は監督・設計に確認のうえ位置を微調整します。
2. 穴あけ(径と深さ)
ビット径はアンカーの呼び径に合わせます。穴深さは「有効埋込み+切粉余裕(数ミリ)」を基本に、カタログの推奨値に従いましょう。振動モードでまっすぐ垂直に、押付けすぎずビットを暴れさせないのがコツです。
3. 清掃(ブロア+ブラシ)
これを省くと高確率で「効かない(空転・抜け)」になります。集じん機で吸い、ブロワで吹き、ブラシでこすって再度吸う──最低でも「吹く→こする→吸う」の3アクションを意識しましょう。粉が残ると拡張部が噛まず、強度が出ません。
4. アンカー挿入・セット
アンカーを穴へ挿入し、座金が母材に密着するまで差し込みます。種類によっては軽くハンマーで打ち込んで初期拡張させます。ネジ山を潰さないよう、ナット側を軽く掛けてから叩くなど、製品の手順に合わせて実施します。
5. 締め付け(トルク管理)
指定トルクで締め付けて完了。インパクトでやみくもに締めると、空転・座屈・破断・コンクリートの局部破壊につながります。小径でも最終はトルクレンチで管理すると安心です。座金の食い込みと座面の密着を確認しましょう。
選び方(サイズ・材質・下地条件)
オールアンカー選定で外したくないポイントは次の通りです。
- 荷重と方向:せん断か引抜きか、片荷重や偏心がないか。必要強度に対して呼び径・埋込み長を決定。
 - 下地の材齢・強度:新設でも強度不足や脆弱部位では効きが安定しません。劣化・欠け・ジャンカ部は避ける。
 - 縁端距離・芯間距離:端部に近いとコンクリートが割れやすく、アンカーが効きません。カタログの最小距離を順守。
 - 周辺環境:湿気・薬品・屋外ではステンレスや高耐食仕様を選択。
 - 仕上げ・納まり:ナット高さ、座金径、出面(出っ張り)が仕上げに干渉しないかを確認。
 - 施工性:本数が多い場合は、清掃しやすい穴径・治具の使用なども加味。
 
数値や係数は製品個別に異なります。安全率や承認・認証の有無を含め、必ずメーカーの設計資料を参照してください。
よくある失敗と対策
- 穴径が大きい/穴がガタガタ
対策:正しいビット径を使用。摩耗ビットは交換。ブレない姿勢で真っ直ぐあける。
 - 清掃不足で空転・抜ける
対策:吹く→こする→吸うの3工程を徹底。粉が出なくなるまで繰り返す。
 - 端部に近すぎてコンクリートが欠ける
対策:縁端距離・芯間距離の最小値を守る。端部近接が避けられない場合はケミカル等を検討。
 - 過大トルクで破損・座屈
対策:規定トルクで締結。インパクトのみで完結しない。小径こそトルク管理。
 - 下地不適合(ALC・中空・ブロックに使用)
対策:母材に合ったアンカー種を選ぶ。ALC用アンカー、スリーブ、接着系などへ切り替え。
 - 腐食環境に亜鉛めっき品
対策:屋外・湿潤・塩害はステンレスや高耐食仕様を採用。
 
内装視点の小ワザ・実務のコツ
- ランナーの穴を先に利用:ランナー位置決め→穴あけ→そのままオール挿入→締結の流れにすると位置ズレが起きにくい。
 - 座金は面圧を意識:薄板や穴長穴では大径座金や角座金で座面を安定させる。
 - 開口周りはピッチを詰める:ドア枠や設備開口など力のかかる部分はピッチを狭めて安心感を出す(現場標準・指示に従う)。
 - 下穴深さのマーキング:ビットにテープで深さマーク。量産時のばらつきが減る。
 - 集じん一体ドリルや専用ブラシ:本数が多い現場では粉じん対策と効率が段違い。
 
似たアンカーとの使い分け
- オールアンカー(ウェッジ)
特徴:締め込むだけで拡張。貫通ボルトで直接固定。繰り返し取り外しには不向き(基本は一発勝負)。
 - カットアンカー(ドロップイン)
特徴:母材内に雌ねじを作る。吊りボルトや機器の後付けに便利。セットピンで拡張が必要。
 - スリーブアンカー
特徴:外周スリーブが広がる。薄い部材や端部に比較的強い製品もある。強度は仕様要確認。
 - ケミカルアンカー
特徴:接着剤で定着。高強度・縁端近接・ひび割れ対策に有効。施工手順と養生時間の管理が肝。
 
代表的なメーカーと特徴
日本国内でオールアンカー(ウェッジアンカー)を多数展開している代表例です。詳細仕様・性能・認証は各社カタログをご確認ください。
- サンコーテクノ株式会社:あと施工アンカーの専業メーカーとして広く知られ、コンクリートアンカーのラインアップと技術資料が充実。
 - ユニカ株式会社:アンカーとコアドリル・ビットなど穿孔工具を幅広く展開。工具との組み合わせ提案が強み。
 - 若井産業株式会社:建築用ファスナー全般を扱い、内装・木造からコンクリート用アンカーまで総合的にラインアップ。
 
同じ「M8」でも有効埋込み長さや適用母材、認証の有無が違う場合があります。製品名で選ばず、必ず性能表で照合しましょう。
安全・品質管理のポイント
- 施工記録:径、数量、締め付けトルク、下地状態を簡易でも記録しておくと引き渡しや改修時に有益。
 - ひび割れコンクリートの可否:対象外の製品もあるため、対応可否をカタログで確認。必要に応じてひび割れ対応品や接着系に変更。
 - 養生・粉じん対策:居ながら工事・病院・オフィスでは集じんと清掃の徹底が信頼に直結。
 - 試験・承認:要求性能が高い案件は、メーカーの性能証明・第三者認証(例:国内の性能評価・各種試験成績)を確認。
 
ミニ用語辞典(覚えておくと楽)
- 有効埋込み長さ:アンカーが実際に母材へ効いている長さ。長いほど基本的に強いが、端部破壊や薄いスラブでは注意。
 - 縁端距離:母材の端からアンカー中心までの最短距離。小さすぎると割れやすい。
 - 芯間距離:アンカー同士の中心間の距離。近すぎるとコンクリートが弱くなる。
 - 呼び径:アンカーの公称直径(M8など)。下穴径の基準にもなる。
 - クラック(ひび割れ)コンクリート:使用できるアンカーが限られることがある。要確認。
 
よくある質問(Q&A)
Q1. コンクリートブロックやALCにも使えますか?
A. 基本は不可または非推奨です。ブロック・ALCは内部が脆く、ウェッジの拡張が効きにくいです。ALC用アンカーや接着系など、母材に適した製品を選んでください。
Q2. インパクトだけで締めても大丈夫?
A. 仮締めまではOKでも、最終はトルクレンチで規定トルクに合わせるのが確実です。過大トルクは破損や効き不良の原因になります。
Q3. どのサイズを選べばいい?
A. 取り付けたい部材の荷重(せん断・引抜き)と下地条件から、呼び径と有効埋込みを決めます。現場の経験則だけでなく、メーカーの性能表で必ず照合しましょう。内装の軽荷重ならM6〜M8が多いですが、条件により変わります。
Q4. 穴の掃除はどこまで必要?
A. 粉がほぼ出なくなるまで。ブロワ→ブラシ→吸引を繰り返し、指で触って粉が付かないレベルを目安にすると安定します。
現場で失敗しないチェックリスト
- 下地確認(鉄筋・配管・強度・欠け)済み?
 - ビット径・深さは仕様通り?ビット摩耗はない?
 - 清掃は「吹・こ・吸」の3工程で丁寧に行った?
 - 縁端距離・芯間距離は守れている?
 - 締付けはトルクレンチで最終確認した?
 - 環境に合う材質(屋内・湿気・屋外)を選んだ?
 
まとめ:オールアンカーを味方にする
オールアンカーは、内装現場で「早く・確実に」固定できる頼れるファスナーです。ポイントはたったの3つ──適切な選定(径・材質・埋込み)、正しい下穴加工(径・深さ・清掃)、適正トルクでの締結。これさえ守れば、ランナー固定から金物ベースの取り付けまで、仕上がりと耐久性にぐっと差が出ます。迷ったら、母材・荷重・環境を整理して、メーカーのカタログに当てはめる。基本に忠実で、現場は確実に回ります。今日の一本から、丁寧にいきましょう。









