ケーブルストリッパー基礎ガイド|内装現場で「早く・きれいに・安全に」配線するための道具解説
「ケーブルの皮むきって、ニッパーでもできるの?」「ケーブルストリッパーってどれを買えばいいの?」──初めて配線作業に触れると、こうした疑問が出てきますよね。この記事では、建設内装の現場で日常的に使われる現場ワード「ケーブルストリッパー」を、プロの目線でわかりやすく解説します。用途の違い、選び方、具体的な使い方、失敗しやすいポイントまでまとめているので、この記事ひとつで「迷わず・傷めず・スピーディー」に剥線できるようになります。
現場ワード(ケーブルストリッパー)
| 読み仮名 | けーぶるすとりっぱー |
|---|---|
| 英語表記 | cable stripper |
定義
ケーブルストリッパーとは、電線や通信ケーブルの外装(ジャケット)や心線の被覆を、導体を傷つけず一定寸法でむくための専用工具です。電気設備・弱電・通信・映像などの配線工程で使用され、作業の速度と仕上げ品質、そして安全性を安定させる役割を持ちます。ワイヤーストリッパーが主に単線・撚り線の「心線被覆」をむくのに対し、ケーブルストリッパーは「ケーブル外装(シース)」の剥ぎ取りに適した構造を持つものを指すケースが多く、用途に応じて使い分けます。
現場での使い方
ケーブルストリッパーは、器具結線やボックス内の結線準備、盤内の配線整理、情報コンセントの端末処理など、内装現場の幅広い工程で活躍します。以下に、言い回し・別称、具体的な使用例、使う場面、関連語を整理します。
言い回し・別称
- ストリッパー(略称)
- 剥線工具/皮むき(口語)
- VAストリッパー(VVFケーブル用)
- 同軸ストリッパー(テレビ・監視カメラ等の同軸用)
- LANストリッパー(UTP/STPなど通信ケーブル用)
使用例(3つ)
- 「このボックス内の3心2.0、シース50ミリむいてストリップ準備しておいて」
- 「テレビ端子側は5Cの同軸、外装と編組の処理はストリッパーで寸法通りね」
- 「LANのCat6、被覆割かないようにストリッパーでサッと回して。十字介在はカット忘れないで」
使う場面・工程
- 配線敷設後の結線前処理(器具・盤・ボックス・情報コンセント)
- 照明・コンセントのユニット結線(VVFの外装と心線被覆の処理)
- 弱電設備(LAN、電話、インターホン、監視カメラ、テレビ)の端末加工
- 床下・天井内での延長や接続作業(中継、スリーブ圧着前の剥線)
関連語
- ワイヤーストリッパー(心線の被覆剥き用)
- リッパー(VVFの外装に切れ込みを入れる補助工具)
- ニッパー/ペンチ(切断・つかみ・曲げ)
- ケーブルカッター(導体・ケーブルの切断専用)
- 圧着工具(スリーブ・端子の圧着)
- スリーブ・端子(接続部材)
ケーブルストリッパーの種類と仕組み
ケーブルストリッパーと一口に言っても、対象ケーブルや作業内容で形状・機構が異なります。代表的なタイプと特長をまとめます。
1. VVF(VA)ケーブル用ストリッパー
住宅・店舗の電灯配線で多用するVVF(通称VA線:1.6mm/2.0mmの2心・3心など)の外装と心線被覆を、決まった長さで素早く剥けるタイプ。心線径に合わせたゲージがあり、深さ調整済みのため導体傷つきを防ぎやすいのが特長。ボックス内の作業効率が大きく上がります。
2. 同軸ケーブル用ストリッパー
4C・5Cなどの同軸ケーブルの外装、編組(シールド)、絶縁体を段剥き(ステップ)で処理できるツール。回転させるだけで複数段の剥き寸法を再現でき、F型・BNCなどのコネクタ施工の品質と再現性が向上します。
3. LANケーブル用ストリッパー
Cat5e/6/6AなどのUTP/STPケーブルの外装を割かずに切れ込みを入れ、十字介在やアルミシールドを適切に処理できるツール。芯線の撚りをなるべく崩さず、規定長での結線(パンチダウン・RJ45端子圧着)を助けます。
4. 自動剥線(オートストリッパー)
挟む・引くのワンアクションで心線被覆を剥ける機構のもの。多芯ケーブルの量産的な剥線や、撚り線の繊細な処理で便利。開口幅や刃圧を自動追従するものもあり、被覆を選ばず安定して剥けます。
5. 汎用ワイヤーストリッパー
主に心線の被覆剥きに使われるゲージ付きストリッパー。ケーブル外装には不向きな場合があるため、外装剥きには専用のケーブルストリッパーまたはリッパーを併用します。
ケーブルストリッパーの選び方(プロの視点)
「どれを選べば失敗しないか?」は、対象ケーブルと作業量で決まります。以下の観点で絞り込みましょう。
対象ケーブルで選ぶ
- VVF(1.6/2.0、2心/3心など)を主に扱うなら「VVF専用」タイプ
- テレビ・監視カメラなら「4C・5C同軸対応」の段剥きタイプ
- 情報系が中心なら「LANケーブル対応」で外装にやさしい刃設計のもの
仕上げ品質・再現性
- ゲージ固定・刃深さ調整機構の有無(導体傷つき防止)
- 段剥き寸法の再現性(同軸・LAN)
- 絶縁体の「白化」や芯線の「毛羽立ち」を起こしにくい刃形状
作業性・安全性
- ワンハンドで扱いやすいサイズと開閉荷重
- 滑りにくいグリップ、落下防止用のストラップ穴
- 絶縁ハンドル(充電・活線作業は原則禁止ですが、二次側作業では念のため)
耐久性・コスト
- 替刃の有無と入手性
- 砂・粉じん環境での耐久性(内装は粉じん多め)
- 想定本数に対するコスト回収性(量が多いなら専用工具が速い)
代表的なメーカーと特徴
以下は日本国内の現場で入手しやすく、評価の安定したメーカー例です。(機種や仕様は各社で多様です。購入時は対象ケーブルとの適合を確認してください。)
- HOZAN(ホーザン):電子・電設工具の国内メーカー。教育現場からプロ用途までラインナップが広く、同軸・LAN・ワイヤーストリッパーなどの定番品を展開。
- MARVEL(マーベル):電設工具の国内ブランド。VVF用の作業効率に優れた専用ストリッパーを多数展開し、現場での支持が厚い。
- JEFCOM/DENSAN(ジェフコム/デンサン):電気・通信分野向けの多彩な工具・資材を扱う国内ブランド。同軸・LANの段剥きツールなど実務的な仕様が充実。
- VESSEL(ベッセル):国内の老舗ツールメーカー。精度の高い刃物系工具や電設関連の補助ツールを展開し、信頼性で選ばれる。
- FUJIYA(フジ矢):切断・保持系工具で知られる国内メーカー。電設現場で使いやすいストリッパー・ニッパーをラインナップ。
- KNIPEX(クニペックス):ドイツの工具メーカー。自動剥線など精密機構に強みがあり、耐久性と仕上がりの良さで評価が高い。
- Klein Tools(クラインツールズ):米国の電設工具老舗。電気・通信向けのストリッパーが豊富で、握りやすさと実戦的な設計が特長。
- IDEAL INDUSTRIES(アイディール):米国メーカー。LAN・同軸の端末工具で知られ、段剥きの再現性に定評。
- Jonard Tools(ジョナード):通信・放送分野に強い米国メーカー。コネクタ施工に合わせた専用ストリッパーが揃う。
正しい使い方(基本手順)
ここではVVF、同軸、LANの3例で基本手順を紹介します。工具・ケーブルの仕様に合わせ、各メーカーの取扱説明書も必ず確認してください。
VVF(VA)ケーブルの場合
- 寸法確認:器具メーカーの推奨ストリップ長(例:外装50mm、心線10mmなど)を確認。
- 外装むき:VVF用ストリッパーの外装ゲージに差し込み、軽く握って引き抜く。導体を傷つけない力加減で。
- 心線むき:心線径に合うゲージ(1.6/2.0)にセットして被覆だけを剥く。
- 導体確認:傷・切り欠き・偏平がないかチェック。傷があれば切り戻し。
同軸ケーブルの場合(4C/5C)
- 段剥き寸法の確認:使用コネクタの仕様(例:外装、編組、絶縁体の各寸法)に従う。
- ストリッパーに挿入:ケーブルを指定のストップ位置まで差し込み、工具を軽く閉じる。
- 回転加工:工具を数回回して刃を回し込み、抜き取る。複数段が一度に処理できるタイプもある。
- 整え:編組を折り返す、絶縁体の面を整える。芯線に傷があればやり直し。
LANケーブルの場合(Cat5e/6/6A)
- 外装スコアリング:外装に軽く切れ込みを入れ、割くように開く(芯線まで切り込まない)。
- 介在処理:十字介在やシールド材を規定長でカット・整える。
- 撚りを最小限に:芯線の撚りを解きすぎない(伝送特性のため)。
- 仕上げ:RJ45圧着やパンチダウンに進む。導体順序(T568A/B)の間違いに注意。
よくある失敗と対策
- 導体にキズが入る:刃圧が強すぎる/ゲージ不適合。専用ゲージを使い、力は最小限で。気になる傷は必ず切り戻し。
- 寸法がバラつく:都度目分量にしている。ストッパーやゲージ付きの工具を選び、同じ動作で反復。
- 外装だけのつもりが心線まで切る:外装用と心線用の工具を混同している。用途別のストリッパーを併用する。
- LANの芯線断線・特性劣化:外装切り込みが深すぎる、撚りを解きすぎ。回転は軽く、必要最小限の処理に。
- 同軸の段剥き寸法違い:コネクタ仕様未確認。施工前に寸法表を確認し、試し剥きで検証する。
安全上の注意(内装現場での基本)
- 活線近接禁止:原則、通電中のケーブルには触れない。必ず停電・検電を実施。
- 保護具:目の保護(切りくず対策)、手袋は作業に支障がないものを選択。
- 足場・脚立:片手作業にならないよう、安定した姿勢で。落下防止のストラップを活用。
- 電気工事の資格:電気工事士の範囲に該当する接続・結線は、法令に基づき有資格者が実施。
- 刃の交換・調整:無理に使い続けない。切れ味低下はかえって危険で仕上がりも悪化。
プロが現場で意識しているコツ
- 最初の1本で「当たり」を取る:対象ケーブルに対して試し剥きし、刃圧と寸法を微調整。
- 道具を2本持ち:外装用と心線用を分け、迷わず手が出る配置に。ボックス脇に定位置を作る。
- 切り戻しを惜しまない:少しでも傷や白化が気になればやり直し。それが後トラブルを防ぐ最短ルート。
- 粉じん対策:刃部に石膏粉が噛むと食い込みが不安定。こまめにブロワーやブラシで清掃。
代替手段と使い分け
- ニッパー+リッパー:専用工具がないときの最終手段。ただし導体傷つきのリスクが高く、仕上がりも不安定。
- カッターで外装スコアリング:LANなどで用いることはあるが、芯線切断の事故が増えるため初心者には非推奨。
- 自動剥線機:数量が多い場合の省力化に有効。現場よりも作業台や工房での量産に向く。
現場で混同しやすい用語の違い
- ケーブルストリッパー:ケーブルの外装(ジャケット)剥きが主目的。種類によって心線も対応。
- ワイヤーストリッパー:心線の被覆剥きが主目的。外装には不向きな場合が多い。
- リッパー:外装に切れ込みを入れる簡易工具。単体では仕上げが粗くなりがち。
- 被覆(ひふく)と外装(がいそう):被覆は心線の絶縁体、外装はケーブル全体を覆うジャケット。
購入前チェックリスト
- 対象ケーブル(種類・径・心数)を明確にしたか
- 必要な剥き寸法(器具・コネクタ仕様)を把握したか
- ゲージ・ストッパーの有無、刃の交換性を確認したか
- 片手で扱えるサイズ・重量か、落下防止穴はあるか
- メーカーのサポート・替刃の入手性は問題ないか
メンテナンスと保管
- 清掃:作業後は刃部の粉じんを除去。金属粉・石膏粉は刃の寿命を縮める。
- 給脂:可動部に微量の潤滑(メーカー指定があれば従う)。
- 刃の交換:切れ味が落ちたら早めに交換。ムリ切りは導体傷つきの原因。
- 保管:湿気を避け、防錆。工具箱内で刃が他工具に当たらないよう保護。
現場でのよくある質問(FAQ)
Q. VVFの外装はニッパーで少し切れ込みを入れて剥けば十分ですか?
A. 可能ではありますが推奨しません。導体傷つきや寸法のバラつきが起きやすく、後の断線・発熱リスクにつながります。VVF専用ストリッパーを使うと、速く・均一に・安全に仕上がります。
Q. 同軸の段剥き寸法はどこで確認しますか?
A. 使用するコネクタ(F型、BNC、圧着・圧縮タイプなど)のメーカー仕様書に記載されています。ケーブル銘柄によっても微差が出るため、施工前に一度試し剥きでフィットを確認するのが確実です。
Q. LANケーブルの外装が硬くて芯線を傷つけがちです。
A. 刃圧を弱めにし、外装に浅くスコアリングして「割く」イメージで剥いてください。専用ストリッパーは刃が外装にのみ当たる設計のものが多く、安全性が高まります。
Q. 1本で何でも剥ける万能ストリッパーはありますか?
A. 汎用タイプはありますが、作業品質とスピードを重視するなら用途別の専用工具が有利です。現場では「VVF用」と「通信系用」を分けて持つのが定番です。
まとめ:最小の力で、最大の品質を
ケーブルストリッパーは、配線作業の「速さ・きれいさ・安全性」を底上げする要の道具です。ポイントは「対象ケーブルに合う専用タイプを選ぶ」「ゲージと寸法を守る」「導体を絶対に傷つけない」の3つ。初めての方ほど専用工具の恩恵は大きく、仕上がりの安定が自信につながります。ぜひ本記事を手元に、実際の現場で1本ずつ確実に手を慣らしていってください。迷ったときは、VVF用・同軸用・LAN用の3ジャンルから用途に合うものを選ぶのが近道です。あなたの現場が、もっとラクで、もっと安全になりますように。









