「耐熱テープ」完全ガイド:内装現場で迷わない選び方・使い方・注意点
「この場所、熱がかかるけど普通のテープで大丈夫?」——ダクト周りや厨房機器の背面、加熱のかかる設備の近くなど、内装現場では“熱”に絡む場面が意外と多いもの。そんなときに頼りにされるのが「耐熱テープ」です。ただ、耐熱といっても素材や粘着剤の種類はさまざま。適材適所を間違えると、剥がれや糊残り、最悪の場合は事故につながることも。この記事では、現場でよく使う「耐熱テープ」の意味・種類・選び方・貼り方まで、プロ視点でわかりやすく解説します。初めてでも迷わないよう具体例や言い回しも盛り込みました。今日から現場で自信を持って使い分けできるようになります。
現場ワード(耐熱テープ)
| 読み仮名 | たいねつテープ |
|---|---|
| 英語表記 | heat-resistant tape / high-temperature tape |
定義
耐熱テープとは、一定の高温環境下でも粘着力・基材強度・外観(変色や縮み)を保てるよう設計された粘着テープの総称です。内装・設備の現場では、ダクトの継ぎ目処理、加熱機器まわりの保護、塗装や焼き付け工程のマスキングなど、熱が想定される部位に用いられます。素材(基材)としてはポリイミド、ガラスクロス、アルミ箔、PTFE(フッ素樹脂)ガラスクロスなどが代表的で、粘着剤はシリコーン系やアクリル系など用途により使い分けます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下のような呼び方をすることが多いです。呼称で素材や用途をある程度絞れます。
- カプトン(=ポリイミドテープの通称)
- ガラクロ(=ガラスクロステープ)
- アルミ(=アルミ箔テープ、耐熱アルミ)
- 耐熱マスキング(=焼付塗装・粉体塗装用のマスキングテープ)
- フッ素ガラス(=PTFEガラスクロステープ)
使用例(現場フレーズ3つ)
- 「レンジフードのダクト差し込み部、アルミの耐熱で一周巻いて、継ぎ目を抑えておいて。」
- 「IH背面の配線が当たるところ、カプトン一枚貼って熱と擦れの保護しよう。」
- 「この部材、焼付けに出すから耐熱マスキングでエッジ拾って、剥がれないように圧着ね。」
使う場面・工程
- 空調・換気ダクトの継ぎ手やピンホール補修、断熱材端末の押さえ
- 厨房・熱機器まわりの表面保護や仮固定(機器仕様・温度範囲に合致するものに限る)
- 焼付塗装・粉体塗装工程のマスキング
- 配線の耐熱保護や擦れ防止(電気的な絶縁用途は電気工事の仕様指示に従う)
- 滑り性・離型性が必要な摺動部の保護(PTFE系)
関連語
- アルミ箔テープ/ポリイミドテープ(カプトン)/ガラスクロステープ/PTFEガラスクロス
- 耐熱マスキング/粉体塗装用マスキング
- 断熱材テープ(断熱目的の資材固定。耐熱とは異なる概念)
- 耐火シーリング・防火区画材(耐熱テープの代替ではない。区画貫通は認定品が必要)
- 養生テープ(一般のPEクロス養生は高温でNG。誤用注意)
耐熱テープの種類と特徴(素材別)
現場で頻出の素材ごとに、特長と使いどころを整理します。各製品の耐熱温度はメーカー仕様で異なるため、以下は一般的な目安・特徴です。
ポリイミド(カプトン)テープ
薄くて耐熱性が高く、電気絶縁性・寸法安定性に優れます。はんだリフローやモーターコイルの補強などの工業用途でもおなじみ。内装現場では、配線の熱保護や狭所のマスキングに便利。粘着はシリコーン系が多く、糊残りが少ないのも利点。耐熱目安は概ね200〜260℃クラス(短時間)に対応する製品が一般的。
ガラスクロステープ
ガラス繊維織物を基材にしたテープ。耐熱性・機械強度が高く、断熱材の端末処理や補修、ダクト周りの高温部の固定に使われます。シリコーン粘着採用品では200℃前後まで安定するものが一般的。表面にアルミをラミネートしたタイプもあります。
アルミ箔テープ
反射性・遮熱性に優れ、ダクトの継ぎ目シールや断熱材の目地処理に定番。粘着剤がアクリル系の汎用品は80〜120℃程度、高耐熱シリコーン系の上位品で150〜200℃をうたうものもあります。見た目が似ていても耐熱は大きく差が出やすいので仕様確認が重要。
PTFE(フッ素樹脂)ガラスクロステープ
離型性・滑り性・耐薬品性に優れ、熱と滑りが同時に必要な部分に使用。シール面の滑り改善、シュート・ガイドの擦れ防止など。耐熱目安は200℃前後の製品が多いです。
耐熱マスキングテープ(塗装用)
焼付塗装・粉体塗装工程向け。一定時間、高温炉に入れても糊残りや縮みが少ない設計。温度目安は製品により160〜220℃程度(短時間)など。内装の塗装工程で熱を伴う場合に選定します。
失敗しない選び方(温度・素材・粘着で決める)
1)想定温度と時間
「何℃で、どれくらいの時間かかるのか」を最優先で確認します。常時熱がかかるのか、短時間だけなのかでも選ぶべき製品は変わります。メーカー仕様では「連続使用温度」「短時間耐熱」などの表記があるので、より厳しい条件側で見積もるのが安全です。
2)基材(素材)の役割
- 反射・遮熱を期待する:アルミ箔
- 強度と耐熱のバランス:ガラスクロス
- 薄さと絶縁・寸法安定:ポリイミド
- 離型・摺動を付与:PTFEガラスクロス
3)粘着剤の違い
- シリコーン系:耐熱・耐候・糊残りの少なさに優れる。高温用途の第一候補。
- アクリル系:初期タックが高く多用途。耐熱はグレード差が大きいので仕様要確認。
- ゴム系:高温には不向き。耐熱用途には原則避ける。
4)被着体(貼る相手)と環境
アルミ・ステンレス・塗装鋼板・樹脂・断熱材など、被着体の材質で粘着挙動は大きく変わります。油分・粉塵・湿気・表面温度も重要。特にアルミダクトやステンレスは脱脂で差が出ます。屋外・結露環境では耐候性の高いタイプを選びます。
5)規格・指定の有無
図面や仕様書に製品名・材質・温度・規格が指定されている場合は厳守します。指定が曖昧な場合は、製品の技術資料(カタログ・データシート)で耐熱温度・推奨用途・注意事項を確認し、必要に応じて監督・設計に承認を取ります。防火区画・法令に関わる部位は、認定品(シーリング材・ボード等)の適用が前提で、耐熱テープ単独での代替はできません。
貼り方のコツ(プロが現場でやっていること)
1)下地づくり
- 脱脂:アルコール系のクリーナーで油分除去。特に金属面は必須。
- 清掃:粉塵・水分を完全に除去。細かな粉でも密着を落とします。
- 温度:貼り付け時は5〜40℃が目安。寒冷時は被着体を温めると密着が改善。
2)貼り込み
- 仮置き→本圧着:位置を決めてから、ローラーまたは指圧でしっかり圧着。
- 重ね幅:継ぎ目は10〜20mm程度重ねると安心(仕様に従う)。
- 曲面・コーナー:細幅を使う、切り込みを入れるなどでシワを防止。
3)エージング
貼ってすぐは本来の接着力が出ない製品もあります。可能なら所定時間(目安24時間)放置してから加熱負荷をかけると安定します。工程上、即加熱する場合は、その条件での適合を事前確認しておきます。
4)剥がし(マスキング用途)
加熱後は温度が落ち着いたタイミングで、テープを面に沿わせてゆっくり剥がします。糊残りが心配ならシリコーン粘着や耐熱マスキング専用品を選ぶのが基本です。
よくある失敗と対策
- すぐ剥がれる:脱脂不足/低温施工/粘着剤選定ミス。→下地処理と施工温度の見直し、シリコーン粘着の高耐熱グレードへ。
- 糊残り・変色:温度が仕様以上/加熱時間が長すぎる。→耐熱上位品へ切替、マスキングは専用品を使用。
- 縮み・シワ:薄手基材の熱伸縮。→重ね貼りと圧着の徹底、基材変更(ガラスクロス等)。
- 誤用:養生テープで熱部位を固定。→“養生=耐熱”ではない。用途別に必ず品番確認。
安全と法規・仕様の注意
耐熱テープは高温環境での補助固定や保護・シールに役立つ資材ですが、耐火・防煙・防火区画の性能を担保するものではありません。区画貫通や法的性能が絡む部位は、認定を受けた専用部材・工法を使用してください。また、電気的な絶縁用途は電気工事の範囲・規格に従い、指定のテープ(絶縁用)やスリーブを使用します。現場判断が難しい場合は、設計・監督・メーカー技術窓口に確認しましょう。
代表的なメーカー(五十音順)
製品選定時はメーカーの技術資料(データシート)で温度・用途・注意事項を確認しましょう。以下は耐熱系テープで流通実績のある代表例です。
- 3M(スリーエム):産業用テープ・研磨材で世界的メーカー。ポリイミド、アルミ箔、マスキングなど幅広く展開。
- 日東電工(Nitto):国内大手の総合粘着テープメーカー。高耐熱・特殊用途のラインアップが豊富。
- ニチバン:医療・文具から産業用まで手がける粘着製品メーカー。現場で扱いやすい規格が多い。
- 積水化学工業(セキスイ):産業用テープ・フィルムのラインアップを持つ総合化学メーカー。
- Tesa(テサ):ドイツ発の産業用テープメーカー。欧州規格に準拠した耐熱・マスキング製品に強み。
- 寺岡製作所:各種工業用テープを展開。アルミ箔系やガラスクロス系も取り扱い。
同じ「アルミテープ」でも粘着剤の違いで耐熱が大きく変わるため、品番指定での手配が安全です。
現場で役立つ選定早見(考え方)
- 目的が「遮熱・反射」→ アルミ箔(高耐熱グレード)。
- 目的が「強度・保持」→ ガラスクロス(シリコーン粘着)。
- 目的が「薄い絶縁・精密マスキング」→ ポリイミド。
- 目的が「滑り・離型」→ PTFEガラスクロス。
- 焼付・粉体塗装のマスキング→ 耐熱マスキング専用品(温度・時間を仕様で確認)。
ケーススタディ(内装でありがちなシーン)
厨房ダクトの継ぎ目シール
油煙や高温に晒されるため、アルミ箔テープでも高耐熱・耐候のものを選定。下地は脱脂を徹底し、周方向にしっかり圧着。端部は重ね貼りで剥がれ防止。必要に応じて機械固定+テープで補助。
加熱機器背面の表面保護
機器からの輻射熱や配線の擦れ保護にはポリイミド。狭所での施工作業性が高い。金属面の保護にはアルミ箔も候補だが、電気的な絶縁が必要ならポリイミドが有利。
粉体塗装のマスキング
一般の紙マスキングは不可。耐熱マスキングを使用し、エッジラインはミミが出ないよう密着。塗装後は温度が落ちてから面に沿わせて剥がすと糊残りが少ない。
在庫管理・保管のポイント
- 直射日光・高温多湿を避け、常温・乾燥環境で保管。
- 横置きでロールが変形しないように。端面を汚さない。
- 開封後は塵・油の付着を避け、できるだけ早めに使い切る。
- 多くの粘着テープは未開封で「6〜12か月」が目安とされるケースが多い。実際は製品ごとの推奨保存期限・条件に従う。
チェックリスト(施工前に確認)
- 温度条件(最大温度・時間)は? 連続か間欠か?
- 被着体の材質は? 脱脂・清掃は済んだか?
- 粘着剤の種類は適切か(シリコーン等)?
- 屋内・屋外・湿気・油分の有無は?
- 図面・仕様で品番や規格指定は? 承認は取れているか?
- 耐火・防煙など法的性能が絡む部位ではないか?(該当なら認定工法へ)
Q&A(初心者の疑問に答えます)
Q1. 「耐熱」と「耐火」は同じ?
違います。耐熱は高温環境での粘着・寸法安定などに強いこと。耐火は火災時の遮炎・遮煙など区画性能の話で、別物です。区画性能は認定工法が必須です。
Q2. 何℃まで耐えれば「耐熱」?
明確な線引きはなく、製品ごとに仕様が定められています。アルミ箔の汎用品で80〜120℃程度、高耐熱で150〜200℃、ポリイミドやガラスクロスは200℃級のものが多い、といった傾向です。必ずデータシートを確認してください。
Q3. 電気配線の絶縁にも使っていい?
用途によります。ポリイミドは絶縁性がありますが、電気工事で使う場合は規格・指定品に従うのが原則。現場判断ではなく、設計・電気担当の指示に合わせてください。
Q4. 糊残りを避けたい。
高温後の剥離を想定するなら、シリコーン粘着の高耐熱品や、耐熱マスキング専用品を選定。加熱後は温度が落ち着いてから低速で剥がすと残渣が出にくくなります。
Q5. アルミテープとガラスクロス、どちらが強い?
「強い」の意味によります。遮熱・反射はアルミが有利、引張・耐切創・保持力はガラスクロスが有利。用途に合わせて選びます。
用語ミニ辞典(押さえておくと便利)
- 基材:テープの土台となる素材(アルミ、ポリイミド、ガラスクロスなど)。
- 粘着剤:貼り付きを生む層(シリコーン、アクリル等)。耐熱性に直結。
- 初期タック:貼ってすぐの粘着の強さ。低温時に低下しやすい。
- エージング:貼付後に時間を置いて接着力が安定する現象。
- 糊残り:剥離後に粘着剤が被着体に残ること。高温・長時間で増える。
まとめ:迷ったら「温度」と「素材」で絞る
耐熱テープ選定の肝は、想定温度と時間、そして素材・粘着の適合です。アルミで遮熱、ガラスクロスで強度、ポリイミドで薄さと絶縁、PTFEで滑り——目的から逆算すれば、おのずと正解に近づきます。最後は下地処理と圧着の徹底。これだけで剥がれ・糊残りのトラブルは大幅に減ります。法的性能が絡む部位は必ず認定工法を選び、製品のデータシートで温度・用途・注意事項を確認。現場での“小さな気配り”が、仕上がりと安全を大きく左右します。今日からの現場で、賢く安全に「耐熱テープ」を使いこなしましょう。









