ウェザーストリップ完全ガイド:ドア・サッシのすき間を塞ぐ気密材の基礎知識と現場での呼び方、選び方・施工のコツ
「ドアのすき間風が気になる」「内装の現場で“ウェザーストリップ”って何のこと?」——そんな疑問にやさしく答えるための記事です。ウェザーストリップは、室内ドアやサッシの“すき間”をコントロールして、気密・遮音・防塵・省エネなどの性能を高める小さな部材。現場では「気密材」「戸当たりゴム」「モヘア」など別名で呼ばれることもあり、種類や付け方を間違えると「扉が閉まらない」「すぐ剥がれる」などのトラブルにもつながります。本記事では、内装施工のプロ視点で、定義から現場での使い方、選定・施工の実践ポイントまでを初心者にもわかりやすく解説します。
現場ワード(ウェザーストリップ)
| 読み仮名 | うぇざーすとりっぷ |
|---|---|
| 英語表記 | weatherstrip / weatherstripping |
定義
ウェザーストリップとは、ドアや窓、サッシなどの枠と可動部(扉・障子)の接触部に取り付け、すき間風・音・塵・光・虫・水気の侵入を抑えるための帯状シール材の総称です。スポンジゴムや発泡体、シリコーン、EPDM、TPE(熱可塑性エラストマー)、ブラシ(モヘア)などの材質があり、テープで貼るタイプ、溝に差し込むタイプ、金物ホルダーに装着するタイプ、ドア下端を自動で下げて塞ぐ“オートドアボトム”など、形状と取り付け方式が多様です。
ウェザーストリップの役割とメリット
見た目は地味ですが、ウェザーストリップは「すき間を適切に塞ぐ」ことで建具の性能を底上げします。適切に選び・施工すると、以下の効果が期待できます。
- 気密性の向上:すき間風を抑え、空調効率を高める。
- 遮音性の向上:ドア・サッシの周囲から漏れる音を低減(特に下端やラッチ側のすき間対策が有効)。
- 防塵・防虫:廊下や外部からのほこり・小虫の侵入を抑える。
- 遮光・防臭:トイレや寝室などで、光漏れや臭いの広がりを抑制。
- 防煙・防水の補助:用途に応じた認定品・専用品を使えば、煙・水の侵入抑制にも寄与(法令対象部位は認定部材必須)。
ポイントは「塞ぎすぎない」バランス。過度な圧縮は開閉抵抗を増やし、建具の不具合や寿命低下を招きます。適切な圧縮率で、必要な性能だけをきちんと出す——これがプロの勘どころです。
種類と形状の基礎知識
代表的なタイプ
- 自己粘着テープ式:裏面に粘着が付いたスポンジゴムや発泡体。P型・D型・E型・T型など断面形状が豊富。後付けが簡単で内装リフォームでも定番。
- 差し込み(ケルフ)式:枠側の溝に押し込むゴムパッキン。建具メーカー仕様で使われ、交換も容易。工場組み込みや現場交換に向く。
- ホルダー+パッキン式:アルミや樹脂のホルダーをビス止めし、ゴムやブラシを装着。直線が長い場所や商業施設での耐久施工に適合。
- ブラシ(モヘア)シール:細い繊維ブラシで擦り合わせて塞ぐタイプ。引違いサッシやスライドドアの気密材として広く使用。
- ドアボトム(スイープ/オートボトム):下端のすき間対策専用。常時接触のスイープ、閉鎖時だけ下降する自動降下式(オートボトム)がある。
材質の違い
- EPDMゴム:耐候性・耐熱性に優れ、屋内外で安定。反発性があり長寿命。
- シリコーン:低温から高温まで弾性が安定。耐候・耐薬品性に強い。色展開もある。
- TPE(熱可塑性エラストマー):加工性とコストのバランスが良い。軽負荷の室内に適合。
- PVC(軟質塩ビ):価格が手頃。可塑剤の影響で経年硬化に注意。
- 発泡体(スポンジ):圧縮性が高く追従性に優れるが、耐久は材質次第。
- ブラシ(モヘア・パイル):摺動抵抗が少なく、引戸やスライド部に好適。塵を抱き込む特性。
「どれが正解」ではなく「用途と隙間に合わせて正しく選ぶ」が基本です。
選び方のポイント(プロが見るチェック項目)
- 隙間寸法:閉鎖時のすき間(ヘッド・縦枠・下端)を実測。最も狭い箇所基準で選定。
- 圧縮率の目安:ゴム・発泡体はおおむね20〜40%圧縮で性能が安定。過圧縮はNG。
- 開閉抵抗:軽い扉・細いヒンジ・ソフトクローズ付きは抵抗増に弱い。柔らかめ・薄めを選択。
- 取り付け方式:後付け簡便性ならテープ式、耐久・直線性重視ならホルダー式、既存溝があれば差し込み式。
- 部位と可動:開き戸の戸当たり・ラッチ側・丁番側・下端、引戸の召し合わせ・戸尻など、部位ごとに最適形状は異なる。
- 耐久・環境:温湿度・日射・清掃頻度・薬品接触の有無(病院・厨房など)。
- 意匠性:色(黒・グレー・白・半透明など)、見付け幅、見え掛かりの有無。
- 法令・認定:防火・遮煙が必要な建具は、必ず対象建具メーカーの認定済みシールを使用。
- コスト・交換性:消耗品としての交換のしやすさ、入手性もチェック。
現場での使い方
言い回し・別称
- 気密材/気密パッキン:内装現場での一般的な呼び名。
- 戸当たりゴム:ドア枠の戸当たりに貼る・差し込むタイプの俗称。
- モヘア:サッシ用のブラシ(パイル)シールの通称。
- ドアシール/ドアスイープ:下端用の総称。自動降下式は「オートボトム」。
- ブラシシール:下端・引戸の摺動部に使うブラシタイプ。
使用例(現場での会話・指示)
- 「ラッチ側、気密が甘いからP型のウェザーストリップ追加しよう。圧縮は3割くらいで。」
- 「下端は擦るから、テープじゃなくてドアボトムに切り替え。開閉抵抗も下げたい。」
- 「引戸の召し合わせ、モヘアが痩せてるね。同等品に交換して音漏れ抑えよう。」
使う場面・工程
工程としては「建具吊り込み・調整 → すき間実測 → 選定 → 取り付け → 最終調整」。追加の後施工や、既存建具の性能改善(防音・省エネ)でも活躍します。
- 新築・改修の建具調整後、最終段階で取り付け。
- 騒音・ニオイ対策の改修で後付け。
- 既存の劣化シールの交換。
関連語
- 戸当たり:ドア枠の当たり面。ここにシールを設置することが多い。
- ラッチ側/丁番側:ドアの閉鎖時、ラッチ(錠側)とヒンジ側のこと。
- 召し合わせ:引戸で扉同士が合わさる部分。
- オートボトム:ドアを閉めたときだけ下降して床とのすき間を塞ぐ下端シール。
- 気密等級・遮煙:法令や建具仕様に関わる性能。必要な部位では認定品必須。
施工手順とコツ(テープ式の基本)
- 1. 下見・採寸:扉を閉じた状態で、上下左右のすき間をシックネスゲージや紙の挟み込みで確認。最狭部基準で選ぶ。
- 2. 面の下地処理:取り付け面のホコリ・油分を除去。アルコール系で脱脂し、完全乾燥。凹凸は軽く研磨して密着UP。
- 3. 仮当て・圧縮確認:角で干渉しやすいので、短いカット材で試し貼り。閉まりや開閉抵抗をチェック。
- 4. 本施工:角は45°留め切りが基本。長辺は一気に剥がさず、少しずつ貼る。伸ばして貼らない(復元で縮むため)。
- 5. 圧着・養生:ローラーや指で均一に圧着。低温環境では粘着力が落ちるので10℃以上を目安に。24時間は強い開閉を避ける。
- 6. 最終調整:ラッチ・丁番・ドアクローザーの力を微調整。必要に応じてシムや当たり位置を調整。
コツ:貼り付け幅が狭い枠や塗装仕上げでは、粘着の相性に注意。密着が不安な場合はプライマー推奨(必ずメーカー適合品)。
施工手順(差し込み・ホルダー式の基本)
- 1. 溝・下地確認:既存溝の幅・深さを確認。ホルダーは直線性・ビスピッチを整える。
- 2. カット:ゴム・ブラシは長さを現物合わせで微調整。温度で伸縮する素材は余裕をみる。
- 3. 差し込み・装着:均等に押し込み、波打ち・ねじれを出さない。角部はメーカー指定のコーナーパーツか留め切り。
- 4. 試験開閉:干渉・引っ掛かりをチェック。下端は擦らない程度のクリアランスに。
オートボトムは左右方向の誤組付けで作動不良が起きやすいので、指定の作動側・位置に厳密に合わせます。
よくある失敗と対策
- 扉が重くなった/閉まり切らない:圧縮しすぎ。断面サイズを一段下げる、硬度が低い材に変更、部位ごとに種類を変える。
- 角で“ツッ”と引っかかる:角の留め切りが甘い、もしくは角部だけ過圧縮。角用に斜めカットを丁寧に、短めに逃がす。
- すぐ剥がれる:下地にホコリ・ワックス・湿気。脱脂・乾燥・プライマーを徹底。低温時は施工を避けるか温める。
- きしみ音・擦れ音:素材の相性が悪い、または過度接触。シリコーンスプレーを極薄で、またはブラシタイプに変更。
- 防音効果が出ない:下端・召し合わせ・配線穴など別ルートの漏れ。ルートを面で塞ぐ発想で総合対策。
- 見栄えが悪い:色・太さ・見付けの不一致。色番と見付け寸法を事前に確認し、見える面はホルダー式に。
メンテナンスと交換サイクルの考え方
ウェザーストリップは消耗品です。使用頻度・環境で寿命は変わりますが、以下を目安に点検・交換します。
- 弾性の低下・ひび割れ・潰れ戻りが悪い:交換サイン。
- ブラシ(モヘア)の痩せ・毛切れ:気密低下の原因。ペアで交換。
- 年1回程度の清掃:ホコリの除去、軽いシリコーン潤滑(貼付部には付けない)。
- 張り替え時は旧接着剤をきれいに除去してから新規施工。
テープ式は「簡単に替えられる」が強み。交換しやすい設計・選定にしておくと、長期的な性能維持ができます。
メーカー・製品カテゴリの例
内装・建具用途のウェザーストリップは、サッシ・建具メーカーや建築金物メーカー、一般向け資材メーカーから供給されています。以下は代表的なカテゴリとメーカー例です(各社の最新仕様は公式情報をご確認ください)。
- サッシ・建具メーカーの組込気密材:YKK AP、LIXILなど。工場組込のパッキンやモヘアが標準装備され、交換用部材も供給されることがあります。
- 建築金物のドアシール・ブラシシール:スガツネ工業(LAMPブランド)やアトムリビンテックなどが、ドアボトム・ブラシシール・ホルダー式パッキンをラインアップ。
- 内装・リフォーム向けすきまテープ:3M(スリーエム ジャパン)、ニトムズなどが、自己粘着の発泡体シールを展開。後付けや簡易改善に便利。
防火・遮煙など法令が絡む部位では、必ず建具側の認定に適合する純正・指定部材を使用してください。
注意:防火・遮煙が必要な場所での扱い
防火戸や避難経路、機械室・電気室・厨房など、法令・仕様で遮煙・防火が求められる建具には、認定を受けた建具とセットで性能が保証される部材のみが使えます。汎用品への置き換えは性能失格の原因になり、検査不合格や安全性の低下につながるため厳禁です。必ず建具メーカーの指示や物件仕様書に従いましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. ウェザーストリップを増やすと、ドアが重くなりませんか?
A. 圧縮率が高すぎたり、断面が太すぎると開閉抵抗が増します。最狭部のすき間実測に合わせ、目安20〜40%圧縮で効かせるとバランス良く仕上がります。抵抗が気になる部位は、ブラシタイプや低硬度材に切り替えるのも有効です。
Q. テープ式がすぐ剥がれます。対策は?
A. 下地の汚れ・油分・湿気が主因です。アルコール脱脂・乾燥・プライマーの三点セットを徹底してください。低温時は粘着力が落ちるので、施工環境の温度も重要。貼る際に引っ張らないこと、角は留めにしてストレスを分散させることも有効です。
Q. 防音目的ならどれを選べばいい?
A. ドア周囲を「連続シール」できる形状が基本。ラッチ側・丁番側・ヘッドはゴム系、下端はオートボトムまたはスイープを組み合わせると効果が安定します。素材自体の遮音力より「漏れ(フランキングパス)を塞ぐ設計」が効きます。
Q. 交換のタイミングは?
A. 弾性の戻りが悪い、ひび割れ、固着、ブラシの痩せなどが目安です。開閉頻度が高い場所は早めに、年1回の点検で不具合予防ができます。見た目が健全でも、閉まりが重い・音が変わったと感じたら点検を。
現場のプロが教える“選定の近道”
迷ったら、次の順に考えると早いです。
- 1. どの部位のすき間を塞ぎたいか(縦・上・下)を明確に。
- 2. その部位は摺動があるか(引戸/下端)→ あるならブラシやオートボトムを優先。
- 3. 実測すき間の最狭値を基準に、20〜40%圧縮で効く断面を選ぶ。
- 4. 後付けか、長期耐久かで「テープ式/ホルダー式/差し込み式」を選択。
- 5. 意匠とメンテナンス性(色・見え方・交換容易性)を最後に調整。
この順番で検討すれば、過剰仕様にも過少仕様にもならず、失敗を防げます。
小ネタ:現場の“あるある”と対処法
- 塗装仕上げの枠で粘着が乗らない:塗膜が弱い・艶有りは剥がれやすい。軽く足付けしてからプライマー+高タック品で。
- 床との段差で下端が擦る:スイープをやめてオートボトムへ。床材の凹凸・カーペットにも追従しやすい。
- ドアクローザーで勢いよく閉まる:シールを足す前に、クローザーの速度・ラッチング調整で当たりを優しく。
- 引戸の音漏れ:召し合わせ・戸尻・レール溝の三箇所をセットで。モヘアの高さ調整で擦りすぎを回避。
用語ミニ辞典(覚えておくと便利)
- 留め(とめ)切り:45°にカットして角で継ぐこと。見た目と気密の両立に有効。
- ケルフ:差し込み用の細溝。パッキンのベースを押し込んで固定する。
- 圧縮永久ひずみ:圧縮したまま置いた後の戻りの悪さ。数値が小さいほど長持ち。
- ショア硬度:ゴムの硬さ。数字が低いほど柔らかい。
まとめ:小さな部材が、建具の質を大きく変える
ウェザーストリップは、内装の仕上がり感や居住性に直結する“要”の部材です。大切なのは、すき間を正しく測り、用途に合う形状・材質・取り付け方式を選ぶこと。そして、貼り方・差し込み方の基本を守ること。たったこれだけで、閉まり心地・静かさ・空調効率が一段上がります。もし迷ったら、本記事のチェックリストに沿って選定し、無理のない圧縮で施工してみてください。きっと「ドアの質が良くなった」と感じていただけるはずです。初心者の方でも、ポイントを押さえれば十分に扱える部材。必要に応じてプロに相談しつつ、安心・快適な空間づくりに活用してください。









