冷媒ガスの基礎知識と現場で役立つ実践ポイント|種類・法律・安全管理まで
「冷媒ガスって何?R32やR410Aってどう違うの?取り扱いは難しい?」――空調・冷凍機の配管や据付に携わると、避けて通れないのが冷媒ガス。初めて触れると戸惑う用語やルールが多く、不安になりますよね。本記事では、建設内装の現場で日常的に使われる“現場ワード”としての「冷媒ガス」を、やさしい言葉で基礎から整理。種類の違い、選び方、作業手順、安全・法令まで、明日からの現場でそのまま役立つ実践ポイントをまとめました。
現場ワード(冷媒ガス)
| 読み仮名 | れいばいがす |
|---|---|
| 英語表記 | Refrigerant (Refrigerant Gas) |
定義
冷媒ガスとは、エアコンや冷凍冷蔵設備などで「熱を運ぶ」ために用いられる作動流体の総称です。気体と液体を行き来しながら、室内の熱を屋外へ(またはその逆へ)移動させます。現場では、機器ごとに指定された「R番号(例:R32、R410A、R134aなど)」の冷媒を、密閉された配管内に充填して使用します。混合や代替は原則禁止で、種類ごとに圧力・安全性・環境性が異なります。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「冷媒」「ガス」「R32(アールさんじゅうに)」「R410(よんいちまる)」「フロン」と呼ぶことが多いです。法令や環境の文脈では「フロン類」と表現されることもあります。
使用例(3つ)
- 「この室外機はR32だから、混ぜないようにね。回収ボンベもR32用で。」
- 「配管ろう付けは窒素パージして、真空引き後に規定量の冷媒を重量で充填して。」
- 「点検で高圧が高いな。冷媒過充填かコンデンサーの目詰まりを疑おう。」
使う場面・工程
- 搬入・据付:配管ルート決め、ろう付け/フレア加工、室外機・室内機接続
- 気密試験・真空引き:窒素加圧で漏れ確認、真空ポンプで脱気・乾燥
- 冷媒充填:規定量を「秤で」充填。追加配管分の追い足し計算
- 試運転・性能確認:圧力・温度・電流値、過熱度/過冷却度などをチェック
- 保守・修理:漏えい検知、回収・再充填、部品交換、法定点検記録
関連語
- マニホールドゲージ、バルブコア、サービスポート、冷媒回収機、回収ボンベ
- 真空ポンプ、真空計(デジタル)、リークディテクタ(電子式)、窒素ボンベ・レギュレータ
- フレア、トルクレンチ、ろう付け(銀ろう)、窒素ブロー/パージ
- GWP(地球温暖化係数)、ODP(オゾン破壊係数)、A1/A2L(安全分類)
冷媒ガスの種類と特徴
冷媒には多くの種類があり、設備ごとに適合が決まっています。ここでは現場でよく見かける代表例を、性質と注意点とともにまとめます。
- R32(A2L:低燃性)
- 家庭用ルームエアコンで主流。単一冷媒で熱効率が高く、GWPが比較的低い。
- 低燃性のため、火気・換気・漏えい時の濃度管理に注意。ろう付け作業時は必ず回収・パージ。
- R410A(A1:不燃)
- ルームエアコン~パッケージエアコンで広く普及した混合冷媒。高圧側が高め。
- 混合比が崩れるため、液相で充填するのが基本。R32への置換機も増加中。
- R22(A1:不燃/HCFC)
- 旧型機で使用。ODPありで生産・輸入は段階的に廃止済み。新規充填はできない国・地域が多い。
- 既存機の保守は回収再生品で対応する場合がある。代替時は機器更新が原則。
- R134a(A1:不燃)
- 冷蔵・自動車空調等で使用。ODPはゼロだがGWPが高く、低GWP冷媒へ置換が進行。
- R404A/R407C など(A1:不燃)
- 業務用冷凍冷蔵で採用例。GWP高めのため代替移行が話題。混合冷媒は液相充填が基本。
- ハイドロカーボン系(例:R290=プロパン/A3:可燃)
- 低GWPで注目。可燃性が高く、適用範囲や施工要件が厳格。メーカー指定に厳密に従う。
重要ポイント:どの機器にも「銘板」に指定冷媒が明記されています。種類の混用・代替は原則不可。潤滑油(POE、PAGなど)との適合も異なるため、安易な入替は厳禁です。
安全な取り扱いと法令のポイント
冷媒の主な危険性
- 高圧:システム内は高圧。誤開放や過充填は破損・飛散リスク。
- 窒息:密閉空間で漏れると酸素欠乏の恐れ。十分な換気と検知が重要。
- 凍傷:液冷媒の皮膚付着で凍傷の危険。保護手袋・保護メガネを着用。
- 分解ガス:火炎や高温で分解し、有害ガス(例:フッ化水素)が発生する恐れ。火気厳禁。
- 可燃性(A2L/A3):低燃性・可燃性冷媒は着火源管理・静電気対策・濃度管理が必須。
保護具と現場ルール
- 基本:保護メガネ、耐寒手袋、長袖。A2L/A3では防爆工具や火気管理、換気計画を徹底。
- シリンダー:直射日光を避け縦置き固定。バルブキャップ装着。車内放置の温度上昇に注意。
- 充填:秤で重量管理。過充填防止。混入防止のためホース内エア抜き(パージ)を実施。
- 回収:専用回収機と回収ボンベを使用。大気放出は禁止。ラベル・記録を残す。
- 漏えい対応:換気→着火源排除→検知→隔離→必要に応じて回収。安易な水洗いはしない。
日本の主な法令・制度(概要)
- フロン排出抑制法:業務用エアコン・冷凍冷蔵機器の所有者に「点検・整備・漏えい量算定・記録・報告」、廃棄時の「冷媒回収」を義務付け。
- 廃棄時の回収義務:冷媒は回収し、再生・破壊等で適正処理。大気放出は禁止。
- 関連資格の例:冷媒回収技術者(回収作業に必要)、各メーカーの施工・保守講習、特定建設業関連の安全衛生教育など。
法令は改正されることがあるため、最新情報は自治体・省庁・業界団体・メーカー通達で必ず確認してください。
施工とメンテのコツ(内装現場目線)
配管施工の要点(フレア・ろう付け)
- 配管切断はパイプカッターで。バリ取りは内外面とも丁寧に。切粉混入を避ける。
- フレア:規定寸法・角度、専用潤滑剤、トルクレンチで本締め。オーバートルクは割れの原因。
- ろう付け:窒素ブロー/パージで酸化皮膜を抑制。銀ろうの濡れを良くし、スラグを残さない。
- 断熱:配管断熱は継手も含めて確実に。露出部の結露・腐食を防ぐ。
気密試験と真空引き
- 窒素加圧試験:機器仕様に合わせた圧力で実施。安易に規定を超えない。温度変化の影響を考慮。
- 真空引き:デジタル真空計で到達真空と保持を確認。ホースの気密、コア抜きツールの活用が有効。
- 乾燥:POE系オイルは吸湿しやすい。真空保持で含水をできるだけ除去する。
冷媒の充填・回収(実務の勘どころ)
- 原則「重量充填」。機器銘板の規定量+配管延長分(メーカーの追加表)で算出。
- 混合冷媒(例:R410A、R407C)は液相で充填し、組成ずれを防止。
- インバータ/VRF:メーカー指示に厳密に従う。運転圧力だけで充填量を判断しない。
- 回収:システム内を回収モードで可能な限り抜き、最後に回収機で全量回収。ボンベは種類・状態をラベル管理。
漏えい対策と検知
- 初期施工での未然防止が最重要。フレア割れ・ナット緩み・ろう不足・擦れ穴をゼロに。
- 検知方法:電子式リークディテクタ、発泡液(シャボン液)、圧力保持試験、真空保持試験の組み合わせ。
- 原因別対処:フレア要再加工、ろう付けは再加熱補修または切り回し、配管損傷は交換。
知っておきたい評価指標と選定の考え方
- GWP(地球温暖化係数):小さいほど環境負荷が低い。R32はR410Aより低GWP。
- ODP(オゾン破壊係数):R22などHCFCはODP>0で段階的廃止。
- 安全区分(例:A1=不燃・低毒、A2L=低燃性・低毒):施工条件や換気要件に影響。
実務では「機器が指定した冷媒以外は使わない」が原則。省エネや環境性は、機器選定(メーカー仕様)で担保します。現場側は施工品質・漏えいゼロ・適正充填で性能を引き出すのが役割です。
代表的なメーカー・ブランド(冷媒・関連機器)
- ダイキン工業(化学/空調):R32普及をリード。空調機・冷媒・施工技術資料が充実。
- AGC(フッ素化学):フッ素素材・冷媒関連の化学メーカー。
- Chemours(ケマーズ):Freonブランドなど冷媒を展開。
- Honeywell(ハネウェル):低GWP「Solstice」シリーズ等の冷媒。
- Arkema(アルケマ):Foraneブランドの冷媒を供給。
- 施工・計測ツールの例:Fieldpiece、Testo、アサダ、タスコ(ゲージ、真空計、回収機、リークディテクタ等)
購入時は「冷媒の種類」「安全区分」「接続規格」「対応圧力」「校正の有無」などを確認しましょう。
よくあるトラブルと対処
- 過充填で高圧カット
- 症状:高圧側圧力上昇、コンデンサー過熱、消費電力増。
- 対処:重量で抜き直し。熱交換器の汚れも併せて点検。
- 冷媒不足で能力低下
- 症状:吸入側圧力低下、霜付き、過熱度大。
- 対処:漏れ検索→修理→真空引き→規定量再充填。継ぎ足しはNG。
- フレアからの微漏れ
- 原因:面荒れ、偏心、オーバートルク、潤滑不足。
- 対処:再加工・ナット交換・トルク管理。面を必ず清掃。
- 水分混入による詰まり
- 症状:不安定運転、ドレン以外の霜、真空保持不良。
- 対処:長時間真空、フィルタドライヤ交換(機器構成による)。
簡易図解:冷媒が「熱を運ぶ」流れ
室内機(蒸発器):液→気化で室内の熱を吸う → 配管(低温・低圧のガス) → 室外機(圧縮機):圧縮で高温・高圧に → 室外機(凝縮器):放熱して液化 → 配管(高温・高圧の液) → 膨張機構(膨張弁など)で減圧 → 室内機へ。これを繰り返します。
初心者がまず守るチェックリスト
- 銘板の「冷媒種類・規定量」を写真で記録。
- シリンダーは種類別に分け、バルブ色やラベルで再確認。
- 窒素加圧→石けん水→電子検知の順でしつこく漏れチェック。
- 真空は「数値で」見る(デジタル真空計)+保持試験。
- 充填は「秤」で。混合冷媒は液相、単一冷媒はメーカー指示に従う。
- 回収・廃棄は大気放出NG。回収記録を残す。
- A2L/A3は火気厳禁・換気徹底・濃度管理。静電気にも注意。
FAQ(よくある質問)
Q. 冷媒はどれでも同じですか?R32をR410Aの代わりに使えますか?
A. 使えません。機器ごとに膨張弁・圧縮機・オイル・制御が冷媒特性に合わせて設計されています。銘板で指定されたR番号以外は厳禁です。
Q. どれくらい充填すればよいですか?圧力で合わせてはダメ?
A. 基本は重量充填です。銘板の規定量+配管延長分を秤で管理します。圧力は運転状態や外気温に左右されるため、充填量の決定には不適切です(メーカーの手順に従う)。
Q. 漏れた冷媒はそのまま逃がしてもいいですか?
A. いいえ。大気放出は禁止です。回収機と回収ボンベで回収し、再生・破壊など適正処理します。
Q. A2L冷媒(R32など)の現場注意点は?
A. 可燃性があります。換気、着火源管理、静電気対策、濃度上昇を避ける作業計画を徹底。ろう付け前には必ず回収・窒素パージ。漏えい時は換気優先・火気遮断です。
Q. シリンダーの色で見分けられますか?
A. 色は国やメーカーで統一されていない場合があります。必ずラベルとR番号で確認しましょう。
用語ミニ辞典
- R番号:ASHRAE方式の冷媒識別番号。種類・組成を示す。
- A1/A2L/A3:安全等級。A=低毒性、数字は燃性(1=不燃、2L=低燃性、3=高い可燃性)。
- 過熱度(SH):蒸発器出口のガス温度と飽和温度の差。冷媒不足の判断材料のひとつ。
- 過冷却度(SC):凝縮器出口の液温度と飽和温度の差。過充填や熱交換状態の判断材料。
- POE/PAGオイル:潤滑油の種類。冷媒との適合が重要。混用禁止。
まとめ:現場で迷わないための核心ポイント
冷媒ガスは「熱を運ぶ血液」。機器が指定したR番号を、漏れゼロ・適正量・安全第一で扱うことが、性能・省エネ・環境配慮のすべてにつながります。今日からは、銘板確認→気密・真空の数値管理→重量充填→記録保存の4点を確実に。法令やメーカー手順を守り、チーム全員でヒューマンエラーをなくしていきましょう。もし判断に迷ったら、独断で進めずに仕様書・技術資料・有資格者に必ず確認。これが“冷媒ガス”を扱うプロの基本姿勢です。









