内装現場でよく聞く「真空ポンプ」徹底ガイド:意味・使い方・選び方まで
エアコンの据付やガラスの搬入で、職長や先輩が「真空ポンプ回しといて」「今日はしっかり真空引きね」と言っているのを聞いたことはありませんか?初めてだと、なんとなく重要そうだけど具体的に何をする道具なのか、どの工程に関係するのかが分かりにくいですよね。この記事では、建設内装の現場で日常的に使われる現場ワード「真空ポンプ」を、やさしい言葉で、でも実務に直結する具体性をもって解説します。読み終わる頃には、言い回しの意味から手順、選び方、注意点まで、現場で自信を持って動ける知識が身に付きます。
現場ワード(真空ポンプ)
| 読み仮名 | しんくうぽんぷ |
|---|---|
| 英語表記 | vacuum pump |
定義
真空ポンプとは、配管やタンクなど密閉された空間から空気(や水分を含む気体)を吸い出して、内部を減圧=真空に近い状態へ持っていくための機械です。建設内装の文脈では、特に空調(エアコン)配管内の「真空引き」に用いる油回転式の電動ポンプを指すことが多く、冷媒配管内の空気・水分・不活性でないガスを取り除き、冷凍サイクルを適正に機能させるために必須の工具です。また、大板ガラスや石材の搬入で使う「真空リフター(吸盤)」の心臓部として使われる小型ポンプを指す場合もあります。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下のような言い回しや関連語で使われます。
- 真空引き:真空ポンプで配管内を減圧する作業のこと
- ベバ(略称はあまり一般的ではないので、基本は「ポンプ」「真空ポンプ」でOK)
- オイル式(オイルロータリー)/二段式:真空ポンプの方式・段数
- ミクロン:真空度の単位(1 Torrの1/1000)。深い真空の指標
- ポンプダウン:屋外機内に冷媒を回収する別作業。真空引きとは別物(混同注意)
使用例(3つ)
現場でよく交わされる会話の例です。
- 「配管ろう付け終わった? じゃあ真空ポンプ回しといて、500ミクロンまで落として保持ね。」
- 「今日は湿気多いから、油替えて二回引こう。デジタル真空ゲージで確認して。」
- 「ガラス搬入は電動の真空リフター使うよ。ポンプの負圧警報鳴ったらすぐ退避して。」
使う場面・工程
内装現場で真空ポンプが活躍する主な場面は次のとおりです。
- ルームエアコンやパッケージエアコンの新設・更新:冷媒配管の真空引き工程(耐圧試験→真空引き→保持確認→冷媒開放の流れ)
- 冷媒漏えい修理後の再立上げ:配管内に混入した空気・水分を除去して性能と信頼性を回復
- 真空リフターを用いた大板ガラス・石材・内装パネルの搬入・据付:吸着力を維持するための負圧源として
関連語
真空ポンプとセットで覚えておくと作業がスムーズです。
- マニホールドゲージ(デジタルマニホールド):配管の圧力計測・バルブ操作ツール
- デジタル真空ゲージ(真空計):真空度(ミクロン)を正確に測る専用計器
- コア抜きツール:サービスバルブのコア(シュレーダバルブ)を外し、真空引きを高速化
- 真空ポンプオイル:専用オイル。劣化すると到達真空度が悪化
- 窒素耐圧試験・窒素ブロー:漏れ確認と乾燥のための作業
真空ポンプの仕組みと主な種類
油回転式(ロータリーベーン)
現場で最も一般的。回転するベーンがシリンダ内の気体を体積変化で圧縮・排気します。内部をシール・潤滑する専用オイルが不可欠で、到達真空度が深く、価格・メンテナンス性のバランスが良いのが特徴です。1段式より2段式の方がより深い真空を短時間で得やすく、住宅〜小規模店舗の空調工事では2〜5 CFMクラスの2段式が定番です。
ドライ式(オイルレス)
オイルを使わない方式。クリーンでオイルミストが出にくい反面、同クラス比較で到達真空度や排気速度が劣ることがあり、HVACの深い真空引きでは油回転式が選ばれることが多いです。産業用やクリーンルーム内の仮設吸引など用途限定で使われます。
真空リフター用ポンプ
ガラスや石材の吸着搬送に使うポンプは、一定の負圧を保ち、漏れを補う能力が重要です。電動式のほか、手動ポンプ内蔵の吸盤(ハンドバキューム)もあり、内装では現場の規模や搬送重量に応じて使い分けます。荷重に対する安全率(WLL)や警報機能の有無を必ず確認します。
真空引き(HVAC)の基本手順
以下は一般的な流れの一例です。施工仕様やメーカー指示がある場合はそれを最優先してください。
- 1. ろう付け・配管接続完了後、窒素で耐圧試験・漏れ確認(規定圧・時間を遵守)
- 2. マニホールドと真空ポンプ、配管を接続(リークを減らすため短く太いホース推奨。可能ならコア抜きツール使用)
- 3. 真空ポンプを起動し、所定の真空度まで減圧(目安:500ミクロン以下。湿気が多い、配管が長い場合はより深く・長め)
- 4. バルブを閉めて保持試験(一定時間で真空度が戻らないか確認。戻るなら漏れ・水分残留を疑う)
- 5. 問題がなければ冷媒バルブを開放し、運転試験へ
重要なポイントは「真空度はミクロン計で確認する」こと。マニホールドの圧力計だけでは深い真空域の差が分かりづらく、判断を誤りがちです。デジタル真空ゲージを配管側に取り付けて測定しましょう。
選び方のポイント(内装・空調工事向け)
必要な排気速度(CFM)
配管容量に見合った能力が必要です。住宅〜小規模店舗のルームエアコンなら2〜5 CFM(約57〜142 L/min)クラスが扱いやすく、台数や配管長が多い場合は6 CFM以上を検討。能力が高いほど時間短縮に有利ですが、重量・価格も増します。
到達真空度と段数
深い真空が短時間で得やすい2段式が主流。メーカーが提示する到達真空度(例:15ミクロンなど)と実際の現場条件は差が出るため、余裕のあるモデルを選ぶと安心です。
ポンプオイル管理
オイルの状態は真空性能に直結します。透明〜薄い琥珀色が理想で、乳化・黒色化・臭いが強いなどは即交換。現場では「真空引き前に一度交換」「湿気が多い日は作業途中で交換」くらいの意識だとトラブルを減らせます。
逆流防止・バルブ
停止時にオイルが配管へ逆流しない構造(逆止弁)や、バルブ付きのモデルは扱いが楽。停止手順を誤っても配管を汚しにくい利点があります。
電源・重量・携行性
100V現場電源対応か、延長コード使用時の電圧降下対策、持ち運びやすい重量かをチェック。屋内仕上げ現場では騒音・振動も気にされるため、静音性に配慮したモデルが好まれます。
真空ポンプの実践テク(時短と品質確保)
ホースは太く短く、箇所は少なく
内径の太い真空ホースを短く使い、継手を減らすと流量が上がりリークポイントも減ります。マニホールドを介さず直結できるセットアップも有効です。
コア抜きでスピードアップ
サービスバルブのコアを外すと通路が広がり、引き時間が大幅短縮。専用ツールで安全に実施し、作業後は確実に復旧します。
窒素ブローで水分追い出し
配管内に水分が残ると真空度が安定せず、コンプレッサー故障の原因にも。真空引きの前後で低圧の窒素を軽く流して水分・不活性ガスを追い出すと安定します。
保持試験は焦らず
500ミクロン到達後も、バルブを閉じて一定時間(例:10〜15分)保持して変化を確認。上昇が止まればOK、じわじわ上がるならリーク・水分残りを疑い、原因を切り分けます。
安全と法令・マナー
真空ポンプ自体は特別な資格を要しませんが、冷媒の取り扱いには各種法令・ルールがあります。日本国内ではフロン排出抑制法等に基づき、冷媒の回収・充填は適切な手続き・資格に従う必要があります。また、以下の安全対策を守りましょう。
- 換気:オイルミスト・臭気がこもらないよう換気の良い場所で運転
- 火気厳禁:オイルや可燃物から離す
- 電源管理:延長コードの発熱・トリップに注意。ケーブル養生で躓き防止
- 停止手順:配管側バルブを閉じてからポンプ停止(逆流防止)
- 真空リフター:定格荷重・安全率・警報装置の動作確認、持ち替え時は人を吊下荷重下に入れない
代表的なメーカー(例)
以下は内装・空調現場で流通の多い真空ポンプ/関連機器メーカー例です。採用時は最新カタログや正規代理店情報で仕様を確認してください。
- TASCO(タスコジャパン):空調工具の国内定番ブランド。現場向け2段式ポンプや真空計が充実。
- アサダ(Asada):配管・空調工具の老舗。堅牢でメンテ性の良いHVAC用ポンプを展開。
- Robinair(ロビネア):米国ブランド。自動車空調からHVACまでサービス機器を幅広く扱う。
- Yellow Jacket(リッチーエンジニアリング):米国発。マニホールドや真空関連計測で定評。
- ULVAC(アルバック):産業用真空技術の大手。内装直結用途は限定的だが真空機器の基盤技術で著名。
- CPS Products(CPS):HVAC/R向けの計測・ポンプ・ツールをグローバルに展開。
よくある失敗と対策
真空が落ちない(時間がかかりすぎる)
原因はリーク、ホース径・長さ、コア未抜き、オイル劣化、ポンプ能力不足など。まずオイル交換とコア抜き、配管側での真空計測を試し、それでもダメならリーク探索へ。
保持試験で真空度が戻る
戻りが早いほど漏れの可能性高。継手増し締め、フレア面確認、ろう付け箇所の点検、窒素加圧で泡検知などで切り分け。ゆっくり戻る場合は水分残りを疑い、窒素パージや引き直しを検討。
オイル逆流で配管を汚した
停止手順の誤りが典型。配管側を閉じてから停止、逆止弁付きモデルの採用、停止直後のホース外し禁止を徹底。
真空リフターの吸着が不安定
パッドの汚れ・損傷、被搬送面の粗さ・凹凸、シール不足、漏れ、過小能力など。事前点検と荷重に対する十分な安全率、代替搬送手段の準備が必須。
メンテナンス(長く性能を保つコツ)
- オイル管理:作業前点検と汚れ・乳化時の即交換。メーカー指定の真空ポンプオイルを使用
- フィルタ・ミストセパレータ:装着可能な機種は活用し、環境とポンプ内部を保護
- シール・パッキン:オイル滲みや負圧保持の悪化時は早めに交換
- 保管:吸気ポートをキャップで封止し、直射日光・粉じん・湿気を避ける
- 年次点検:ブラシ(ブラシモーター機の場合)・ベルト・ベアリングの消耗確認
現場で役立つチェックリスト
- 今日の配管長・容量に対してポンプ能力は足りているか
- オイルはきれいか(色・臭い・粘度)
- 真空ゲージは配管側で測っているか(ポンプ口で測っていないか)
- ホースは太く短く、継手は最小か
- コア抜きしたか(復旧手順も確認)
- 500ミクロン以下に到達後、保持試験を行ったか
- 停止手順は正しく実行したか(逆流防止)
- 作業記録(ミクロン値・保持時間・オイル交換)を残したか
ミニ用語辞典(関連ワード)
- ミクロン(micron, μm Hg):真空度の単位。数値が小さいほど深い真空
- 到達真空度:ポンプが理論上到達できる最低圧力。現場値は配管条件で変動
- CFM(Cubic Feet per Minute):排気速度の単位。真空引きの速さの目安
- 二段式:圧縮段を二つ持つポンプ。深い真空へ早く到達しやすい
- 逆止弁:ポンプ停止時のオイル・空気の逆流を防ぐ弁
- 真空リフター:負圧でワークを吸着して搬送する機器
ケーススタディ:雨天続きの更新工事での対応
梅雨時の店舗空調更新。配管総延長が長く、湿気の混入が懸念されました。そこで、事前に窒素ブローを実施し、2段式5 CFMクラスのポンプで真空引き。400ミクロン付近から数値が安定せず保持試験で上昇が見られたため、オイルを新油に交換し、コア抜きツールを追加。再度350ミクロンまで下げ、15分保持で上昇なしを確認して開放。記録を残し、引渡し後の不具合を防止できました。このように「オイル」「コア抜き」「保持試験」の三点を押さえると、湿気の多い季節でも安定します。
Q&A(初心者の疑問に答えます)
Q1. どのくらいの時間、真空ポンプを回せばいい?
A. 配管容量・湿気・気温で変わります。時間ではなく「真空度(ミクロン)で判断」が基本。目安として500ミクロン以下に到達し、10〜15分保持して上昇がないことを確認してください。メーカーが指定する基準があればそれに従いましょう。
Q2. マニホールドのゲージだけじゃダメ?
A. 針式ゲージは深い真空域の変化が読み取りづらく、到達判断を誤る恐れがあります。配管側にデジタル真空ゲージを付けて数値で確認するのが確実です。
Q3. オイルはどれを入れてもいい?
A. いいえ。必ず真空ポンプ専用オイルを使用します。自動車用やコンプレッサオイルなどは粘度・蒸気圧が合わず、性能低下や故障の原因になります。
Q4. 真空リフターは万能?ザラザラ面でも吸える?
A. 表面状態が粗い・多孔質だと負圧が保てず危険です。メーカーが定める適用面・定格荷重・安全率を守り、試験吸着を行って問題ない場合のみ使用します。
まとめ:真空ポンプは「速さ」より「確かさ」
真空ポンプは、内装現場で空調の性能と信頼性、安全な搬入を支える縁の下の力持ちです。言い回しや段取りが分かれば難しい道具ではありません。太く短いホース、コア抜き、デジタル真空ゲージ、オイル管理、保持試験。この基本を守るだけで、仕上がりの差は歴然です。今日から「とりあえず回す」から「数値で確認して仕上げる」へ。小さな手間が、後戻りのない確かな施工につながります。









