レンジフードを完全ガイド:現場ワードの意味・種類・施工の勘所
「レンジフードって換気扇と何が違うの?」「スリム型とブーツ型、どっちを選べばいい?」——そんな疑問を持つ方に向けて、現場で実際に施工・管理してきた視点から、基本の意味から選び方、設置のポイント、トラブル対策までをわかりやすく整理しました。建設内装の現場で職人たちが使う言い回しや注意点も交えて解説するので、初めての方でも安心して読み進められます。
現場ワード(レンジフード)
| 読み仮名 | れんじふーど |
|---|---|
| 英語表記 | range hood(kitchen hood / exhaust hood) |
定義
レンジフードとは、コンロやIHの上部に取り付け、調理中に発生する煙・湯気・油ミスト・ニオイを「捕集して排気」するための設備機器です。本体(フード)と内部のファン、オイル受けやフィルター、ダクトと屋外側のベントキャップ、電源・スイッチ類などで構成されます。現場では「フード」「スリムフード」「換気扇(レンジフードの意味で)」と呼ばれることもあります。
レンジフードの種類と構造
設置形状の主流タイプ
現場でよく使われる設置形状は次の通りです。間取りやキッチンレイアウト、ダクトルートで選択が変わります。
- 壁付け・横壁付け(スリム型/フラット型):薄型で清掃しやすく、現在の主流。幕板(カバー)で天井まで立ち上げて意匠を整えることが多い。
- ブーツ型・深型:捕集面積が広く、油煙捕集に強い。ボリューム感は出るが、掃除はやや手間。
- アイランド・ペニンシュラ用(天吊り):対面キッチン向け。四方からの煙をカバーするため、本体幅や風量を余裕ある仕様にするのがコツ。
- 梁欠き対応・薄型特殊納まり:梁や下がり天井を避けるための専用品や部材を活用。
ファンの種類
内部の送風機(ファン)は、吸い込みの性格やダクト条件に影響します。
- シロッコファン:羽根が多数で静圧に強く、ダクト排気に向く。現在の一般的な主流。
- ターボ(後向き羽根などの遠心ファン):シロッコと同系統。風量・静圧のバランスで採用。
- プロペラファン:壁に直接抜く旧来のタイプ。ダクトが短い場合に使われるが、最近の住宅では採用は少なめ。
排気方式・給気方式
- ダクト排気:屋外へ排気する一般的方式。ダクト径はφ150が主流(集合住宅などでφ100~φ120の場合もあり)。
- 再循環(循環式):活性炭フィルターで脱臭して室内に戻す方式。ダクトが引けない現場や賃貸で採用。ニオイは軽減するが、水蒸気は室内に戻るため除湿や窓開けが必要。
- 同時給排タイプ:排気と同時に給気も行い、負圧を抑える仕様。気密が高い住宅や高風量機で有効。
現場での使い方
レンジフードという現場ワードの「言い回し・別称」「使用例」「使う場面・工程」「関連語」をまとめました。
言い回し・別称
- フード、スリムフード、ブーツ
- キッチンフード、換気扇(コンロ上の意味で)
- 幕板(まくいた/カバー部分)、ダクトカバー
使用例(3つ)
- 「レンジフードは75幅(750mm)で、ダクトは上抜きφ150、右振りで拾っといて。」
- 「スリムフードだから設置高さはメーカー指示の範囲で650に合わせますね。」
- 「梁が干渉するのでエルボを二発、静圧落ちる分、機種は風量大きめに変更しましょう。」
使う場面・工程
- 現調・採寸:間口、天井高さ、梁・下がり壁の位置、既存ダクト径・方向、屋外ベント位置を確認。
- プラン・機種選定:幅(60/75/90cm)、形状(スリム/ブーツ/アイランド)、排気方式(ダクト/循環)を確定。
- 下地・墨出し:ビス位置、補強下地、壁の芯通り、ダクト開口位置を出す。
- ダクト配管:曲がり(エルボ)の数を最小化、勾配・結露対策、気密・防火処理。
- 本体取付・電源接続:アース確保、機能試験、動作・逆流チェック。
関連語
- ベントキャップ(屋外側の排気口部材)、スパイラルダクト、フレキダクト、エルボ
- 幕板、横幕板、上幕板、前幕板、梁欠き
- 風量、静圧、騒音、常時換気、同時給気
- IH・ガスコンロ、火気周りの離隔、アース、専用回路
採寸と納まりの基本(ここを外すと失敗しやすい)
幅(間口)とレイアウト
一般的な幅は600mm・750mm・900mm。コンロの幅に合わせるのが基本ですが、アイランドや壁面に余白がある場合は幅を広げて捕集性を高める選び方も有効です。壁付けならサイドの壁際クリアランスも確認し、扉や吊戸の干渉を避けます。
設置高さ(コンロ天板からフード下端まで)
高さは必ずメーカーの施工説明書に従います。目安としてはおおむね600~750mmの範囲で設定されます(機種・加熱機器の種類により指定値が異なります)。高すぎると捕集が弱く、低すぎると作業性や安全性に影響します。ガスかIHかで指定が変わる点にも注意します。
ダクト径・ルート
戸建ての新設ではφ150が主流。集合住宅や躯体条件によりφ100~φ120のこともあります。エルボ(曲がり)の数が多いと抵抗が増えて吸いが弱くなるため、できるだけ直線的に、長さも短めに計画します。途中で径を絞る場合は静圧・騒音の増加に注意が必要です。
屋外側の納まり
ベントキャップは風雨の逆流を防ぐ形状を選び、外壁の仕上げ・防水シートとの取り合いを確実に。横出しの場合は外壁の見切り位置、上出しの場合は屋根貫通の防水ディテールが重要になります。既存リフォームでは既設位置の再利用が合理的です。
電源・制御
多くは単相100Vで動作し、アースが必要です。機種によってはコンロ連動(レンジフードが自動起動)の配線が用意される場合があります。電源位置は本体内に隠れる位置へ計画し、点検・交換のアクセスも確保しましょう。
施工の流れ(リフォーム想定)
- 既存撤去:ブレーカーを落とす→本体・幕板を外す→ダクト・電源を分離→開口周辺を養生。
- 下地確認・補強:石膏ボードの裏に構造下地があるかを確認し、必要に応じて合板などで増し張り。
- 墨出し:本体位置、固定ビス位置、ダクトセンター、コンセント位置を明確に。
- ダクト作業:必要な長さにカットし、エルボは最小限、ジョイントは気密テープ+バンドで確実に。
- 本体吊り込み:水平器で水平を出し、メーカー指定トルクで固定。ガタつきがないか確認。
- 電源・連動配線:絶縁処理、アース接続。余長は束ねて干渉しないように。
- 幕板・化粧部材の取付:天井との取り合いを納め、シーリングは最小限かつ美観優先。
- 試運転・確認:吸い込み、逆流音、ダクト漏れ、振動、照明、強弱切替、常時換気をチェック。
選び方チェックリスト(失敗しないポイント)
- 幅・形状の適合:60/75/90cm、壁付け/天吊り、梁干渉の有無。
- 風量と静圧:ダクトが長い・曲がりが多い場合は、静圧性能に余裕のある機種を選定。
- 騒音:カタログの騒音値(例:dB)を比較。弱運転で常時換気できると快適。
- 清掃性:整流板の取り外しやすさ、オイルトレイの形状、フィルターの洗いやすさ。
- 照明・操作性:LED照明、手前操作か前面ガラス操作か、表示の視認性。
- 省エネ・連動機能:DCモーター、省電力制御、コンロ連動、タイマー、常時換気モード。
- 排気/循環:ダクト可否、気密・換気計画との兼ね合い、同時給気の要否。
- 色・質感:ステンレス、シルバー、ブラックなど。キッチン扉と一体感を持たせると仕上がり良好。
よくあるトラブルと対策
- 吸いが弱い:フィルターや整流板の目詰まり、ダクトの潰れ・逆勾配、エルボ過多、屋外キャップのシャッター固着を点検。改善しなければ高静圧タイプへ更新を検討。
- 騒音が大きい:ダクトの共鳴・干渉、固定不足、余長ケーブルの干渉が原因になりがち。固定と配線処理を見直し。
- 油だれ・滴下:オイルトレイの満杯、ガス調理の油跳ね、整流板の汚れ。定期清掃と受け皿の点検をルーティン化。
- 結露・水滴:寒い時期の長いダクトで発生。外周断熱や屋内側での結露対策(保温材巻き)を行う。
- 臭い戻り・逆流:外風が強い地域や高層階で発生しやすい。逆流防止ダンパーや風圧対応ベントキャップを検討。
メンテナンスと清掃のコツ
- 日常:整流板の表面を中性洗剤と柔らかい布で拭く。調理後の軽拭きで汚れを蓄積させない。
- 月1目安:フィルター・オイルトレイを取り外し、ぬるま湯+中性洗剤でつけ置き。研磨剤や金属たわしは塗装面を傷つけるため避ける。
- 半年~年1回:ファン周りの点検。自己分解が難しい場合や保証期間内は、取扱説明書に従い過度な分解は避ける。
- 安全:必ず電源OFF。脚立作業は転倒防止、取外し部材の落下養生を徹底。
代表的なメーカー(五十音順・概要)
- クリナップ:キッチン専業の大手。システムキッチンと合わせたフードの品揃えが豊富。
- タカラスタンダード:ホーロー素材に強み。掃除しやすい面材のレンジフードをラインアップ。
- パナソニック:住設・家電の総合メーカー。省エネ性や連動機能に配慮した機種を展開。
- 富士工業(FUJIOH):レンジフードの専業メーカーとして国内有数。幅広い住宅用フードを供給。
- 三菱電機:換気・送風機器に強み。換気扇分野の技術を活かした製品を提供。
- リンナイ:ガス機器大手。コンロ連動機能など、キッチン全体の使い勝手を考慮したフードを展開。
- ノーリツ:給湯器で有名。住設機器としてレンジフードも取り扱い、キッチン機器との連携がしやすい。
メーカーごとに名称や型番ルール、取り付けビスピッチ、幕板の構成が異なります。更新時は同一メーカー・同シリーズでのリプレースが工期短縮の近道です。
型番表示の見方と発注のコツ
型番の構成はメーカーで異なりますが、多くの場合、以下の情報が含まれます。
- 本体幅(60/75/90など)
- 色(SV=シルバー、BK=ブラックなどの略称が使われることが多い)
- 排気方向(上/後)、ダクト径情報
- 形状(スリム/ブーツ)や整流板の有無
- 付加機能(コンロ連動、常時換気、LED照明 等)
発注時は「幅・色・排気方向・ダクト径・幕板の高さ(天井までの寸法)」をセットで伝えるとミスが減ります。リフォームで天井高がバラつく現場は、可変幕板や上部化粧カバーの寸法設定に注意しましょう。
安全と法規的な注意ポイント
- 施工説明書優先:設置高さ、壁からの離隔、可燃材取り合いは機種ごとの指定値に厳密に従う。
- 防火・区画貫通:準耐火などの区画を貫通する場合は、規定に沿った処理部材で防火性能を確保。
- 給気バランス:高気密住宅や高風量機では給気不足に注意。必要に応じて給気口や同時給気タイプを検討。
- 電気安全:アース必須。水回り近接のため、絶縁・防滴に配慮し、必要に応じて専用回路。
- 屋外納まり:雨仕舞と防虫対策。強風地域・高層では逆流防止の配慮。
初心者がつまずきやすいQ&A
Q. 換気扇とレンジフードは同じ?
広い意味では同じ換気設備ですが、レンジフードは調理用に特化し、フード形状で煙を「捕まえてから」排気する構造です。単なるプロペラ換気扇よりも捕集効率が高いのが特徴です。
Q. スリム型とブーツ型、どちらが良い?
見た目・掃除のしやすさ重視ならスリム型、油煙の捕集重視ならブーツ型(深型)に分があります。ただし最新のスリム型は整流板の工夫で捕集性が高い機種も多く、ダクト条件と風量のバランスで総合判断します。
Q. 循環式はダメ?
ダクトが引けない現場の有効な選択肢です。ニオイはフィルターで軽減できますが、水蒸気は室内に戻るため、湿気対策(換気や除湿)が必要です。フィルター交換コストや頻度も把握しましょう。
Q. どのくらいの頻度で掃除すればいい?
目安は月1回。揚げ物が多い家庭や強火調理が多い場合は頻度を上げます。中性洗剤とぬるま湯で優しく洗うのが基本です。
現場メモ(プロの勘所)
- 「曲がりはコスト」——エルボ1個は直管数メートル分の抵抗になることも。設計の段階で曲がりを減らす。
- 高さは「捕集×作業性×安全」の折衷。メーカー範囲内で、使用者の身長や作業姿勢も考慮。
- 更新工事は「既存ダクト位置に合わせる」と早い。大幅変更は天井・壁補修が増えがち。
- アイランドは「風の影響」を受けやすい。幅広・風量余裕・同時給気の検討が有効。
まとめ:レンジフードは「捕集」「排気」「お手入れ」で選ぶ
レンジフードは、形状・風量・ダクト条件・掃除のしやすさのバランスが命です。現場ワードとしては「フード」「スリム」「ブーツ」「幕板」「ベントキャップ」などがよく飛び交いますが、要点は変わりません。捕集性能の確保、抵抗の少ないダクト計画、設置高さの最適化、そして日々のメンテナンス。この4点を押さえれば、見た目も使い勝手も満足度の高いキッチンになります。迷ったら、コンロ幅とダクト条件を基準に、メーカーの施工説明書に沿って選択・施工するのが最短ルート。この記事が、あなたの疑問解消と快適なキッチンづくりの一助になれば幸いです。









