ZEB設備の基礎知識:現場で通じる意味と省エネ技術・導入ポイント
「ZEB設備って、結局なにを指しているの?」そんな疑問を持つ初学者の方へ。現場では当たり前に飛び交う言葉ほど、最初はつまずきやすいものです。本記事では、内装・設備の施工現場で使われる現場ワード「ZEB設備」を、定義から実際の使い方、関係する工程、注意点まで丁寧に解説します。読み終えるころには、図面打合せや現場調整でも臆せず会話に入れる状態を目指します。
現場ワード(ZEB設備)
| 読み仮名 | ゼブせつび |
|---|---|
| 英語表記 | ZEB systems / Net Zero Energy Building systems |
定義
「ZEB設備」とは、建物の年間一次エネルギー収支を実質ゼロに近づける(またはゼロ以下にする)ために採用される設備・機器・制御群の総称です。高断熱の外皮や遮熱部材といった建築要素に加え、空調・換気・照明・給湯・発電(太陽光など)・蓄電・エネルギー管理(BEMS/BA)・各種センサーや自動制御までを含む、建物の省エネと創エネを担う仕組み一式を指します。現場では「ZEB仕様の設備」「ZEB対応設備」と言い換えられることも多く、単一の機器ではなく“省エネと制御の仕組み全体”を示す言葉として使われます。
ZEB設備の全体像と基本思想
ZEB(Net Zero Energy Building)は「省エネ(使う量を減らす)」と「創エネ(作る)」をバランスさせ、建物の年間一次エネルギー消費を実質ゼロに近づける設計思想です。設備面では次の順序が基本です。
- 負荷削減:高断熱・高気密・日射遮蔽・昼光利用・高反射仕上げなどで冷暖房・照明負荷を下げる
- 高効率化:空調・換気・照明・給湯を高効率機器に置き換え、無駄なロスを徹底削減
- 賢い制御:センサーとBEMS/BAで需要に合わせて最小限で運転(スケジュール制御・在室連動・需給最適化)
- 創エネ・蓄エネ:太陽光発電(PV)や蓄電池で自家消費・ピークカット・BCPにも寄与
これらを一体として設計・施工・調整・運用までつなげるのが「ZEB設備」です。現場では「躯体・内装」と「電気・機械」の境界をまたぐ調整が増え、施工図の整合や機器設定の初期調整(コミッショニング)が重要になります。
ZEB設備の主な構成と現場でのポイント
1. 外皮・日射遮蔽・昼光利用(建築要素)
高性能サッシ、Low-E複層ガラス、高断熱壁・天井、外付けブラインド、ルーバー、ライトシェルフなど。内装工事の観点では、室内側の仕上げ反射率(天井・壁の明度)やブラインド/カーテンボックスの納まり、窓回りの気密処理が照明・空調負荷に直結します。
- ポイント:昼光センサー連動の調光に合わせ、天井面は中〜高反射の仕上げを選ぶと効果が出やすい
- 注意点:窓まわりの気流・結露対策、遮蔽デバイスの操作性、清掃・保守アクセスを確保
2. 高効率空調・換気
高効率VRF(マルチエアコン)、高性能チラー・AHU、全熱交換器(ERV/HRV)、CO2センサー連動の換気制御など。ダクトの気密、吹出・吸込位置、天井内のスペース取りが肝になります。
- ポイント:換気の可変制御(CO2/在室連動)に合わせ、検出位置とセンサー保守性を確保
- 注意点:天井懐にデバイスが密集するため、点検口の位置・サイズを施工図で早期確定
3. 高効率照明と制御
高効率LED、エリア別の調光・消灯、在室・人感・昼光センサー、スケジュール制御が基本。ZEBでは「明るさを必要な分だけ使う」ことが重要で、センサーの配置・向き・台数と配線系統割が成果を左右します。
- ポイント:机上面照度と不快グレアの両立。センサーは天井設備や梁で遮られない位置に。
- 注意点:会議室のAV・プレゼンモードなどシーン制御の事前ヒアリングを実施
4. エネルギー管理(BEMS/BA)
メーター(電力・ガス・熱・水)、ゲートウェイ、各機器コントローラ、監視サーバ、ダッシュボード等で構成。計測点の抜けや配線のミスは運用の見える化に直結するため、配線ラベリングとI/O一覧の突き合わせが重要です。国内ではアズビル、シュナイダーエレクトリック、シーメンス、オムロン等のソリューションが普及しています。
- ポイント:用途別・系統別サブメータリングを早期に設計反映、M&V(計測検証)まで見据える
- 注意点:ネットワーク系統(OT/IT)の切分けとセキュリティ、停電・再起動時の復旧手順
5. 創エネ・蓄エネ
屋上・外壁の太陽光発電(PV)、BIPV、蓄電池、系統連系・自家消費制御など。パネルの配置は荷重・防水・避難経路・反射グレアの配慮が必要です。国内ではシャープ、パナソニック、京セラなどが代表的なメーカーとして知られています。
- ポイント:自家消費最大化のための時間帯制御とBEMS連携
- 注意点:避雷・接地・高所安全、保守動線、防水貫通部の確実な処理
6. 給湯・その他設備
ヒートポンプ給湯、回生エレベーター、コンセント制御、デマンドレスポンスなど。細部の積み上げが一次エネルギーの改善に効いてきます。空調メーカーとしてはダイキン、三菱電機、日立、東芝キャリア等が広く用いられます。照明はパナソニック、コイズミ、岩崎電気などが代表的です。
現場での使い方
「ZEB設備」という言葉が現場でどう使われるかを、言い回し・別称、使用例、使う場面、関連語の順で整理します。
言い回し・別称
- ZEB仕様の設備/ZEB対応設備/ZEBパッケージ
- ZEB Ready仕様(段階を示すとき)
- ZEB制御(照明・空調の自動制御を指して)
使用例(3つ)
- 「この会議室はZEB設備の在室センサー連動だから、スイッチは最小で。シーンはBASから呼ぶ前提です。」
- 「ZEB仕様に合わせてダクトの気密等級を上げる。点検口を増やして熱交換器のフィルタ清掃の動線も確保しよう。」
- 「ZEB Ready狙いだから、昼光センサーと調光系統を細かく割る。机配置の変更にも追従できるように天井レイアウトを修正。」
使う場面・工程
- 基本設計・実施設計の方針決定時(省エネ目標・ZEB段階の合意)
- 施工図・BIM調整(センサー位置、配線ルート、点検口、天井内クリアランス)
- 配線・配管の先行手当(系統割・回路番号・I/O割付)
- 試運転・調整(センサーキャリブレーション、スケジュール設定、ゾーンチューニング)
- 引渡し前の計測検証(M&V)と運用教育(ユーザーへの説明)
関連語
- ZEB/Nearly ZEB/ZEB Ready/ZEB Oriented(達成段階の区分)
- BEMS/BA(Building Energy Management System/Building Automation)
- BEI(一次エネルギー消費量基準比)、デマンド、ピークカット、需要応答(DR)
- 全熱交換器、在室センサー、昼光センサー、可変風量(VAV)
ZEBの段階区分と目安
日本のZEBロードマップでは、一般に以下の段階が用いられます。数値の扱いは制度の改定があり得るため、最新の公的資料で確認してください。
- ZEB:年間の一次エネルギー収支が正味ゼロまたはマイナス(創エネが上回る)
- Nearly ZEB:大幅削減+創エネで“ほぼゼロ”の水準
- ZEB Ready:省エネ設計・設備のみで大幅削減(一般に約半減が目安とされる)
- ZEB Oriented:大規模建物等で基準から大きく削減(制度上の要件は建物用途・規模で異なる)
現場では「今回はZEB Ready狙い」「Oriented要件のメーター構成で」といった会話が発生します。段階により必要な計測点や制御機能、施工精度の要求も変わります。
内装工事目線での要点:“仕上げが効率を作る”
ZEB設備は設備機器だけでは成立しません。内装の仕上げ・納まりが省エネ性能に大きく影響します。
- 反射率設計:天井・上部壁の明度を上げると、昼光・人工照明の有効利用で照度確保が楽に。照明器具の台数や出力を抑えられる可能性があります。
- 気密と隙間:ボックス開口、配線・配管の貫通部は気密処理を徹底。小さな隙間が換気・空調負荷を押し上げます。
- 点検性:全熱交換器、センサー、ダンパ、ゲートウェイ等、点検口の位置・サイズ・数量を初期に確定。後付けはコストと手戻りの元。
- グレアと映り込み:高効率照明は指向性が強い製品も。会議室のモニタ位置や机の面材に合わせて器具配列を決めると快適性が上がります。
- 遮音と換気:会議室の遮音を高めると換気経路がシビアに。サウンドロックと気密の両立が必要です。
電気・機械設備との取り合いチェックリスト
- センサー位置:在室、人感、昼光、CO2の検出範囲と遮蔽物の有無を施工図で確認
- 系統割:照明調光回路、空調ゾーニング、BEMSのI/O割付、機器アドレス計画を一覧化
- ネットワーク:OTネットワークのセグメント、スイッチ位置、配線経路、冗長・停電時の復旧手順
- 点検口:サイズ(300角〜)、位置、数。フィルタ交換・メンテ工具の取り回しを現尺で確認
- 騒音・振動:室内機・ダクト・ファンの防振と遮音。会議室・スタジオは特に要注意
- 避難・法規:誘導灯、感知器、防火区画の貫通処理、内装制限、耐火被覆の連続性
- 温湿度の均一性:吹出方向と居住域、ドラフト感の評価。什器・間仕切り変更の影響も想定
コミッショニング(試運転・調整)の勘所
ZEB設備は「据え付けたら終わり」ではありません。設定値・スケジュール・センサ校正・現在地の運用に合った最適化が不可欠です。
- 初期設定:稼働時間帯、祝日カレンダー、在室判定のしきい値、照度ターゲット
- 実測確認:机上面照度、CO2濃度、室温分布、消費電力量を実測し、BEMS値と突合
- 微調整:照明のシーン記憶、空調のPID調整、換気の段階制御、会議室のAV連携
- 運用説明:テナント・管理者への操作説明、管理画面の見方、節電のコツ
導入メリットと注意点
メリット
- ランニングコスト削減(光熱費の継続的低減)
- 快適性・生産性の向上(温熱環境・照度の安定、CO2制御による空気質改善)
- 環境価値の向上(省エネ法対応、カーボンニュートラル施策への寄与)
- BCP強化(太陽光・蓄電で停電時の最低限負荷を確保可能な計画も)
注意点
- 初期コスト:機器・制御・計測点の増加でイニシャルは上がりやすい
- 設計・施工・運用の一気通貫:部署や業種をまたぐ連携が必須。責任分担と情報共有が鍵
- 運用依存:設定が不適切だと期待効果が出ない。引渡し後のチューニングが重要
- 改修・レイアウト変更の影響:センサー・ゾーニングの再調整コストを見込む
ZEB設備と制度・評価の基礎知識
国内では、設計時の省エネ評価や第三者認証(例:BELS、ZEB関連の各種評価制度)が流通しています。設計段階で目標値(基準比、BEIや一次エネルギー削減率)を共有し、竣工後に実測データで検証する運用が望まれます。補助制度は年度により要件・申請スケジュールが変わるため、計画初期に最新情報を確認しましょう。
ケースで学ぶZEB設備の納まりと運用
オフィスフロア
昼光が入りやすい窓際は照明をゾーン分けして自動調光。中央ゾーンは人感・在室連動で消灯。CO2センサーで会議室の換気を可変運転し、AVシステムと連携してプレゼンモード時は照度を下げグレアを抑制。空調はゾーン別の温調で執務エリアの快適性を確保。
学校・教育施設
授業時間に合わせたスケジュール制御と在室センサーを併用。昼光利用が大きい教室は、黒板面の反射とプロジェクター使用時の照度を両立する器具配置がポイント。放課後は自動消灯・換気の段階制御で無駄を削減。
医療・研究施設
空調・換気の要件が厳しいため、省エネは熱回収・差圧管理・スケジュール最適化が中心。BEMSで用途別エネルギーを見える化し、24時間運転機器の効率改善を継続的に進める。
よくある質問(FAQ)
Q1. ZEB設備は個別の機器名ですか?
A. いいえ。ZEBを達成するための設備・制御・計測の総合セットを指します。単体機器ではありません。
Q2. 既存ビルでもZEB設備は導入できますか?
A. 可能です。外皮改修の難易度は上がりますが、照明・制御・空調の高効率化やサブメータリングの追加から段階的に進める方法が一般的です。
Q3. どの段階からZEBコンサルやBEMSベンダーに相談すべき?
A. 基本計画の早期段階が理想です。計測点・配線・点検口などは後追いが難しいため、初期に枠組みを固めるほどコスト効率が上がります。
Q4. ZEB ReadyとNearly ZEBの違いは?
A. 概ね、ZEB Readyは省エネ設備・制御で大幅削減を達成する段階、Nearly ZEBはそこに創エネを加えて“ほぼゼロ”まで近づける段階です。具体的な基準値は最新の制度資料をご確認ください。
現場で役立つ実践メモ
- 図面記号の統一:センサー・ゲートウェイ・メーターの記号とラベルを電気・機械・内装で統一
- 天井内の三次元調整:BIMで干渉を事前確認。ダクト・配線・器具・点検口の高さ関係を決める
- モックアップ:会議室1室などでセンサー・照明の効き方を事前検証し、設計値を実測で微調整
- 変更に強い系統割:将来のレイアウト変更に備え、調光回路や空調ゾーンの柔軟性を確保
- 運用ハンドオーバー:引渡し時に「設定一覧」「変更手順」「連絡窓口」をドキュメント化
メーカー例(参考)
代表的なカテゴリーごとに、国内外で広く知られる企業例を挙げます(順不同・網羅ではありません)。採用は設計要件・価格・サポート体制を総合評価してください。
- 空調・換気:ダイキン、三菱電機、日立、東芝キャリア
- 照明・制御:パナソニック、コイズミ照明、岩崎電気
- BEMS/BA・計測:アズビル、オムロン、シュナイダーエレクトリック、シーメンス
- 太陽光・蓄電:シャープ、パナソニック、京セラ
各社ともZEB対応の高効率機器や制御ソリューションを展開しており、計測・制御のインターフェースやサポート窓口の体制が選定のカギになります。
まとめ:ZEB設備は“設備×内装×制御×運用”の総合力
現場ワード「ZEB設備」は、個々の高効率機器だけではなく、それらをつなぐセンサー・制御・計測、そして外皮・内装の仕上げまで含んだ“建物の省エネの仕組み全体”を指す言葉です。負荷削減→高効率化→賢い制御→創エネ・蓄エネの流れに沿って設計・施工・調整・運用を一気通貫で揃えれば、快適性と経済性を両立できます。まずは図面段階から「ZEB設備」の要件をチームで共有し、センサー位置・系統割・点検性といった“現場で効く”ポイントを押さえて進めましょう。結果として、運用開始後のチューニングもスムーズに、建物の価値を長く高めることができます。









