非常用発電機の基礎知識:内装工事の現場でよく聞く“非常発”をやさしく解説
「非常用発電機って、どこにあって何に使うの?」「内装工事の自分にも関係ある?」——そんな疑問に、建設内装の現場で実際に使われる言い回しや工程の流れも交えて、やさしく丁寧に解説します。この記事を読めば、図面の読み取りや工程打合せで迷いが少なくなり、停電試験や搬入・据付の場面でも自信を持って動けるはずです。
現場ワード(非常用発電機)
| 読み仮名 | ひじょうようはつでんき |
|---|---|
| 英語表記 | Emergency generator |
定義
非常用発電機とは、商用電源(電力会社からの受電)が停電した際に、自動で起動して建物の「命に関わる設備」や「安全確保上重要な設備」に電力を供給する自家発電設備のことです。防災センター、受変電設備、消火・排煙設備、非常照明、非常放送、非常用エレベーターなど、建物の用途・規模に応じて必要な設備へ電源をバックアップします。通常運転時は停止しており、停電を検知すると自動起動し、自動切替盤(ATS)が非常用回路に切り替えるのが基本的な動作です。
まず押さえたい基本
何のためにある?(役割)
大きな目的は「人命安全」と「被害最小化」です。停電時も避難経路を照らし、煙を排出し、火災時のポンプを回し、放送で案内できるようにする——この最低限の安全機能を維持するために非常用発電機は設置されます。建物の種類(病院、ホテル、商業施設、超高層、倉庫など)により、非常電源が求められる範囲は異なります。
常用発電機・予備電源・UPSとの違い
常用発電機は日常的に電源として使う目的のもの、予備電源は計画停電やピークカットなどで補助的に使うものを指します。非常用発電機はあくまで「停電時の安全確保」が主目的。UPS(無停電電源装置)は瞬時の電源断も許されないIT機器や制御盤向けで、非常用発電機と組み合わせて「切替時の瞬断を埋める」役割を持ちます。
現場での使い方
内装の現場でも、工程打合せや停電試験の段取り、機器搬入・防音対策など、非常用発電機は多くの関係者が関わるワードです。ここでは言い回しや使用例、関わる工程、関連語をまとめます。
言い回し・別称
- 非常発(ひじょうはつ)/自家発(じかはつ):現場での略称。例「非常発の試運転」「自家発の据付」
- 防災用自家発電設備:法令や申請書類で使われやすい正式寄りの表現
- 非常電源:発電機そのものではなく、非常回路の電源を指す広い言い方
- 発電機室:非常用発電機が設置される専用室のこと
- ATS(自動切替盤)/非常用分電盤:セットで語られる関連機器
使用例(現場での会話・指示)
- 「明日の停電試験、非常用発電機の自動起動とATSの切替タイミング、計測お願いします。」
- 「発電機室の吸気・排気ダクトが塞がらないように、内装仕上げの納まりを再確認してください。」
- 「可搬発電機は仮設用です。建物の非常電源に直結しないように、受配電盤側の手順に従ってください。」
使う場面・工程
- 計画・設計段階:容量検討、非常回路の範囲整理、消防・行政協議
- 搬入・据付:重量物搬入計画、基礎・防振、排気・燃料・冷却配管の取り合い
- 電気接続:制御盤、ATS、非常用分電盤、監視信号(防災盤・中央監視)の取り合い
- 試運転・検査:自動起動、負荷試験、アラーム信号確認、停電試験(ブラックアウト試験)
- 維持管理:月次の始動確認、年次の負荷運転、燃料・バッテリ・冷却系の点検
関連語
- ATS(自動切替盤):商用/非常の切替を自動で行う盤
- 非常用分電盤:非常回路の分岐・保護を行う盤
- 非常照明・誘導灯/排煙機/消火ポンプ/非常放送:代表的な非常負荷
- UPS(無停電電源装置):切替時の瞬断対策やIT設備の保護
- 燃料タンク(軽油・都市ガス等):連続運転時間に関わる要素
- 負荷試験器(ダミーロード):年次点検時の負荷運転に用いる
仕組みと主な構成機器
非常用発電機は、エンジンと発電機(交流発電機)、それらを統合する制御盤、そして自動切替盤(ATS)で構成されます。停電を検知すると、始動用バッテリでエンジンをスタートし、定格電圧・周波数に安定した後、ATSが非常回路へ切り替えます。復電後はATSが商用に戻し、発電機はクールダウンののち停止します。
- エンジン:ディーゼルまたはガスエンジンが主流
- 交流発電機(オルタネータ):三相交流を出力、電圧・周波数を制御
- 制御盤(AMF機能):自動始動・停止、異常監視、保護機能
- ATS(自動切替盤):商用⇔非常の切替、逆送電防止のインターロック
- 燃料系:タンク、配管、漏えい対策、日常点検用ゲージ
- 冷却系・排気系:ラジエータ、ファン、マフラ、排気ダクト
- 防音・防振:防音パネル、防振基礎、消音器
- 始動用バッテリ・充電器:始動信頼性を左右する重要部品
設置・施工のポイント(内装との取り合いが出る部分)
専用室と配置
発電機は通常、耐火性能を確保した専用室(発電機室)に設置します。内装工事では、壁・扉の耐火仕様、点検スペースの確保、床の耐荷重、防振基礎の逃げ寸法など、建築・設備・電気の取り合いを整理することが重要です。
吸気・排気・排熱
発電機は大量の空気を吸い込み、排気・排熱を出します。吸気口や排気ダクトの開口を仕上げ材で塞がないこと、騒音・雨仕舞・防火ダンパの扱いを含めて納まりを調整しましょう。設備側と納まり図で事前に確定させるのがコツです。
燃料と防火対策
ディーゼル(軽油)やガスを燃料とすることが一般的です。燃料タンクの設置・容量・防油堤、漏えい対策、給油導線の安全確保、火気厳禁の掲示などを徹底します。仕様や容量は用途や法令、設計条件により異なるため、設計者・監理者の指示に従います。
防音・振動
騒音規制や近隣配慮の観点から、防音パネルや防振ゴム、遮音のための間仕切り仕様が重要です。仕上げ材の選定や下地組みの工夫で、メンテナンス開口を塞がないよう配慮します。
受変電設備との連携・逆潮流防止
非常用発電機からの電力が商用側に逆流しないよう、ATSや遮断器のインターロックで確実に制御します。停電試験時は、関係者全員で連絡系統・手順・復電後のシーケンスまで確認しておきましょう。
安全・衛生
- 排気ガス(CO等)対策:換気計画に従い、作業中の立入管理を行う
- 火気管理:溶接・研磨などの火気作業は燃料設備から十分離して実施
- 感電防止:停電試験時の活線・無電圧区分を明確化
- 重量物取扱い:搬入経路の養生、床耐荷重、玉掛・合図の徹底
容量選定の考え方(現場で会話が通じる最低限)
容量は「非常時に生かす負荷」を洗い出し、その合計から決めます。特にモータ負荷(消火ポンプ、排煙ファン、非常用エレベーターなど)は起動電流が大きく、定格kWよりも余裕を見ます。
- 非常負荷のリスト化:何に給電するかを明確に(用途・規模で異なる)
- 同時使用率・起動順序:すべて同時に立ち上げず、制御でシーケンス化する場合あり
- 力率・起動電流:モータは力率や始動方式(直入れ/ソフトスタータ/インバータ)で必要容量が変わる
- 将来の余裕:更新や増設を見越したマージンを設定
- 連続運転時間:必要時間に応じて燃料容量・熱対策も同時に検討
詳細な算定は設計者(電気)やメーカーと行いますが、現場としては「どの負荷にどれだけ供給するか」「シーケンスはどうするか」を共有できていると、試運転・検査がスムーズです。
法令・基準の考え方(概要)
非常用発電機は、建物の用途・規模・地域ルールによって求められる条件が変わります。一般に、消防法や建築基準法、電気設備に関わる技術基準、騒音・振動に関する規制などの影響を受けます。具体的な数値条件(連続運転時間、貯蔵可能な燃料量、室の耐火性能、開口部の扱い等)は建物条件と所轄の指導により異なります。必ず設計者・監理者を通じて事前協議を行い、仕様書と承認図書に従ってください。
- 消防法関連:防災用自家発電設備としての要求、燃料・防火・警報・点検
- 建築基準法関連:耐火区画、設備区画、避難安全上の要件
- 電気設備の技術基準等:保護協調、接地、絶縁、切替装置の要件
- 騒音・振動:敷地条件や自治体条例に基づく対策
- 保守点検:定期点検・性能確認の実施、記録保存
法令の数値や運用は改定されることがあるため、最新版を確認し、所轄消防・行政との協議結果を最優先してください。
試運転・保守点検(内装が関与しやすい注意点)
試運転では、自動起動・停止、ATS切替、警報・信号の連動、負荷運転の安定性、復電後のシーケンスを確認します。換気・排気の有効断面が確保されていないと高温となり、性能が出ません。仕上げで開口を狭めていないか、現場で最終チェックを行いましょう。
- 定期点検(一般的な運用例):月次の始動試験、年次の負荷運転(ダミーロードまたは実負荷)
- 消耗品管理:エンジンオイル、冷却水、フィルタ、Vベルト、バッテリ
- 燃料管理:劣化・水分混入対策、貯蔵量の維持、漏えい点検
- 清掃・環境:排気経路・吸気グリルの清掃、室内温度の監視
- 記録・通報:点検記録の保存、異常発生時の対応フロー
点検周期や試験方法は建物種別や所轄の指導で異なります。保守契約の内容と合わせて、ビル管理・防災センター・電気保安法人と連携し、計画的に実施しましょう。
可搬型と据置型、仮設での活用の違い
工事中に使う可搬発電機(携行型・台車付)は「仮設電源」であり、建物の非常用発電機とは目的も接続方法も異なります。可搬機を建物の非常回路に直結すると重大事故につながるため厳禁です。据置型の非常用発電機は、専用室に設置され、ATSや保護協調を含むシステムとして構築されます。仮設段階で電源が必要な場合は、仮設分電盤経由で安全に運用し、復電手順は必ず事前に合意しましょう。
代表的なメーカー(国内現場で見かける例)
- デンヨー(Denyo):建設現場用から防災用まで幅広い発電機で実績がある国内メーカー
- ヤンマーエネルギーシステム:ディーゼル・ガスの自家発電設備を展開、保守ネットワークも広い
- 三菱重工エンジン&ターボチャージャ:中~大容量の発電設備で採用例が多い
- カミンズ(Cummins Japan):世界的な大型ディーゼル発電機メーカーの日本法人
- キャタピラー(Caterpillar Japan):建設機械で知られるが、大型発電設備も提供
- ニイガタパワーシステムズ:大型エンジン・発電設備の国内メーカーとして実績あり
機種選定は、必要容量、燃料、設置条件(広さ・騒音・排気経路)、保守体制、納期・コストを総合的に比較して決めます。既存建物の更新の場合は搬入制約(分割搬入可否)も重要な判断軸です。
よくある質問(初心者の疑問に回答)
Q. 停電したら、建物の電気は全部生き返るの?
A. いいえ。非常用発電機が給電するのは、非常用・防災上必要な負荷を中心とした「非常回路」に限定されます。一般動力や共用照明の全てが生きるわけではありません。
Q. ガソリンの携行缶で運用できますか?
A. 建物の非常用発電機は通常、据置型でディーゼル(軽油)やガスを前提に設計されます。可搬式ガソリン発電機は仮設用途向けであり、常設の非常電源とは別物です。燃料種や貯蔵は法令・安全管理に従ってください。
Q. 騒音が心配。防音はどこで効かせる?
A. 発電機室の防音パネル、吸排気ダクトの消音、扉・開口の気密、基礎の防振など多層的に対策します。設置場所や近隣条件に合わせ、設計段階で検討するのが重要です。
Q. 自動で止まる?試験後の手順は?
A. 復電後はATSが商用に戻り、発電機はクールダウンの後に自動停止するのが一般的です。試験では、切替時の瞬断や復帰手順、警報リセット、記録の保存まで含めて手順書に従います。
内装職人のための“ここだけ”ポイント
- 開口を塞がない:吸気・排気・点検扉・据付ボルト周りのクリアランスは死守
- 耐火・遮音の両立:扉・間仕切り・シール材の仕様は承認図書どおりに
- 動線の確保:日常点検・フィルタ交換・オイル抜きの動線や床排水の有無を確認
- 表示・標識:火気厳禁、非常用などの表示類を忘れず施工
- 試験立会い:停電試験前に仕上げの不具合(塞ぎ・ラトル音)を自主チェック
まとめ(今日から現場で使える理解)
非常用発電機は、停電時に人命と建物の安全を守る「最後の砦」です。内装工事の立場でも、吸排気や点検スペース、遮音・耐火の納まり、試運転時の段取りなど、関わるポイントは多くあります。言い回し(非常発・自家発・ATS)を押さえ、どの負荷に電気を送る設備なのかを理解しておけば、打合せも現場対応もスムーズになります。仕様や法的要件は建物・地域で異なるため、最終的には設計・監理・所轄の指示を優先し、承認図書に沿って確実に施工・点検することが大切です。困ったときは独断で進めず、関係者に早めに相談——これが非常用設備に関わる現場の鉄則です。









