内装現場でよく聞く「自家発電設備」をやさしく解説—意味・仕組み・施工の勘所
図面や打合せで「自家発電設備はどこ置き?」「ATSの位置は?」といった会話が出てきて、正直ちょっと不安…という方へ。この記事では、建設内装の現場で職人や監督がよく使う現場ワード「自家発電設備」を、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。意味や種類、仕組み、内装工事でぶつかりやすいポイント、現場での言い回しまで、現場目線で実践的にまとめました。読み終える頃には、打合せでの戸惑いがグッと減るはずです。
現場ワード(自家発電設備)
| 読み仮名 | じかはつでんせつび |
|---|---|
| 英語表記 | On-site Power Generation System(Self-Generation Equipment) |
定義
自家発電設備とは、建物や施設が自らの敷地内に設置し、自分の用途のために電力を作り出す設備の総称です。エンジンやガスタービン、ガスエンジン等で発電機を回し、分電盤を通じて建物の負荷(照明、コンセント、設備機器など)に電力を供給します。用途は大きく二つで、常時の電力供給を補う「常用・コージェネ用途」と、停電時に重要負荷へ電力を供給する「非常用用途」があります。なお、現場では非常用目的の自家発電設備を「非常用発電機」「非常発」「ジェネ(ジェネレーター)」と呼ぶこともあります。
自家発電設備と似た言葉に「非常用発電設備」がありますが、これは防災設備や避難安全のための電源を目的とした系統で、消防法等の基準に適合することが求められます。つまり、自家発電設備は“敷地内でつくる電源”という広い概念で、その中に非常用発電設備(非常時専用)が含まれる、という理解が現場ではスッキリします。
現場での使い方
言い回し・別称は次のようなものが多いです。
- 自家発(じかはつ)/発電機/非常用発電機(非常発)
- ジェネレーター/ジェネセット(発電機+エンジン一体型)
- ATS(自動切替盤)/非常負荷盤/仮負荷(ロードバンク)
使用例(3つ)
- 「今週の夜間、ATSの切替試験があるから、非常回路の照明は消せるようにしておいて。」
- 「自家発の排気がこの壁を抜けるので、防火区画の貫通処理は耐火でお願いします。」
- 「機械室の床は発電機の重量が重いから、アンカー位置と防振架台の芯墨だけ先行で出しましょう。」
使う場面・工程
- 計画・設計段階:容量(kVA)や設置場所、排気・給気ルート、燃料タンクの位置を検討
- 施工計画:搬入経路・クレーン計画、基礎・防振、遮音・防音工事の取り合い
- 電気工事:発電機と盤(非常負荷盤、ATS、遮断器)間の配線、接地、保護継電器の設定
- 仕上げ・機器設置:防火区画の貫通処理、排気ダクトの断熱、機械室の吸排気開口の美装
- 試運転・検査:無負荷運転、仮負荷による負荷試験、ATS自動切替試験、異音・振動・漏れの確認
関連語
- 非常用発電設備、非常用照明、非常電源専用受電設備(EPSS)、自動起動、始動用バッテリー
- 防音パネル、防振ゴム、防振架台、排気消音器、燃料タンク、換気扇(給気・排気)
- 系統連系、常用発電、コージェネ(熱電併給)、ロードバンク(仮負荷装置)
自家発電設備の主な種類
現場で遭遇しやすいタイプを、用途別・燃料別・設置形態別に整理します。
用途別
- 非常用(停電時のみ運転):防災・避難に関わる負荷(非常用照明、消火設備ポンプ、排煙、非常用コンセントなど)へ供給。普段は停止、定期試験で運転。
- 常用・ピークカット:電力料金の抑制やBCPの観点で平時から活用。商業施設・工場などで導入例あり。
- コージェネ(熱電併給):発電と同時に排熱を給湯や空調に再利用して省エネを図る方式。ガスエンジン・ガスタービンが中心。
燃料別
- ディーゼル(軽油):始動性が高く非常用で一般的。燃料の長期保管・品質管理がポイント。
- ガス(都市ガス・LPガス):常用やコージェネで採用。排気が比較的クリーンで連続運転に向く。
- ガソリン・小型インバータ:現場仮設や小規模用途。屋内設置には不向きで、換気・排気に注意。
設置形態
- 屋内据置(機械室):防音・防振・防火の取り合いが重要。排気ダクトと給気計画が肝。
- 屋外コンテナ型:防音・防雨一体。基礎・アンカー・風荷重・保守スペースを確保。
- 可搬型(仮設):工事中の電源確保や点検用。安全柵と接地、排気方向の管理が必須。
仕組みと主要構成
基本構成は「原動機(エンジン)+発電機(オルタネータ)+制御盤(始動・保護)+燃料系+排気・給気+防振・防音」と覚えておくと現場で話が通じます。
- 原動機:ディーゼルまたはガスエンジン。始動用バッテリーとスタータが必要。
- 発電機:回転を電力に変換。三相交流(400V/200V等)が一般的。周波数は50/60Hz地域に合わせる。
- 制御・保護:自動起動、過速・過温・低油圧保護、非常停止。遠隔監視を組み合わせることも。
- 自動切替盤(ATS):商用電源と自家発電の切り替えを自動で行う。停電検知→自動起動→送電→復電後に復帰。
- 燃料・排気:燃料タンク・配管、二重床受け・堰などの漏洩対策。排気は消音器と耐熱断熱が必須。
- 給気・冷却:エンジン吸気とラジエータ冷却風のルート設計。給排気のショートサーキットを避ける。
- 防振・防音:防振ゴム・スプリング架台、防音パネル、床スリット処理、建屋側の遮音強化。
内装工事との取り合い・施工のコツ
- 基礎とアンカー:発電機メーカーの基礎図に合わせ、アンカー芯出しを厳守。防振ゴムの高さ分のレベル設定に注意。
- 搬入計画:機器重量・寸法をもとに、扉・開口のクリア、床荷重、梁下クリアランスを事前確認。養生・台車・ローラーの手配も。
- 防火区画:排気・配線の壁貫通は耐火措置を確実に。貫通スリーブのサイズ取りを早めに確定。
- 換気・騒音:吸排気グリル位置は居室や隣地への騒音・熱風影響を考慮。消音器・遮音壁の取り合いは意匠と早期に調整。
- 仕上げクリアランス:点検扉前は保守動線を確保。パネルや天井開口は点検時に外せる納まりに。
- 電気引込:ケーブルラックの曲がり半径、端末スペース、接地(アース)位置を盤メーカ図で確認。
- 排水・油受け:機械室床に堰・漏油パン・ドレンの計画があるか確認。清掃口のアクセスも確保。
法令・手続きの注意点(概要)
自家発電設備は、建物の用途・規模・燃料・設置場所により、関係法令や協議先が変わります。代表例として、消防法(非常用電源・燃料貯蔵に関する規定)、建築基準法(防火区画・換気・騒音に関する計画)、電気事業法・電気設備技術基準(電気的な安全性)、騒音規制関連などが関係します。適用の有無や細部は、所轄消防・設計者・電気主任技術者と事前協議のうえで決定します。現場では「図面承認済みか」「所轄確認済みか」を必ずチェックしましょう。
容量の考え方と選定ポイント
容量は「何に電気を回すか」で決まります。非常用なら、法令・設計で定められた“重要負荷”のみを対象にし、起動電流の大きい機器(ポンプ・ファンなど)を優先。常用なら、平時の負荷プロファイルとピーク時の消費電力、燃料コスト、騒音・設置スペースとのバランスを見ます。
- 優先度整理:止められない負荷/止めてもよい負荷を色分け。
- 始動特性:モーターは起動電流が大きい。ソフトスターターやインバータの有無で容量が変わる。
- 連続運転時間:タンク容量・補給方法・排熱計画をセットで検討。
- 環境条件:設置室温、吸気温度、標高で出力が変動。メーカ補正値を確認。
- 保守性:フィルタ交換、冷却水、バッテリー交換スペースの確保。
試運転・点検の流れ(実務メモ)
- 外観・据付確認:アンカー締付、防振クリアランス、配管・配線の支持、漏れ・傷の有無。
- 無負荷試運転:油圧・水温・回転数・異音振動を確認。自動起動・非常停止の動作確認。
- 負荷試験:ロードバンク(仮負荷)や実負荷で所定の負荷率にて電圧・周波数の安定性を確認。
- ATS切替試験:停電模擬→自動起動→送電→復電→復帰の一連動作を各回路で確認。
- 記録:運転時間、各温度・圧力、電圧電流、警報履歴を記録し、是正対応を残す。
よくあるトラブルと対策
- 始動不良:バッテリー劣化・燃料詰まりが典型。定期充電・交換、燃料フィルタの交換、燃料の品質管理を徹底。
- 過熱・警報:給排気不足やラジエータ前の塞ぎが原因。開口面積と風の抜けを再点検、断熱のやり直し。
- 漏油・臭気:配管接続部の増し締め、床の堰・油受けの点検。吸気側への臭気回り込み防止。
- 騒音・振動:防振材の選定ミス、ボルト緩み、消音器の劣化。トルク管理と共振回避の再計算。
- 切替不良:ATSの相順・電圧検知設定の不一致。盤メーカ立会いで設定値を確認。
代表的なメーカーと特色(例)
具体機種の選定は設計・予算・メンテ体制で変わりますが、現場でよく目にするメーカーを挙げます(五十音順)。
- 北越工業(AIRMAN):可搬型から常用まで幅広い発電機。青い筐体で現場仮設でもおなじみ。
- コマツ:産業用ディーゼルエンジンと発電装置。信頼性とサポート網が強み。
- 三菱重工系(MHI/MTEE等):中大容量の発電設備に実績。非常用・常用双方に対応。
- 新潟原動機:中大型ディーゼル・ガスエンジン。連続運転用途の実績が多い。
- デンヨー(Denyo):可搬・常用・非常用の発電機で国内シェアが高い。
- 富士電機:非常用発電設備や電力制御・盤のトータル提案に強み。
- ホンダ:小型インバータ発電機で有名。仮設・緊急用で活躍。
- ヤンマー:ディーゼルエンジンの老舗。非常用・常用の発電装置も展開。
メーカーによりメンテ網や部品供給、騒音性能、排気後処理(環境対応)の考え方が異なるため、保守会社の体制とセットで検討すると失敗が少なくなります。
関連資格・担当範囲の目安
- 第一・二種電気工事士:配線・盤接続などの電気工事。
- 電気工事施工管理技士:工程・品質・安全の管理。
- 電気主任技術者:受変電設備・保安規程に関わる管理(出力規模等により)。
- 危険物取扱者(乙四など):燃料の貯蔵・取扱いが必要となる場合の対応。
- 消防設備士・防火管理者:非常用電源と連動する防災設備の法令対応に関与することあり。
現場チェックリスト(内装担当向け)
- 機器据付スペースと点検スペースは図面通り確保されているか。
- 搬入動線(階段・エレベータ・開口寸法)と床荷重は足りているか。
- 防振架台の高さと仕上げ床レベルの取り合いは問題ないか。
- 排気ダクトの断熱・貫通部の耐火措置は仕様通りか。
- 吸排気のショートサーキット(吸い込みと吐き出しの干渉)はないか。
- 盤・ケーブルラックの経路、曲げ半径、点検口の位置は確保されているか。
- ATS・非常負荷盤の銘板・相順・接地は確認済みか。
- 試運転日程と夜間騒音対策、関係者への周知は完了しているか。
用語の違いを整理(混同しやすいポイント)
「自家発電設備」は敷地内で発電する設備の総称。一方「非常用発電設備」は停電など非常時に限定して重要負荷へ給電する仕組みです。現場で「自家発」と言うと、文脈次第で常用も非常用も指すため、打合せでは「非常用ですか?常用ですか?」と目的を確認するのが確実です。また、ATS(自動切替盤)は“商用電源⇔自家発電”の自動切替装置で、発電機本体とは別筐体の場合も多い点に注意しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 非常用発電機は普段回さなくても大丈夫?
A. 放置はNGです。始動用バッテリーの劣化や燃料の品質低下で「いざという時にかからない」トラブルが起きます。定期的な試運転(無負荷・負荷)と点検記録の維持が大切です。
Q2. 発電機室はどのくらい静かにできる?
A. 防音パネルや消音器、防振対策でかなり低減できますが、機器の基本騒音と排気音は残ります。用途・近隣条件に応じて、設置位置や壁構成、二重扉などを組み合わせて対策します。設計段階から音環境の要件を共有しましょう。
Q3. ガスとディーゼル、どちらが良い?
A. 非常用の瞬時起動やシンプルさを優先するならディーゼルが一般的。常用・コージェネで効率や排気のクリーン性を重視するならガスが選ばれるケースが多いです。燃料供給の確実性や維持管理体制も含めて比較検討します。
まとめ:自家発電設備を「目的・場所・運用」で考える
自家発電設備は、単なる“発電機”ではなく、目的(非常用か常用か)、場所(屋内・屋外・可搬)、運用(保守体制・試験方法)までセットで設計・施工・管理する設備です。内装工事の立場では、搬入と据付、遮音・防振、排気・貫通の耐火処理、点検スペースの確保が成果物の品質を左右します。現場で迷ったら「何の負荷に給電するのか」「ATSはどこか」「換気と防火の取り合いは?」の3点から確認していきましょう。きちんと段取りすれば、いざという時に建物を守る“最後の砦”として確実に働いてくれます。









