電流を「挟んで」すぐわかる計測器、クランプメーターを現場目線でやさしく解説
「分電盤のブレーカが時々落ちる…どの回路が食ってる?」「工具の負荷電流、今すぐ知りたい」――そんな場面で頼れるのがクランプメーターです。テスターみたいに配線を外さなくても、導体を“パクッ”と挟むだけで電流が測れる安全・迅速な計測器。この記事では、建設内装の現場で頻出するワード「クランプメーター」について、仕組み・使い方・選び方・安全のコツまで、初めての方にもわかりやすく解説します。読み終えるころには、現場で迷わず適切に使えるはずです。
現場ワード(クランプメーター)
| 読み仮名 | くらんぷめーたー |
|---|---|
| 英語表記 | Clamp meter / Clamp ammeter |
定義
クランプメーターは、電線(導体)をクランプ(挟む)することで、その電線に流れる電流を非接触で測定する計測器。電線を切断したり回路を開放せずに、通電状態のまま電流値(A)を安全かつ迅速に把握できるのが最大の特徴です。機種によっては電圧・抵抗・周波数・突入電流・漏れ電流なども測れますが、コア機能は「挟んで電流を測る」ことにあります。
クランプメーターの仕組みと種類
AC専用(CT方式)
コア(鉄心)で電線を囲み、変流器(CT:カレントトランス)として働かせて交流電流を測定します。構造がシンプルで応答が速く、一般的な交流負荷の電流測定に適します。直流は測れません。
AC/DC対応(ホール効果センサー方式)
コア内にホール素子を組み込み、磁束から直流・交流のどちらも検出可能にしたタイプ。インバータ機器やバッテリー設備、太陽光の直流回路など、昨今の現場では出番が多いです。ゼロ点調整(ゼロリセット・デガウス)機能が重要になります。
漏れ電流用(リーククランプ)
絶縁劣化や機器の漏れを検知するために、微小電流(mA、μAオーダー)を高分解能で測れるタイプ。基本は「往復の導体をまとめて挟んで差分を測る」使い方をします。漏電ブレーカ(ELB)不要動作の原因調査などで活躍します。
フレックス型(ロゴスキーコイル)
柔らかいループを配線に巻き付けるタイプ。大径母線や狭い盤内で便利です。AC専用で、別ユニットの本体に接続して使うことが一般的。持ち運び性と取り回しの良さが魅力です。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のように呼ばれます。
- クランプメーター(正式・一般的)
- クランプテスタ/クランプテスター(日本でよく使う別称)
- リーククランプ(漏れ電流用の意)
- フレックスクランプ(ロゴスキー型の意)
使用例(3つ)
- 分電盤での負荷確認:「この回路、Lだけ挟んで何アンペアか見て」→「いま8.6A。照明点けると10.2Aまで上がるね」
- ブレーカトリップ調査:「ELBが時々落ちる…LとNまとめて挟んでリーク確認して」→「0.8mA。今は問題なし、雨の日に増えてるかも」
- インバータ機器の点検:「エアコン起動の突入見たいからINRUSHで測るね」→「瞬間17A、定常は5.3A」
使う場面・工程
- 仮設分電盤での回路割当・負荷バランス確認(三相の均等化)
- 器具・設備の試運転(エアコン、送風機、温水器、コンセント負荷)
- 原因調査(ブレーカ動作、熱くなる配線、延長コード過負荷の有無)
- 漏電・微小リークの点検(洗面・厨房周り、屋外回路、看板照明)
- インバータ機器の電流監視(True RMSが必要なケース)
関連語
- テスター(デジタルマルチメータ):電圧・抵抗・導通を測る一般計器
- メガー(絶縁抵抗計):絶縁劣化を高電圧で検査
- ELB/MCB/MCCB:各種ブレーカ(漏電遮断器・配線用遮断器)
- CT(変流器):変圧器の電流版。クランプの原理に近い
- True RMS(真の実効値):歪んだ波形でも正しく測る方式
- 突入電流(Inrush):起動時などの一時的に大きい電流
内装工事での実践シーンと手順
1. 仮設分電盤の負荷バランス確認(三相)
各相の主幹から出る単相回路を、相ごとに1本ずつ挟んで電流値を記録。A相・B相・C相の合計が大きく偏っていれば回路を入れ替えます。電圧降下やブレーカの不安定要因を抑え、現場の停電リスクを低減できます。
2. ブレーカが落ちる原因の切り分け
MCB(過電流)かELB(漏電)かでアプローチを変えます。過電流疑いなら、落ちる時間帯に対象回路のLを挟んで負荷ピークを追跡。漏電疑いなら、LとNを束ねて挟み、リーククランプでmAオーダーを確認。雨天や湿気の多い時間帯に値が増える場合、屋外器具や湿式空間が要注意です。
3. インバータ機器(エアコン・工具)の実運転チェック
エアコンは起動直後の突入電流を記録し、その後の定常電流を監視。メーカー仕様と乖離が大きい場合、配管長・冷媒量・フィルタ詰まり等を疑います。インバータ工具はTrue RMS対応機でなければ正しく測れないことに注意します。
4. 延長コード・テーブルタップの過負荷確認
2心並行の延長コードは2本を同時に挟むと値が打ち消されます。必ず片側の芯線を単独で挟むか、分電盤側で回路の単独線を測りましょう。被覆を傷つけるような無理な分離は厳禁です。
選び方のポイント(初めて買う方向け)
- 測定対象で選ぶ
- 一般負荷のAC電流:AC専用で十分(例:~400A)
- 直流やインバータ機器:AC/DC対応+True RMS必須
- 漏れ電流:mA分解能のリーククランプ(0.1mA以下目安)
- レンジと分解能:最大値(例:400A/600A/1000A)と最小分解能(0.01Aなど)
- ジョーの開口径:太いCVケーブルや母線を挟めるか(導体径の最大値)
- 安全規格とカテゴリ:IEC/EN/JIS 61010に適合、CAT III 600VやCAT IV 300Vなど作業環境に合うもの
- 機能:突入電流、最小/最大(MIN/MAX)、ホールド、ゼロリセット、バックライト、フィルタ(ローパス)
- 堅牢性:耐落下、IP等級(粉じん・水滴対策)、寒冷地での視認性
- 表示:視認性の高い大画面、バーグラフ付きだと変動が見やすい
- アクセサリ:テストリード同梱、温度プローブ対応、ケース付属
安全上の注意とNG例
- 単線を挟むのが基本:負荷電流は必ず「片側の導体のみ」を挟む。LとNを同時に挟むと差し引きで0Aに近づきます(漏れ電流を測るときは逆にL+Nを一緒に挟む)。
- 通電部に触れない:盤内作業は感電・アークのリスク。個人防護具(絶縁手袋、保護メガネ)を着用し、無理な姿勢で測らない。
- ジョーは確実に閉じる:隙間があると誤差増大。中心線に導体を合わせると精度が上がります。
- 上限値を超えない:定格を超えるとセンサー損傷や発熱の危険。レンジオーバー表示に注意。
- 直流測定はゼロ調整:ホール式はゼロ点ドリフトが起きるため、測定前に必ずゼロリセット。
- 強磁界・並行配線の影響:隣の太い母線が近いと誤差が出ます。可能な限り離して測る。
- 絶縁不良の疑いが強いときは電気工事士へ:測定だけで判断しきれない場合、無理に触らず有資格者の安全手順に従う。
他の計測器との違い(使い分け)
- クランプメーター:通電状態のまま電流を非接触で測る。現場の一次切り分けに最適。
- マルチメータ(テスター):電圧・抵抗・導通の基本。プローブ接続が必要。
- メガー:絶縁抵抗を高電圧で測定。停電・切り離しが前提。
- クランプパワーメータ:電流+電圧から電力・力率などを算出。負荷の性質を詳しく分析可能。
代表的なメーカーと特徴(例)
- HIOKI(日置電機・日本):クランプメータとリーククランプのラインアップが豊富。高分解能・高信頼で盤内点検に強い。
- KYORITSU(共立計器・日本、ブランド表記KEW):堅牢で現場志向の定番。教育用からプロ用まで幅広い。
- Sanwa(三和電気計器・日本):コストパフォーマンスに優れ、初めての一台にも選ばれる。
- Fluke(フルーク・米国):世界的計測器メーカー。CAT規格や堅牢性、True RMS性能でプロの支持が厚い。
- Hiokiフレックス/Rogowski系アクセサリ:大電流・大径導体対応で設備点検に便利。
どのメーカーも複数グレードを展開しているため、用途(AC/DC、リーク、最大電流、分解能、CAT)を起点に選ぶと失敗しにくいです。
測定のコツとよくある失敗
- 延長コードで0A?:2心を一緒に挟んで相殺しているのが原因。必ず片側のみ挟む。
- リークが捕まらない:アース線を含めず、LとNだけを束ねて挟む(分岐単位で束ねる)。機器単体のリークなら機器の電源コードの2心をまとめて挟む。
- 値がフラつく:ジョーの位置を安定化し中心に合わせる、バーグラフやサンプリング設定を確認。可動部のガタつきは清掃で改善することも。
- インバータ負荷が低めに出る:True RMSでないメータだと歪み波形に追従できない。測定器を変更。
- 直流がズレる:ゼロ調整不足。測定前にゼロ、温度差が大きい屋内外移動直後は少し馴染ませる。
保守・校正・保管
- 日常点検:ジョーの開閉スムーズさ、欠け・歪み・汚れの有無、表示・ボタン反応、電池残量。
- 清掃:コア接触面の汚れは誤差の原因。乾いた柔らかい布で清掃(溶剤は避ける)。
- 校正:年1回程度を目安に。メーカーまたは認定校正機関で実施すると信頼性が保てます。
- 保管:高温多湿・強磁界を避ける。ケースに収納し、落下・圧迫から守る。
関連規格・資格の話
クランプメーターは一般にIEC 61010-2-032(日本ではJIS C 61010-2-032)などの安全規格に基づき設計され、CAT II/III/IVの測定カテゴリが表示されています。測定環境に見合うCATを選ぶのが基本です。また、配線の着脱を伴う作業や盤内の改造は電気工事士などの有資格者が行うべきで、無資格者はむやみに手を入れないことが安全上重要です。
FAQ(よくある質問)
Q. 100Vの2心並行コードで電流が測れません。
A. 2本を一緒に挟んでいる可能性が高いです。負荷電流は片側の導体だけを単独で挟んでください。2心が離せない場合は分電盤側で単独線を測る方法が安全です。
Q. 漏電を探すときはどう挟むの?
A. 同一回路の往復導体(LとN)をまとめて挟み、差分(=漏れ)をmAレンジで測ります。アース線は含めません。回路を細かく分割していくと漏れ源の切り分けが進みます。
Q. インバータ機器はなぜTrue RMSが必要?
A. 出力波形が歪んでおり、平均値整流方式のメータでは実効値が正しく出ないためです。True RMS対応なら歪み波形でも正確に近い値が得られます。
Q. 直流も測りたいのですが。
A. AC/DC対応のホールセンサー式を選んでください。測定前のゼロリセットを忘れずに。
Q. 安全カテゴリ(CAT)はどれを選ぶ?
A. 盤内や建物配線の一次側に近い場所ではCAT III以上が目安。屋外受電設備に近い位置や測定環境が厳しい場合はCAT IVが必要になることもあります。現場のリスクに応じて上位を選択しましょう。
Q. 突入電流は普通のレンジで読めますか?
A. 素早いピークは通常レンジでは見逃しやすいです。INRUSH(突入)機能付きのモデルを使うと安定して捉えられます。
はじめて使う人向けチェックリスト
- 測りたいのは負荷電流? 漏れ電流?(挟み方が逆)
- レンジ設定は合っている?(A / mA、AC / DC)
- ジョーは完全に閉じている? 中心線に導体を合わせた?
- 直流はゼロリセットした?
- 周囲の強磁界や並行配線の影響を避けられる?
- 安全カテゴリ(CAT)とPPEは足りている?
用語ミニ辞典
- ジョー(Jaw):挟む部分。開口径が大きいほど太い導体を測れる。
- レンジ:測定可能な範囲。オートレンジ機は自動切替。
- ホールド:表示を固定。手を離した後でも読み取りやすい。
- MIN/MAX:一定時間内の最小値・最大値を記録。
- ローパスフィルタ:インバータの高周波成分で表示が暴れるのを抑制。
まとめ:クランプメーターは「挟むだけ」の安全・時短ツール
クランプメーターは、通電状態で電流を素早く測れる現場の必需品。内装工事では、仮設分電盤の負荷バランス確認、ブレーカ動作の切り分け、設備の試運転など、出番は多岐にわたります。ポイントは「負荷電流は単線で、漏れ電流は往復線をまとめて」挟むこと。用途に合わせてAC専用・AC/DC対応・リーク用・フレックス型を選び、True RMSやCATなどの仕様をチェックすれば、初めての一台でも失敗しにくいでしょう。安全第一で正しく使い、現場のトラブルシュートに役立ててください。









