竣工清掃の意味と現場での進め方:手順・注意点・相場をプロがやさしく解説
「竣工清掃って、いつ何をすればいいの?誰がやるの?」——内装工事や新築・改修の現場に初めて関わると、こうした疑問が次々に湧いてきますよね。竣工清掃は、引き渡しの品質を左右する“最後の仕上げ”。適切なタイミングと手順で行うだけで、仕上がりの印象が大きく変わります。本記事では、現場で実際に使われる言い回しから具体的な作業手順、費用の目安、トラブル回避のコツまで、プロ目線でわかりやすく解説します。
現場ワード(竣工清掃)
| 読み仮名 | しゅんこうせいそう |
|---|---|
| 英語表記 | Post-construction Cleaning / Final Cleaning |
定義
竣工清掃とは、建築・内装工事が完了した後、引き渡し前に行う最終的な清掃のことです。工事で発生した粉じん・養生テープの糊残り・手垢・ガラスの水垢・床の汚れなどを除去し、施主検査やオープン、入居・稼働に耐える状態に整えます。地域によって「美装」「美装工事」「引渡し清掃」「最終清掃」とも呼ばれ、建築品質の印象を決める重要工程です。
竣工清掃の目的と効果
竣工清掃の主目的は、工事由来の汚れを取り除き、建材本来の質感と美観を引き出すこと。これにより、以下の効果が得られます。
- 引き渡し時の印象向上(キズや仕上げムラの発見もしやすい)
- 入居・開業後の初期不具合やクレームを予防
- 建材の保護(砂や粉が残ると床に微傷、金物の腐食につながる)
- 安全確保(粉じん・養生残材の除去で転倒や詰まりを予防)
竣工清掃の基本手順(内装現場の標準フロー)
現場規模や仕様で手順は前後しますが、内装現場の一般的な流れは以下です。
- 1. 養生撤去・粗片付け:床・壁・設備の保護材やラベル、保護フィルム、残材を撤去。分別・廃棄ルールを確認。
- 2. 上から下への粉じん落とし:天井・照明器具・ダクト表面・梁・高所棚などをブロワーは使わず、ブラシやマイクロファイバーで静かに除じん。
- 3. サッシ・ガラス:スクレーパーでペンキはねやモルタルを除去、スクイジーで洗浄・仕上げ拭き。外部面は安全計画の範囲で。
- 4. 建具・枠・巾木:糊残りや手垢、シリコーンはみ出しを適合した除去剤で処理。木口は水分に注意。
- 5. 水まわり・設備機器:保護フィルム剥離、カウンター・ボウル・水栓の水垢・くすみ除去。試運転後の水滴跡も丁寧に。
- 6. 壁・天井の仕上げチェック:クロスの糊だれ・継ぎ目ののり汚れを中性クリーナーで拭き取り。珪藻土・塗装面はドライ中心。
- 7. 床清掃:材質別にアプローチを選定。長尺シートは中性洗剤で洗浄・必要時だけワックス。タイルカーペットはバキューム。フローリングは固く絞った拭き上げと樹脂への配慮。石材は酸性洗剤を避けるなどpH適合を厳守。
- 8. 最終仕上げ・斜光チェック:照明を点灯し、斜めからの光でムラ・拭き残し・キズを確認。是正依頼リストを残し、是正後に再清掃。
- 9. 引渡し前日の再確認:通電後の指紋、搬入動線の再汚れを最終拭き。写真記録・チェックリストでエビデンス化。
ポイントは「上から下へ」「乾湿の順序」「材質適合(pH・溶剤可否)」「斜光で確認」の4つ。短時間で仕上げても、材質を傷めれば元も子もありません。迷ったら中性・目立たない箇所で試験が鉄則です。
現場での使い方
言い回し・別称
- 竣工清掃お願いします/竣工美装入れてください
- 最終清掃、引渡し清掃、完了清掃(同義で使われることが多い)
- 「美装屋さん」「クリーニング屋さん」=竣工清掃を専門に行う業者の通称
使用例(3つ)
- 「検査の前日に竣工清掃を一発入れて、是正後にもう一度軽く回しておこう。」
- 「床がノンワックス仕様なので、竣工は洗浄と中和だけにしてください。」
- 「サッシのシールはみ出しは美装で拾える?無理ならシーリング屋に是正依頼出すね。」
使う場面・工程
基本は引渡し直前ですが、実務では「段階美装(中間清掃)→是正→最終美装」という2回以上のサイクルが一般的。什器搬入や電気設備の通電後に指紋・埃が再発するため、最終日は検査の前日~当日に軽い仕上げ拭きを入れると安全です。
関連語
- 中間清掃(段階美装):造作完了時や床仕上げ前の粉じん除去
- 是正(手直し):検査で拾ったキズ・不陸・シリコンはみ出し等の修繕
- 養生撤去:保護材の剥がし。糊残りは竣工清掃の主要項目
- ワックス仕上げ/ノンワックス仕上げ:床材の仕様・メンテ方針
材質別の注意点と具体的なコツ
ガラス・サッシ
- スクレーパーは新刃を浅い角度で。異物が付いた刃はキズの原因。
- 外装ガラスはフッ素系コーティングの有無を事前確認。対応洗剤を選ぶ。
- アルミサッシの白錆はアルカリ強すぎに注意。中性~弱アルカリ洗浄が無難。
フローリング
- 水を多用しない。固く絞ったクロスで木目に沿って拭く。
- オイル仕上げ・UV塗装など仕上げ種を確認。溶剤やアルカリは基本NG。
長尺シート・塩ビタイル
- 施工直後はアルカリ洗浄→中和リンス→完全乾燥が基本。ノンワックス指定なら被膜形成剤は塗らない。
- コーナー・巾木際・エッジの黒ずみはハンドパッドで優しく。
タイルカーペット
- 目地方向にバキューム。接着剤汚れは剥離剤を少量点付け→拭取り。
- 濡らしすぎ厳禁。糊が緩むと端部浮きの原因。
石材(大理石・御影)
- 酸性洗剤は白濁・エッチングの原因。中性~石材専用を使用。
- 錆びジミ・エフロは専用剤でテスト後に限定処理。
ステンレス・金物
- ヘアライン方向に拭く。塩素系は腐食リスク。中性洗剤+マイクロファイバーが基本。
壁紙(ビニルクロス)
- 糊だれは早期に中性洗剤で除去。放置すると黄変・固着。
- ジョイント部はこすりすぎない。光沢ムラの原因。
必要な道具・資機材と代表的メーカー
現場規模により変動しますが、竣工清掃でよく使う基本装備は次のとおりです。
- 業務用掃除機・集じん機(乾湿両用が便利):例)マキタ(電動工具・集じん機の大手)、HiKOKI(旧日立工機、ハイパワー集じん機)、Bosch(電動工具世界ブランド)
- ポリッシャー・自動床洗浄機:例)リンレイ(床用ケミカル・メンテの老舗)、テナント(業務用清掃機械)、ケルヒャー(高圧洗浄・床洗浄機)
- 清掃ケミカル:例)リンレイ(洗浄剤・ワックス)、3M(パッド・ケミカル)、花王プロフェッショナル(業務用洗浄剤)
- ハンドツール:スクレーパー、ガラススクイジー、パッド(白/赤/緑)、マイクロファイバークロス、ブラシ各種
- 除去剤:シール剥離剤、接着剤リムーバー、シリコーン除去剤(材質適合品を使用)
- 脚立・ローリングタワー・安全帯(高所作業が伴う場合)
- 養生資材:マスカー、マスキングテープ(弱粘着)、緩衝材
メーカーは一例です。現場仕様(環境配慮、低臭、素材適合)に合わせ、SDS(安全データシート)を確認したうえで選定しましょう。
依頼先と段取りのコツ
竣工清掃は、ゼネコン・内装業者が手配する「専門の美装業者」に依頼するのが一般的。小規模なら内装業者が直実施する場合もあります。段取りのポイントは以下の通りです。
- 工程表に「中間清掃」「最終清掃」を明記。是正工事との取り合いを事前調整。
- 設備試運転・通電・換気開始後に最終清掃のタイミングを置く(指紋や埃の再発を防止)。
- 搬入動線を確定し、最終清掃後の通行制限を決める。
- 仕上げ仕様書(床のノンワックス指定、石材の酸禁など)を美装業者と共有。
費用の目安・見積もりの見方
費用は面積・高さ・ガラス量・仕上げ等で大きく変動しますが、内装の竣工清掃は「面積単価(m²あたり)」が基準になることが多いです。
- 一般的な内装竣工清掃の目安:数百円/m²台が出発点。高天井・ガラス多・特殊材対応で1,000円/m²台になるケースも。
- 住戸(40~90m²):5万~12万円程度の帯がよく見られます。
- 戸建(100~150m²):8万~20万円程度が目安。
- テナント・オフィス(広面積):仕様によって大幅変動。夜間・短工期・高所作業・ガラス量で増額。
見積書で確認すべき項目
- 範囲:ガラス内外/サッシ・網戸/什器内外/天井・照明/床の仕上げ(洗浄のみ/ワックス有無)
- 回数:中間清掃+最終清掃の2回か、最終のみか
- 廃棄:養生撤去・残材処分の含み有無
- 出入管理:夜間・休日・駐車場費・搬入費の扱い
- 保険:対物・対人の賠償責任保険加入の有無
相場は地域や時期(繁忙期)でも変わるため、条件をそろえて複数社に相見積もりを取るのが安心です。
品質基準とチェックリスト(現場で実際に見るポイント)
検査時に“見落としがちな”チェックポイントをまとめました。斜光(ライトを斜めに当てる)と手触りチェックを併用します。
- ガラス:逆光での拭き筋、端部シールのはみ出し、コーキングの汚れ移り
- サッシレール:砂・金属粉の残留、排水穴の詰まり
- 建具・ドアハンドル:指紋、緑青・錆の初期兆候
- 巾木際:黒ずみ、コーキングのバリ
- 床:搬入動線の筋汚れ、長尺のエッジ汚れ、タイルカーペット目地の糸くず
- 水まわり:シリコンはみ出し、鏡の水滴跡、排水口の養生残り
- 照明器具:ディフューザーの内側の粉じん
- コンセント・スイッチプレート:指紋、周辺クロスの糊汚れ
安全・環境への配慮
- 換気:溶剤・剥離剤使用時は十分換気。火気厳禁の表示と管理。
- 脚立・高所:2m以上は墜落災害に注意。適切な足場・転倒防止。
- 化学物質:SDSでPPE(手袋・保護眼鏡)を確認。混合禁止(酸×塩素など)。
- 排水:床洗浄の汚水は目詰まりを招く。固形物除去のうえ指定場所へ。
- 騒音・粉じん:営業時間帯・近隣配慮。ブロワー多用は粉じん再飛散の原因。
よくあるトラブルと回避策
- 清掃が早すぎて再汚染:是正・搬入の直前ではなく直後にも軽清掃を計画。
- 床材を痛めた:仕様書未確認で強アルカリ・溶剤を使用。必ず材質とメーカー推奨を確認。
- ワックス不要床に塗布:ノンワックス指定を現場全員に周知。美観復旧にコストがかかる。
- ガラス傷:異物付着のスクレーパー使用。作業前に刃を交換、砂埃を先に洗い流す。
- 糊残りの固着:時間経過で硬化。養生撤去と同時に早期除去が吉。
所要時間の目安と人員計画
規模・密度・ガラス量で差がありますが、目安は以下。
- 住戸(60~80m²):2~3名で0.5~1日
- 小規模テナント(100~200m²):3~5名で1日
- 中規模オフィス(500~1,000m²):5~10名で1~2日
照明点灯・通水・空調試運転の完了後に清掃時間を確保すると、品質が安定します。
現場コミュニケーションのコツ(プロの段取り)
- 開始前ミーティング:仕様・注意材・立入禁止区画・写真撮影ルールを共有。
- 是正票の運用:清掃中に見つけたキズや不具合は、写真付きで即共有。
- 仕上がりサンプル:床の光沢感など、事前に「許容基準」を合意。
- 動線管理:清掃後の通路を別動線に切り替え、再汚染を防止。
ミニ用語辞典(竣工清掃の周辺ワード)
- 美装(びそう):竣工清掃の俗称。主に関西圏で多用。
- 是正(ぜせい):手直し。検査後の補修・修繕。
- ノンワックス:ワックス塗布不要の床仕上げ。被膜を作らずメンテは洗浄中心。
- 斜光検査:光を斜めに当ててムラ・拭き筋・凹凸をチェックする方法。
- SDS:安全データシート。化学製品の性状・取扱い・保護具・応急措置を記載。
初心者がまず覚えるべき3原則
- 材質を知る:床・壁・天板の仕上げ仕様を把握し、使える洗剤を選ぶ。
- 順番を守る:上→下、乾→湿、洗浄→中和→乾燥→仕上げ。
- 確認して残す:斜光でのチェック、写真記録、チェックリストで可視化。
よくある質問(Q&A)
Q. 竣工清掃は誰がやる?内装業者?清掃会社?
A. 多くは内装会社やゼネコンが「美装専門業者」に発注します。小規模案件では内装業者が直に対応する場合もありますが、ガラス・石材など素材別のノウハウが必要なため、専門業者の関与が安心です。
Q. いつ入れるのがベスト?
A. 養生撤去後・設備試運転後・什器搬入前が基本。検査直前と、是正後の再清掃(軽仕上げ)をセットで計画すると失敗しにくいです。
Q. ワックスは必ず塗るの?
A. いいえ。床材によってはノンワックス指定が一般的です。光沢出しが必要か、長期メンテ計画と合わせて判断しましょう。
Q. 溶剤は使って大丈夫?
A. シール・接着剤の除去には有効ですが、材質を痛めるリスクがあります。必ず目立たない場所でテストし、SDSに従いPPEを着用しましょう。
まとめ:竣工清掃は“仕上げの一部”。段取りと適材適方が品質を決める
竣工清掃は単なる掃除ではなく、内装工事の「最終仕上げ」です。工程の組み方、材質に合った道具・ケミカルの選定、上から下へ・斜光確認といった基本を押さえるだけで、引き渡しのクオリティは見違えるほど向上します。迷ったときは仕様書とSDSを確認し、専門業者に相談を。正しい段取りとやさしい清掃で、仕上がりも評価もグッと良くなります。









