不陸調整の基本をやさしく解説：意味・現場での言い回し・道具と手順
床や壁を仕上げる前に、微妙なデコボコやねじれをまっすぐに整える作業を、職人は「不陸調整」と呼びます。聞き慣れない言葉ですが、仕上がりの美しさや耐久性を左右する、とても大切な工程です。「どんなときに必要？」「どうやってやるの？」と疑問を持つ初心者の方に向けて、現場での言い回しから具体的な手順、道具や注意点まで、ていねいに解説します。
現場ワード（不陸調整）
| 読み仮名 | ふりくちょうせい |
|---|---|
| 英語表記 | Leveling (flatness adjustment) |
定義
不陸調整とは、床・壁・天井などの下地面に生じた高低差（うねり、段差、反り、ねじれ）を、測定・補修・研磨・充填などで是正し、所定の平滑度や水平・垂直・通りを確保する作業の総称です。仕上げ材（塩ビシート、フローリング、タイル、ボード、クロスなど）を施工する前に行われ、見映え、接着耐久性、歩行性、納まりを安定させる目的があります。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような表現がよく使われます。
- 不陸是正（ふりくぜせい）
- レベリング（床レベリング、面レベリング）
- 面直し（つらなおし）／面出し（つらだし）
- 下地調整（広義。パテ掛け、研磨、段差取りを含む）
使用例（3つ）
- 「この範囲は不陸が出てるから、先に不陸調整してから長尺（シート）貼ろう。」
- 「2メータースケールで3ミリ以上の隙間が出たので、SL（セルフレベリング）で面を揃えます。」
- 「壁の不陸がきついから、胴縁で通りを出してからPB（ボード）を受けよう。」
使う場面・工程
不陸調整が必要になる典型的な場面は次のとおりです。
- 床：コンクリートスラブのうねり、既存床撤去後の段差、置床・捨て貼りの反り、見切り金物周りの段差
- 壁：躯体の出入り、下地木（胴縁）の通り不良、PBジョイントの凹凸、改修での不陸
- 天井：野縁のレベル不良、躯体のたわみ、設備更新後の部分的な食い違い
関連語
- レベル（水平）、通り（直線性）、面（つら）、エッジ（角部のライン）
- SL（セルフレベリング材）、パテ（石膏系・セメント系）、プライマー
- 置床、胴縁、レベルボルト、アジャスター、スペーサー、シム
- 直定規（アルミストレートエッジ）、レーザー墨出し器、下げ振り
なぜ不陸が生まれるのか（原因と背景）
新築・改修を問わず、不陸はさまざまな要因で発生します。
- 躯体精度のばらつき（コンクリートの打設条件や型枠精度）
- 乾燥収縮やクリープによる反り・たわみ
- 既存仕上げ撤去時のノロや接着剤残り、段差痕
- 下地材の施工誤差（ビスピッチ、胴縁の反り、敷桟の高さ不均一）
- 設備配管・開口周りの補修不足や追い込み不良
- 温湿度の影響や下地含水率管理不足
不陸調整は、こうした要因に対して「測る→記録する→整える→再確認する」という段階的な是正で、仕上げの条件を満たしていく作業です。
不陸調整の基本手順（床・壁・天井の共通フロー）
1. 測定と記録
まずは状況把握が最優先です。
- 直定規（1～2m）を当てて隙間を確認し、ゲージで最大値の目安を記録
- レーザー墨出し器で基準レベルを出し、床の高低差をマッピング
- 壁・天井は下げ振りや下地検尺で通り・レベルを確認
- 仕上げメーカーの施工要領や現場仕様書の要求平滑度を確認
2. 下地処理（清掃・プライマー）
ほこり・レイタンス・油分は付着不良の原因。掃除機・ワイヤーブラシ・ショットや軽研磨で除去し、下地に適したプライマーを塗布して吸い込みと付着を安定させます。
3. 補修・充填・削正
- 低い所：パッチング材（セメント系・石膏系）やSL材で充填・ならし
- 高い所：サンダー・グラインダーで削正し、粉じん清掃後に再プライマー
- 骨組み系：胴縁・野縁・レベルボルトで構造的に面を出す（壁・天井）
4. 再測定・仕上げ条件の確認
充填・削正後に再度直定規とレーザーで確認。必要なら追加是正を行い、所定の平滑度に達したら仕上げ工程へ進みます。
下地別の具体的なやり方
床の不陸調整
床は歩行・荷重を受けるため、局所的な段差やうねりがクレームにつながりやすい部位です。
- コンクリートスラブ：低部はセメント系下地調整材やセルフレベリング材で面出し。高部はグラインダーで削正。既存接着剤残渣は完全除去が基本。
- 木下地・捨て貼り：ビス増し打ちで鳴りや反りを抑え、ジョイント段差はパテで調整。大きな不陸は根太高さの見直しやスペーサーで調整。
- 置床・二重床：レベルボルトやアジャスターの調整で高さと水平を確保。端部や見切り周りの段差はパテでなだらかに。
- 長尺シート・タイル系仕上げ前：メーカー要領の平滑度・下地含水率・プライマーを厳守。
壁の不陸調整
壁は光の当たり方で不陸が目立ちやすく、通りの直線性が重要です。
- 胴縁（木・LGS）で通りを出す。スペーサー・シムで微調整し、ボード張り後はジョイント処理と全面パテで面を整える。
- 既存躯体面：局所補修＋全面薄塗り（石膏系パテ）で凹凸をならす。重ね貼りの場合は納まり厚を考慮。
天井の不陸調整
天井は見上げたときのラインが命。野縁・ハンガーの高さ調整で水平を合わせ、ボード張り後のジョイントは目地ズレを抑えてパテで面を出します。設備開口周りは先行してレベルを確定させると後戻りが少なくなります。
測定・許容差の考え方（判断基準と打合せポイント）
「どこまでやれば良いか」は、仕様書・図面・仕上げ材の施工要領で決まります。一般的には、直定規（1～2m）を当て、隙間の最大値で平滑度を評価し、水平・垂直はレーザーや下げ振りで確認します。具体の数値基準は案件・仕上げにより異なるため、着手前に監督・設計・仕上げメーカーで合意しておくのが肝心です。光の強い場所（窓際・間接照明の銘木壁など）は、視覚的に厳しく見えるので、より繊細な調整を計画します。
材料・道具の基礎知識（代表的カテゴリーとメーカー）
不陸調整で使う主な材料
- セメント系下地調整材：床の面出し・段差補修に使用。プライマー適合を確認。
- セルフレベリング材（SL材）：流し込みで水平を出す床用材料。厚み・養生条件を厳守。
- 石膏系パテ：壁・天井のジョイント処理や全面薄塗りに。吸い込みとやせの管理がポイント。
- プライマー：下地の吸い込み調整と付着安定化。下地・材料ごとの適合性を確認。
- 接着剤：仕上げ前の密着確保に。下地調整後の清潔・乾燥が前提。
主な工具・測定機器
- レーザー墨出し器、下げ振り、直定規（1～2m）、フィーラーゲージ
- コテ（角・丸）、スムーサー、ヘラ、サンダー・グラインダー、掃除機
- レベルボルト・アジャスター、スペーサー・シム（床・壁・天井用）
代表的なメーカー（例）
以下は日本国内で内装・床・工具等の分野で広く知られる企業の一例です。取り扱い品や適合可否は各社の最新資料をご確認ください。
- 床材・下地関連：タジマ、東リ、サンゲツ（床・壁仕上げ材と下地関連商材を展開）
- パテ・内装副資材：ヤヨイ化学工業（内装パテ・副資材の大手）
- 床下地・レベル調整部材：フクビ化学工業（床用部材や置床関連部材を供給）
- 接着剤・プライマー：セメダイン、コニシ（各種建築用接着剤）
- 電動工具・測定：マキタ、HiKOKI（電動工具）、タジマツール、ムラテックKDS（墨出し・測定）
乾燥・養生と品質管理
不陸調整の出来栄えは「待つ」工程で決まります。乾燥不足は仕上げの剥離や目開きの原因に。材料ごとの養生時間、温湿度条件、下地含水率の管理を徹底し、次の点をチェックします。
- 指触・打音・含水率（必要に応じて測定器）で硬化状態を確認
- 粉塵の再付着防止のため、清掃と再プライマーの要否を判断
- 面出し後の直定規・レーザー再確認（記録を写真・メモで残す）
費用と工期の考え方（見積りの内訳ポイント）
不陸調整の費用・日数は、面積・不陸の程度・材料の選定・現場条件（搬入動線、夜間作業の有無など）で大きく変わります。数値の一律提示はできませんが、検討の観点は次のとおりです。
- 調整範囲：部分補修か全面レベリングか（厚み・数量に比例）
- 材料選定：パテ／セメント系下地調整材／SL材／レベルボルト等の組合せ
- 下地処理：既存接着剤やノロの除去工数、プライマー種別
- 測定・品質管理：事前調査・段階検査・写真記録の手間
- 養生期間：硬化待ちでの工程調整（他 trades との取り合い）
- リスクバッファ：開口・端部・設備周りなど手間のかかる部位
見積り・工程協議の際は、代表エリアの実測値（高低差マップ）と施工計画（材料・厚み・養生時間）を添付すると、合意形成がスムーズになります。
よくある失敗と対策
- 乾燥不足の上に仕上げを施工 → 対策：含水率・硬化確認のルール化、季節条件の見直し
- プライマー不適合 → 対策：材料メーカーの適合表を必ず参照、試験施工を検討
- 高い所を削らず低い所に盛るだけ → 対策：高低差マップ化で最小厚設計、過剰盛りを防止
- 端部・見切りの段差残り → 対策：端部は別管理で追加調整、仕上げ見切りと同時検討
- 光だまりで不陸が目立つ → 対策：採光・照明条件を考慮してパテ回数や全面薄塗りを増やす
- 他工種との取り合い不整合 → 対策：設備・建具・金物と高さ基準を共有し、先行試し合わせ
安全・環境面の注意
- 粉じん対策：集じん機連動のグラインダー、マスク着用、養生シートで区画
- 化学物質：プライマー・接着剤は換気と保護具、SDS（安全データシート）を事前確認
- 重量物の搬入：SL材・下地材の搬入計画と荷重制限の確認
- 騒音時間帯の管理：削正機器の使用時間を近隣と調整
現場で役立つミニ用語辞典
- 不陸（ふりく）：平面の高低差・うねり・ねじれの総称
- 通り：直線性のこと。壁・天井のラインの整い具合
- 面（つら）：仕上げ表面の基準面。面出し＝表面を基準にそろえること
- レベル：高さ基準（水平）。床・天井で特に重要
- SL（セルフレベリング）：流動性で水平を自己形成する床用材料
- パテ：凹凸充填や面ならしに用いるペースト状材料（石膏系・セメント系）
- プライマー：付着性や吸い込みを整える下塗り材
- レベルボルト／アジャスター：置床や下地の高さ調整金物
まとめ：不陸調整は「測る→整える→待つ→確認する」
不陸調整は、見えないけれど仕上げの良し悪しを決定づける重要工程です。ポイントは以下の4つです。
- 測る：直定規とレーザーで現状を把握し、記録する
- 整える：材料・工法を正しく選び、高い所は削り低い所は充填する
- 待つ：乾燥・養生を守り、付着と寸法安定を確保
- 確認する：再測定で要求平滑度を満たしているか検証
初心者の方は、まず「どこが高くてどこが低いか」を図に起こし、使う材料と厚み、乾燥時間の段取りを書き出してみてください。現場では、その一枚の計画メモが仕上がりを大きく変えます。疑問があれば、仕上げ材メーカーの施工要領や、経験者のチェックを早めに受けるのが失敗しないコツです。これで「不陸調整」という現場ワードの実像が、ぐっと身近になるはずです。
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