中塗りの基礎をやさしく解説：内装工事の仕上がりを決める“見えない大仕事”
「中塗りって何？ 下塗りや上塗りとどう違うの？」——現場ワードに不慣れだと、会話についていけず不安になりますよね。この記事では、建設内装の現場で職人が日常的に使う「中塗り」を、はじめての方にも分かる言葉で丁寧に解説します。意味・役割・手順・注意点から、実際の現場での言い回しや使用例まで網羅。読み終える頃には、図面や段取り打合せで「中塗り」という言葉が出ても、落ち着いて判断・コミュニケーションできるようになります。
現場ワード（中塗り）
| 読み仮名 | なかぬり |
|---|---|
| 英語表記 | intermediate coat / mid coat |
定義
中塗りとは、複数回に分けて塗ったり塗り重ねたりする工程のうち、下地に一番近い「下塗り」と最終の「上塗り」の間に行う塗り（または塗り付け）工程を指します。塗装・左官・防水など工種を問わず使われる用語で、主な目的は「平滑化（凹凸を整える）」「膜厚の確保（必要な厚みを持たせる）」「下塗りと上塗りの密着を助ける」「色ムラや吸い込みムラを抑える」ことです。塗装では“上塗り1回目＝中塗り”と呼ぶ場合もあります。
中塗りの役割と、下塗り・上塗りとの違い
施工は「下塗り→中塗り→上塗り」が基本です。それぞれの狙いを押さえると、なぜ中塗りが必要なのかがクリアになります。
- 下塗り（シーラー/プライマー/フィラーなど）：下地の粉っぽさや吸い込みを抑え、付着性を高める。段差や巣穴の下準備をする。
- 中塗り：平滑化と膜厚の骨格づくり。上塗りの仕上がりを安定させ、色の透けやムラを抑える。
- 上塗り：見た目（色・艶・肌）、性能（汚れにくさ・耐久性）を担保する最終層。
中塗りは「見えない仕上がり」をつくる工程です。上塗りで誤魔化せない微細な段差や吸い込みムラは、中塗りでどこまで均すかで決まります。結果的に、上塗りの手離れ（伸び、のり、艶の落ち着き）も大きく変わります。
中塗りが登場する代表的な工種
塗装工事の中塗り
内装の壁・天井の塗装では、下塗り（シーラー/サーフ）後に上塗りを2回行う仕様が一般的です。この場合、上塗りの1回目が中塗りに相当します。サーフェーサー（通称サーフ）を中塗りとして扱い、上塗りを1回という仕様もありますが、目的は同じで「平滑化・膜厚確保・ムラ抑制」です。
- 主な狙い：吸い込み差の均一化、ピンホール（細かい孔）の減少、ローラー目のならし、色の隠ぺい強化
- 工具：ローラー（ウール/マイクロファイバー）、刷毛、撹拌機、受け皿、延長ポール
- 下地例：石こうボード（パテ処理済）、既存塗膜、モルタル
左官工事の中塗り
珪藻土や漆喰、セメント系下地調整材などの左官仕上げでも中塗りがあります。下塗りで付着とレベル調整を行い、中塗りで面精度と強度（厚み）を確保。上塗りで肌を作り、模様や質感を整えます。
- 主な狙い：面のうねり・段差の是正、ひびの再発リスク低減、上塗りの吸い込み均一化
- 工具：コテ各種（角・丸・ステン・プラスチック）、ハクリ鏝、定規、スポンジ
防水・シーリング関連の中塗り（内装部位）
床の塗り床材や一部の防水塗膜でも中塗り工程があります。下塗りで下地に食いつかせ、中塗りで所定の膜厚を確保し、上塗りで耐摩耗性や意匠性を整える流れです。内装では、厨房やバックヤードの床、防水を兼ねる設備室などで見られます。
中塗りの施工手順と基本フロー
工種により細部は異なりますが、考え方は共通です。ここでは内装塗装を例に、段取りとコツをまとめます。
1. 下地確認と下準備
- 含水率・付着の確認：新設ボードや既存面の乾き、チョーキング（粉化）状況を確認。
- 不陸/段差の補修：パテで目地・ビス頭・段差を平滑に。サンディングで面を整える。
- 清掃：粉塵・油分を除去。埃はムラやピンホールの原因に。
- 養生：床・サッシ・器具類を保護。剥がれや糊残りを防ぐため、下地に合うテープを選定。
2. 下塗り（参考）
シーラーやサーフェーサーを仕様に合わせて塗布。吸い込みが強い場合は再塗りや希釈率の見直しで均一化します。中塗り前に完全乾燥または「塗り重ね可能時間」を厳守します。
3. 中塗りの施工
- 材料の撹拌：沈殿やダマを均一化。撹拌不足は色ムラ・艶ムラの原因。
- 希釈：指定範囲内で。希釈過多は透けやダレを招く。
- 塗り方：面の端部からローラーで均等に。ローラー目は「W」や「N」動作でならす。
- 膜厚：仕様に応じて均一に確保。必要に応じてウェット膜厚計で管理。
- 乾燥：環境条件により変動。メーカーの塗り重ね可能時間を守る。
4. 中間チェックと手直し
- 平滑性：逆光や斜光で確認。毛羽・ブツは目立ちやすい。
- ピンホール/透け：上塗りで消えないレベルは中塗りで手当て。
- 段差/ローラー目：軽い研磨（耐水ペーパー等）で均す場合あり。粉じんは再度拭き清掃。
5. 上塗りへ進む判断
剥離や縮みの原因になるため、指触乾燥だけで急ぐのは禁物。とくに低温高湿環境では、見た目が乾いていても内部乾燥が追いつかないことがあります。仕様書の条件（温度・湿度・換気）を満たすまで待つのが基本です。
品質基準とチェックポイント（プロはここを見る）
- 平滑性：斜光での波打ち・ローラー目の残り具合
- 吸い込みムラ：上塗り1回で均一に仕上がるかを見極め
- 密着：テープはがれ試験など簡易確認（必要に応じて）
- 膜厚感：塗り面のコシ、ヘタリの有無
- 埃・ブツ：養生・清掃・動線管理で予防。付着物は研磨・除去の上で補修
「上塗りで直ればOK」という発想は、仕上がり不良の温床です。上塗りは“美観と表面性能の最終調整”。中塗りでの未解決は、最終肌に確実に現れます。
トラブル事例と対策
1. 透け・隠ぺい不足
- 原因：希釈過多、膜厚不足、材料選定ミスマッチ
- 対策：希釈率の見直し、ローラー毛丈の選定、上塗り色との組合せ再検討
2. ローラー目・ムラ
- 原因：乾き過ぎた面での塗り継ぎ、荷重の偏り、ローラーの劣化
- 対策：塗り継ぎは“生”で合わせる、ローラーはこまめに交換、広面は2人以上で追い付け
3. ピンホール・気泡
- 原因：下地の吸い込み差、撹拌時の空気巻き込み、厚塗り
- 対策：下塗りの見直し、撹拌速度の適正化、塗布量の均一化、必要に応じて中塗りの増し塗り
4. ダレ・縮み
- 原因：厚塗り、希釈過多、低温高湿、上塗りを急ぎすぎ
- 対策：仕様通りの希釈と乾燥、環境条件の調整（換気・加温）、面の向きに応じた作業スピード管理
5. 付着不良・剥離
- 原因：下地の汚れ・粉化、乾燥不足、異種材料の不適合
- 対策：ケレン・清掃の徹底、塗り重ね可能時間の厳守、適合するプライマーの選定
養生・乾燥・環境条件の管理
中塗りは「作業環境づくり」で品質が大きく変わります。
- 温度・湿度：極端な低温・高湿は乾燥遅延や白化、縮みの原因。可能なら換気や除湿で調整。
- 換気：溶剤系は火気厳禁。水性でも換気不足は乾きムラの原因に。
- 養生：テープの選定を誤ると糊残り・はがれの原因。撤去タイミングも重要（塗膜が柔らかい時は剥がし跡に注意）。
- 動線管理：塗装面に人が触れない導線を確保。ホコリ源を遮断。
使用材料と代表メーカー（参考）
「中塗り」は工程名で、専用材料がある場合と、上塗り材の1回目を中塗りと呼ぶ場合があります。材料は必ず仕様書とメーカーの技術資料に従って選定・施工してください。
- 日本ペイント：内装用水性塗料や下地調整材を幅広く展開。技術資料が充実。
- 関西ペイント：内装・外装の総合塗料メーカー。高意匠・機能塗料のラインアップも豊富。
- エスケー化研：建築仕上げ塗材の専門性が高く、下地調整材や仕上げの選択肢が多い。
左官材や防水材については、各工法の指定メーカー・工法書に準拠します。内装現場では、塗装仕上げと左官仕上げで要求が異なるため、工種ごとに材料の適合性を必ず確認しましょう。
現場での使い方
言い回し・別称
- 「中塗り」「中塗」「中塗り工程」
- （塗装で）「上塗り1回目＝中塗り」
- 「今日は中塗り止め（とめ）」：本日は中塗りで終了する段取りの意
- 「中合わせ」：上塗りの前に中塗り表面を軽く均して整えるニュアンスで使われることがある
使用例（3つ）
- 「午前で中塗り入れて、午後は乾かしてから上塗り1回目いきます。」
- 「ここ、サーフで拾いきれてないから中塗り厚めでならして。透けるようならもう一発検討。」
- 「中塗りの塗り継ぎが見えてる。ローラー目、上で消えないから今のうちに当て直そう。」
使う場面・工程
- 塗装：下塗り後、上塗りに入る前の平滑化・膜厚確保の工程として
- 左官：下地調整→中塗りで面精度を確保→上塗りで肌作り
- 塗り床・防水：下塗りで付着確保→中塗りで所定厚み→上塗りで仕上げ性能付与
関連語
- 下塗り：シーラー、プライマー、フィラー、サーフェーサー
- 上塗り：最終仕上げの塗り。1回目が中塗りにあたる場合あり
- サンディング（ペーパー当て）：中塗りの目粗し・肌調整
- 膜厚：ウェット/ドライで管理。仕様により要求が変わる
- 塗り重ね可能時間：中塗り→上塗りへ進むための待ち時間
「中塗り」で失敗しないためのコツ（具体的）
- 面を大きく切る：継ぎ目が残らないよう、壁面ごと、梁間ごと等で区切って一気に仕上げる
- 塗り継ぎは“生”で：乾ききる前に隣のスパンを追い付ける
- ローラー選定：平滑面は短毛でムラ少なく、粗面は中〜長毛で含みを確保
- 見切り管理：コーナーや廻り縁など、見切り部分は刷毛で先行しておくとローラーが走りやすい
- 照明を味方に：斜光やスポットで表面をなめるように見て、ムラやローラー目を早期発見
- 動線と清掃：ホコリ源の断絶、足元養生の破れ補修、作業中の清掃でブツ混入を予防
用語辞典ミニ（あわせて知っておくと便利）
- 吸い込み：下地が塗料を吸ってしまい、色や艶が不均一になる現象。中塗りで均一化。
- ピンホール：微小な孔。上塗りで埋まらない場合があり、中塗り段階で対処。
- ケレン：下地処理（研磨・清掃）。付着不良の防止に必須。
- サーフ（サーフェーサー）：下地調整塗材。下塗り〜中塗り的役割を担うこともある。
- フィラー：厚付けで凹凸を埋める下地調整材。
- 可使時間：混合後に施工可能な時間。二液型材料で重要。
よくある質問（初心者向けQ&A）
Q. 中塗りは必ず必要ですか？
A. 仕様によります。上塗り1回で成立する仕上げもありますが、平滑性や耐久性を重視する場合は中塗りが推奨されることが多いです。設計仕様書とメーカー資料を確認してください。
Q. 中塗りの材料は上塗りと同じでいいの？
A. 「上塗り材の1回目＝中塗り」とする仕様が一般的です。一方で、サーフェーサーを中塗りとする仕様などもあります。現場の仕様に合わせましょう。
Q. どれくらい乾かせば上塗りに進めますか？
A. 製品ごとの「塗り重ね可能時間」を確認してください。温度・湿度・風通しで変動します。慌てて重ねると縮みや剥離の原因になります。
Q. 中塗りでの研磨は必要？
A. 仕上げを良くするために軽い目粗し・肌調整を行う場合があります。粉塵は上塗り前に確実に除去します。
Q. 仕上がりにムラが出ます。原因は？
A. 吸い込み差、希釈過多、ローラー選定不適、塗り継ぎのタイミング、照明不足などが考えられます。中塗り段階で吸い込みと平滑性を整え、上塗りは均一に一気に仕上げるのがコツです。
まとめ：中塗りは「仕上がりの8割」を決める要の工程
中塗りは、単なる“真ん中の塗り”ではありません。下塗りで作った土台を「面」と「膜厚」に育て、上塗りが美しく、強く、ムラなく乗る状態に整える大切な工程です。手順の基本はシンプルでも、結果は中塗りの丁寧さで大きく変わります。仕様の理解、環境条件の管理、適切な工具・材料の選定、そして「上で直す」のではなく「中で仕上げる」意識が、プロの仕上がりへの近道。この記事を参考に、現場での会話も作業も、安心して一歩前へ進めてください。
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