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塗膜厚の基礎知識と測定方法|失敗しない塗装・現場管理のポイント

「塗膜厚」をやさしく理解するガイド|現場で迷わない測り方・基準・伝え方

「塗膜厚(とまくあつ)って、何をどう測ればいいの?」と不安になっていませんか。現場では当たり前のように飛び交う言葉ですが、実は “どの段階でどれくらい” を “何で測るか” によって意味が変わります。本記事では、内装・建築の現場で本当に役立つ実践目線で、塗膜厚の基本から測定方法、注意点、現場での言い回しまでを丁寧に解説します。読み終えるころには、仕様の読み解きや職人さん・監督とのやりとりもスムーズになり、施工管理や検査で迷わなくなるはずです。

現場ワード(塗膜厚)

読み仮名とまくあつ
英語表記Coating thickness(乾燥塗膜厚:Dry Film Thickness=DFT/湿潤塗膜厚:Wet Film Thickness=WFT)

定義

塗膜厚とは、塗料を塗った時にできる「塗膜(ぬれる前の塗料が乾いて固まった層)」の厚みのことです。測るタイミングにより意味が2つに分かれ、塗装直後の濡れている状態の厚みが「湿潤塗膜厚(WFT)」、乾燥・硬化後の厚みが「乾燥塗膜厚(DFT)」です。一般に「塗膜厚」と言えばDFTを指すことが多く、性能評価(耐久性・防錆・耐薬品性など)や検査基準はDFTで規定されます。単位は主にμm(ミクロン)で、1μm=0.001mm。内装の美装塗装から床・防水・鉄骨の防錆塗装まで、品質を左右する重要な管理項目です。

なぜ塗膜厚が重要か(現場での意味)

塗膜厚は見た目だけでなく、仕上がりの強さや長持ち具合、再塗装時期、施工コストに直結します。薄すぎれば下地の透け・ムラ・早期劣化、厚すぎればタレ・割れ・乾燥不良などの不具合を招きます。適正な膜厚は「設計性能を成立させる最低条件」であり、過不足のない管理が現場品質の肝です。

  • 薄すぎると:下地の吸い込み残り、色ムラ、早期チョーキング、さび発生(鉄部)、防水性不足など
  • 厚すぎると:タレ・しわ、ピンホール閉じ不良、割れ・ベタつき、乾燥遅延、付着力低下、溶剤閉じ込め
  • 適正管理の効果:仕様性能を満たす、仕上がりが安定、手戻り防止、材料・工期の最適化

単位と基礎知識(μmと回数の考え方)

塗膜厚の単位はμm(ミクロン)。1μmは0.001mm、100μmで0.1mmです。一般的な室内壁・天井の上塗り1回あたりの乾燥膜厚はおおむね20~40μm程度、錆止めやプライマーは30~60μm程度が目安です(必ず材料ごとのメーカー仕様書を優先)。同じ材料でも希釈や塗り方で膜厚は変わるため、仕様・推奨塗付量(g/m²やL/m²)・希釈率・回数をセットで確認しましょう。

湿潤から乾燥への変化は、塗料の「体積固形分(SV:Solids by Volume)」がカギです。乾燥膜厚(DFT)≒ 湿潤膜厚(WFT)× SV(%)/100 で概算できます。たとえば、目標DFT 60μm・体積固形分50%なら、必要WFTは約120μmです。

測定方法と道具(DFT/WFTの実践)

乾燥後に測る(DFT:仕上がり検査の基本)

乾燥塗膜厚は性能評価の基準です。金属下地では非破壊で測定するのが一般的です。

  • 磁気・電磁式膜厚計(鉄・非鉄金属下地):鋼材や亜鉛めっき、アルミなどの金属下地に使える現場の定番。プローブを当てるだけでμm単位の数値が出ます。
  • 超音波式膜厚計(非金属下地向け):コンクリート、木、プラスチック、FRPなど金属以外に対応するタイプ。材料や曲面で誤差が出やすいので、校正と測定条件に注意。
  • 断面法(破壊検査):微小切断して顕微鏡等で測る方法。精度は高いが仕上げを傷めるため、試験片や見えない部位で実施。

測定前は「ゼロ点合わせ(未塗装の母材やゼロ板)」「校正用シム(既知厚みの薄板)」で機器を合わせるのが必須。下地粗さ・温湿度・曲率・プローブの当て方でも数値は変動します。

施工中に測る(WFT:塗りながら合せる)

湿潤塗膜厚は塗装直後の厚み。WFTゲージ(コームゲージ)を塗面に垂直に当て、どの歯まで濡れたかで厚みを読みます。読み取ったWFTに体積固形分を掛けるとDFTの概算がわかります。ローラーやスプレーのスピード・希釈・吐出量をその場で調整し、狙いの膜厚へ寄せていくのがコツです。

測定の基本手順(現場標準)

  • 仕様確認:目標DFT・許容差・測定方法・測定点数(エリアあたりのサンプル数)を合意する。
  • 機器準備:ゼロ板・校正シムで校正、電池残量確認、温湿度・下地状態を記録。
  • 測定ポイントの分散:端部・角・溶接止端(鉄骨)・見切り・見上げ面など偏りなく採取。
  • 繰り返し測定:同一点で複数回読んで平均化(プローブの当て方誤差を除去)。
  • 記録と写真:数値、位置、時間、環境条件、使用材料ロットを残す(トレーサビリティ)。
  • 是正判断:不足は追い塗り、過多はサンディングや時間置きで処置。必ず再測定。

よく使われる膜厚計メーカー(代表例)

  • Elcometer(エルコメーター):英国発の測定器総合メーカー。金属下地用DFT計の定番。
  • DeFelsko(デフェルスコ/PosiTector):米国メーカー。多用途プローブで現場での信頼性が高い。
  • ケツト科学研究所(Kett):日本メーカー。塗膜・材料測定の計測機器を幅広く展開。
  • 新潟精機(SK):日本メーカー。現場で扱いやすいコスパの良い膜厚計もラインアップ。

メーカーや型式により測定原理・対応下地・精度が異なるため、対象物(鉄骨・亜鉛めっき・アルミ・木部・石膏ボード・床材など)に合う機器を選定してください。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では「膜厚(まくあつ)」「膜圧(まくあつ)」「塗厚(とあつ)」「DFT(ディーエフティー)」「WFT(ダブリューエフティー)」「ミクロン」など、文脈に応じて呼ばれます。金属下地の検査では「乾膜で〇〇ミクロン確保」「平均で〇〇、最小△△」といった会話が一般的です。

使用例(3つ)

  • 「この面、DFTで最低60μmは欲しいから、WFTは120μmくらいでいこう(体積固形分50%想定)」
  • 「パテ吸い込みが強い。シーラー追加で下地を止めてから、上塗り膜厚を稼ごう」
  • 「タレが出る厚さになってる。ローラー替えて希釈見直し、コームでWFT見ながら調整しよう」

使う場面・工程

主に次のシーンで使われます。仕様打合せ(必要DFT・回数・材料選定)/塗装中の管理(WFTで追従)/乾燥後の検査(DFTで合否判定)/再塗装境界の確認(既存膜厚の把握)/防水や床塗りの厚み保証(mmオーダーの厚膜管理)。内装では石膏ボードの下地処理→シーラー→上塗り、金属部はケレン→下塗り(防錆)→中塗り→上塗り、床はプライマー→中塗り→上塗りなど、各工程で「どの層の膜厚をどれだけ確保するか」を確認します。

関連語

  • 体積固形分(SV):乾燥後に残る体積比。WFTからDFTを見積もる鍵。
  • 付着強度:塗膜が下地にどれだけ密着しているか。過厚や乾燥不良で低下しやすい。
  • 下地粗さ(表面プロファイル):粗いほど見かけの膜厚に影響。ゼロ校正や測定点分散が重要。
  • 塗付量:単位面積あたりに塗る量(g/m²、L/m²)。膜厚と強い相関。
  • 可使時間・再塗装時間(ポットライフ/リコート):厚みや温湿度に左右される。
  • JIS/ISO:JIS K 5600(塗料一般試験方法)、ISO 2808(塗膜厚測定)などが代表的な規格。

規格値・許容差の考え方(合否の決め方)

最優先は「設計仕様書・メーカー施工要領」です。一般的な判断は次の組み合わせで行います。(1)エリア平均で目標値以上、(2)各測定点の最小値は一定割合を下回らない、(3)過大な極厚やタレがない。鉄部防錆では最小値の下限を厳しめに設定し、内装美装では均一性と視感品質を重視するなど、目的に応じた基準が採られます。規格の細目(測定点数・統計処理など)はプロジェクトで取り決め、記録に残しましょう。

材料・部位別の目安(参考レンジ)

以下は経験的な一般レンジです。必ず材料の技術資料・施工要領を優先してください。

  • 室内壁・天井(合成樹脂エマルション塗料):上塗り1回あたりDFTおよそ20~40μm、2回で40~80μm。
  • シーラー(ボード用):DFT約5~15μm(目的は吸い込み止め・付着確保)。
  • 金属部防錆(エポキシ系下塗り):1層あたりDFT約30~60μm、仕様により多層で総120μm以上など。
  • 床塗り(エポキシ・ウレタン):中塗り~上塗りで1層DFT約150~300μm、流しのべや自流平でさらに厚膜。
  • 防水(ウレタン塗膜):総膜厚で1~2mm(1000~2000μm)程度の仕様が一般的。

同じ名称の材料でも製品差が大きく、希釈や施工方法で膜厚は容易に変動します。必ず仕様書で確認してください。

よくある失敗と対策

  • 薄い(規定未満):吸い込み・ローラーの選定ミス・希釈過多が原因。対策はシーラー増し、ローラー毛丈変更、希釈率見直し、塗り重ね。
  • 厚い(タレ・割れ):一度に塗りすぎ、温湿度不適、乾燥前に重ね塗り。対策は塗布量の均一化、希釈最適化、インターバル厳守、必要ならサンディング・再塗装。
  • 数値がバラつく:校正不足、測定姿勢不安定、粗さ・曲率影響。対策はゼロ校正、同一点複数測定、端部・溶接部の扱いルール化。
  • 乾燥が遅い:過厚・低温高湿・換気不足。対策は環境管理(養生・送風・加温)、適正希釈、膜厚コントロール。

品質管理チェックリスト(そのまま使える)

  • 仕様確認:目標DFT/許容差/回数/塗付量/測定方法の合意はOK?
  • 機器準備:膜厚計の校正証明・ゼロ板・シム・電池・WFTゲージはそろった?
  • 環境条件:温度・湿度・露点差・下地含水率は基準内?ログは残した?
  • 施工条件:希釈率・ローラー毛丈・吐出量・ノズル径・施工スピードは仕様通り?
  • 測定計画:1エリア当たりの測定点数・分散位置・再測タイミングは決めた?
  • 記録:測定値、写真、位置図、材料ロット、施工者、時間を記録した?
  • 是正:不足や過厚時の手順・誰が判断するかを事前に決めている?
  • 引き継ぎ:次工程(クロス・床・設備)への情報共有は完了?

計算と実務のコツ(すぐ使える例)

目標DFT 60μm、体積固形分50%の塗料を1回で仕上げたい場合、必要WFTは60÷0.5=120μmです。WFTコームで120μm付近を狙い、タレが出るなら2回に分け(各WFT60μm→各DFT約30μm)最終DFTを満たします。

面積あたりの材料使用量の目安は、DFT(m)× 面積(m²)× 比重(kg/L) ÷ 体積固形分(%)で概算できます。例えば、DFT 80μm(0.00008m)、100m²、比重1.3、体積固形分50%なら、0.00008×100×1.3÷0.5=0.0208(約21kg)と見積もれます(ロスを別途加味)。

内装現場での小ワザ(職人の実感値)

  • ローラー選びで膜厚が決まる:毛丈が長いほど膜厚は乗りやすいが、タレに注意。天井は一段短めでコントロールしやすく。
  • 吸い込み止めはケチらない:シーラー不足は上塗りを何回重ねてもムラが消えにくい。適正膜厚の近道は下地を安定させること。
  • 見切りと角は要追加:角部はローラーが当たりにくく膜厚が不足しがち。先に刷毛で拾ってから転がす。
  • WFTゲージはすぐ拭く:乾くと正しく使えない。測ったら即清掃で精度維持。
  • 「平均」と「最小値」を意識:見た目が良くても部分不足があるとNG。面でのバランス管理が重要。

JIS・ISOなど規格の位置づけ

塗膜厚測定は、国内ではJIS K 5600(塗料一般試験方法)に関連する試験法、国際的にはISO 2808(塗膜厚の測定)が代表的な参考規格です。プロジェクト仕様やメーカー要領が最上位ですが、測定原理や用語のよりどころとしてこれら規格が参照されることが多いです。詳細数値や採点方法は案件ごとの取り決めに従いましょう。

トラブル未然防止(コミュニケーションの型)

塗膜厚トラブルの多くは「期待値のすり合わせ不足」。着手前に「目標DFT・WFT・回数・測定方法・合否基準」を書面化し、同じ測定器・同じポイントで立ち会い確認すると、後の食い違いが激減します。写真と数値のセット記録で、是正の要否も客観的に判断できます。

よくある質問(Q&A)

Q. DFTとWFT、どっちを見ればいい?

A. 品質の合否はDFT(乾燥膜厚)で判定するのが原則。施工中のコントロールにはWFTを使い、DFTを狙いにいきます。

Q. 何点くらい測れば十分?

A. 仕様に従いますが、面積が広いほど点数は増やします。1エリアで最低でも数点、角・端部・目立つ面を分散して採るのが実務的です。

Q. 曲面や角で数値が低いのは不良?

A. 角・段差・溶接止端は膜厚が付きにくく、測定誤差も出やすい部位。規格上、別基準を設けるか、先行刷毛・局所増し塗りで対処します。

Q. 厚く塗れば長持ちする?

A. 目的によっては有効ですが、過厚はタレ・割れ・付着低下など逆効果も。メーカーの推奨レンジ内で、層を分けて積むのが安全です。

Q. 既存の塗膜厚はどう測る?

A. 金属下地なら非破壊計で推定可能。非金属下地は超音波で見られる場合もありますが、確実なのは断面確認(試験片)です。仕上げを傷つけない範囲で検討します。

まとめ(今日から現場で役立つポイント)

塗膜厚は「いつ・何で・どれくらい」を整理すれば難しくありません。施工中はWFTで狙いを合わせ、仕上がりはDFTで確認。仕様やメーカー要領を最優先に、校正・測定点の分散・記録の3点を押さえれば、ムラ・不足・タレといった定番トラブルを大きく減らせます。現場では「平均」と「最小値」を意識し、数値と写真で共通言語化。これだけで品質管理の納得感がぐっと高まります。明日の現場から、ぜひ試してみてください。

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執筆者: 株式会社MIRIX(ミリックス)

内装工事/原状回復/リノベーション/設備更新(空調・衛生・電気)

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  • 事業内容:内装工事、原状回復、リノベーション、設備更新(空調・水道・衛生・電気)、レイアウト設計、法令手続き支援など内装全般
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  • 実績:内装仕上げ一式、オフィス原状回復、オフィス移転、戸建てリノベーション、飲食店内装、スケルトン戻し・軽天間仕切・床/壁/天井仕上げ、設備更新 等
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