鏝塗りの基礎から現場のリアルまで。意味・手順・コツをやさしく解説
「鏝塗り(こてぬり)」ってよく聞くけど、具体的に何をどうする作業なの?漆喰や珪藻土の壁、土間コンクリートのピカピカ仕上げ……同じ鏝塗りでも実はやり方も道具も違います。この記事では、内装工事や左官の現場で日常的に使われる現場ワード「鏝塗り」を、初心者の方にもわかりやすく、実践レベルで整理して解説します。読み終える頃には、現場での指示や会話の意味がスッと理解でき、依頼やDIYにも自信が持てるはずです。
現場ワード(鏝塗り)
| 読み仮名 | こてぬり |
|---|---|
| 英語表記 | trowel application(troweling) |
定義
鏝塗りとは、鏝(こて)という平らな板状の道具で、モルタル・漆喰・珪藻土・石こうプラスターなどの塗材を下地に塗り広げ、厚みを整え、表面を平滑または意匠的に仕上げる施工技法です。壁・天井の塗り壁仕上げや、床(特に土間コンクリート)の金鏝仕上げなどに用いられます。塗る厚さ、鏝の角度と圧、押さえるタイミングで、強度・密着・表情(ツヤ、テクスチャ)が大きく変わるのが特徴です。
鏝塗りの全体像をまず押さえる
鏝塗りでどんな仕上がりができる?
鏝塗りは「平らにする」だけでなく、素材感を生かした多彩な表情づくりが得意です。たとえば、漆喰なら艶を抑えた柔らかなマット肌、珪藻土なら粒感のある呼吸する壁、モルタルなら硬質でシャープな表現、床の金鏝仕上げなら緻密でつやのある面が得られます。鏝跡を残す意匠、骨材のザラつきを見せる意匠、コテムラをあえて活かす意匠など、デザインの幅も広いのが魅力です。
よく使う材料の例と特徴
鏝塗りに使われる代表的な材料は次の通りです。いずれもメーカー仕様書(配合、水量、下地処理、施工温度など)に従うのが基本です。
- 漆喰:消石灰を主成分。白く上品なマット仕上げ。吸放湿や調湿性をうたう製品も多い。
- 珪藻土:多孔質の珪藻殻を含む塗材。粒感のある柔らかい風合い。製品により配合が大きく異なる。
- 石こうプラスター:室内壁・天井に用いられることが多く、仕上がりがなめらか。乾きが早いタイプも。
- モルタル(セメント+砂):下地調整から仕上げまで用途が広い。硬く収縮もあるため、目地・クラック対策が重要。
- 意匠性仕上げ材:例)骨材入りや樹脂改良の塗材、コテ模様やテクスチャを楽しむ仕上げ。なお「ジョリパット」はアイカ工業株式会社の登録商標で、代表的な意匠性塗材の名称として知られています。
道具(鏝と関連ツール)の基本
鏝は用途で形状・材質が異なります。現場では複数の鏝を使い分けます。
- 木鏝:荒塗りや下地のならしに。水引きを適度に早める。
- 中塗り鏝(角鏝):面を起こす、厚みを付ける、平面化する基本鏝。
- 仕上げ鏝(ステンレス鏝など):表面のキメを整え、押さえてツヤ・緻密さを出す。
- プラスチック鏝・ゴム鏝:柔らかい塗材や微妙な表情出しに。
- 目地鏝・先丸鏝:隅や細部・曲面に対応。
- コテ板(角手板):塗材を受ける板。材料の運搬と作業効率に不可欠。
- その他:撹拌用ミキサー、練り舟、プライマー・シーラー類、マスキング・養生材、見切り材など。
施工の流れ(内装壁の例)
実際の仕様は材料と下地で変わりますが、内装壁での一般的な流れは次の通りです。
- 下地確認・処理:ビス頭、段差、欠損、粉塵をチェック。石膏ボードならジョイントをパテ処理し、必要に応じてファイバーテープ。吸水ムラ対策にシーラーやプライマーを塗布。
- 養生:床・巾木・建具・設備を保護。見切りラインをテープで明確に。
- 下塗り(荒塗り):下地の凹凸を埋め、面と厚みを確保。1〜数mm程度(仕様による)。
- 中塗り:平面精度の向上。素材により「追っかけ押さえ」で肌を締める。
- 上塗り(仕上げ):押さえや鏝運びで表情を整え、狙いの肌感・ツヤへ。
- 養生・乾燥:メーカー推奨の温湿度管理。低温・高湿度は白華や不具合の原因に。
現場での使い方
言い回し・別称
- こて塗り/鏝押さえ/金鏝仕上げ(床や硬いツヤ仕上げ)/木鏝仕上げ(マットでやわらかい肌感)
- 追っかけ押さえ(乾き具合を追いながらタイミングよく押さえること)
- 地返し(ある程度締まった段階で再度押さえ直すこと)
- 肌合わせ(既存面と新設面の肌感を合わせること)
使用例(現場会話のイメージ・3つ)
- 「今日は中塗りまで。明日、追っかけで鏝押さえして最終仕上げ入るよ。」
- 「この壁は金鏝じゃなくて、やわらかめのマット仕上げで。鏝ムラは少し残して表情を出そう。」
- 「巾木際は先に見切り入れて、角は先丸で納めてね。鏝跡が立たないように。」
使う場面・工程
- 内装壁・天井の塗り壁(漆喰、珪藻土、プラスター、意匠材など)
- 下地調整(モルタルで面を起こす、欠損補修をする)
- 土間コンクリートの金鏝仕上げ(駐車場・ガレージ・倉庫・店舗バックヤードなど)
- 水回りや外部の塗り(材料と仕様が内装と異なるため、下地と防水計画に注意)
関連語
- 鏝(こて):塗り広げ・押さえの道具。材質・形状で用途が違う。
- 金鏝仕上げ:金属鏝で強く押さえ、緻密でツヤのある仕上がりにすること(床や硬質意匠など)。
- 木鏝仕上げ:木鏝で押さえ、やわらかいマットな質感に。
- 下塗り/中塗り/上塗り:塗り重ねの段階。面精度と肌感を段階的に整える。
- 押さえ:鏝で圧をかけて表面を締め、平滑さ・強度・ツヤを出す操作。
- 見切り:仕上げ材の塗り止め・境界をきれいに納めるための部材や処理。
- 養生:汚れ防止や乾燥環境を整える準備。
仕上がりを安定させるコツ(プロの視点)
鏝の角度と圧のコントロール
鏝の角度(面に対する傾き)は低いほど材料を「伸ばす」効果が強く、高いほど材料を「削る・押さえる」方向に働きます。最初は低めの角度で均一に伸ばし、面が起きたら角度を少し立てて押さえへ移行。強すぎる圧は鏝跡・焼き・引きずりの原因、弱すぎれば締まり不足で粉っぽくなります。コツは「均一な速度」「一定の圧」「ストロークの重なりを半分程度に保つ」ことです。
押さえるタイミング(追っかけ押さえ)
塗材は水分が抜けるにつれて締まっていきます。早すぎる押さえは表面だけツルっとして中が柔らかい状態になり、遅すぎると引っかき傷やカスレが出ます。指で軽く触れて「指先が少し跡を残すが、ベタつかない」くらいが一つの目安。面積が広いと乾きムラが出るため、段取り(人員配置・塗る順序・日当り)で時間差を吸収します。
下地を制す=仕上がりを制す
粉塵や遊離石膏、油分は密着不良の原因。吸水ムラは色ムラ・押さえムラを誘発します。下地の清掃・補修・シール処理、必要に応じたプライマーやシーラーの塗布は最優先事項。特に石膏ボードではジョイント・ビス頭の処理を丁寧に行い、段差を事前に消しておくと鏝の運びが安定してムラが激減します。
角・端部・見切りを先に決める
仕上げの美しさは角と見切りに現れます。内部コーナーは先丸鏝で押さえすぎない、外部コーナーはアールを付けるかコーナー材で保護するか、見切り材のラインはレーザー・定規で直線を出すなど、面を塗る前に納まりを確定させることが重要です。
よくある不具合と対策
鏝ムラ・鏝跡が目立つ
原因は押さえのタイミングズレ、圧のバラつき、鏝面の汚れ、下地の吸水ムラなど。対策は「道具の清掃徹底」「面積を分割してリズムを合わせる」「下地のシール」「同じ鏝で仕上げまで通す(肌を揃える)」が有効です。
ピンホール(小さな穴)
混入空気、骨材の偏り、下地の吸い込み過多が要因。撹拌時の空気巻き込みを減らし、塗り出しは押し付けすぎず、仕上げ段階で軽くならす。製品によっては下塗り専用材・フィラーを推奨する場合があります。
ひび割れ(クラック)
乾燥収縮、下地の動き、厚塗り、急乾燥が原因。仕様に合った厚みを守り、目地設計(入隅・開口周り)、場合によってはファイバーネットやスサを併用。直射日光・風による急乾はシート養生で抑えます。
白華(エフロレッセンス)
セメント系の土間やモルタルで、アルカリ分が表面に析出して白くなる現象。強制乾燥や大量の水かけ、低温多湿で起きやすい。急激な加水・乾燥を避け、適切な養生・温湿度管理を行います。
施工環境と安全・養生
温湿度の目安
多くの塗材は低温(概ね5℃未満)や高湿度で性能が出にくくなります。結露しやすい環境、直射日光や強風も不具合の原因。メーカーの推奨温湿度域を守り、季節によっては送風・除湿・加湿・保温を組み合わせて安定させます。
粉じん・皮膚保護
混練・研磨では粉じんが出るため、保護メガネ・防じんマスク・手袋は基本装備。セメントや石灰はアルカリ性で皮膚刺激があるため、素手での長時間作業は避け、付着したら早めに洗い流します。
養生の基本
床や巾木、サッシ、設備機器は飛散と擦れから守る。テープは仕上げ材に適した粘着タイプを選定し、剥がし時の糊残り・表面剥離に注意。角は当てキズが出やすいので保護材を厚めに。
内装壁の具体的な段取り(例:漆喰仕上げ)
1. 下地チェックとプライミング
石膏ボードのジョイントはテープ+パテでフラットに。全体を清掃し、吸い込みを均一化するプライマーやシーラーを適用。ここでムラを抑えるほど仕上げが安定します。
2. 下塗り(荒塗り)
木鏝や中塗り鏝で塗り付け、厚みと平面を確保。端部・見切り・内部コーナーなど細部から先に取り、全体をならす。厚みは仕様に合わせて無理に盛らない。
3. 中塗り〜上塗り
面を起こして平滑化。乾き具合を見ながら追っかけで押さえ、仕上げ鏝で肌を整える。意匠で鏝跡を残す場合も、乱れた筋ではなく統一方向・間隔でリズムを作ると美しいです。
4. 養生・タッチアップ
所定の乾燥時間を確保。小さなピンホールや段差は軽微な補修で整える。見切りテープは仕上げが落ち着いてから丁寧に剥がします。
土間コンクリートの金鏝仕上げのポイント
タイミングが命
打設→均し→金鏝で締める流れ。早すぎると水が浮いて表面が弱くなり、遅すぎると鏝が入らず表面が荒れます。足跡が浅く残る程度、表面水が引いた頃合いを狙って複数回押さえます。
目地計画
乾燥収縮に伴うひび割れを抑えるため、スパンや形状に応じて目地を計画。出入口や柱際など、応力が集中する部位ほど割れやすいため注意します。
仕上げの選択
屋外の滑りに配慮する場合は、金鏝でツルツルにしすぎず刷毛引きやバーナー仕上げなど、用途に合わせて滑り抵抗を確保します。
DIYとプロの違い・依頼時のチェックポイント
DIYのコツ
- 面積を小さく区切る(乾きに追われない)
- 道具は最小限でも「中塗り鏝+仕上げ鏝+コテ板」を確保
- 下地処理とプライマーを丁寧に
- 鏝跡の方向を統一し、継ぎ目を意識して消す
プロに依頼する際の伝え方
- 狙いの肌感(マット・ツヤ・鏝跡の有無・粗さ)
- 色・材料の種類(メーカー指定があれば製品名)
- 下地の状態(既存仕上げ、補修の有無、面積、場所)
- メンテナンス性(汚れやすさ・補修のしやすさ)
- 工程・工期(他 trades との取り合い、換気・温度条件)
単価は地域・面積・材料・下地状況で大きく変動します。相見積もりの際は仕様書・面積・写真を共有し、同一条件で比較すると誤差が少なくなります。
用語辞典(鏝塗りまわりでよく出る言葉)
- 鏝圧(こてあつ):鏝で押さえる力のこと。強すぎると鏝焼けやムラの原因。
- 水引き:塗材の水分が下地や空気に抜けていく現象。押さえタイミングの指標。
- ノロ:微細なセメントや石灰の上澄み状スラリー。床の金鏝で表面に出やすい。
- 肌(はだ):仕上がり表面の質感。きめ細かい、ザラつき、鏝ムラなどの総称。
- 見切り材:塗り止め・境界を美しく納めるためのL型やフラット材。
- ファイバーネット:ひび割れ抑制のため下地や面に伏せ込む補強材。
- スサ:植物繊維などの短繊維。割れ防止や意匠に用いる。
ケース別の注意点
リフォームで既存クロスの上に塗る場合
クロスの種類・下地の状態で可否が分かれます。ビニールクロスは密着が悪く、専用プライマーや剥がしが必要なことも。浮きや劣化があれば補修してから。メーカー仕様に沿った下地処理が必須です。
水回りや外部での鏝塗り
防水・防汚・耐候を前提に設計する必要があります。下地の含水率管理や専用の下塗り材、トップコートなど、屋内とは別の仕様が指定されるのが一般的です。
色決めとサンプル
塗り材は厚み・押さえ方・照明で見え方が変わります。可能ならA4以上の実塗りサンプルで確認。広い面になると色が明るく見える「面積効果」も考慮しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 鏝塗りとローラー塗りの違いは?
A. 鏝塗りは厚みを持たせて面を作る・肌をデザインするのが得意。ローラーは薄塗りの塗装仕上げが得意で、平滑度は下地精度に依存します。求める質感・性能で使い分けます。
Q2. どれくらいの厚さで塗るの?
A. 材料と仕様で幅がありますが、内装の仕上げ層はおおむね1〜数mm程度、下地調整を含めると合計で数mm〜10mm程度になることも。必ず製品の設計厚みを守ってください。
Q3. 乾燥時間はどのくらい?
A. 気温・湿度・風で変わります。触れるまで数時間〜1日、完全乾燥・強度発現は数日〜数週間が目安の材料もあります。カビや白華を避けるため、換気と温湿度管理が大切です。
Q4. メンテナンスは難しい?
A. 漆喰・珪藻土は基本ドライクリーニング(消しゴムややわらかいブラシ)で軽微な汚れは対応可能。シミや欠けは部分補修や上塗りで直すことも。補修の可否は材料によります。
Q5. 土間をツルツルにしたいけど滑りは大丈夫?
A. 金鏝で鏡面に近づけるほど濡れたとき滑りやすくなります。屋外や水がかりは刷毛引きなどのテクスチャを検討してください。用途優先で選ぶのが安全です。
チェックリスト(発注前・着工前に)
- どんな肌感・表情にしたいか写真やサンプルで共有済み
- 下地の種類・状態・補修範囲を現地で確認
- 材料の仕様書(温湿度・厚み・乾燥時間)を全員で共有
- 他工種の工程(電気・設備・建具)と取り合い調整済み
- 養生計画と見切り部材の有無を確定
まとめ:鏝塗りは「道具×タイミング×下地」で決まる
鏝塗りは、鏝の種類と運び、押さえのタイミング、下地のコンディションの三位一体で仕上がりが決まります。言い換えれば、基本を丁寧に押さえれば、誰にでも質の高い面に近づける技法です。現場では「追っかけ押さえ」「金鏝・木鏝」「肌合わせ」などの言い回しが飛び交いますが、言葉の裏にある狙い(強度・意匠・納まり)を理解できれば、コミュニケーションが格段にスムーズになります。この記事を足がかりに、材料の仕様書と現場の条件を照らし合わせながら、あなたが目指す理想の仕上げに近づいていってください。









