内装現場ワード解説:珪藻土の基礎・活かし方・失敗回避のポイント
「珪藻土って何?」「左官仕上げとどう違うの?」——はじめて内装の仕上げ材を調べると、似た言葉が多くて戸惑いますよね。本記事では、現場の職人が日常的に使う“現場ワード”としての「珪藻土」を、やさしく実践的に解説します。特徴やメリット・デメリット、現場での言い回し、正しい施工手順、トラブル回避まで、初めての方でもイメージできるよう丁寧にまとめました。読み終える頃には「どんな場面で珪藻土を選ぶべきか」「何に気をつければ失敗しないか」がスッキリ分かります。
現場ワード(珪藻土)
| 読み仮名 | けいそうど |
|---|---|
| 英語表記 | diatomaceous earth |
定義
珪藻土は、藻類の一種「珪藻」の殻が長い時間をかけて堆積し、できあがった多孔質の鉱物(堆積土)です。内装現場では、粉体の珪藻土に結合材(石灰・セメント・デンプン系・樹脂系など)や骨材、繊維、着色材を配合した「塗り壁材」の総称として使われることが一般的です。微細な孔が湿気やニオイを吸着・放出するため、調湿・脱臭性を期待して壁や天井に採用されます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のように呼ばれることがあります。文脈により指している素材の範囲が違うことがあるので、誤解防止のために「製品名」「系統(無機・樹脂)」も確認しましょう。
- けいそうど/けいそう(略称)
- 珪藻土塗り/珪藻土仕上げ(左官仕上げの一種を指す)
- 調湿塗り(調湿機能を主眼とした呼び方)
- 珪藻土パテ(既調合の補修材を指すことがあるが、製品により用途は異なる)
似た意味で「しっくい(石灰系)」「ジョリ(ジョリパット等の樹脂系意匠材)」と混同されることがありますが、成分・仕上がり・メンテ性が異なります。
使用例(現場の会話)
- 「この部屋は壁・天井とも珪藻土ね。PBはパテまでで止めて、下塗りからでいこう。」
- 「仕上げはフラットじゃなくてラフ押さえで。鏝波は浅め、厚みは2ミリ以内で。」
- 「既存クロスの上は吸い込み悪いから、まずシーラー入れて密着見てから珪藻土かけよう。」
使う場面・工程
採用シーンは居室・寝室・廊下・リビング・書斎・天井など。水はねが多い浴室・洗い場・屋外は基本的に不向き(製品により可否が異なる)。
一般的な工程は以下です。
- 下地確認(石膏ボード・モルタル・コンクリート・既存クロスなど)と含水率チェック
- 段差・ビス穴・ジョイントのパテ処理、不陸調整、目地テープ処理
- 下地専用シーラー(吸い込み・密着の均一化)
- 珪藻土の練り(規定の加水、ダマつぶし、静置で水なじみ)
- 塗り付け(1〜2回、合計1〜3mmが目安)と鏝押さえ・仕上げパターン形成
- 養生・乾燥(通風管理、急乾・過乾を避ける)
関連語
- しっくい(消石灰主体の無機左官材。硬化性・耐水性・アルカリ性が強い)
- ジョリパット(アクリル樹脂系意匠塗材の代表ブランド。屋内外で使われる)
- シーラー(下地の吸い込み抑制・密着向上剤)
- パテ(不陸・段差・ビス頭・ジョイント処理材)
- 鏝(こて)・鏝板(コテ板)・撹拌機(ミキサー)
珪藻土の基礎知識と特徴
珪藻土は、無数の微細孔(ミクロ〜ナノ)を持ち、湿度が高いときは水分を内部に取り込み、乾燥時には放出する“調湿材”として働きます。産地としては日本では北海道稚内地域の「稚内珪藻土」などが知られ、壁材製品では各種の結合材・繊維・骨材と配合して使われます。
メリット
- 調湿性:結露抑制やジメジメ感の緩和に寄与(効果は厚み・面積・仕上げ・結合材比率に依存)
- 脱臭・VOC吸着:生活臭の軽減に寄与(喫煙・強い油臭などは限界あり)
- 不燃性:無機骨格が主体で燃えにくく、火災時に有毒ガスを出しにくい
- 質感:マットで温かみのある意匠、手仕事の表情(フラット〜ラフまで可能)
- 静電気が起きにくい:粉塵が付着しにくく、室内の清潔感に寄与
- 部分補修が比較的容易:同材料でのパッチが可能(色合わせは要配慮)
デメリット
- 汚れやすさ:擦り汚れ・水じみが残りやすい(トップコートで軽減するが調湿性は弱まる)
- 表面強度:樹脂塗装やビニルクロスより弱く、角や出隅の欠け・粉落ちが起きやすい
- クラック:下地の動き・乾燥条件・厚塗りで微細なひびが出ることがある
- 色むら:下地吸い込み差・乾燥ムラ・押さえムラで生じやすい
- 工期:乾燥・養生に時間が必要、天候・湿度影響を受けやすい
種類と選び方(製品の系統)
「珪藻土仕上げ」と一口にいっても結合材や配合により性質が変わります。図面・仕様書・カタログで「系統」「適用下地」「標準塗厚」「可使時間」「F☆☆☆☆等級」などを確認しましょう。
- 無機系(石灰・セメント・粘土など)主体:調湿性・不燃性が高く、塗り感は左官的。アルカリ性・ひび対策に留意。
- 樹脂系(アクリルなど)主体:施工性や表面強度が高い一方で、調湿性は低下しがち。クロス上にも適合しやすい製品がある。
- ハイブリッド系:無機と樹脂のバランス型。扱いやすさと機能の折衷。
選定のポイント:
- 含有率と機能:珪藻土の配合量や孔の活用をうたう仕組み(焼成・造粒・粒度)
- 仕上げ意匠:フラット・ゆず肌・ラフ・パターン可否と必要塗厚
- 適用下地:PB(石膏ボード)・モルタル・RC・既存クロスへの直塗り可否
- 施工条件:温湿度範囲、可使時間(ポットライフ)、乾燥時間
- 安全性:室内空気品質(F☆☆☆☆等級相当)、臭気、粉じん管理
施工手順(プロが押さえる基本)
施工の成否は「下地」「含水率」「養生」に大きく左右されます。以下は一般的な流れです(製品仕様が優先)。
- 現場条件の確認:室温5〜35℃、相対湿度85%以下が目安。冬季は結露・急乾、夏季は過湿に注意。
- 下地調整:ビス頭・ジョイントのパテ2〜3回、目地テープ入れ。出隅はコーナービートで欠け対策。
- シーラー:吸い込みの均一化・密着向上。クロス上は専用シーラーが必要な場合が多い。
- 材料練り:清水で規定比にて撹拌。ダマを潰し、5〜10分静置後に再攪拌するとなじみやすい。
- 塗り付け:下塗り0.5〜1.0mm、上塗り0.5〜1.5mm程度。合計1〜3mmが標準レンジ。
- 押さえ:半硬化時に鏝圧で面を締める。押さえ過ぎはムラ・焼け・鏝跡の原因。
- 仕上げ:フラット、ラフ、パターン(刷毛引き等)を設計意図に合わせて作る。
- 乾燥・養生:急な加熱・送風は亀裂・色むらの原因。自然換気で均一乾燥を心がける。
使用工具:鏝(ステン・角鏝・中塗り鏝)、コテ板、攪拌機(ハンドミキサー)、ローラー・刷毛(シーラー用)、養生テープ・マスカー、サンダー(補修・面調整)。
安全・品質管理(現場の注意点)
- 防じん:粉体の搬入・攪拌時は防じんマスク・保護メガネ着用。掃除は乾式より湿式が安全。
- 健康配慮:多くの珪藻土は非結晶(アモルファス)シリカ主体ですが、製品によっては焼成処理等で結晶シリカを含む場合があります。SDS(安全データシート)で確認し、適切な保護具を選択。
- 臭気・VOC:居住中施工は換気を確保。F☆☆☆☆等級のものを選定するのが無難。
- 材料ロット:色ブレ防止のため同一ロットで揃える。やむを得ない場合は面で区切るかブレンド。
- 試し塗り:仕上げ面・押さえタイミング・色味をモックで確認して合意形成。
トラブル事例と対策
- 微細クラック:厚塗り・急乾・下地動きが原因。薄塗り・適正乾燥・下地補強(テープ・シート)で予防。
- 白華(エフロ):アルカリ成分と水分移動が要因。過湿を避け、乾燥管理。発生時は乾拭きや軽研磨で改善することも。
- 色むら・押さえ焼け:押さえ時期・圧・水引き差が要因。面単位での連続施工と均一な押さえを徹底。
- 付着不良:旧塗膜・クロス糊・ホコリが原因。適正な下地清掃・シーラー選定が必須。
- 汚れ・水しみ:生活動線や水はね部は見切り材・腰壁・トップコートで対策。トップコートは調湿性低下とのトレードオフを理解。
メンテナンスと補修
- 日常清掃:柔らかいブラシや乾いた布、消しゴムで軽い黒ずみは除去可能。強擦り・水拭きはシミの原因。
- 部分補修:欠けは同材料を少量練ってパッチ。乾燥後に軽くサンディングで面合わせ。
- 広範囲の汚れ:同一製品で全面上塗り(薄掛け)すると意匠を保ちつつリフレッシュできる。
- トップコート:汚れ抑制に有効だが、調湿性は弱まる。必要な場所(玄関、手垢が付きやすい部分)のみ限定採用が現実的。
よくある質問(初心者向けQ&A)
Q. ビニルクロスの上から塗れますか?
A. 製品によります。専用シーラーで密着を確保すれば施工可能な製品もありますが、クロスの種類(表面樹脂・可塑剤)や浮き・下地の状態によっては剥がれやすいです。理想はクロス撤去→下地調整→シーラー→珪藻土。
Q. 浴室や洗面室でも使えますか?
A. 直接水がかかる場所は基本的に不向きです。洗面・トイレの壁で水はねが少ない部位なら、汚れ対策を行った上で部分採用するケースはあります。推奨の有無は製品仕様を確認してください。
Q. ニオイは本当に取れますか?
A. 生活臭の軽減には寄与しますが、強い臭気や常時発生源がある場合は限界があります。厚み・面積・仕上げの開口率、他の換気対策と組み合わせることで効果が安定します。
Q. 耐久年数はどのくらい?
A. 摩耗や汚れの程度に依存します。適切なメンテと局所補修を前提に10年以上使われる例は一般的です。表面は硬質塗装面より傷つきやすいので、家具の当たり・出隅保護は有効です。
Q. DIYでもできますか?
A. 既調合のDIYキットもあります。小面積・パターン仕上げなら挑戦しやすいですが、広い面のフラット仕上げは難易度が高いです。試し塗りと下地処理、可使時間の管理を徹底してください。
Q. しっくいとの違いは?
A. しっくいは消石灰が主成分で、強いアルカリ性と硬化反応(空気中のCO₂と反応)を持ち、耐久・耐水性に優れます。珪藻土仕上げは調湿性や意匠の自由度を重視した配合で、結合材の種類により性質が幅広く変わります。
代表的メーカーと製品傾向(例)
珪藻土系の内装仕上げ材は複数の国内メーカーから提供されています。採用時は最新カタログ・SDS・施工要領書で仕様・適用範囲を確認してください。
- 四国化成工業株式会社:建築仕上材の総合メーカー。珪藻土配合の内装仕上げ材や意匠塗材をラインアップし、下地からトップコートまでシステム提案が可能。
- エスケー化研株式会社:内外装仕上塗材の大手。調湿や質感に配慮した内装仕上材群を展開し、下地適合や改修用途の製品もある(珪藻土成分を含む配合製品を含む)。
- フジワラ化学株式会社:内装用パテ・仕上材・DIY商材のメーカー。一般ユーザー向けの珪藻土塗り壁材や補修材を幅広く流通。
原料面では「稚内珪藻土」をはじめ国内産の珪藻土を用いた製品が多く、粒度や造粒方法、結合材とのバランスで機能・塗り感が変化します。
費用感と見積りの考え方
プロ施工の相場は、面積・仕上げ難度・下地状態・地域で大きく変わりますが、一般的な住宅内装での参考レンジは以下の通りです(材料・手間・養生等を含む概算)。
- 標準的なフラット〜軽いテクスチャ仕上げ:3,500〜7,500円/㎡ 程度
- 意匠性の高いパターン・下地補修が多い場合:6,000〜10,000円/㎡ 程度
- DIY材料費(既調合):1,500〜3,500円/㎡ 程度(工具・養生費別)
同じ「珪藻土」でも、下地の状態(クロス撤去の有無、パテ回数、シーラー仕様)や仕上げの指示で手間・コストが変動します。見積り時は、下地写真・希望の仕上げテクスチャ・施工範囲(開口・入隅/出隅の多さ)まで共有すると精度が上がります。
設計・仕様書に書くべきこと(チェックリスト)
- 製品名・メーカー・系統(無機/樹脂/ハイブリッド)
- 標準塗厚・仕上げパターン(フラット/ラフ/パターン名)
- 適用下地と下地処理(テープ・パテ回数・シーラー種類)
- 施工条件(温湿度・可使時間・乾燥養生)
- トップコートの有無(調湿性とのトレードオフを明記)
- 色番・ロット管理・試し塗りの要否
初心者が失敗しないコツ
- 「下地と養生が8割」:仕上げ前の段取りで結果が決まります。
- 一気に厚塗りしない:ひび・ムラの原因。薄塗りを重ねて整える。
- 面で切る:開口部や入隅で作業区切りを。途中継ぎはムラの元。
- 可使時間を厳守:練り置きしすぎは塗りづらく、仕上がり低下につながる。
- トップコートは部位限定:調湿機能を活かしたい面は無塗装のままに。
ケーススタディ:リビングを珪藻土に
前提:石膏ボード新設、面積40㎡、フラット調・白系。
- 下地:ジョイントテープ+パテ2回(鏝目を均し、吸い込み差を減らす)
- シーラー:メーカー指定希釈で1回(ムラなく塗布)
- 仕上げ:2層1.5〜2.0mm、半硬化で軽押さえ(鏝焼け防止)
- 養生:24〜48時間換気、直射日光・暖房直当てを避ける
- 引渡し:注意点(強擦りNG、部分補修の方法)を説明、余材は補修用に少量保管
結果:調湿による体感の変化、音の反射が和らぐ効果、光の柔らかさが得られる一方、スイッチ周りの汚れ対策としてプレート大型化を提案。生活動線に応じた工夫が有効です。
環境配慮とサステナビリティ
珪藻土は無機主体の材料で、燃焼時の有害ガスが少なく、不燃性を持つ点で環境・安全面のメリットがあります。一方で、粉体の輸送・焼成処理(製品による)・樹脂バインダーの有無など、製品ごとの環境負荷は異なります。LCA情報やSDS、F☆☆☆☆等級の確認を行い、計画と運用(換気・清掃・補修しやすさ)まで含めたトータルでの環境性能を検討しましょう。
まとめ:珪藻土を“活かす”ために知っておきたいこと
珪藻土は、調湿性とやわらかな質感で空間の質を高める仕上げ材です。反面、汚れ・強度・乾燥管理といった特性を理解せずに採用すると、期待外れになりかねません。ポイントは次の3つ。
- 素材を理解する:調湿・不燃・質感という強みと、表面強度・汚れ・乾燥管理という弱点。
- 下地と養生を徹底:シーラーで吸い込みを整え、薄塗り・適正押さえ・均一乾燥でムラとひびを防ぐ。
- 用途に合わせて選ぶ:無機・樹脂・ハイブリッドの系統、トップコートの要否、部位ごとの使い分け。
現場ワードとしての「珪藻土」は、「ただの自然素材」ではなく、配合・下地・施工管理のバランスが命の“仕上げシステム”です。本記事を、設計・見積り・施工・メンテの共通ベースとして役立ててください。迷ったときは、製品の施工要領書とSDSを確認し、試し塗りで合意を取る——これがプロの再現性を支える最短ルートです。









