金鏝（かなごて）を完全理解：意味・現場での使い方・種類・選び方までやさしく解説
「金鏝って何？コテとどう違うの？」「金鏝仕上げって具体的にどんな仕上がり？」——現場で飛び交うワードは、初めての方には分かりにくいですよね。この記事では、建設内装の現場で日常的に使われる『金鏝（かなごて）』を、プロの視点でていねいに解説します。意味、使い方、種類、選び方、メンテナンス、現場での言い回しまで、基礎から実践までしっかり押さえられる内容です。読み終えたころには、図面や工程打合せで金鏝の話が出ても迷わず対応できるようになります。
現場ワード（金鏝）
| 読み仮名 | かなごて |
|---|---|
| 英語表記 | steel trowel / finishing trowel |
定義
金鏝（かなごて）とは、鋼やステンレスなどの金属板で作られた左官用・コンクリート用のコテの総称です。モルタルやコンクリート、パテ、樹脂材などを「ならす」「押さえる」「仕上げる」ために使います。木製の木鏝（きごて）やプラスチック鏝と区別して、金属製のコテを特に「金鏝」と呼びます。現場では「金鏝で押さえる」「金鏝仕上げ」のように、仕上げの品質や工程を示す言い回しとしても使われます。
金鏝の基本構造と各部名称
金鏝は一見シンプルですが、仕上がりを左右する要素が詰まっています。おおまかな構成は以下の通りです。
- 板（コテ板）：平らに見えるが、ごくわずかな反り（しなり）がある。材料をならす面。
- 先端（先）：材料に最初に触れる部分。角や丸みの形状で用途が変わる。
- 尻（後端）：引きずりの終端。返しの扱いで押さえ跡が変わる。
- 角（カド）：直角な角（角鏝）と丸い角（先丸）で使い分け。
- 柄（え）：握る部分。長さや太さ、材質（木・樹脂）で好みが分かれる。
- 口金・足（ブレース）：柄と板をつなぐ部材。剛性が高いほどシビアな仕上げに向く。
- しなり（コシ）：板の弾性。強いと押さえが効き、弱いと気持ちよく延ばせる。
プロは、この「角」「しなり」「板の反り」の差で用途を使い分けます。たとえばフラットでカチッとした床を出すならコシ強めのステンレス鏝、微妙な塗り肌を残すなら鋼鏝など、狙いによって選定が変わります。
種類と用途の違い
形状（形）での分類
形状は仕上がりと作業性に直結します。代表的な形は次の通りです。
- 角鏝（かくごて）：四角い板。床や壁の平面を素早く押さえるのに便利。端部を際まで攻めやすい反面、角で材料を削りやすいので角度調整が必要。
- 小判鏝（こばんごて）：両端が丸い。引きずり跡が出にくく、塗り継ぎもきれい。壁や天井、曲面の仕上げで扱いやすい。
- 先丸鏝（さきまる）：片方の先だけが丸い。入隅やコーナー際の引き戻しに。
- 剣先鏝（けんさき）：鋭い先端で狭い箇所や細部に届きやすい。補修や微調整に。
- くし目鏝（ノッチトロウェル）：板にギザギザの切り欠き。タイル接着剤や床材用接着剤を一定厚で塗布する。ノッチは3〜10mmなど用途で選ぶ。
- 中塗鏝・仕上鏝：板厚やしなりの違いで分類。中塗は厚塗りや均し、仕上は最終押さえに特化。
材質での分類
- ステンレス鏝（SUS）：錆びにくく、目詰まりしにくい。パテや樹脂材、最終仕上げ向き。コシはやや強めで鏝跡が出にくい。
- 鋼鏝（はがね）：食いつきがよく、コンクリートやモルタルの押さえに向く。使い込むほど当たりが出る反面、錆びやすく手入れが必須。
- プラスチック鏝：樹脂系材料や色モルタルでの焼き・黒ずみ防止に。軽くて扱いやすいが、耐久性は金属に劣る。
- 木鏝（参考）：金鏝の前段で使うことがある。水を引きすぎずに荒押さえでき、後に金鏝で締める流れが定番。
サイズの選び方
一般的には180mm〜360mmまで多様。広い面・床なら300mm前後、壁の仕上げや細部なら210〜240mm、狭所や補修なら120〜180mmが目安。手の大きさや握力、材料粘度によってもベストは変わります。最初は240mmと300mmの2本があるとほとんどの現場をカバーできます。
現場での使い方
言い回し・別称
- 金鏝押さえ：金鏝で表面を締めて平滑にする操作。床コンクリートやモルタル下地で頻出。
- 金鏝仕上げ：金鏝で最終仕上げまで行い、平滑でツヤのある面を出す仕上げ仕様。
- 金鏝面（かなごてめん）：金鏝仕上げで完成した表面のこと。
- カナゴテ：略称。単に「コテ」と呼ぶ場合もあるが、文脈で金属製を指していることが多い。
使用例（3つ）
- 「今日は土間を金鏝二回押さえで仕上げ。最終は日が落ちてから入るよ。」
- 「この補修はステンの小判で軽めに押さえて、鏝波は出さないように。」
- 「タイル下地は金鏝で平滑出してから、くし目で接着剤引いて。」
使う場面・工程
- コンクリート床（土間・スラブ）：打設→タンパ→トンボ掛け→木鏝押さえ→金鏝押さえ（1〜2回）→最終金鏝仕上げ
- モルタル下地（壁・床）：塗り付け→中塗り均し→金鏝で面出し→仕上材へ
- 内装パテ（ボード継ぎ目・面）：1層目充填→乾燥→研磨→金鏝で薄塗り仕上げ→仕上げ塗装
- タイル・床仕上げ：金鏝で下地を平滑化→くし目鏝で接着剤塗布→張り込み
- 樹脂床・防塵塗床：プライマー→樹脂モルタル・ライニングを金鏝で均一に延ばす→脱泡→仕上げ
関連語
- 木鏝：荒押さえ。水分を適度に残す。金鏝の前段階で使い分ける。
- コテ板（ハンドボード）：材料を載せる板。壁天井での連続作業に必須。
- くし目鏝：接着剤を一定厚に塗る専用鏝。金鏝で平滑を出してから使うことが多い。
- ポリッシャー・パワートロウェル：機械式の床押さえ。広面積では金鏝と併用。
基本の操作手順（左官・コンクリート仕上げの基礎）
ここでは、コンクリート床の金鏝押さえを例に、失敗しにくい手順をまとめます。
- タイミングを見る：表面の水（ブリーディング）が引き、手で触れて指跡が軽くつく程度が金鏝の入り始め。早すぎると水引きムラ、遅すぎると鏝焼けや引き砂が出やすい。
- 角度は低く・圧は均一：板を寝かせて材料を伸ばすイメージ。角度を立てるほど削ってしまい、鏝跡や引き砂の原因に。
- 順序よく面を取る：壁際・柱際→中央の順。打継や入隅は小さめの小判・先丸で寄せ、最後に大きめの鏝で面をつなぐ。
- 押さえ回数：1回目で凹凸をならし、2回目で締めと光沢を調整。必要なら3回目で鏝波消し。ただし押しすぎは禁物。
- ならしと押さえの使い分け：材料が柔らかい間はならし中心、締めたいときは押さえ中心。しなりの違う鏝を使い分けるとラク。
壁や天井のモルタル・パテでも基本は同じ。角度を寝かせ、圧を均一に、塗り継ぎを意識しながら鏝返し（返し際）を丁寧に消すのがコツです。
よくある失敗と対策
- 鏝跡・鏝波が残る：角度を立てすぎ。板を寝かせ、引き終わりは力を抜いてスッと離す。仕上鏝は小判形に替えると跡が出にくい。
- 引き砂（表面がざらつく）：水が足りないか、押さえが遅い。初期に木鏝で軽く押し、適切なタイミングで金鏝に切り替える。
- 鏝焼け（黒ずみ）：過度な押さえや摩擦熱、鋼鏝の影響。遅めの押さえ、ステンレス鏝やプラスチック鏝へ切替、薄く数回に分ける。
- 端部の欠け・削れ：角鏝の角が立ちすぎ。先丸・小判を使うか、角をわずかに面取りした鏝を使う。
- 段差・塗り継ぎが目立つ：幅広い鏝で跨いでならす。乾きの違う面を無理につながない。必要に応じて霧吹きで調整。
金鏝の選び方（初心者向け）
はじめて購入するなら、次の組み合わせが失敗しにくいです。
- 角鏝300mm（ステンレス）：床の均しと押さえ用の主力。
- 小判鏝240mm（ステンレス）：仕上げ用、壁や補修の万能サイズ。
- くし目鏝（6mmスクエアノッチ）：タイルや床接着剤の塗布に。
鋼鏝は食いつきがよくプロ好みですが、錆びやすく手入れも必要。まずはステンレス鏝で基本を押さえ、用途に応じて鋼鏝・プラ鏝を追加するのがおすすめです。柄は手の大きさに合うものを。握ってみて違和感のない太さ・長さを選びましょう。しなり（コシ）は中程度から始め、硬い下地・強い押さえが必要な現場ではコシ強めを選択します。
メンテナンスと保管
- 清掃：作業直後に水で洗い、パテや樹脂は硬化前に拭き取り。コンクリート・モルタル残りはこびりつく前に落とす。
- 防錆：鋼鏝はしっかり乾燥し、薄く防錆油を。ステンレスでも茶色のもらい錆に注意。
- 面の保護：板面にキズがつくと仕上がりに影響。工具とぶつからないよう個別に収納する。
- 平面の維持：反りや曲がりを感じたら買い替え。無理な矯正は面精度を落とす。
鏝は「当たり」が命。使い込んで面が育った鏝は、同じ型番でも別物の仕上がりを出します。現場用・仕上げ用を分けておくと良いでしょう。
安全対策と現場マナー
- 刃先保護：鏝の角は意外と鋭利。移動時は先端カバーを付け、他人に向けない。
- 足場・床の確認：押さえに集中すると周囲が疎かに。足元の段差や養生のめくれに注意。
- 材料の化学的安全性：樹脂や接着剤はSDS（安全データシート）を確認。手袋・保護メガネを適切に。
- 清掃マナー：洗い水を排水に流す前に固形分を分離。現場や排水のルールを守る。
ケース別の使い分け（実践例）
コンクリート土間の平滑仕上げ
木鏝で粗く押さえた後、ステンレス角鏝300mmで全体を均し、乾きが進んだところで小判240mmに持ち替えて最終押さえ。日射や風で乾きが早い場合は、エリア分けして順番に攻めるとムラが少ないです。
壁のモルタル下地
中塗後、ステンレス小判で面出しし、角は先丸で寄せ。入隅は細身の剣先鏝でラインを立て、最後に小判でなじませると塗り継ぎが目立ちません。
石膏系パテの仕上げ
1層目はややコシのある角鏝でしっかり充填。仕上げ層はしなりのある薄板の小判で軽く伸ばし、照明を斜めに当てて鏝跡をチェック。乾燥後の研磨が格段にラクになります。
仕様書・図面で見かける表記の読み方
- 「金鏝仕上げ」：金鏝で最終仕上げまで行い、平滑で硬い面を要求する仕様。ツヤの程度は現場調整。
- 「金鏝2回押さえ」：主にコンクリート床で、押さえを2回行う指示。タイミング管理が重要。
- 「金鏝・木鏝併用」：初期は木鏝で水を引かせ、後で金鏝で締める流れを明記。
不明瞭な場合は、光沢の有無や防滑性（ノンスリップ）の要求、塗床の下地レベルなどを発注者と確認しておくとトラブルを防げます。
プロ視点の小ワザ
- 角の面取り：鏝の角を紙やすりでごくわずかに面取りすると、引っかき傷を減らせる（新品は特に有効）。
- 濡れ鏝／乾き鏝の使い分け：わずかに湿らせると材料の滑りが良くなるが、水筋が出ないよう布で調整。
- 照明の活用：仕上げ確認は斜光で。鏝波や段差が浮き出て見える。
- 気温・湿度対策：高温・乾燥時は作業面を適度に養生し、風の直撃を避ける。低温時は硬化遅延に注意。
金鏝の代表的メーカーと入手先（参考）
金鏝は国内外に多くのメーカーがあり、地域の金物店や左官専門店、プロ向けECで入手できます。海外製では、以下のブランドが左官・コンクリート分野で広く流通しています。
- Marshalltown（マーシャルタウン）：米国の建設工具メーカー。コンクリート・左官用トロウェルの定番として知られ、板の精度と耐久性に定評。
- Kraft Tool（クラフトツール）：米国のプロ向け工具メーカー。各種トロウェルやノッチ鏝、仕上げ用アクセサリが豊富。
国内では地域に根づいた鏝鍛冶や専門商社のオリジナル品も多く、実店舗で握り心地やしなりを確認して選ぶのが理想です。使用目的と好みのフィーリングを店員に伝えると、相性の良い一本を提案してもらえます。
用語ミニ辞典（関連ワード）
- 押さえ：鏝で表面を締め、平滑に整える操作。
- ならし：材料を広げて厚みを均一にする工程。押さえの前段階。
- ブリーディング：コンクリート表面に水が浮く現象。これが引いたタイミングが金鏝の入りどき。
- 鏝焼け：押さえ過多や摩擦で表面が黒ずむこと。
- 鏝波：鏝の動きが波状に残る跡。角度・圧のムラが原因。
よくある質問（Q&A）
Q. 金鏝と木鏝はどう使い分けるの？
A. 木鏝は初期の荒押さえで水分を適度に残し、金鏝で最終的に締めて平滑にします。床コンクリートなら「木鏝→金鏝（1〜2回）」が基本です。
Q. ステンレスと鋼、どちらを買えばいい？
A. 初心者には手入れが楽で鏝跡が出にくいステンレスがおすすめ。コンクリートの食いつきや「締まり」を重視するなら鋼鏝を追加で揃えると幅が広がります。
Q. 1本で全部こなせる？
A. 最低でも角鏝（均し・押さえ）と小判鏝（仕上げ）の2本があると段違いにきれいに仕上がります。接着剤作業があるならくし目鏝も必須です。
Q. 錆びてしまった。使っても大丈夫？
A. 仕上がりや材料に影響する恐れがあります。表面の錆は研磨で落とせますが、板面の平滑を損ねるほどなら買い替えを検討してください。以降は清掃・乾燥・防錆油で予防を。
まとめ：金鏝を理解すれば、仕上がりが一段上がる
金鏝は「ならす・押さえる・仕上げる」を一手に担う、左官・内装・土間の要となる工具です。形状（角・小判・剣先・くし目）、材質（ステンレス・鋼・プラ）、サイズとしなりの違いを押さえ、工程に合わせて使い分けることで、鏝跡の少ない平滑な面が安定して出せるようになります。まずは角300mmと小判240mmの2本から始め、現場での癖や好みに合わせて増やしていきましょう。正しいタイミング、適切な角度、均一の圧—この3つを意識するだけでも仕上がりは見違えます。今日からあなたの現場で「金鏝、いける？」と聞かれても、自信をもって「任せてください」と答えられるはずです。
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