建設内装の「引戸」を完全理解:現場で役立つ言い回し・種類・寸法・施工の勘所
「引戸ってドアとは何が違うの?」「片引き?引違い?現場で飛び交う言葉がむずかしい…」——初めて内装工事に関わると、こんな疑問を持つ方は多いはずです。この記事では、現場で日常的に使われるワード「引戸」を、初心者にもわかりやすく、かつプロの実務に即して解説します。種類や寸法の読み方、施工の流れ、トラブル対処までをひとまとめ。読み終える頃には、図面を見ても現場の会話を聞いても、不安なくやり取りできるはずです。
現場ワード(引戸)
| 読み仮名 | ひきど |
|---|---|
| 英語表記 | sliding door |
定義
引戸とは、戸(扉)を左右方向に滑らせて開閉する建具の総称です。上部レール(鴨居・上枠)や下部レール(敷居・下枠)に沿って動く方式や、床レールを設けず上から吊る「上吊り」方式などがあり、室内建具から玄関・外部サッシまで幅広く使われます。一般に「片引き戸」「引違い戸」「引き込み戸」「アウトセット(上吊り)引戸」などの形式があり、省スペース性に優れ、開閉時に前後のスペースを取らないのが特徴です。
引戸の種類と構造
代表的な種類
- 片引き戸(片引戸): 1枚の扉を左右どちらか一方向へ引いて開ける最も基本的な室内引戸。戸先と戸尻の区別があります。
- 引違い戸(2枚引違い/4枚引違い): 2枚(または4枚)の扉が互い違いにスライド。間口が広い出入口や収納で多用。
- 引き込み戸(引込戸): 開けた扉が壁内へ収まるタイプ。開口を広く確保でき、見た目もすっきり。引込側の壁内に下地補強が必須。
- 引分け戸(2枚引分け): 中央から左右へ分かれて開く形式。正面性があり、玄関や店舗間仕切りなどで採用。
- アウトセット(上吊り)引戸: 壁の表面側を滑走する後付けしやすいタイプ。床にレールを設けずバリアフリーにしやすい一方で、遮音・気密は枠付きよりやや劣りがち。
- 重ね(連動)引戸: 主扉に連動して隣の扉も動く機構。大開口を軽い力で開けたい場合に有効。
- 外部用引戸(玄関引戸・サッシ): アルミや樹脂枠とガラスを組み合わせ、気密・水密・防犯性能を確保した外部建具。
構成部材の名前
- 扉本体(建具): 木質やアルミ、ガラス入りなど。戸先・戸尻・召し合わせ(引違いの接する部分)。
- 枠(上枠・縦枠・下枠): 開口部の受け側。上枠にレールや金物、下部にレールやガイドを設置。
- レール/ガイド: 扉の走行を支える部材。床レール式・上レール式・フロアガイド(上吊り時)。
- 戸車: 扉側に組み込まれた車。高さ調整機構付きが一般的。
- 引手・把手・錠: 扉を操作/施錠する金物。室内では鎌錠・間仕切錠が多い。
- 戸当たり・戸当たりゴム・モヘア: 閉じ切り位置の受け、衝撃緩和やすき間風・音漏れ低減に寄与。
- ソフトクローズ(ダンパー): 最後の数センチを自動で引き込み、バタン音や挟み込みを軽減。
寸法・採寸の基本
図面やカタログでは、幅W×高さHを基本に、「有効開口(DW)」や「枠見込み」などの用語がよく登場します。メーカーによって呼称や記号は多少異なるため、発注前に必ず仕様書で確認しましょう。
- 呼称サイズ: 扉や枠の型番上のサイズ表現。実寸と数ミリ〜数センチの差があることがあります。
- 有効開口(DW): 実際に人が通れる開口の幅。バリアフリー配慮ではDW800〜900mm程度を目安に検討されることが多いです。
- 枠見込み: 枠の奥行き方向寸法。壁厚との整合に必須。
- クリアランス: 扉と枠のすき間。動きの軽さ・気密・遮音のバランスを決めます(一般的に数mm程度)。
住宅の室内片引き戸では、呼称幅700〜900mm、高さ2000〜2200mm前後がよく選ばれますが、仕様・メーカーで異なります。既存開口に合わせるリフォームでは、実測値(間口・高さ・壁厚・床仕上げ高さ・天井懐)を最優先にプランニングします。
メリット・デメリット
- メリット
- 開閉時に前後のスペースが不要。狭い動線や車いす動線に有利。
- 風で勢いよく閉まりにくく、手を離してもバタンと当たりづらい(ソフトクローズ併用でさらに安全)。
- 連続開口や大開口の計画がしやすい。引き込みで見付けをすっきりさせられる。
- 家具配置の自由度が上がる(開き戸の扉振りに干渉しにくい)。
- デメリット
- 気密・遮音は一般に開き戸より劣りやすい(パッキンや戸当たりの工夫で改善可能)。
- 引き込み部やアウトセットのための壁内・上部補強が必要になることがある。
- 床レール式はゴミ詰まりで走行不良が起きやすい。定期清掃が必要。
- 施錠・戸当たりの納まりを誤ると指はさみやバタン音の原因に。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「引き戸」「引戸」「片引き」「引違い」「アウトセット」「上吊り」「引込(ひきこみ)」など短く略して呼ぶことが多いです。「召し合わせ」「戸先」「戸尻」「方立(ほうだて)」など、位置関係の用語も頻出します。
- 別称・関連: スライドドア、可動間仕切り、建具、鴨居(上枠)、敷居(下枠)
- 寸法言い回し: 有効(有効開口)、見込み、W・H、間口、クリアランス
使用例(3つ)
- 「ここはアウトセットの片引きで、有効800は確保してね」:壁の外側を走らせる上吊り戸で、通行に必要な有効幅の指示。
- 「召し合わせが当たってるから、戸車ちょい上げ」:引違い戸の接触(擦れ)を、戸車の高さ調整で解消する指示。
- 「引込側に下地入ってる?クローザーと鎌錠付けるよ」:引き込み戸の壁内に補強材があるか確認し、金物取り付けを進める場面。
使う場面・工程
- 計画・設計: 動線・開口幅の検討、開き戸との比較検討、引込スペースや壁厚の確認。
- 墨出し: 枠位置・開口寸法・下地補強位置のマーキング。
- 下地工事: 引込部の間柱増し、上部梁・見付材の補強、配線・スイッチ干渉の回避。
- 枠入れ・建具吊り込み: 上枠のレベル出し、戸車調整、ガイド位置決め、戸当たり位置の微調整。
- 仕上げ・調整: パッキン・モヘア貼り、錠のかかり調整、ソフトクローズ作動確認、養生。
関連語
- 戸当たり/見切り/方立/召し合わせ/引手/鎌錠/ソフトクローズ/戸車/ガイドピン
- 鴨居(かもい:上枠)/敷居(しきい:下枠)/上吊り金物/モヘア(毛ブラシ状パッキン)
施工の流れとコツ
新築・木下地の場合
- 上枠は水平を最優先。1〜2mmの狂いでも走行や自閉機構に影響します。レーザーでレベル確認。
- 引き込み戸は壁内に「開口幅+α」のスペースが必要。間柱ピッチ・胴縁位置に干渉しない計画を。
- アウトセット・上吊りは天井内の補強が肝。ビスの利き(下地の材質・厚み)を事前確認。
- 床仕上げ材の厚み差に注意。フロアガイドや下枠の高さは最終仕上がり基準で設定。
- 戸当たりの位置は現物合わせで微調整。早閉まり・跳ね返り・隙間をチェック。
リフォーム・後付け(アウトセット)
- 既存の開き戸を撤去せず、上からアウトセット引戸を被せる方法は工期短縮に有効。
- 開口有効は枠や方立で目減りするため、プラン段階でDWを逆算してサイズ選定。
- 配線・スイッチ・巾木・手すりと扉走行の干渉を事前に洗い出し。必要なら移設。
- 段差・レールがない分、ガイドの位置決め精度が重要。扉の振れ・ガタつきを最小化。
安全と品質のポイント
- 指はさみ対策: 戸先側に緩やかなテーパーやパッキンを採用、ソフトクローズ併用。
- 遮音・気密: 戸当たり・モヘア・下部ブラシで改善。完全密閉は構造上難しいため期待値調整。
- 重さと操作性: 大型扉は戸車の許容荷重を確認。連動金物やクローザーの適合を守る。
トラブルとメンテナンス
よくある不具合
- 開閉が重い/擦れる: レール・ガイドのゴミ詰まり、戸車摩耗、上枠の水平不良が原因になりがち。
- 勝手に動く(偏り): 床の傾きや上枠水平の狂い、戸車の高さバランス不良。
- ガタつき・振れる: ガイド位置ズレ、扉反り、アウトセットでの下ガイド不足。
- ソフトクローズ不作動: 取り付け位置のズレ、温度変化による粘度差、機構の寿命。
- 音・隙間が気になる: 戸当たりの当て位置・パッキンの劣化、モヘア未装着。
メンテナンス方法
- 清掃: レール・ガイド・戸車周りの埃を定期除去。掃除機+柔らかいブラシが効果的。
- 潤滑: 樹脂部材に優しいシリコンスプレーを薄く。油系は埃を呼ぶため多用は避ける。
- 調整: 戸車の高さ調整ビスで建付け是正。召し合わせ・戸当たりも微調整。
- 交換: 摩耗した戸車・パッキンは型番確認のうえ交換。メーカー品番は枠内や説明書で確認。
用途別の選び方
住宅の室内
- トイレ・洗面所: 有効幅の確保と内外どちらからも開けやすい錠選定。音・匂い対策に戸当たり+パッキンを。
- リビング・個室間: ソフトクローズや大型連動で安全・快適性を向上。引き込みで開放感を演出。
- 収納: レールの段差・埃問題を避けたいなら上吊り+下ガイド式が扱いやすい。
玄関・外部
- 気密・水密・防犯性能が要。アルミ・樹脂の外部用引戸(サッシ)を選定し、錠・戸先の納まりを重視。
- 開口が広い場合は引分けや4枚引違いで使い勝手を確保。網戸の併用も検討。
バリアフリー・施設
- 有効開口DW800〜900mmを目安に。上吊りで床段差ゼロにし、ソフトクローズ・指はさみ対策を。
- 頻繁な通行には耐久性の高い戸車・金物、手掛かりしやすい大型引手を選ぶ。
代表的なメーカー(例)
- LIXIL(リクシル): 室内建具から玄関引戸・サッシまでラインアップが広い総合住設メーカー。
- YKK AP: 窓・サッシ・玄関引戸など外部建具に強み。気密・水密性能の高い製品が豊富。
- 三協アルミ: 外部建材・サッシの大手。玄関引戸や大開口商品も展開。
- Panasonic(パナソニック): 室内ドア・建具(ベリティスなど)。上吊りアウトセットやソフトクローズ機構が選べる。
- DAIKEN(大建工業): 内装建材・室内ドア・引戸。静音・パッキンなど機能建材に強い。
- EIDAI(永大産業): 室内建具・床材の総合内装建材メーカー。意匠柄の統一感が取りやすい。
- NODA(ノダ): 室内建具・造作建材を展開。バリアフリー対応の建具バリエーションがある。
同じ「片引き戸」でも、メーカーごとに枠の納まり、レール方式、ソフトクローズの仕様、見込み寸法が異なります。既存製品の交換・互換性には注意が必要です。
現場で役立つチェックリスト
- 用途と動線: 開き戸でなく「引戸」である必然性は?(省スペース・有効幅・頻度)
- 方式の選定: 片引き/引違い/引き込み/アウトセット(上吊り)
- 開口寸法: 呼称W×Hと有効開口DW、枠見込みと壁厚の整合
- 下地補強: 上部・引込部・金物位置の補強の有無
- 干渉物: スイッチ・巾木・手すり・家具との干渉、ガイド位置
- 安全・快適: ソフトクローズ、錠の種類、遮音・気密の必要度
- メンテ性: レール清掃のしやすさ、戸車交換の可否、部品供給の見通し
よくある質問(FAQ)
引戸は音やニオイが漏れやすいですか?
開き戸に比べると、構造上すき間が生じやすく、遮音・気密はやや不利です。ただし、戸当たりやモヘア(パッキン)の併用、下部ブラシの設置で改善できます。完全な密閉が必要な用途は開き戸や気密ドアを検討しつつ、引戸なら「パッキン強化仕様」を選ぶと効果的です。
ソフトクローズは後付けできますか?
多くの室内引戸で専用ダンパーの後付け・後納が可能です。ただし、扉重量や枠形状、メーカー適合が条件。汎用品ではなく、製品型番に合った純正・適合品を選ぶのが安全です。取付位置の数ミリ誤差で作動不良になるため、施工説明書に沿って慎重に。
採寸は自分ででき、ネット注文しても大丈夫?
可能ではありますが、壁厚・開口の直角・上下のレベルなど、プロが見るポイントが多く、ミスが起きやすい工程です。特に引き込み戸やアウトセットは下地や干渉確認が重要。可能なら現場調査→メーカー仕様確認→発注までを施工業者と進めると安全です。
まとめ:引戸を味方にすれば、動線が驚くほどスムーズに
引戸は、省スペースでやさしい操作感が魅力の建具です。一方で、種類・寸法・金物・下地など、知っておくべきポイントも確かに多いもの。この記事で紹介した「種類の見極め」「寸法と有効開口の考え方」「施工のコツ」「メンテナンス」を押さえておけば、図面検討から現場調整までスムーズに進められます。迷ったら、用途(誰がどの頻度で使うか)と有効開口を最初に決め、方式を選定。次に下地と干渉の確認、最後に安全・快適のための金物選び——この順番を意識するだけで、仕上がりの満足度は大きく変わります。引戸を正しく理解し、現場で自信を持って使いこなしましょう。









