建設内装の現場ワード「錠前」をやさしく解説—意味・部位・種類・選び方・取付の基本まで
「錠前ってカギのこと？ノブやレバーも含むの？」——内装工事や建具の現場でよく飛び交う言葉ですが、初めてだと範囲がわかりづらいですよね。本記事では、現場で使われる「錠前」の意味から、部位名称、種類、選び方、取り付けの基本、よくあるトラブルの直し方まで、プロの目線でやさしく解説します。読み終えれば、図面や発注の確認がスムーズになり、現場でのコミュニケーションミスも減らせます。
現場ワード（錠前）
| 読み仮名 | じょうまえ |
|---|---|
| 英語表記 | lockset（door lock） |
定義
錠前とは、扉の施錠・開閉を行うための機構と装飾部品の総称です。一般的には、錠ケース（ラッチ・デッドボルト機構）、シリンダー（鍵穴）、サムターン（室内側つまみ）、ノブ／レバーハンドル、化粧座（エスカッション）、受座（ストライク）などを含みます。つまり「鍵穴だけ」でも「ハンドルだけ」でもなく、それらを含む一式が「錠前」です。
錠前の基本構造と各部名称
扉に取り付けられる錠前は、いくつかのパーツが組み合わさって機能します。名称を押さえておくと、図面の読解、発注、施工、調整がグッと楽になります。
- 錠ケース：扉の中に入る心臓部。ラッチボルト（扉を閉じた位置で保持）やデッドボルト（施錠時に突出）を内蔵。
- ラッチボルト：ハンドル操作で出入りする三角形（もしくは角型）のボルト。閉扉保持が目的。
- デッドボルト：施錠用の角ボルト。鍵やサムターン操作で出し入れし、こじ開けに強い。
- シリンダー：鍵穴部分。キーシステム（ピン、ディンプルなど）の違いで防犯性が変わる。
- サムターン：室内側のツマミ。手で回して施解錠する。
- ノブ／レバーハンドル：扉を開閉するための操作部。バリアフリーではレバーが主流。
- 化粧座（エスカッション）：ハンドルやシリンダー周りの化粧部品。ビスや穴を隠す。
- フロント（錠前フロント）：扉小口に見える金属プレート。ここでビス留めして錠ケースを固定。
- 受座（ストライク）：枠側の受け金具。ラッチやデッドボルトが掛かる。
- バックセット（BS）：扉小口から錠前中心までの寸法。取付・交換の要チェック寸法。
- 扉厚（戸厚／TH）：扉の厚み。対応範囲外だと部品が届かない・ビスが効かない。
錠前の主な種類
取付方式で見る種類
取付方式は、施工方法や扉の材質・用途に直結します。既存交換時は現状と同じ方式を基本に検討します。
- 彫込錠（モーティスロック）：扉内を彫り込んで錠ケースを収める方式。耐久性や意匠性に優れ、住宅〜店舗・オフィスまで広く普及。
- 円筒錠（シリンドリカル／チューブラ含む）：ドア面から穴あけして貫通部品で固定。比較的施工が容易で、室内間仕切りなどに多い。
- チューブラ錠：円筒錠の一種で、軽量・簡易施工。住宅の室内ドアでよく使われる。
- 面付錠：扉面に箱型の錠を外付けする方式。後付け・改修や引戸で採用される。
- 引戸用錠：引戸専用のフロント・受座形状。戸先・中縦框側に取り付けるタイプなどがある。
用途・機能で見る種類
同じ形でも「何のための扉か」によって仕様が変わります。機能違いの選定ミスは現場トラブルの定番なので要注意です。
- 玄関錠（本締付）：ラッチ＋デッドボルトで防犯性を確保。外側はキー、内側はサムターンが一般的。
- 間仕切錠：室内用の施錠機能付き。個室や事務室のドアなど。
- 空錠（くうじょう）：施錠機能なし。レバーハンドルのみでラッチ保持を行う。
- 浴室錠：非常解錠機能付き。外側からコインやマイナスで開けられるタイプが多い。
- 表示錠：トイレなどで「空／施」の表示窓が付く。
- 非常解錠・非常開放機能：学校・医療・福祉施設などで室外からの緊急解錠、室内側ワンタッチ解放などの仕様。
- 自動施錠・電気錠：電気ストライク・電磁錠・カード錠・暗証番号錠など。入退室管理に対応。
鍵方式（シリンダー）で見る種類
シリンダーは鍵の「心臓部」。交換できる構成もあり、防犯性や運用性を左右します。
- ピンシリンダー：最も一般的。耐ピッキング性能はピン構成・精度で差が出る。
- ディンプルシリンダー：鍵の表面に凹み（ディンプル）がある。複雑な構造で防犯性が高い傾向。
- カード／暗証番号／ハイブリッド：物理鍵を使わない、もしくは併用するタイプ。電源や配線の要否に注意。
- 同一キー／マスターキー運用：複数扉を一つの鍵で開ける同一キー、階層的に開けられるマスターキーなど運用設計が可能。
失敗しない選び方（寸法・規格・性能の要点）
錠前選定は「機能」だけでなく「寸法」と「扉条件」が肝心です。既存交換と新設ではチェック観点が少し異なります。
- バックセット（BS）：扉小口から鍵穴中心までの距離。国内の住宅・オフィスではおおよそ50〜64mm帯の仕様が多く、円筒錠では60mm／70mm帯が一般的。現物か図面で必ず確認。
- 扉厚（TH）：対応範囲内かを確認。スペーサーや延長ビスで対応できる範囲もあるが、無理は禁物。
- フロント寸法／形状：交換時は同等形状が望ましい。違うと扉小口の補修が必要になることも。
- 受座（ストライク）形状：枠のタイプ（木・鋼製）や戸当たり形状に適合するか。
- 勝手（L/R）：丁番の位置で決まるドアの左右勝手。注文時の取り違いに注意。
- 機能仕様：空錠／間仕切錠／表示錠／非常解錠など、用途に合うものを選ぶ。
- 防犯性能：玄関などは防犯性の高いシリンダーや、破壊・こじ開けに強い仕様を推奨。防犯建物部品（CPマーク）などの目安も参考に。
- 法規・建具区分：防火戸・避難経路・非常口などは認定品や必要機能（ワンタッチ開放等）に適合することが必須。
- 仕上・意匠：金物色（SUS、黒、ブロンズ等）、ハンドル形状の統一感、室内デザインとの調和。
既存交換の場合は、既存品番・メーカー、BS、フロント寸法、ドア厚、ハンドル形状、受座位置を採寸し、同等置換え可能な後継品を選ぶのが最もスムーズです。
取付・交換の基本手順と必要工具
現場では「建具吊込み後」に金物付けを行うのが一般的。新設と既存交換で手順は異なりますが、要点は共通です。安全のため、電動工具の取り扱いと養生は慎重に行いましょう。
- 主な工具：差し金、スコヤ、キリ・ホールソー、ノミ／トリマー、ドライバー、インパクト、ビット類、ヤスリ、六角レンチ、下穴ドリル、養生テープ、墨つけ用ペン。
- 消耗材：木ネジ・機械ネジ（メーカー指定）、スペーサー、潤滑剤（鍵穴用は粉末グラファイト等の指定品）。
既存錠前の交換（基本の流れ）
- 1. 現状確認：メーカー・品番・BS・扉厚・勝手・受座位置を記録。写真も撮る。
- 2. 取外し：室内側化粧座→ハンドル→サムターン→シリンダー→フロントビス→錠ケースの順で外すことが多い。
- 3. 下地調整：穴や欠けの補修、ザグリの清掃。段差は紙貼り等で微調整することも。
- 4. 取付：錠ケース→フロント固定→シリンダー・サムターン→ハンドルの順で仮止め。
- 5. 受座調整：ラッチ・デッドボルトがスムーズに掛かる位置へ微調整。
- 6. 動作確認：開閉、施解錠、キー抜き差しを繰り返し、違和感がないか確認して本締め。
新規取付（木製扉・彫込錠の例）
- 1. 墨出し：BS・ハンドル高さ（住宅では床仕上りから900mm前後が目安。設計指示に従う）。
- 2. 穴あけ：小口に錠ケース用の掘り込み、面にシリンダー・サムターン・ハンドルの貫通穴。
- 3. 彫込・フロント座彫り：ノミ／トリマーでフロント面を平滑に。
- 4. 仮組み：錠ケースを入れてラッチの出入りやハンドルの回転を確認。
- 5. 枠側受座加工：ラッチ位置を写し、受座を取り付け。ガタつき・締まり具合を調整。
- 6. 仕上げ：ビスの締付け、動作確認、化粧座のズレ・カタつきチェック。
ポイント：扉の建付け（チリ・ソリ）やドアクローザーの閉まり加減で掛かりが変わるため、金物だけでなく建具全体の状態を見て調整するのがコツです。
現場での使い方
「錠前」は現場では広義・狭義どちらでも使われます。一般には「扉のロック機構一式」を指しますが、文脈によっては「錠ケースだけ」を示すことも。会話では確認が大切です。
- 言い回し・別称：ロック、錠ケース、モーティス、円筒、フロント、ストライク、ラッチ、本締、サムターン、シリンダー、BS（バックセット）。
- 使用例（3つ）：
- 「この間仕切りは表示錠じゃなくて空錠でいいよ。錠前はBS64で手配して。」
- 「枠側のストライクが低いね。錠前は掛かるけどラッチが擦れてるから受座上げて。」
- 「仮設は工事用キーで回して、引渡しで正キー差して切替えるタイプの錠前にしておいて。」
- 使う場面・工程：建具吊込み→金物付け→受座調整→クリーニング→施主検査→引渡し。
- 関連語：建具金物、ドアクローザー、丁番（ヒンジ）、戸当たり、防火戸、同一キー、マスターキー、勝手（L/R）。
よくあるトラブルと調整のコツ
錠前は精密機構。小さなズレや締めすぎで不具合が出ます。症状別に要点を押さえましょう。
- ラッチが掛かりにくい／擦れる：受座の天地調整、戸当たりの当たり代調整、扉の反り確認。ドアクローザーの速度調整も有効。
- 鍵が回りにくい：シリンダーに油はNG（粉塵が固着）。鍵穴専用潤滑剤（粉末系）を使用。改善しない場合はシリンダー交換を検討。
- ハンドルの戻りが悪い：スプリング座の組付け向き、ビス締め過ぎ、化粧座の干渉を点検。
- 施錠できない／デッドボルトが出ない：シリンダーカムの噛み合い、サムターン軸の長さ、受座の奥行き不足を確認。
- 鍵が抜けにくい：キーの摩耗、曲がり、異物混入。無理に抜かず専門業者に相談を。
- ガタつき・ビビり音：化粧座の固定不足、扉内の空隙、フロント周りのカタつきを再固定。
防火戸や非常口、電気錠は認定・機能の観点が絡むため、異常時はむやみに改造せず、メーカー仕様に沿って対応しましょう。
メーカーと代表的ブランド（概要）
国内には信頼性の高い錠前メーカーが複数あります。現場ではメーカー指定やシリーズ互換で選定することも多いです。
- MIWA（美和ロック）：国内大手。住宅からオフィス、ホテル向けまで幅広いラインアップ。シリンダーや電気錠の展開も豊富。
- GOAL（ゴール）：堅牢なモーティスロックや多様なハンドル意匠で知られる。キーシステムのバリエーションも多い。
- ALPHA（アルファ）：住宅・店舗向けの錠前やシリンダーを幅広く展開。後付け用途の選択肢もある。
- SHOWA（ショウワ）：ビル・住宅向けに各種錠前を製造。置換え対応品を持つシリーズがある。
- WEST（ウエスト）：意匠性の高いハンドルとシリンダーのラインアップを展開。住宅・商業施設向けに対応。
メーカーによって互換性や品番体系が異なるため、既存交換時は「メーカー・品番」を最優先で控え、後継推奨品の確認がおすすめです。
安全・法令・図面表記の注意点
- 防火設備：防火戸には認定品の錠前や付属部材が必要。交換時も同等認定品で。勝手に仕様変更しない。
- 避難・非常：非常口の開放方向、片手操作、内側からのワンタッチ開放など、建築計画に即した機能選定が必要。
- バリアフリー：レバーハンドルやサムターン形状、操作力の小さい機構を選ぶと安心。
- 図面・指示書：BS、扉厚、勝手、機能（空錠・表示錠など）、仕上色、電気錠の有無と電源条件を明記。
- 鍵管理：同一キー／マスターキーの階層設計、合鍵の管理ルール、工事用キーの切替手順を関係者で共有。
用語ミニ辞典
- 錠前（lockset）：扉の施錠機構一式の総称。
- シリンダー（cylinder）：鍵穴部分の機構。鍵の違いで回る。
- ラッチ（latch）：扉を閉じた状態で保持するバネ付きボルト。
- デッドボルト（dead bolt）：施錠時に突出する角ボルト。こじ開けに強い。
- サムターン（thumb turn）：内側から手で回す施解錠ツマミ。
- バックセット（BS）：扉小口から錠中心までの寸法。
- ストライク（strike）：枠側の受け金具。受座。
- 面付錠：扉面に外付けする錠。
- 彫込錠（モーティス）：扉の中に埋め込む錠。
- 工事用キー機能：工事中のみ使える鍵を引渡し時に無効化できる機能。
よくある質問（Q&A）
Q. 錠前とシリンダーは何が違いますか？
A. 錠前は扉の施錠機構一式（錠ケース・ハンドル・受座などを含む）の総称。シリンダーは鍵穴機構のパーツで、錠前の一部です。
Q. 玄関の防犯性を上げたい。どこを見直すべき？
A. ディンプルなど防犯性の高いシリンダー、こじ開けに強いデッドボルト仕様、サムターン回し対策（サムターン形状やカバー）などを検討。扉や枠の強度、ドアクローザーの適正作動も併せて確認しましょう。
Q. 同一キー運用は可能？
A. 可能です。同一メーカーの対応シリンダーで、玄関・勝手口・勝手扉などを同じ鍵で開けられるよう構成できます。既存の品番と互換システムの可否を確認してください。
Q. 工事中の鍵管理は？
A. 工事用キー機能付き錠前を使うと便利です。工事中は工事用キー、引渡しで正規キーを差し込むと工事用が無効化されるタイプが一般的です。運用ルールを現場で共有しましょう。
Q. 電子錠に入れ替えたいが、扉はそのままで大丈夫？
A. 既存穴の互換、電源（電池／配線）、受座位置、扉・枠の強度、非常時の解錠方法などを確認。対応機種であれば既存を活かして後付けできる場合もあります。
Q. 勝手の見分け方は？
A. 扉を手前に引いて開く側に立ったとき、丁番が右なら右勝手、左なら左勝手が一般的な見方です。メーカー指定の表記に従いましょう。
現場で役立つチェックリスト
- 用途（玄関／室内／トイレ／非常口）と必要機能の確認
- 寸法（BS・扉厚・フロント・ビスピッチ）採寸
- 勝手（L/R）、ドア種別（開き戸／引戸）、材質（木／スチール）
- 既存メーカー・品番の控え（置換え可否の確認）
- 防火・避難・バリアフリーなどの法規条件
- 意匠（色・ハンドル形状・シリーズ統一）
- 鍵管理（同一キー／マスターキー／工事用キー機能）
まとめ
「錠前」は、鍵穴だけでなく、ラッチ・デッドボルト・サムターン・ハンドル・受座などを含む扉の施錠機構一式です。現場では、用途（玄関・室内・トイレ・非常口）に応じた機能選定、寸法（BS・扉厚・フロント）や勝手の適合、防犯性・法規対応の確認が重要。取付や交換は、扉の建付けを含めた総合調整が仕上がりを左右します。この記事の要点を押さえておけば、図面・発注・施工で迷いにくくなり、現場で「話が早い」人になれます。わからない点があれば、既存品の品番確認やメーカーの置換え表を参照し、無理をせず専門業者にも相談してください。
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