内装現場の「補修材」まるわかりガイド|種類・選び方・現場での言い回しまで
「補修材って、パテやコーキングとどう違うの?」「どれを買えば失敗しない?」——はじめて内装の下地処理や小さな傷直しを任されると、こんな疑問が出てきますよね。この記事では、建設内装現場で職人が日常的に使う現場ワード「補修材」を、用途別の種類、選び方、使い方、現場での言い回しまで、初めての方にもわかりやすく整理して解説します。読み終えるころには、どの場面でどの補修材を選べばよいか、スッと判断できるようになります。
現場ワード(補修材)
| 読み仮名 | ほしゅうざい |
|---|---|
| 英語表記 | repair material / patching compound / filler |
定義
補修材とは、壁・天井・床・建具などの欠け、穴、段差、ひび、隙間を埋めたり整えたりするための材料の総称です。内装では主に「仕上げの前に下地をフラットにする」「仕上げ後に小傷を目立たなくする」目的で用いられ、パテ類・フィラー類・エポキシ系補修剤・セメント系補修モルタル・シーリング材(可動部の隙間充填)などを含みます。用途に応じて硬さ、研磨性、弾性、収縮、色、塗装やクロスとの相性が異なるため、場面に合わせた選択が重要です。
補修材の基礎知識
用途別の主な種類
補修材は「どこを」「どれくらい」直すかで選び方が変わります。代表的な種類と向いている場面を整理します。
- 石膏ボード用パテ(ジョイント用・下地調整用):ボードの継ぎ目・ビス頭の埋め戻し、壁紙や塗装前の平滑出し。研磨しやすく痩せ(乾燥収縮)が少ないタイプが主流。
- 木部用パテ(木工パテ・ウッドフィラー):枠・巾木・造作のピン穴、節、欠けの充填。着色対応品で塗装やクリア仕上げに合わせやすい。
- セメント系補修材(ポリマーセメントモルタル等):コンクリートの欠け・段差修正、床の不陸調整など。強度と耐久性重視。室内でも下地強度が必要な箇所に。
- エポキシ系補修材:高強度・高接着で金属、石材、タイルの欠けやアンカー穴の補修に。研磨はやや重いが耐久性が高い。
- アクリル系・ラテックス系フィラー:室内の微細なひび・巣穴の埋め、塗装前のピンホール処理に。水性で扱いやすい。
- シーリング材(コーキング):可動がある目地や異素材取り合いの隙間に。アクリル系(内装・塗装可)、ウレタン系(強靭・塗装可)、シリコーン系(耐水性高、基本は塗装不可)など。
- 着色補修材(補修クレヨン・補色剤・補修ワックス):フローリングや建具の小傷・擦り傷の目立ち防止に。色合わせで補修跡を馴染ませる。
成分からみる性質の違い
仕上がりと耐久性は成分で大きく変わります。
- 石膏系:乾燥が速く研磨性に優れる。主に室内下地の平滑出しに。
- セメント系:強度・耐摩耗性に優れる。厚盛りや床補修に向く。乾燥に時間がかかる傾向。
- アクリル・ラテックス系(水性):扱いやすく低臭。微修正や室内の下地処理に。
- エポキシ系(2液):高接着・高耐久。金属・石材・タイルの欠け補修や構造的な充填に。
- ウレタン系:弾性と耐久性のバランスが良い。可動部のシールや床の小補修に。
- シリコーン系:耐水・耐候性に非常に強いが塗装不可が多い。水回りややむを得ない防水用途に限定。
室内での安全性(VOC・F☆☆☆☆)
室内で使用する補修材は、低臭・低VOC設計やホルムアルデヒド発散等級(F☆☆☆☆)相当の製品が一般的です。特に改修で在室者がいる環境では水性・低臭タイプを選ぶと安心です。詳細は各メーカーの技術資料・安全データシート(SDS)を確認しましょう。
選び方のコツ(プロの判断基準)
まず確認するポイント
- 下地の材質:石膏ボード/木部/コンクリート/金属/タイルなど。
- 必要な厚み:ヘアクラック程度か、数ミリ〜数センチの欠けか。
- 可動の有無:動く目地・取り合いは弾性が必須(シーリング材)。
- 仕上げ:壁紙・塗装・クリア塗装・化粧シート。塗装可否や研磨性をチェック。
- 乾燥・工程時間:当日中に仕上げたいか、しっかり硬化時間を確保できるか。
- 研磨のしやすさ:広面積の下地調整は研磨性重視。高強度材は削りにくい。
- 色合わせの必要:木部や既存仕上げのタッチアップは色味が鍵。
- 屋内外:屋外・水回りは耐水・耐候性の確認が必須。
迷ったときの目安
- 壁紙仕上げ前の下地調整:石膏ボード用のジョイントパテ(下塗り→中塗り→上塗り)。
- 塗装前の小さな段差・巣穴:水性アクリル系フィラー→研磨→シーラー→上塗り。
- 木部のピン穴・欠け:木工パテ(着色対応)→研磨→着色・クリア。
- コンクリの欠けや床の不陸:セメント系補修材(ポリマー配合)で厚み調整。
- タイル・石の欠け:エポキシ系補修材で成形→必要に応じて着色。
- 可動目地・取り合いの隙間:シーリング材(塗装仕上げならアクリル・ウレタン系、濡れ場ならシリコーン系を選択)。
現場での使い方
言い回し・別称
- パテ/パテ打ち:下地の平滑出し全般に使う現場語。
- フィラー:主に塗装下地の穴埋め材を指すことが多い。
- 埋め材・穴埋め:ビス穴やピンホール処理のこと。
- シール・コーキング:可動部の隙間充填。塗装可否の確認が定番フレーズ。
- ジョイント:ボード継ぎ目処理(テープ+パテ)を指す。
使用例(会話・指示の3例)
- 「このビス頭、先に一次パテで埋めといて。乾いたら全体を当てて。」
- 「建具の角、欠けてるから木部用で成形して。色は周りに合わせてね。」
- 「巾木の取り合いは可動するから、ここはパテじゃなくてアクリルでシールしよう。」
使う場面・工程
一般的な壁面の下地調整工程の流れです。
- 現況確認:欠け・段差・割れをマーキング。可動部か固定部かを見極める。
- 養生・下地清掃:粉・油分・水分を排除。必要に応じてプライマー塗布。
- 一次パテ:大きな段差・ビス頭・継ぎ目を埋める。厚盛りは乾燥を十分確保。
- 研磨:サンダーやサンドペーパーで平滑化。粉じん除去。
- 二次〜上塗りパテ:微細な凹凸を消す薄付け。ピンホールを見逃さない。
- 最終研磨→シーラー:吸い込みを整え、仕上げ(壁紙・塗装)へ。
関連語
- ジョイントテープ:ボード継ぎ目の亀裂防止に併用。
- プライマー/シーラー:付着や吸い込みを安定させる下塗り。
- 可使時間・硬化時間:2液や高反応タイプで重要な管理項目。
- 痩せ・収縮:乾燥後に段差が再発する現象。上塗りでリカバー。
- ブリード:シリコーン等の成分が上塗りににじみ出る現象。材質選定で回避。
正しい施工手順と道具
基本の道具
- パテベラ・スパチュラ各種幅、コーキングガン
- ミキシング容器・攪拌棒(2液や粉体+水の練り用)
- サンドペーパー(#120〜#320目安)、サンダー、集じん機
- 刷毛・ローラー(プライマー/シーラー用)、ウエス
- 個人保護具(防じんマスク、手袋、保護メガネ)
手順のポイント
- 素地調整:浮き・弱層を確実に除去。粉が残ると密着不良の原因。
- 配合・練り:粉体は所定の水量を厳守。2液は規定比率を正確に。
- 充填:奥まで押し込み、表面はやや「盛り」気味に。痩せを見越す。
- 乾燥・硬化:触れる硬さ=完全硬化ではない。研磨・上塗りは指示時間後に。
- 研磨:段差の境目を丁寧に消す。仕上げ方向の光を意識してチェック。
- 仕上げ前確認:逆光で斜めから見ると凹凸が見つけやすい。
よくある失敗と対策
- 剥離する:下地の粉・油分が残っている/プライマー不足。清掃と下塗りを徹底。
- 痩せて段差が再発:厚盛りしすぎ・乾燥不十分。薄付け多層+十分乾燥で解決。
- クラックが入る:可動部に硬質材を使用。弾性シールに切り替える。
- ピンホールが残る:充填不足・空気巻き込み。スクイーズして押し込み、上塗りで再処理。
- 艶ムラ・吸い込み:シーラー未施工。仕上げ前に吸い込み調整を行う。
- 塗装がのらない:シリコーン使用によるブリード。塗装可の材を選ぶか専用プライマーを使用。
- 色が合わない(木部):着色パテ選定ミス。サンプルで事前確認、複数色をブレンド。
代表的なメーカー(五十音順)
以下は内装分野で補修材・関連副資材を扱う代表的メーカーの一例です。詳細な製品仕様は各社の公式資料をご確認ください。
- アサヒペン株式会社:家庭用からプロ用まで幅広い補修パテ・充填材・塗料を展開。入手性が高く取り回しが良い。
- コニシ株式会社(BOND):接着剤で著名。木工用・建築用の補修材、シーリング材なども幅広く展開。
- セメダイン株式会社:各種接着剤・充填材・シーリング材を提供。内装向け低臭タイプも充実。
- フジワラ化学株式会社:内外装用の下地調整材・壁材・補修材を扱う。セメント系・パテ系のラインアップがある。
- ヤヨイ化学工業株式会社:壁装(クロス)副資材の専門メーカー。ボード用パテや下地調整材で現場採用が多い。
ケース別ミニ解説
石膏ボードのビス頭・継ぎ目
- ジョイントテープを貼る→ボード用パテで一次埋め→乾燥→研磨→上塗り→研磨→シーラー。
- ポイント:痩せを見越し、中央やや盛り。テープの端を消す意識で広めにならす。
建具の角欠け(木部)
- 欠け部を整形→木工パテで成形→完全硬化後に研磨→着色→クリア。
- ポイント:角は欠けやすいので硬化後に面取りを軽く入れると長持ち。
床の小段差(室内)
- 下地の強度確認→セメント系の薄塗り用で不陸調整→養生→仕上げ。
- ポイント:厚みが必要な場合は一度に盛らず複層。乾燥時間をきちんと確保。
安全・保管・環境配慮
- 換気:屋内作業は常時換気。低臭でも粉じん・臭気対策を行う。
- PPE:研磨時は防じんマスク、目の保護、手袋着用。
- 混合品の可使時間:2液や反応硬化型は時間管理が命。余剰は無理に延命しない。
- 保管:直射日光・高温・凍結を避ける。開封後は早めに使い切る。
- 廃棄:硬化させた上で各自治体のルールに従って処理。液状は流さない。
よくある質問(Q&A)
Q. コーキングと補修材は何が違う?
A. コーキング(シーリング材)は可動部の隙間を追従するための弾性材。補修材(パテ・フィラー等)は面を平滑にする硬質〜半硬質の充填材です。動くところはシール、動かない面はパテ、と覚えると失敗しにくいです。
Q. どれくらいで乾きますか?
A. 薄付けの水性パテなら数十分〜数時間、厚付けやセメント系・エポキシ系は半日〜翌日以降が目安。温度・湿度・厚みで大きく変わるため、製品の指示と現場環境で判断します。
Q. 室内でシリコーンを使っていい?
A. 防水性は高いですが塗装がのらないタイプが多く、後工程に影響します。塗装予定なら塗装可のアクリル・ウレタン系シーリングを選びましょう。
Q. 粉を吹く下地にパテしても大丈夫?
A. そのままでは剥離の原因。粉じん除去後、適合プライマーやシーラーで下地を固めてから充填してください。
Q. 石膏ボードに開いた大穴はどう直す?
A. 小穴は当て板+パテで対応可能ですが、手のひらサイズ以上は補修用パッチやボードの当て木で面を作ってからパテで仕上げると確実です。
チェックリスト(現場で迷わないために)
- 下地は何か?(ボード/木/コンクリ/金属/タイル)
- 動く部位か?(動く→シール、動かない→パテ)
- 仕上げは何か?(壁紙/塗装/クリア/シート)
- 必要な厚みは?(薄付け/厚盛り)
- 乾燥時間は確保できる?(当日仕上げ/翌日以降)
- 塗装可否・研磨性は適正?
- 色合わせは必要?(木部など)
- プライマー・シーラーの要否は?
まとめ
補修材は「材質」「厚み」「動くかどうか」「仕上げ」の4要素で選ぶのが基本です。壁紙前の下地には研磨しやすいパテ、木部には着色対応の木工パテ、コンクリの欠けにはセメント系、可動部の隙間にはシーリング材——この整理さえできれば、現場での判断は一気に楽になります。作業は下地清掃と乾燥管理が命。仕上げ前の斜光チェックとシーラーで品質を安定させましょう。困ったらメーカーの技術資料・SDSを確認し、適材適所で安全に施工してください。あなたの「これで合ってる?」が「これでいこう!」に変わるはずです。

