下貼りの意味と現場で役立つ使い方—素材選び・手順・注意点まで完全ガイド
「下貼りって何?」「捨て貼りと何が違うの?」——そんな疑問を持って調べている方へ。建設内装の現場では当たり前に飛び交う言葉ですが、初めてだとイメージしづらいですよね。本記事では、プロの内装施工の視点で「下貼り」の意味、現場での具体的な使い方、材料の選び方、正しい施工手順、そして失敗しないための注意点までをやさしく解説します。読み終えるころには、図面や現場で「下貼り」と言われても迷わず対応できるようになります。
現場ワード(下貼り)
| 読み仮名 | したばり |
|---|---|
| 英語表記 | Underlayment / Base layer(First layer of board) |
定義
下貼りとは、仕上げ材の直下に施工する「ベース層(一次層)」としての板材・シート材、またはそれを貼る作業のことを指します。壁や天井では石膏ボードなどの一次層、床では仕上げフロアの下に敷く合板や遮音マットなどが該当します。二重貼り仕様の場合は「下貼り(一次)→上貼り(二次)→仕上げ」の順に構成され、平滑性・剛性・遮音・防火・不陸調整などの性能を確保します。似た言葉に「捨て貼り(すてばり)」がありますが、捨て貼りは主に床で使う用語で、仕上げに隠れて見えなくなる補強目的の下地合板を指すことが多く、文脈によって区別されます。
なぜ「下貼り」が必要なの?
下貼りは、見えないところで仕上がりと性能を支える要の工程です。主な役割は次のとおりです。
- 平滑性の確保:既存面の不陸や継ぎ目の段差を吸収し、仕上げ材が美しく納まる面をつくる。
- 剛性・強度アップ:床のたわみ軽減、壁・天井の面剛性向上、開口部周りの補強など。
- 防火性能:石膏ボードの二重貼りなどで所定の耐火・準耐火性能を満たす。
- 遮音性能:床の軽量衝撃音・重量衝撃音対策、壁の透過音低減に寄与。
- 納まり調整:仕上げ厚さの違いを吸収、段差・見切り位置の最適化。
- 下地保護:配線・配管の干渉緩和、仕上げ材を損ねないベースの確保。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような言い回しが一般的です。
- 「PBの下貼り入れて」:PB=プラスターボード(石膏ボード)の一次貼りを指す。
- 「下地貼り」「一次貼り」「ベース貼り」:同義の現場用語として使われることがある。
- 「捨て貼り(床)」:床の補助的な合板貼り。文脈によって下貼りに近い意味で使われる。
- 「上貼り」「二次貼り」:下貼りの対義語。二重貼りの二層目。
使用例(3つ)
- 「今日は壁のPB12.5下貼りから入って、午後に上貼りいこう」
- 「天井は二重仕様。下貼り9.5で目地は通さないでね」
- 「床は捨て貼りじゃなくて下貼り12合板で。周囲は10ミリ逃がして」
使う場面・工程
代表的な工程とタイミングは以下のとおりです(一般例、物件仕様優先)。
- 壁・天井(LGS/木下地):墨出し→下地組み→配線・配管→断熱材→片面下貼り→ボード裏点検・充填→反対面下貼り→上貼り→継ぎ目処理。
- 床:下地(根太・捨て貼り・スラブ)確認→不陸調整→下貼り(合板・遮音マット)→上貼り(捨て張りや仕上げ直下のベース)→仕上げ(フロア・塩ビ・カーペット等)。
関連語
- 上貼り(二次貼り)/二重貼り:層構成でセットになる用語。
- 捨て貼り:床で用いる補助的合板貼り。下貼りと混同注意。
- 直貼り(GL工法等):下地を作らず接着材等で仕上げ材やボードを直接貼る工法。
- 下地:壁・天井のLGSや木軸、床のスラブ・合板など、貼り付けの受けとなる構造。
材料別の下貼りの種類と選び方
壁・天井(ボード類)
最も多いのは石膏ボードの下貼りです。防火・遮音・平滑性に優れ、二重貼りで性能確保する仕様も一般的です。
- 石膏ボード(一般・耐火・防湿・硬質):厚さ9.5〜15mm程度。下貼りは12.5mmが多い現場感。上貼りと目地をずらす。
- ケイ酸カルシウム板(ケイカル):湿気や不燃性が求められる部位で採用。タイル下地など。
- せっこうボード+遮音シート:壁の遮音性能を底上げする場合の挟み込みや併用。
選定ポイント:要求性能(耐火・遮音・硬さ)、曲げ剛性、仕上げ材の相性(クロス・塗装・タイル)、ビスの保持力、現場搬入の可否。
床(合板・マット類)
床の下貼りは、フロア仕上げの直下に敷くベース材や遮音材を指します。捨て貼りと併用するケースもあります。
- 構造用合板(JAS):厚さ12mm前後が一般的。根太ピッチや仕上げに応じて決める。
- 遮音マット・アンダーレイ:集合住宅でL値目標に合わせて選定。硬さ・厚み・反発性に注意。
- セメント系セルフレベリング(SL材):不陸調整を伴う下貼り的処置として採用されることがある。
選定ポイント:床のたわみ・遮音目標・仕上げ材(無垢・複合フロア・塩ビ)・水回りの耐水性・段差管理。
標準的な施工手順(基本)
物件の仕様書・メーカー施工要領が最優先です。以下は現場でよく行う一般的な流れです。
壁・天井(石膏ボードの下貼り)
- 事前確認:下地の通り、配線配管、断熱材の充填、開口補強、水平・垂直の精度を確認。
- 材料準備:ボードの厚さ・種類・寸法を確認。割付を決め、目地が通りすぎないよう計画。
- カット:ボードカッターで表紙切り→折り→裏紙切り。粉塵養生と搬入動線を確保。
- 貼り始め:天・床の逃げ(クリアランス)を数ミリ確保し、四周にビス止め。継ぎ目はT目地を避け、通し目地を作らない。
- ビス留め:下地に合わせたビスを選定(木下地=粗目、LGS=細目)。ピッチは仕様書優先(一般目安:周辺150〜200mm、中央200〜300mm)。頭はわずかに沈めるが紙を破らない。
- 開口処理:スイッチ・コンセント・メカ開口は寸法を正確に。欠き込みは補強と割付を優先。
- 上貼りの準備:下貼り完了後、掃除とビス浮き、段差の確認。ジョイント処理は仕様に従う。
床(合板・遮音マットの下貼り)
- 下地確認:不陸・たわみ・レベル・含水。木下地の含水率はおおむね12〜15%を目安。
- 不陸調整:パテ・薄ベニヤ・SL材等で調整。レベルの基準点を明確に。
- 割付:長手方向は下地の受けに直交。ジョイントは千鳥にし、四つ角が一点集中しないように。
- 敷設:周囲に5〜10mmのクリアランス、板間に2〜3mmの伸縮目地を確保。
- 留め付け:ビス・釘の選定(受け材に応じて)。一般目安は周辺150mm、中央200〜300mm。床鳴り防止のため接着剤の併用は仕様に従う。
- 遮音マット:重ね幅・継ぎ目処理・端部立上げなどメーカー指示に厳密に従う。
- 清掃・検査:段差・浮き・ビス浮き・目地幅・レベルを確認し、上貼り(仕上げ)に受け渡す。
道具・消耗品の基本
- 墨出し器(レーザー)、メジャー、差し金、下地探し(探知機)
- ボードカッター、のこぎり、丸ノコ、ジグソー(床の欠き込み)
- インパクトドライバー、ボードビス、木ネジ、ステープル(必要に応じて)
- パテベラ、サンダー(不陸の微調整)
- 接着剤(床用、低収縮タイプなど仕様適合のもの)
- 養生材、防塵マスク、手袋、保護メガネ
メーカーと材料の例(参考)
下貼り自体は作業・層の呼び名ですが、関連する代表的な材料メーカーをいくつか挙げます(五十音順、例示)。選定は仕様書・性能要件に従ってください。
- 吉野石膏:石膏ボードの大手。各種厚み・性能グレードを展開。
- チヨダウーテ:石膏ボードや関連建材を製造。
- ニチアス、神島化学工業:ケイ酸カルシウム板など不燃板の大手。
- 大建工業(DAIKEN):床下地材・遮音マットなどをラインアップ。
- フクビ化学工業:床用アンダーレイ・遮音材・見切材など内装副資材。
規格の例:石膏ボードはJIS A 6901、構造用合板はJAS規格に適合したものを用いるのが基本です。
仕上がりを左右するチェックポイント
- 目地のずらし:二重貼りは上下の目地を必ず千鳥に。T目地・通し目地は避ける。
- ビスピッチと沈み具合:浮き・打ち過ぎは仕上げ不良の原因。ピッチは仕様優先。
- 端部の逃げ:床の周囲クリアランス、ボードの周囲微小クリアランスで膨れ・割れを防止。
- 含水・環境:木部の含水率と室内湿度に注意。雨天搬入の合板は十分乾燥。
- 不陸・段差:上貼りや仕上げの前に0.5〜1.0mmレベルでチェック、必要に応じてパテ調整。
- 開口補強:開口部周りは胴縁や補強板を入れ、欠き込みで強度を落とさない。
- 製品の適合:防火・遮音等の性能指定は、指定製品と施工要領を厳守。
よくある失敗と対策
- 床鳴りが出る:受けの精度不足、ビス不足、接着剤未使用などが原因。受け間隔の見直しとビス追加、適合接着剤併用で改善。
- ボードの割れ・欠け:開口の角が直角切り、四つ角集中、搬入時の取り扱い不良。角はRや切り欠きで応力集中を避け、ジョイントは分散。
- 仕上げ後に目地が浮く:ビス浮き・ジョイント処理不足・温湿度変化。ビス再締め、下地パテの適正乾燥、室内環境の安定化が有効。
- 遮音性能が出ない:マットの継ぎ目処理・端部立上げ不良、仕様逸脱。メーカーのディテール図通りに再施工。
- 段差・見切り不良:層構成の厚み検討不足。初期段階で仕上げ厚・見切り高さを拾い出し、下貼り厚で調整。
「捨て貼り」との違い、重ね貼りとの関係
混同しやすい用語の整理です。
- 下貼り:仕上げ直下の一次層。性能確保(平滑・遮音・防火)を主眼に貼る。
- 捨て貼り:主に床で、根太上に補強目的で全面に合板を貼る工程を指すことが多い。結果的に隠れるが「構造・剛性寄与」のニュアンスが強い。
- 重ね貼り・増し貼り:既存の下地や仕上げの上からさらに板材を貼り重ねること。改修現場で多用。
現場では同じ板を使っても、目的と位置づけで呼び名が変わります。図面・仕様書で意味を確認しましょう。
初心者が迷わない割付と納まりのコツ
- 柱・スタッドの位置に合わせて割付。中空部でのジョイントは避ける。
- 縦使い・横使いは仕様優先。壁の石膏ボードは一般に縦張りが多いが、天井は受けに直交を基本に。
- 端部の細巾は極力避け、最小幅の基準を決める(例:200mm未満を作らない)。
- 目地位置を見切り・見付けに合わせて整える。仕上がり線から逆算。
安全・品質・コミュニケーション
- 粉塵対策:カット場所の分離、集塵、保護具着用。
- 搬入・荷重:長物・重量物の取り回し、脚立・足場の安全確保。
- 仕様確認:防火・遮音の指定は図面記号・断面表で再確認し、疑問は監督・設計に早めに照会。
現場での使い方(まとめ版)
下貼りは「仕上げのためのベースを作る一次層」。二重貼り仕様なら「下貼り→上貼り→仕上げ」。指示は「PB12.5下貼り」「床合板12下貼り」のように厚み・材質まで添えるのが通例です。言われたとおり貼るだけでなく、目地のずらしやビスピッチなどベーシックなルールを守ることが、最終仕上げの品質を大きく左右します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 下貼りの英語は何と言いますか?
床では「Underlayment」、壁・天井の一次貼りは「Base layer」や「First layer of gypsum board」と表現するのが通りやすいです。
Q2. ビスのピッチはどのくらいが目安?
仕様書優先ですが、一般的には周辺150〜200mm、中央200〜300mmが一つの目安です。LGSか木下地かでビスの種類(細目/粗目)も変わります。
Q3. 捨て貼りと下貼り、どちらを使えばいい?
床の剛性確保が主目的なら捨て貼り、仕上げ直下の平滑性や遮音が主目的なら下貼り、と考えると整理しやすいです。改修では両方使う場合もあります。
Q4. 二重貼りの目地はどのくらいずらす?
基本は半割や千鳥で、上下の目地が重ならないようにします。具体的なずらし寸法は板サイズと割付で決め、通し目地・T目地を避けるのが鉄則です。
Q5. マンションで遮音マットを下貼りすればL-45になりますか?
単体材だけで等級が決まるわけではありません。下地構成・躯体条件・仕上げ材との組み合わせで性能が決まります。メーカーの試験データと物件仕様の整合を確認してください。
用語辞典ミニ(関連キーワード)
- PB(プラスターボード):石膏ボードの現場略称。
- LGS:Light Gauge Steel。軽量鉄骨下地。
- 目地:板材同士の継ぎ目。通し目地、T目地は避けるのが基本。
- 不陸:面の凸凹。パテや下貼りで調整。
- 見切り:仕上げの切り替え・終端を納める部材・位置。
最後に:下貼りは「見えないけれど、仕上げの要」
下貼りは、完成後には見えない工程ですが、仕上がりの美しさと性能を陰で支えています。材料選び、割付、ビスピッチ、目地のずらし、端部の逃げ——基本を丁寧に積み重ねるほど、上貼りと仕上げの出来栄えが安定します。迷ったら仕様書とメーカー施工要領に立ち返り、現場では早めに共有・確認。これが「下貼り」で失敗しない、一番の近道です。

