内装工事の品質を左右する『事前調査』完全ガイド:現場で迷わない基本とチェックリスト
「事前調査って、何をどこまでやればいいの?」という不安は、はじめて内装工事に関わる人が必ず抱く疑問です。この記事では、建設内装の現場で職人や監督が日常的に使う現場ワード「事前調査」を、やさしい言葉で丁寧に解説します。言い回しや使う場面、実践的なチェック項目、トラブル回避のコツまで、プロの視点で整理しました。これを読めば、見積りや工程打合せの前に「何を確認すべきか」が明確になり、現場でのやり取りにも自信が持てます。
現場ワード(事前調査)
| 読み仮名 | じぜんちょうさ |
|---|---|
| 英語表記 | Pre-construction survey / Preliminary site survey |
定義
建設内装における「事前調査」とは、工事着手前に現地へ赴き、図面や仕様だけでは把握できない「現場の実態」を確認・記録する一連の行為を指します。具体的には、寸法の実測、下地や既存仕上げの状態確認、設備(電気・給排水・空調・通信)の位置や能力、搬入経路・積載制限、騒音・粉じんへの配慮事項、法令・管理規約・近隣への影響などを網羅的に洗い出し、施工方法・工程・安全対策・見積りの精度を高めるために行います。小規模な補修から大規模な原状回復・改修まで、工事の規模にかかわらず必須のプロセスです。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような言い回しがよく使われます。
- 現地調査(略して「現調」)
- 事前現調(じぜんげんちょう)
- 現地下見(げんちしたみ)
- 実測(寸法採りを強調する場合)
ニュアンスとして、「現調」は広く状況把握全般、「実測」は寸法採り中心、「下見」は軽めの確認、と使い分けられることが多いです。
使用例(3つ)
- 「見積り前に事前調査へ入ります。搬入経路と電気容量も合わせて確認しますね。」
- 「天井裏の事前調査でダクト干渉が判明したので、計画を片廊下側にオフセットします。」
- 「床のレベル差が大きかったので、事前調査の結果として下地調整の数量を見込んでおきます。」
使う場面・工程
- 見積り・提案前:概算を出す前の前提条件確認。数量把握、難易度評価、リスク抽出。
- 契約・着工前:施工計画の確定、実測図作成、現場ルール・申請手続の整理、安全対策の具体化。
- 工程途中(解体後):露出した下地・設備の再調査。計画の微修正や追加工事の判断材料に。
関連語
- 実測:現地での寸法採取。図面との差異・誤差の確認。
- 墨出し:基準線・基準点を現場に表示する作業。事前調査の成果を形にする前段。
- 施工計画:手順・人員・機材・安全・品質・工程をまとめた計画書。
- 現況図/現調報告書:調査結果の図面・写真・所見をまとめた資料。
- 既存図(As-Is)/改修計画(To-Be):現況と完成形の対比。差分が工事範囲。
事前調査で見る基本チェック項目(内装工事向け)
1. 寸法・下地・仕上げ
- 平面寸法(壁芯/内法)、天井高、梁下、開口寸法、建具クリアランス
- 床レベル差、傾き、クラック、たわみ、下地材(コンクリート・合板・ALC・軽量鉄骨など)の種類と状態
- 壁の下地(PB厚、GL工法の有無、間柱ピッチ)、ビスの効き
- 既存仕上げの劣化(はがれ、浮き、汚れ、含水率)
2. 設備(電気・弱電・空調・給排水)
- 分電盤の容量・余回路、アース、感電・漏電ブレーカーの仕様
- コンセント・スイッチ位置、LAN/電話/無線APの位置と系統
- 照明器具の種類、天井内スペース、配線ルート
- 給排水立て管の位置、勾配確保の可否、既存トラップ、止水の手配先
- 空調室内機・ダクト・吸排気の干渉、メンテナンススペース
3. 建物・共用部・周辺環境
- エレベーター・搬入経路の有効寸法、時間制限、養生範囲
- 積載制限、駐車・荷捌きの可否、搬入導線の障害物
- 騒音・振動・粉じんの許容時間帯、近隣テナントの業種
- 管理規約・工事届・火気申請・セキュリティカードの手配
4. 安全・法令・リスク
- 高所・開口部・感電・挟まれ・墜落の恐れがある箇所
- 石綿(アスベスト)を含む可能性のある既存建材の有無(年代・材質・層構成を確認)
- 防火区画・避難動線・非常設備への影響
- 雨仕舞・漏水履歴・コア抜き時の止水計画
プロが使う実測・記録のコツ
実測の精度を上げるポイント
- 基準線の決定:通り芯または動かない躯体を基準に採寸。基準が曖昧だと全てがズレます。
- 三角測量の併用:長辺+対角寸法をセットで押さえ、短辺は算出で再チェック。
- 高さはレベル基準で:レーザーレベルで床高・天井高・梁下を同一基準で測定。
- 「都合の悪い数字」も記録:入らない、当たる、足りない、を赤で強調。
写真・動画の撮り方
- 広角→中景→寄りの順で、位置関係がわかるように連続撮影。
- スケール(メジャー・定規)を画角に入れて寸法の証拠にする。
- 天井裏・床下はライト併用。配管・ダクトの通り、吊り元、可動クリアランスを撮る。
- ファイル名ルール例:「2025-02-01_A室_天井裏_北側梁下_2.38m.jpg」
主な計測・調査ツールと代表メーカー
- レーザー距離計:素早い実測に有効。代表メーカー例:ボッシュ(電動工具・測定機器で国内流通が広い)、ライカジオシステムズ(測量・計測の専門性が高い)、マキタ(現場向け堅牢モデルが充実)。
- レーザーレベル・オートレベル:水平・高さ基準出しに使用。代表メーカー例:タジマ(墨出し器や測量関連で知られる)、スタビラ(水平器で評価の高いメーカー)。
- 非接触検電器・配線探知:電気安全と躯体内の確認に。
- 含水率計・下地探し:仕上げの可否やビスの効きを判断。
- 内視鏡カメラ:点検口がない天井裏・壁内の目視補助に。
注:メーカーの記述は一般的な知名度・取り扱い分野に基づく紹介です。機種選定は必要精度や現場条件に合わせてください。
トラブル事例と回避策
1. 既存図と実測が違う
よくあるズレは、壁芯と内法の混同、梁の食い込み、GL工法での厚み差。対策は「要所の対角寸法」と「躯体基準の採寸」。造作や什器の納まりは余裕寸法を持たせ、クリアランスを明示します。
2. 天井裏の干渉で設備が入らない
ダクト・配管・電気配線の通りが複雑で、器具が納まらないことがあります。事前に点検口や既存器具を外して目視確認し、必要なら仮設吊りで高さ検証。干渉時はルート変更、薄型器具、下がり天井案を早期提示。
3. 搬入経路の制限で材料が入らない
エレベーター開口や廊下の曲がりで長尺物が通らず、追加継ぎや現場加工が必要になることも。搬入経路は「最小曲げ半径」「最狭部の三次元寸法(幅×高さ×回転スペース)」を現調で計測し、分割発注や工場加工を検討します。
4. 電気容量不足で機器が使えない
新設機器の合計容量が既存の余力を超えるケース。分電盤の主幹・回路構成・同時使用率を確認し、回路増設や機器の負荷分散、契約容量の見直しを事前に協議します。
5. 床の不陸で仕上げ不良
床レベル差を見落とすと塩ビタイルの目地乱れやドアのこすりにつながります。長尺定規+レーザーレベルで高低差を記録し、下地調整(パテ、セルフレベリング)の数量を見込むのが定石です。
法令・管理面での注意ポイント
事前調査では、工事内容に応じて法令や建物管理規約の確認が不可欠です。特に以下は見落とし厳禁です。
- 石綿(アスベスト):改修・解体を伴う場合、対象建材の事前調査や届出・掲示が求められる場面があります。対象範囲・調査者の資格要件・手続きは最新の法令と自治体ルールを必ず確認してください。
- 防火・避難:区画貫通部の処理、天井の防火性能、避難動線への影響は、建築基準や消防との整合が必要です。
- 占用・騒音・粉じん:ビル管理の承認、作業時間帯、養生仕様、廃材搬出ルールを事前に取り決めます。
- 電気・給排水の停止:止水・停電の申請窓口、立会いの要否、復旧試験の段取りを整理します。
不明点は「誰に確認するか(管理会社/オーナー/設計者/設備保守)」を明確にし、記録を残すことで後工程の混乱を防げます。
成果物(アウトプット)の作り方
現調報告書の基本構成
- 表紙:物件名/住所/調査日/参加者/連絡先
- サマリー:重要事項(制限・リスク・要承認事項)を1ページで
- 平面・断面スケッチ:主要寸法、障害物、基準線、器具位置
- 写真台帳:撮影位置図と対応づけ、注記入り
- チェックリスト:未決事項は担当と期限を明記
- 見積り影響項目:追加・減の根拠と数量
実測図の鉄則
- 基準点・縮尺・単位を明記(mm統一)
- 水平・垂直・対角の三点で整合を取る
- 後で見ても分かる書き込み(符号・矢印・凡例)
コミュニケーションの実践テクニック
事前に共有する質問リスト
- 使用できる時間帯と騒音作業の可否は?
- 搬入導線と養生の指定は?
- 各設備の停止・復旧の手順と立会いは?
- 防災・警備連動(熱感・煙感・入退室)の扱いは?
- 完成後の清掃・検査基準は?
打合せでの言い回し例
- 「想定と違いが出た場合の優先順位(コスト・納期・意匠)を先に決めておきましょう。」
- 「この干渉リスクは三つの代替案があります。写真と実測値をご覧ください。」
- 「制限事項は赤、要承認は星印で資料に整理しました。期限までにご判断をお願いします。」
チェックシート雛形(使い回せる項目例)
- 物件情報:住所/階/連絡先/管理会社
- 日程制約:作業時間/休日作業/騒音制限
- 搬入・養生:EV寸法/積載/導線図/養生材
- 寸法:平面主要寸法/天井高/梁下/開口
- 下地:壁PB厚/間柱ピッチ/床レベル差
- 仕上げ:既存材質/劣化/含水率
- 電気:主幹容量/予備回路/アース
- 弱電:LAN/電話/Wi-Fi機器位置
- 空調:室内機/ダクト系統/メンテ空間
- 給排水:立て管位置/勾配/止水担当
- 防災:感知器/スプリンクラー/防火区画
- 法令・申請:工事届/火気申請/石綿関連
- 近隣配慮:掲示/挨拶/粉じん対策
- 安全:高所/開口養生/感電・切創
- 未決事項:担当/期限/代替案
よくある質問(FAQ)
Q1. 事前調査はどのタイミングで実施するのが正解?
A. 最低でも「見積り前」と「着工前(解体前後に二度)」がおすすめです。解体で露出した配管・下地を見て計画修正できると、手戻りが大きく減ります。
Q2. 調査にどれくらい時間をかけるべき?
A. 規模・内容次第ですが、ワンルーム内装なら1〜2時間、オフィス一区画なら半日〜1日が目安。天井裏・床下の確認、搬入経路の採寸を含めると精度が上がります。
Q3. 無償でするべき?見積もりに含めるべき?
A. 初回の概算用の現調は無償で行うケースもありますが、詳細調査や実測図・報告書作成は有償として合意するのが一般的です。調査範囲と成果物を事前に取り決めましょう。
Q4. 調査の優先順位は?
A. 影響の大きい順に「安全(人・設備)→納まり(寸法・干渉)→能力(電気・給排水)→運用(搬入・騒音)」の視点で進めると抜けが減ります。
現場で使えるテンプレ会話(メール・チャット例)
件名:事前調査のご日程確認(◯◯ビル◯階)
本文:
お世話になっております。◯◯内装の△△です。
下記内容で事前調査に伺いたく、ご都合の良い日時を2〜3候補ご提示いただけますでしょうか。
・所要:約90分(天井裏・搬入経路を含む)
・確認事項:寸法実測、電気容量、給排水、管理規約、作業時間帯
・必要事項:入館手続き、撮影可否、点検口開放の可否
どうぞよろしくお願いいたします。
「事前調査」を武器にするための心構え
事前調査は単なるチェックではなく、「リスクを見つけ、先に潰す」ための攻めの仕事です。数字と写真という客観的な根拠で会話できると、意思決定が速くなり、無駄なコストや手戻りを削減できます。小さな現場でも調査品質を一定に保つことで、結果的に品質・納期・安全が安定し、信頼につながります。
まとめ
「事前調査」は、内装工事の成功を左右するもっとも重要な起点です。この記事で解説した「言い回し・使う場面・チェック項目・記録のコツ・法令注意点」を押さえれば、初心者でも現場の会話に迷いません。まずは自分用のチェックシートを作り、現場ごとに更新していく。これだけで、見積りの精度も、当日の段取りも、仕上がりの満足度も、一段とレベルアップします。今日の現場から、早速実践してみてください。









