内装鉄部を長持ちさせる防錆塗料ガイド|選び方・塗り方・現場のコツを一冊化
「鉄の切断面がすぐ赤サビになる…」「どの防錆塗料を選べばいいの?」内装工事の現場で、こんな不安を抱えて検索してくださった方に向けて、プロが現場目線でわかりやすく丁寧に解説します。この記事では、防錆塗料の基礎知識から種類の違い、素材別の選び方、下地処理と塗装の手順、よくある失敗と対策までを実践的にまとめました。初めての方でも「これならできる」と感じる具体的なポイントを押さえています。今日の現場でそのまま使えるチェックリストも掲載。読み終わる頃には、必要な判断と作業の流れがすっきり整理されているはずです。
現場ワード(防錆塗料)
読み仮名 | ぼうせいとりょう |
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英語表記 | Anti-rust paint / Rust-inhibitive primer |
定義
防錆塗料とは、鉄や鋼材など金属の腐食(サビ)を抑えることを目的に設計された塗料の総称です。素地に直接またはプライマーとして塗布し、化学的・物理的な仕組みでサビの発生・進行を抑制します。内装現場では、軽量鉄骨(LGS)下地の切断面・ビス頭・開口補強材・手すり・設備架台などの鉄部に用いられ、後工程(ボード張り・塗装仕上げ・防火被覆など)の耐久性と美観を守る役割を果たします。
防錆塗料の基礎知識
サビはなぜ起きる?
鉄のサビ(赤錆)は、酸素と水分、時に塩分などの電解質があると電気化学反応によって発生・進行します。切断面・溶接部・傷は特に反応が起きやすく、室内でも給湯室や外気に近い場所、結露しやすい天井裏などは腐食環境になりやすいポイントです。
防錆塗料の基本的な働き
防錆塗料は、主に以下の方法で錆を抑えます。
- バリア効果:樹脂皮膜で酸素・水分を遮断(エポキシ系など)
- 防錆顔料:亜鉛リン酸塩などが鉄表面と反応し不動態化
- 犠牲防食:亜鉛粉末が鉄より先に腐食して鉄を守る(亜鉛リッチ)
- 錆転換:既存の赤錆を化学的に安定な黒錆等に転換(水性転換剤)
種類と特徴(長所・短所)
1液エポキシ・変性エポキシ系
現場で最も扱いやすい定番。密着・防錆力・作業性のバランスがよく、鉄骨、手すり、設備架台など広範囲に対応。乾燥も比較的早い。デメリットは、厚膜が必要な重防食や恒常的な結露環境の長期耐久では専用品に劣ること。
2液エポキシ系
主剤と硬化剤を混合して使用。耐薬品性・密着性・防錆性に優れ、重防食用途にも対応。デメリットは可使時間の制約と取り回しの難しさ。現場では大面積・高耐久要求の鉄骨で採用されることが多い。
亜鉛リッチ(ジンクリッチ)系
高濃度の金属亜鉛粉末を含み、犠牲防食で強力に守るタイプ。切断端面や溶接部、屋外に近い環境で特に有効。デメリットは上塗り適合性や白さび対策の配慮、所定の素地調整や膜厚管理が必要な点。
水性防錆・錆転換型
臭気が低く室内作業で扱いやすい。既存錆に直接塗れる製品もある(ただし「浮錆の除去」は必須)。デメリットは乾燥時間が温湿度の影響を受けやすく、重防食ゾーンでは適合外となる場合がある。
変性アルキド・速乾型
軽微な鉄部や補修で手早く使えるタイプ。上塗りとの相性が広い製品も多い。デメリットは、強い腐食環境では耐久に限界があること。
どれを選ぶ? 用途別の選び方
内装下地(LGS・補強鉄骨・手すりなど)
通常は1液または2液のエポキシ系を選べば安心。切断面・ビス頭の局所補修なら速乾型や亜鉛リッチのタッチアップを併用するケースも。
亜鉛めっき鋼板(ZAM、溶融亜鉛めっきなど)
一般のエポキシが密着不良を起こすことがあるため、「亜鉛めっき鋼板用プライマー」や「ジンクリッチ対応の下塗り」を選定。目荒らし(軽い研磨)と脱脂を丁寧に。
既存錆が残る補修
浮錆・脆弱層を徹底除去の上、錆転換型→エポキシ系という二段構え、もしくは「錆面適用可能」を明記した防錆塗料を採用。製品仕様の適用範囲を必ず確認。
臭気制限の強い現場(稼働中施設・病院・学校など)
水性の防錆や低臭溶剤型を優先。作業時間帯の調整、換気計画、においの事前周知も重要。
素材別の注意点
鉄・普通鋼
油分除去とケレン(素地調整)を確実に行えば、ほとんどの防錆塗料が適合。溶接スラグ、ミルスケール、旧塗膜の脆弱部はしっかり除去。
亜鉛めっき鋼
白さび・パッシベート皮膜・油分が密着不良の原因。脱脂と目荒らしの上で、適合プライマーを選択。
ステンレス・アルミ
腐食しにくいが、塗料の密着確保が課題。金属用プライマー(エポキシ系、変性エポキシ系など)の採用と目荒らしが有効。製品の適合表を事前確認。
下地処理(素地調整)の基本
4つの代表的な素地調整レベル
現場では、概ね次の考え方で使い分けます(工事仕様書に従うのが原則)。
- 1種:ブラスト処理(新設重防食や屋外高耐久に)
- 2種:動力工具ケレン(グラインダー、ワイヤーブラシ等)
- 3種:手工具ケレン(皮スキ、手ワイヤー等)
- 4種:清掃・洗浄(軽微な汚れ・白さびの除去など)
いずれの場合も、油分・粉じん・水分を残さないことが最重要。ケレン後の粗れ(アンカー)を生かし、できるだけ早く塗装に入ります。
施工手順(内装現場での標準フロー)
1. 環境確認・養生
温度5〜35℃、相対湿度85%以下、素地温度が露点+3℃以上を目安に。周囲の仕上げ面や機器を養生し、換気ルートを確保します。
2. 素地調整・脱脂
ケレンで浮錆・旧塗膜の脆弱箇所を除去。シンナーやアルコール等の適合溶剤で脱脂。清掃して粉じんを取り除きます。
3. 攪拌・希釈
沈降しやすい防錆顔料は特に十分攪拌。2液型は所定比率で均一に混合し、可使時間内に使い切ります。希釈は製品指示の範囲内で最小限。
4. 塗装
刷毛・ローラー・スプレーから最適な方法を選択。切断面・エッジ・ビス頭は先行して「先塗り」し、必要に応じて二度塗りで膜厚を確保します。
5. 乾燥・塗重ね
指触乾燥→半硬化→塗重ね可能時間の順で管理。規定時間を守らずに重ねると、後の膨れや密着不良の原因になります。
6. 記録・検査
素地調整の写真、温湿度、膜厚、使用量、ロット番号を記録。必要に応じて膜厚計で確認します。
膜厚・乾燥・塗布量の目安
製品により異なりますが、一般的な内装向け防錆塗料の目安は次のとおりです。
- 乾燥膜厚:1回あたり約20〜40μm(亜鉛リッチはより厚い指定の場合あり)
- 塗布量(理論値):約0.10〜0.15kg/m²/回(材料によって増減)
- 乾燥時間(23℃):指触約30〜60分、塗重ね可能約4〜8時間(低温・高湿は延長)
所定膜厚が得られないと十分な防錆性能が発揮されません。広い面は膜厚計による確認をおすすめします。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「さび止め」「錆止め」「錆止めプライマー」「下塗り(鉄部)」などと呼ばれます。ジンクリッチは「ジンク」「ローバル(代表的商品名)」と呼ばれることも。
使用例(3つ)
- 「LGSの切断面とビス頭、先にさび止め回しておいて」
- 「手すり溶接の焼け、ジンクで先タッチアップしてから上塗りね」
- 「開口補強のアングル、ケレン→脱脂→エポキシで2回、膜厚出して」
使う場面・工程
軽量下地組みの途中で切断面・ビス頭の補修、設備・電気の吊りボルトやラックの切断面、開口補強材や階段手すりの補修、新規鉄骨の下塗り、既存鉄部の改修など。後工程のボード張り・仕上げ・機器取付に入る前に完了させるのが基本です。
関連語
- プライマー/下塗り:上塗りの密着を高める初層
- ケレン:素地調整(1〜4種)
- 亜鉛リッチ(ジンク):犠牲防食タイプ
- 錆転換剤:赤錆を安定化させる化学処理剤
- 露点:結露発生の指標。素地温度は露点+3℃以上で施工
よくある失敗と対策
塗膜のはじき・ぬれ不良
原因は油分や離型剤、シリコーン汚染。対策は入念な脱脂と目荒らし、適合シンナーの使用。布の繊維残りにも注意。
早期剥離
原因は素地調整不足、結露、塗重ね時間の未遵守、亜鉛めっきへの不適合塗装。対策は仕様書に基づくケレン、露点管理、適合プライマーの選択。
ピンホール・ブツ
原因は粉じん・塵埃、過度な希釈、厚塗りの気泡。対策は清掃・静電気対策、適正粘度、薄膜多回塗り。
白さびの発生(亜鉛)
高湿下での乾燥不足が原因。対策は環境管理と乾燥時間の確保、必要に応じてシーラーなどで封じる設計。
安全衛生・環境配慮
- PPE:手袋・保護メガネ・防じんマスク(有機溶剤は防毒マスク)。皮膚汚染と目への飛散を防止。
- 換気:屋内は強制換気を計画。臭気クレーム対策として作業時間帯と動線を事前調整。
- 火気:溶剤型は引火性あり。火気厳禁・静電気対策・保管温度管理。
- 廃棄:残塗料・ウエスは自治体・産廃ルールに従って処理。硬化後の塗料カスも適正廃棄。
代表的メーカーと特徴(五十音順)
具体的な採用品は現場仕様書に合わせて選定してください。以下は日本の現場で広く知られる代表例です。
- エスケー化研:建築分野に強い総合塗料メーカー。内装鉄部向けの防錆・下塗り製品を幅広く展開。
- 関西ペイント:重防食から建築まで網羅。現場で扱いやすいエポキシ系さび止めのラインアップが豊富。
- 日本ペイント:建築・重防食の大手。現場定番のエポキシ系防錆プライマーを多数展開。
- ローバル:亜鉛リッチ(常温亜鉛めっき)で著名。切断面や溶接部の犠牲防食で広く採用。
- BAN-ZI(バンジ):水性の錆転換・防錆系製品で知られる。臭気制限の厳しい現場に適合する選択肢がある。
製品名や仕様は改良・更新されるため、最新のカタログ・技術資料で適用下地・塗装条件・上塗り適合を必ず確認しましょう。
上塗りとの関係(仕上げまで見据えた設計)
防錆塗料は多くが「下塗り」です。上塗り(ウレタン、シリコン、水性塗料など)との相性が重要で、特に亜鉛リッチの上にはシーラーが必要な場合があります。予定している仕上げ品(焼付塗装品・粉体塗装・水性上塗りなど)との適合を事前に確認し、塗重ね時間も守ってください。
コストと品質のバランス
「安価・速乾」だけで選ぶと、結露や薬品曝露のある環境で早期不具合を招くことがあります。逆に過剰仕様はコスト・工期の無駄。腐食環境(湿気・塩分・温度変化)と要求耐久年数、メンテナンスのしやすさを踏まえ、防錆等級を見極めて選定するのがプロの視点です。
ケース別の具体策
天井裏の吊ボルト・電気ラックの切断面
粉じん清掃→脱脂→速乾型またはジンクでタッチアップ→必要ならエポキシで全体を押さえる。結露しやすい機械室周辺は厚めの皮膜で。
開口補強材(アングル)
角・エッジ部は膜厚不足になりやすいので先行塗り+二度塗り。ボード当たり面に塗膜ダマが出ないよう、面の均一性にも配慮。
手すり・階段鉄部の補修
しっかりケレン→転換型(必要に応じて)→エポキシ下塗り→上塗り。手が触れる部位は平滑仕上げと臭気対策を重視。
現場で役立つチェックリスト
- 腐食環境の確認(湿気・結露・薬品・塩水・外気接触)
- 素材の確認(鉄/亜鉛めっき/ステンレス/アルミ)
- 素地調整のレベルと方法(1〜4種/工具/清掃)
- 適合塗料の選定(樹脂系・水性/溶剤・上塗り適合)
- 温湿度・露点の管理、換気計画、養生範囲
- 必要膜厚・塗布量・塗重ね時間の把握
- 先塗りが必要な部位(切断面・エッジ・ビス頭)の特定
- 記録(写真・ロット・数量・環境)と完了検査
よくある質問(FAQ)
Q. 錆の上からそのまま塗っていいですか?
A. 浮いた錆や脆弱層は必ず除去してください。錆転換型や「錆面可」の防錆塗料でも、ケレンと脱脂が前提です。
Q. 亜鉛めっきやステンレスにも使えますか?
A. 製品によります。亜鉛めっきは専用プライマーや適合下塗りを、ステンレスは目荒らしと金属用プライマーが基本です。
Q. 室内で臭いが心配です。
A. 水性や低臭タイプを選び、換気と作業時間帯の配慮を。周辺テナントや施設の方へ事前周知するとトラブルになりにくいです。
Q. ホームセンター品とプロ用の違いは?
A. 使い勝手の良さは似ても、膜厚・防錆力・上塗り適合や技術資料の充実でプロ用が優位な場合が多いです。工事仕様の要求に合わせて選びましょう。
用語ミニ辞典
- 防錆顔料:亜鉛リン酸塩など、錆の進行を抑える機能性顔料
- 乾燥(指触/半硬化):手で触れて付着しない/実用強度に近づく乾燥状態
- 可使時間:2液型で混合後に使用できる時間
- タッチアップ:部分補修塗りのこと
- アンカー効果:目荒らしによって塗膜が機械的に食いつく効果
まとめ:現場で失敗しないための3原則
- 素地調整を怠らない(ケレン・脱脂・清掃)
- 適材適所で選ぶ(素材・環境・上塗り適合)
- 条件を守る(温湿度・露点・膜厚・塗重ね時間)
この3つを徹底すれば、内装現場の鉄部はぐっと長持ちします。迷ったら、腐食環境と素材から選定の優先順位を決め、メーカー技術資料で適合を確認。丁寧な下地づくりと確実な膜厚管理が、最終的な仕上がりとクレームゼロにつながります。今日の現場から、確実な「さび止め」をはじめましょう。