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防振ゴムとは?現場で選ばれる理由と正しい使い方・効果を徹底解説

防振ゴムを正しく使いこなすための基礎知識と現場実践ガイド

「防振ゴムって何?どこに使うの?種類が多すぎてどれを選べばいいの?」——建設内装の現場で初めてこの言葉に出会うと、こうした疑問が湧くのは自然なことです。防振ゴムは、機器の振動や床・壁・天井に伝わるビリつきを抑えるための基本アイテム。知っているかどうかで仕上がりの静粛性も、苦情リスクも大きく変わります。本記事では、現場で通じる言い回しから、選定・設置のコツ、ありがちな失敗と対策まで、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。

現場ワード(キーワード)

読み仮名ぼうしんごむ
英語表記anti-vibration rubber (vibration isolation rubber)

定義

防振ゴムとは、ゴムの弾性(しなり)と内部損失(粘り)を利用して、機械や構造物から周囲へ伝わる振動・騒音を減らすための部材・材料の総称です。床置き機器の脚下に敷くパッド型、ボルトで固定するマウント型、天井吊りのハンガー型など形状はさまざまで、材質や硬さ(JIS A硬さ)を選ぶことで目的に合わせた防振性能を得られます。

防振ゴムの基本原理と効果の出方

「防振」と「制振」の違い

現場では混同されがちですが、厳密には次の通りです。

  • 防振(アイソレーション):振動源と建物の間に「ばね」を入れて伝わりにくくする考え方。主にゴムの弾性を活用。
  • 制振(ダンピング):部材自体にエネルギーを吸収させて振動を減衰させる考え方。ゴムの粘性による内部損失が寄与。

防振ゴムは基本的に「ばね+ダンパー」の性質を持つため、両方の効果をほどよく発揮します。

共振を避けるのが最大の肝

防振の効きは、機械の振動周波数(ファン回転、コンプレッサーの脈動など)と、防振ゴムで支えた系の「固有振動数」の関係で決まります。一般的には、加振周波数が固有振動数のおよそ2倍を超えるあたりから効果が現れ、3倍以上になると実感できるレベルで効きやすくなります。逆に近いと共振して増幅してしまうため、選定時は「柔らかすぎない・固すぎない」の見極めが重要です。

種類と特性を理解する(材質・形状・硬さ)

材質ごとの特徴

現場でよく見る材質と特徴はおおむね次の通りです。どれも一般的な傾向で、詳細はメーカー仕様を優先してください。

  • 天然ゴム(NR):弾性が高く防振効果が出やすい。耐候性・耐油性はやや弱め。屋内向け・一般機器向けに使いやすい。
  • クロロプレン(CR):耐候性・耐油性がバランスよく、屋内外問わず幅広く使われる。
  • EPDM:耐候性・耐水性・耐熱性に優れ、屋外・湿潤環境に強い。耐油性は限定的。
  • NBR:耐油性に優れ、油まわりの設備に適する。屋外耐候は材質により留意。
  • シリコーン:広い温度域で安定しやすい。機械強度やコストの観点で用途は限定的。

形状のバリエーション

  • パッド型:切って敷くだけ。屋内の小型機器、軽量間仕切りのランナー下、二重床の支持脚下などに使いやすい。
  • マウント型(ボルト止め):機器脚部のボルトで固定するタイプ。荷重が明確で、据付安定性に優れる。
  • ハンガー型:天井内の配管・ダクト・ファン吊りに。ばね+ゴムの複合型もある。
  • ストリップ・ライナー型:長尺でカットして敷設。連続支持や振動の橋渡し防止に使う。

硬さ(JIS A硬さ)と厚み

JIS A硬さは40〜70程度がよく流通します。柔らかいほど低周波に効きますが、沈み込みやすく、厚すぎるとフワついて共振のリスクが上がります。厚みは「必要最小限」が基本で、機器の重量や許容沈下量、周囲のクリアランスと合わせて決めます。

選定の考え方と手順(現場で迷わないために)

選定フロー(基本)

  • 1. 振動源の情報を集める:重量、支持点数、回転数(主な振動周波数)、設置場所(屋内外)
  • 2. 使う形状を決める:床置き(パッド/マウント)、吊り(ハンガー)など
  • 3. 材質を選ぶ:屋外・油・水・温度など環境条件に応じて
  • 4. 荷重に合う製品を候補化:1点当たりの荷重に対し、メーカーの許容荷重・変位の表から選ぶ
  • 5. 共振回避を確認:加振周波数と仕様に記載された固有振動数の目安を比較(余裕を見て選ぶ)
  • 6. 施工性と保守を考慮:据付スペース、ボルト長、点検・交換のしやすさを確認

1点当たりの荷重を出す

機器重量を支持点数で割り、1点当たりの荷重を算出します。偏荷重(重心の偏り)が疑われるときは、重い側の荷重が大きくなる前提で安全側に選ぶか、現物合わせで厚みや硬さを微調整します。

共振を避けるコツ

  • 柔らかすぎると固有振動数が下がりすぎ、低回転時に共振しやすい
  • 固すぎるとそもそも防振効果が出にくい
  • 一般に、加振周波数が固有振動数の約3倍以上になる選定だと安心感がある

迷ったら、メーカーの「選定表」「固有振動数–荷重特性」などを確認し、許容荷重内で振動伝達率が小さくなる領域を選びます。

現場での使い方

言い回し・別称

  • 防振パッド/防振マット/防振材
  • アイソレーター(防振装置の総称)
  • 制振ゴム(文脈によってはほぼ同義で使われる)
  • 防振ハンガー(吊り金具と一体のタイプ)

使用例(会話のイメージ:3つ)

  • 「この送風機、床直置きだと響くから、防振ゴムを脚下にかましておいて。」
  • 「天井の配管ハンガー、最終段に防振入れてね。バネでもいいけど、今回はゴムで。」
  • 「LGSのランナー下、階下に音が行くから薄手の防振ゴムを挟んで。連続にせずピースで。」

使う場面・工程

  • 機器据付:ファン、ポンプ、コンプレッサー、パッケージ空調機の脚下
  • 吊り配管・ダクト:振動源に近いハンガー部、機器直近
  • 内装下地:軽量間仕切りのランナー下、二重床の支持脚
  • 防音室・スタジオ:浮き床・浮き壁の縁切り材として

関連語

  • 共振、固有振動数、伝達率、制振、遮音、浮き構造、入隅縁切り
  • マウント、ハンガー、アンカー、ベースプレート、パッド

設置手順と現場のコツ(床置きパッド型の例)

施工ステップ

  • 1. 下地清掃:埃・油分・バリを除去。段差が大きければモルタル等で調整。
  • 2. 位置出し:機器の支持点位置に合わせ、パッドの仮置き位置をマーキング。
  • 3. パッド切断:カッターや帯鋸で必要寸法に切る。角は面取りすると欠けにくい。
  • 4. 仮置き・水平確認:機器をそっと載せ、水平器で確認。必要に応じて厚みや枚数を微調整。
  • 5. 固定・安全確保:移動・転倒の恐れがある場合はストッパーやアンカーで二次固定。
  • 6. 最終確認:運転試験で振動・音・揺れをチェック。共振が出る回転域がないか確認。

吊り(ハンガー)での注意点

  • 支持高さ・ハンガー長さを統一し、左右で沈み込みが揃うようにする
  • 天井ふところのクリアランスを確保(沈下分も見込む)
  • 送風機など回転体は、機器直近のハンガーに防振を集中させると効きやすい

ありがちな失敗と対策

よくある不具合

  • 柔らかすぎてフワつく・共振する:硬さや厚みの見直し。支持点を増やし荷重を分散。
  • 硬すぎて効かない:より低硬度の材質に変更、厚みを抑えつつ固有振動数を調整。
  • 連続敷きで「音橋」になる:間隔を空けたピース支持に切替。縁切りを徹底。
  • 油・日射で劣化:材質の再選定(耐油はNBR、屋外はEPDM/CRなど)または保護覆いで対策。
  • 偏荷重で片減り:重心位置の見直し、支持寸法の調整、片側のパッド面積を増やす。
  • 沈み込みすぎて配管に無理:配管接続部にフレキやスリーブを入れ、沈下を吸収。

安全・品質面での注意事項

防火・法規:ゴムは基本的に可燃材。防火区画や露出部では仕様書・指示に従い、必要に応じてカバー・囲いを設けます。

耐久・点検:ひび、硬化、永久ひずみが見られたら交換。使用環境により寿命は大きく変わるため、定期点検(例:年1回の目視)を推奨します。

薬品・油:油・薬品・高温蒸気などに触れる場合は、材質適合の確認が必須。適合しないと短期で劣化します。

騒音経路の複合性:床だけでなく、配管・ダクト・電線管・壁・天井やビスが振動のバイパスになり得ます。全経路を俯瞰し、必要箇所に防振を入れて音橋を断つのがポイントです。

ケース別の使い分け(建設内装の代表例)

空調・換気機器

ファン、全熱交換器、室内機用の小さめパッドやマウントが定番。回転数が低い機器は柔らかすぎると共振しやすいので、使用回転域での振動確認を行います。吊りの場合は防振ハンガーを最終段に入れるのが効果的です。

給排水ポンプ・ブースターユニット

脈動が強く、配管から音が回り込みやすい系統。機器脚には防振ゴム、配管にはフレキシブル継手、防振ハンガーの併用が有効です。床面の剛性も確認し、薄スラブなら架台を介して負荷を分散します。

内装下地・二重床

軽量間仕切りのランナー下に短冊パッドを敷いて衝撃・生活音の伝達を低減。連続敷きにせず、ピース支持+縁切り(壁・床の音橋をつくらない)を意識します。二重床では支持脚の座に防振ライナーを入れることがあります。

設計・計算の考え方(やさしく)

防振は本来、荷重とばね定数から固有振動数を計算して最適化します。ただし現場では、メーカーの「選定表(荷重 vs. 変位・固有振動数)」を使うのが実用的です。目安として、常用荷重でゴムが少し沈む(見てわかる程度)の範囲に入ると効果が出やすく、沈みすぎは不安定のサインです。回転数可変(インバータ)の機器は、低速時にも共振しない領域を選ぶか、運転条件で回避します。

保守・交換のタイミング

  • 目視での劣化(ひび割れ、白化、ベタつき、欠け)
  • 沈み込みの増大(レベルが狂う、ボルトが干渉)
  • 振動・騒音の再発(経年硬化や弾性低下)

使用環境(屋外・油・温度・紫外線)によって寿命は数年〜十数年と差が出ます。点検記録を残し、同等品または上位材質での計画交換を検討します。

代表的なメーカー例(五十音順)

以下は、防振ゴム・防振マウント・関連防振製品を取り扱うことで知られる国内企業の例です。詳細な型式や適合条件は各社の公式資料をご確認ください。

  • 倉敷化工株式会社:産業機械向けの防振マウントや関連製品で知られるメーカー。
  • 共和ゴム株式会社:各種ゴム製品・工業用防振材を手がけるメーカー。
  • 住友理工株式会社:ゴム技術を基盤に、自動車・産業用の防振関連製品を展開。
  • ブリヂストン:ゴム・樹脂技術を活かした産業用防振・防音関連の製品を取り扱う。
  • 東京防音:住宅・家電の防振・防音小物を中心に、手軽なパッド類を展開。

他にも、配管・空調向けの金具メーカーが「防振ハンガー」「ばね+ゴム複合アイソレーター」を扱っています。現場の仕様書・メーカー推奨に合わせて選定してください。

よくある質問(Q&A)

Q1. 厚いほど効きますか?

必ずしも「厚い=良い」ではありません。厚くて柔らかいと固有振動数が下がり、低回転域で共振することがあります。荷重・周波数に合った硬さと厚みの組合せが大切です。

Q2. どれくらい静かになりますか?

振動源・周波数・設置条件で大きく変わります。目安はメーカーの伝達率(周波数比別)で判断します。正しく選定・施工できれば、床や壁への回り込み音を実感レベルで低減できるケースは多いです。

Q3. 屋外でも使えますか?

使えますが、材質選定が重要です。屋外では耐候性の高いCRやEPDMなどが好適。直射日光・水・凍結・油の有無に応じて仕様を確認してください。

Q4. パッドは全面敷きが良いですか?

基本はピース支持です。全面敷きは「音橋」になって振動が回り込みやすく、効果が落ちることがあります。機器の脚位置や荷重バランスに合わせ、複数点で支持するのがセオリーです。

Q5. 配管の防振はどうすれば?

機器側に防振ゴム、配管支持は防振ハンガー、継手はフレキなどを併用し、振動のバイパス経路を断ちます。天井内では最終段支持に防振を入れると効きやすいです。

現場チェックリスト(着工前〜完了)

  • 荷重と支持点数は把握したか(1点あたり荷重の算出)
  • 使用環境(屋内/屋外、油、水、温度、紫外線)の確認
  • 機器の回転数レンジ(可変速か)と共振リスクの検討
  • 材質・硬さ・厚み・形状(パッド/マウント/ハンガー)の確定
  • 音橋になる連結(配管・ダクト・ビス・連続敷き)の洗い出し
  • 据付後の沈下・保守スペース・レベル調整の余裕を確保
  • 試運転で振動・騒音の実測/体感確認、記録の残置

内装職人のひとことアドバイス

防振は「入れたら終わり」ではありません。伝わり道を切る発想で、脚元・吊り元・配管・仕上げを一体で考えるのがコツ。迷ったら、柔らかさに頼りすぎず、荷重と周波数の整合を優先。施工後の試運転で違和感があれば、ピース位置や枚数の調整、厚みの変更など「その場で追い込む」柔軟さが仕上がりを左右します。

まとめ:防振ゴムを味方につける3ポイント

  • 1. 原理を知る:共振を避け、周波数比に余裕を持たせる
  • 2. 適材適所:環境・荷重・形状に応じた材質と硬さを選ぶ
  • 3. 施工と検証:音橋を断ち、試運転で体感・計測して微調整

防振ゴムは、現場の静粛性と品質を支える心強い相棒です。今日の一手間が、明日のクレームゼロと快適空間につながります。ぜひ本記事のポイントを現場で活かしてください。