アスファルト防水を現場目線でやさしく解説:種類・手順・耐用年数・費用のキホン
「アスファルト防水ってよく聞くけど、具体的にどんな工事?ウレタンやシート防水と何が違うの?」——そんな疑問に、現場で実際に使う言い回しや流れまで踏み込んで、やさしく解説します。本記事は、建設内装や改修の現場で職人が当たり前に使っている“現場ワード”を、初心者でもイメージできるように整理したもの。メリット・デメリット、工法の違い、費用の目安、トラブルの予防策まで、実践的にまとめました。
現場ワード(アスファルト防水)
| 読み仮名 | あすふぁるとぼうすい | 
|---|---|
| 英語表記 | Bituminous Waterproofing(Asphalt Waterproofing / Built-up Roofing) | 
定義
アスファルト防水は、アスファルト系の材料を用いて屋上やバルコニーなどの躯体を水から守る防水工事の総称です。大きく「熱工法(ホットアスファルトでルーフィングを積層する工法)」と「改質アスファルトシート防水(トーチ工法や常温粘着工法)」に分かれます。重ねて貼る層構成により、耐久性・止水性能に優れ、平場が広い屋上スラブやパラペット立上りなどで多用されます。
アスファルト防水の基本と仕組み
アスファルトは石油由来の粘着性・防水性に優れた材料です。防水層は、アスファルトを含浸・コーティングした「ルーフィング(シート)」を複数層に重ね、継ぎ目を溶着・密着させて水の侵入経路を断つことで成立します。仕上げは直射日光から防水層を守るため、砂付きシートやコーティング、押さえコンクリートなどの“保護層”を組み合わせます。
主な材料(現場で耳にするもの)
- ルーフィング(アスファルトルーフィング、改質アスファルトシート)
- プライマー(下地密着を高める下塗り)
- ホットアスファルト(熱工法で使用)/トーチバーナー(シート溶着で使用)
- 押えモルタル・押さえコンクリート(保護仕上げ)
- 端末金物・改修ドレン(取り合い・排水強化)
- シーリング材(端末処理、ディテールの止水補助)
保護仕上げの種類
- 露出保護仕上げ:砂付きシートやトップコートで紫外線から保護。点検しやすい。
- 保護コンクリート仕上げ(押えコン):上にコンクリートを打設して保護。耐久性・耐荷重に優れるが、改修はやや大掛かり。
工法の種類と違い
1) 熱工法(ホットアスファルトによる積層)
溶融釜でアスファルトを加熱し、下地にプライマー→アスファルト→ルーフィングを重ね、所定の層数で積層する工法。歴史が長く、強固な防水層を作りやすいのが特長です。平場が広い屋上などで採用されます。
- メリット:層構成で高い耐久性/立上りも強固/押えコンとの相性が良い
- 注意点:火気・高温管理が必要/臭気対策が必須/施工熟練度が品質に影響
2) 改質アスファルトシート防水(トーチ・常温粘着)
アスファルトに改質材(ポリマーなど)を加えたシートを用い、トーチバーナーで炙って溶着する工法や、常温粘着タイプを貼る工法。ホットアスファルトを使わず、施工性・安全性のバランスが良いのが魅力です。
- トーチ工法:バーナーでシート裏面を溶かしながら貼る。密着・溶着の安定性が高い。
- 常温粘着工法:火気を使わず貼れるため、臭気や火気制限が厳しい環境で有利。
- 注意点:下地の清掃・含水率管理、重ね幅・端末処理の精度が品質を左右。
どちらの系統でも、下地状態(乾燥度・平滑性・既存層の有無)、改修か新築か、施工場所の制約(火気・臭気)に応じて最適な工法を選びます。
代表的な施工手順(現場の流れ)
新築・熱工法の例
- 1. 下地確認・清掃:段差やレイタンスを除去し、平滑に調整。含水率が高い場合は乾燥期間を確保。
- 2. プライマー塗布:下地の吸い込みを押さえ、密着を高める。
- 3. 立上り処理:入隅・出隅に面木や補強シートを先行施工。
- 4. ルーフィング積層:ホットアスファルトを塗布し、所定層数(例:2〜3層)で貼り重ねる。
- 5. 端末・ジョイント処理:重ね幅・溶着状態を確認し、端末金物で押さえる。
- 6. 保護仕上げ:露出保護(砂付き・トップ)または押えモルタル/コンクリートを施工。
- 7. 検査・通水試験:目視・打診・通水で漏水リスクを確認。
改修・改質アスファルトシート(トーチ)の例
- 1. 既存層調査:浮き・膨れ・クラック・ドレン状況を確認。撤去か増貼りかを判定。
- 2. 下地調整・プライマー:既存層の清掃・補修後に下塗り。
- 3. シート貼り:トーチで裏面をあぶり、重ね代を守って溶着。立上りは補強シート+端末金物。
- 4. 端部シール:ディテール部にシーリングで二次止水。
- 5. 仕上げ:砂付き仕上げやトップコートで紫外線保護。
- 6. 検査:シーム(継ぎ目)を重点的に確認。
補足:下地に水分が多い場合は、密着させずに「絶縁(通気)仕様」を選ぶことがあります。これにより蒸気による膨れリスクを下げます。
どこに向いている?適用部位と向き不向き
- 向いている:屋上スラブ、機械室上、外廊下・バルコニー、パラペット、下駄ばき駐車場のスラブなど、平場が広く動きが小さい部位。
- 注意が必要:大きな挙動(たわみ・振動)が出るデッキ床、複雑な三次元形状の納まり、火気・臭気制限が厳しい室内直近(常温粘着や他工法の検討)。
耐用年数とメンテナンス
一般的な目安として、適切な設計・施工・維持管理が前提で、熱工法(押えコン仕上げなど)は20〜30年程度、改質アスファルトシート防水(露出仕上げ中心)は15〜20年程度とされるケースが多いです。直射日光・温度差・歩行荷重・メンテ頻度により差が出ます。
- 定期点検:年1回程度、継ぎ目・端末金物・ドレン周り・立上りのシールを点検。
- 軽微補修:トップコートの再塗装、端末シールの打ち替え、局所的な増貼りなど。
- 改修判断:膨れ・浮きが広範囲なら、部分補修より全面改修の方が結果的にコスト効率的な場合が多い。
費用相場の目安(新設・改修の参考)
条件により幅がありますが、一般的なレンジ感は以下の通りです(材料・層構成・地域・高さ・搬入出・下地補修量で変動)。
- 熱工法(新設・保護仕上げ含む):おおむね 7,000〜15,000円/m²
- 改質アスファルトシート防水(トーチ/露出):おおむね 5,000〜10,000円/m²
- 常温粘着工法:おおむね 5,500〜11,000円/m²
- 付帯工事(端末金物、改修ドレン、立上り増し、下地補修、仮設・搬入出)は別途
正確な見積もりには、現地調査(面積、立上り高さ、既存層、ドレン位置、入隅・出隅数、搬入経路など)の確認が不可欠です。
よくある不具合と原因・対策
- 膨れ(ブリスター):下地水分・残留湿気や溶着不足が主因。対策は絶縁仕様の採用、乾燥期間の確保、通気層・排気ディテールの設置など。
- 端末の浮き・剥がれ:重ね不足、押さえ不足、端末金物の緩み。対策は規定重ね幅の厳守、圧着ローラーでの押さえ、金物固定・シールの見直し。
- ドレン詰まり・漏水:落ち葉・砂塵の堆積。対策はドレンカバーでのゴミ受け、定期清掃、改修ドレンの設置。
- 仕上げ劣化(チョーキング・ひび):紫外線・熱。対策はトップコートの周期再塗装、保護層の適切選定。
安全・品質管理のポイント(現場の実務)
- 火気・高温管理:熱工法やトーチは防火養生・消火器・火気管理者の配置が必須。風向きと可燃物距離に注意。
- 臭気・近隣配慮:臭気が出る工程は時間帯・養生・換気計画を事前説明。必要に応じて常温粘着へ切り替え。
- 気象条件:降雨・降雪・結露は厳禁。露点・下地温度を確認し、無理施工を避ける。
- 下地乾燥・含水率:乾燥不足は膨れの大敵。必要なら乾燥機や養生期間を確保し、絶縁仕様を検討。
- 検査記録:重ね幅、温度、施工写真、通水試験結果を記録。引継ぎと将来改修に役立つ。
現場での使い方
言い回し・別称
- アス防(あすぼう)/アスファルト/熱アス(熱工法の略)
- 改質アス(改質アスファルトシート)/トーチ(トーチ工法)/コールド(常温粘着)
- ルーフィング(アスファルト系シート全般の呼称)
使用例(会話のイメージ:3つ)
- 「この屋上は熱アスで2層、立上りは金物押さえでいくよ。」
- 「今回は火気NGだから、トーチは不可。常温の改質アスで仕様組もう。」
- 「既存に膨れが多いから絶縁で増貼り、ドレンは改修ドレン入れといて。」
使う場面・工程
- 屋上・露台・外廊下の防水工程で、下地調整→プライマー→シート貼り→端末処理→保護仕上げの流れで使用。
- 内装工程との取り合いでは、パラペットの内外装仕上げ、サッシ下端、笠木金物との納まり確認が重要。
関連語
- 密着工法/絶縁工法、露出防水/保護防水、押えコンクリート(押えコン)、端末金物、改修ドレン、パラペット、入隅・出隅、通水試験
代表的なメーカー(例)
以下は国内でアスファルト系防水材を扱う代表的メーカー例です(五十音順)。採用にあたっては各社の技術資料・仕様書をご確認ください。
- 田島ルーフィング株式会社:アスファルト防水・改質アスファルトシートの大手。仕様体系が豊富で新築・改修双方に対応。
- 日新工業株式会社:アスファルト系防水材を中心に展開。各種工法の標準仕様と技術サポートが充実。
他工法との比較(選び方のヒント)
- ウレタン塗膜防水:複雑形状に強く、シームレスで納まりやすい。下地水分に弱い面があり、通気緩衝などの仕様選定がポイント。
- 塩ビ・ゴム系シート防水:軽量で施工が早い。機械的固定や接着で施工し、下地の動きに追従しやすいタイプもある。
- アスファルト防水:積層構成で耐久性・止水性に優れ、押えコン仕上げと相性が良い。火気・臭気管理や施工計画が鍵。
既存防水の種類、下地状態、使用環境(歩行・設備架台・日射)、工期・周辺条件(火気・臭気制限)を整理し、最適解を選ぶのが実務のコツです。
用語ミニ辞典(初心者向け)
- ルーフィング:アスファルトをしみ込ませた防水シートの総称。
- 改質アスファルト:アスファルトに改質材を加え、耐熱・耐寒・弾性などを高めたもの。
- トーチ工法:トーチバーナーでシート裏面を加熱して溶着する施工法。
- 絶縁工法:下地と防水層を密着させず、湿気の逃げ道を確保する仕様。
- 押えコンクリート:防水層の上に打つコンクリート保護層。荷重分散・紫外線保護の役割。
- 改修ドレン:既存ドレンに差し込んで性能を回復・向上させる専用金物。
よくある質問(FAQ)
Q. 戸建てバルコニーでもアスファルト防水は使えますか?
A. 可能です。ただし形状が複雑・火気が使いにくい場合は、改質アスの常温粘着や他工法が適することもあります。周辺の安全条件と納まりを優先して選定します。
Q. 膨れが少しあります。すぐに全面改修が必要?
A. 膨れの大きさ・位置・数、歩行の有無で判断します。局所補修で済む場合もありますが、再発が続く・広範囲なら絶縁仕様での改修が長期的に有利です。
Q. 耐用年数を延ばすコツは?
A. 定期清掃(ドレン・排水経路の確保)、トップコートの適期更新、端末金物・シールの点検が効きます。植栽や重量物の直置きは避け、荷重は保護層で分散しましょう。
Q. 工事中の臭いが心配です。
A. 臭気が問題になる現場では、火気・加熱を伴わない常温粘着工法や、臭気対策を施した時間帯施工・養生で配慮します。事前周知がトラブル防止に有効です。
実務のチェックリスト(発注・監理の観点)
- 仕様と工法:密着か絶縁か、層数、仕上げ(露出/押えコン)を明確に。
- 下地:勾配(排水経路)、含水率、段差・クラック補修の計画を確認。
- 端末・取り合い:サッシ・笠木・手すり根元・設備架台周りの詳細図を用意。
- 安全・近隣:火気・臭気・搬入ルート・仮設計画を事前合意。
- 検査:通水試験の条件(時間・水位)、写真記録、是正手順を決める。
実例でイメージ(改修の現場あるある)
築20年超の集合住宅屋上で、既存露出のアスファルト防水に膨れと端末劣化が見られるケース。全面撤去はコスト・工期が増えるため、既存層の健全部は活かし、絶縁仕様で改質アスシートを増貼り、ドレンは改修ドレンで更新。立上りは金物を新調し、端末シールを打ち直す。結果、臭気と火気を抑えつつ、膨れ再発リスクを低減しながら耐久性を確保できる——こうした判断が現場ではよくあります。
関連規準・参考の方向性
設計・施工にあたっては、国内で広く参照される建築の防水工事標準(例:日本建築学会の防水工事に関する標準仕様書など)に準拠した仕様・施工管理が基本となります。実際の選定は、メーカーの技術資料・試験データ・納まり図と照らし、現場条件に合わせて決定します。
まとめ:アスファルト防水を味方にする要点
- 「熱工法」と「改質アスファルトシート(トーチ/常温)」の違いを理解する。
- 下地の乾燥・勾配・取り合いが品質のカギ。膨れ対策には絶縁仕様を検討。
- 費用は仕様と条件で大きく変わる。見積り前に現地の実測・調査が必須。
- 定期点検と清掃・端末メンテで、寿命と安心感は大きく伸びる。
- 火気・臭気など周辺配慮を踏まえ、現場に合う工法を選ぶのがプロの仕事。
この記事が、「アスファルト防水」という現場ワードの輪郭をつかむ助けになれば幸いです。仕様の細部は現場条件で変わりますが、要点を押さえれば、発注・監理・施工の会話がグッとスムーズになります。









