ケイカル板とは?現場で失敗しないための用途・厚み・施工のコツをプロが解説
「ケイカルって何?」「石膏ボードとどう違うの?」「どの厚みを選べばいい?」——初めて現場ワードに触れると、こうした疑問が次々に出てきますよね。この記事では、内装・軽天・仕上げの現場で日常的に使われる「ケイカル板(けい酸カルシウム板)」について、プロの目線でやさしく整理。用途選定、厚みの目安、施工の基本、よくある失敗と対策まで、初心者の方でも安心して手を動かせるよう、実践的に解説します。
現場ワード(ケイカル板)
読み仮名 | けいかるいた(正式:けいさんカルシウムいた) |
---|---|
英語表記 | Calcium Silicate Board |
定義
ケイカル板は、けい酸質と石灰質を主原料に繊維などを混合し、高温高圧で硬化させたボード建材です。建築基準法の不燃材料に該当する製品が多く、耐熱性・寸法安定性に優れるのが特長。内装の天井・壁の下地、キッチンや洗面などの水回り下地、軒天(外部の天井)や鉄骨被覆の下地など、火や湿気に配慮したい場面で広く使われます。石膏ボードより耐湿性が高く、セメント系ボードより軽量で加工しやすい、中庸的なポジションの下地材と覚えると整理しやすいです。
現場での使い方
ケイカル板は現場で「ケイカル」「ケイカルボード」「カルシ」と略されることがあります。正式名は「けい酸カルシウム板」ですが、図面や発注書では「ケイカル板 t=6」など厚み(t)を添えて記載されるのが一般的です。
言い回し・別称
- 略称:ケイカル、ケイカルボード
- 正式:けい酸カルシウム板(JIS A 5430 該当の製品群)
- 近似材と混同注意:石膏ボード(PB)、フレキシブルボード(繊維強化セメント板)、セメントボードは別材
使用例(3つ)
- 「ここはケイカルのt6で軒天張っといて。ビスピッチは200で」
- 「レンジフード周りは不燃で、ケイカルt9に耐熱塗装仕上げね」
- 「洗面所のタイル下地はPBじゃなくてケイカルt12にしよう。防水下地処理も入れて」
使う場面・工程
- 軽鉄・木下地の壁天井下地張り(内装下地)
- 軒天や庇の外部天井下地(通気・塗装仕上げ)
- 水回りのタイル下地(浴室以外の洗面・トイレ・キッチン周り)
- 防火被覆の基材・区画貫通部の周囲下地(製品の不燃認定に従う)
関連語
- PB(プラスターボード/石膏ボード):内装標準下地。耐湿・耐熱はケイカルに劣る
- フレキ(繊維強化セメント板):外部・湿式に強いが重く硬い
- 不燃材料(NM):建築基準法の区分。ケイカル板は多くが不燃認定
- サブロク(3×6=910×1820)、サンパチ(3×8=910×2430):板の呼び寸法
ケイカル板の特徴とメリット・デメリット
特徴
- 不燃性:高温でも形状安定性が高く、火災時の延焼抑制に有利
- 寸法安定:湿度変化での伸縮が比較的小さく、フラットな仕上がりを保ちやすい
- 耐湿性:PBより強いが「防水」ではない。常時結露や水がかりは防水層が必要
- 加工性:薄物はカッターで筋付け・割りが可能。厚物は丸ノコ等で切断
メリット
- 不燃・耐熱で火気周りに安心
- タイル・塗装・化粧ボードなど多様な仕上げに対応
- 軽量でセメント板より扱いやすい
- ビス止めでしっかり固定でき、たわみが少ない
デメリット
- PBより高価で、材料コストが上がる
- 厚物は割れが出やすく、下穴や丁寧な取り回しが必要
- 吸水しやすいため、端部・ジョイントの防水・シーリング処理が必須
- 切断粉じんに結晶シリカを含みうるため、防じん対策が必要
用途と適した厚みの目安
現場で迷いやすいのが「厚み選定」。下記は一般的な目安です(最終判断は設計・製品仕様に従ってください)。
- 室内天井下地(塗装):t=4〜6mm(ビスピッチ200〜300mm)
- 室内壁下地(塗装・化粧):t=6〜9mm(同150〜200mm)
- タイル下地(水回り):t=9〜12mm(タイル重量・割付に合わせて増減)
- 軒天(外部天井):t=6〜8mm(通気・シーリング併用、地域風荷重に留意)
- 耐火被覆下地・炉周り:t=9〜15mm(製品の不燃認定・仕様書に厳密に準拠)
板サイズは、サブロク(910×1820mm)を基準に、サンパチ(910×2430mm)、3×10(910×3030mm)などが流通。軒天用などでは短冊状の規格品もあります。
施工の基本(切断・固定・目地処理)
切断・加工
- 薄物(〜6mm):カッターで数回ケガいて折る。端面はペーパーで面取り
- 厚物(9mm〜):丸ノコ+ダストカバー、ダイヤ/超硬刃を推奨。粉じん対策を徹底
- 開口:ホールソーやコアドリル。割れ防止のため、角はR取り(四隅に先行穴)
- 端部処理:吸水しやすいのでシーラー塗布や防水材での端部処理が有効
固定(木下地・軽鉄下地)
- ビス:木下地は木ネジ(皿・ラッパ)、軽鉄はドリルビス。先端から15mm以上離して打つ
- ビスピッチ:周辺150〜200mm、中央200〜300mmが目安(製品仕様優先)
- 下穴:厚物や割れやすい箇所は下穴φ2.5〜3mm程度で割れ防止
- 接着剤併用:振動や浮き防止に弾性接着剤を併用することがあるが、基本はビス主体
- クリアランス:温湿度変化に備え、板間3〜5mmのクリアランスを確保
目地・仕上げ
- 内装塗装:ジョイントにアルカリ耐性のあるテープ+パテ。全面パテで段差吸収後、シーラー→上塗り
- タイル仕上げ:吸水調整のためプライマーを入れ、薄付け接着剤(規格品)で圧着。端部は防水シール
- 軒天塗装:耐候性のある塗料を選定。継ぎ目シールは動きに追随する変成シリコン系が無難
防火・法規のポイント
ケイカル板は多くが「不燃材料」(NM)として国の認定を取得しています。仕様書には「不燃材料(NM-XXXX)」の番号が記載されるのが一般的。防火区画や火気周りで使用する場合は、
- 対象製品が該当する認定番号・厚み・施工方法であるか
- ビス種類・ピッチ、目地仕様が認定条件を満たすか
- 他材料(断熱材・防水材など)との組み合わせが認定範囲内か
を必ず確認してください。法規は「製品+工法のセット」で適合が決まります。迷ったらメーカーの技術資料・認定書を参照しましょう。
防湿・防水の注意点
- 「耐湿」は「防水」ではない:常時湿潤・外部直接雨掛かりには単独使用不可
- 端部・ビス孔は吸水しやすい:シーラーや防水材で止水し、雨水の侵入経路を断つ
- 通気計画:軒天や水回りは裏側に湿気を溜めないよう通気層・換気を確保
- 防水層の連続:床防水や浴室周りは、立ち上がり・貫通部まで切れ目なく施工
よくある失敗と対策
- 割れ・カケの発生:運搬は両手・2人で。ビスの打ち込み過ぎ厳禁、端から15mm以上を確保
- ジョイントのひび:板間クリアランスを取り、テープ+弾性のあるパテで対応。下地のたわみを抑える
- 黄ばみ・ムラ塗り:吸い込みムラ対策にシーラー必須。端部処理を怠らない
- タイルの浮き:プライマー・接着剤の選定ミスが原因。下地の平滑度±2mm/m以内を目標
- ビス頭のサビ:ステンレスまたは防錆品を使用し、頭はパテや塗膜で被覆
規格・サイズと選定のコツ
代表的規格(製品により異なります):
- サイズ:910×1820(サブロク)、910×2430(サンパチ)、910×3030(3×10)ほか
- 厚み:t=3、4、5、6、8、9、12、15mmなど
- エッジ:角(スクエア)/面取り(ハーフベベル)など、仕上げに合わせて選ぶ
選び方の要点:
- 用途と仕上げ:塗装・タイル・化粧板のいずれかで、必要厚みと下地精度が変わる
- 防火要件:不燃・準不燃の認定有無、認定番号で確認
- 環境:屋内/半外部(軒天)で製品可否が異なる。屋外直曝はセメント系の方が適性
- 施工性:厚物は丈夫だが重く割れやすい。現場の人員・工具に合わせる
代替材との比較
- 石膏ボード(PB):軽量・安価・加工容易。耐火性は高いが耐湿性は弱い。内装乾式に最適
- 繊維強化セメント板(フレキ):外部・湿式・タイル下地に強いが重く切断が大変。耐衝撃も高い
- セメントボード:浴室など常時湿潤部のタイル下地に有利。ケイカルよりさらに耐水性が高い
位置づけとしては、PB<ケイカル<フレキ/セメントボードの順に耐湿・耐候性が上がり、加工性・軽さは逆転すると覚えると判断しやすいです。
代表的なメーカーと特徴(例)
- ニチアス株式会社:不燃建材の大手。内装用・軒天用など多用途のケイ酸カルシウム板を展開。技術資料が充実し、法規適合の確認がしやすい
- 神島化学工業株式会社:住宅・非住宅向けに各種厚み・サイズを供給。軒天用途のラインアップや加工対応品も流通
いずれも製品ごとに不燃認定や適用範囲が明確に定められています。選定時は「不燃認定番号」「屋内/軒天可否」「推奨ビス・接着剤」「塗装・タイルの適合表」を必ずチェックしましょう。
安全衛生・搬送保管の注意
- 切断粉じん:呼吸用防じんマスク(日本の区分でDS2相当など)、集じん機付き工具、濡れ切りで暴露低減
- 手指保護:端部が鋭利。手袋・長袖を着用し、角からの衝撃を避ける
- 搬送:大判は2人以上で運搬。面で支え、たわませない
- 保管:平積み・水平保持。湿気を避け、施工前に現場環境に馴染ませる(アクリマタイズ)
現場Q&A
Q1. キッチンの壁、火気周りは必ずケイカル板?
A. 不燃性能が求められる範囲では「不燃材料仕上げ」が必要です。PBでも不燃認定の仕上げ仕様があれば使える場合はありますが、下地から不燃のケイカル板にしておくと安心で、後の仕上げ選択肢も広がります。
Q2. 浴室の壁下地に使える?
A. 直に水が掛かる浴室内部は、ケイカル板単体よりもセメントボード等の常時湿潤対応材が一般的。洗面やトイレなどの「飛沫程度」ならケイカル板+防水処理+適切な仕上げで問題ありません。
Q3. 目地を消してフラットに塗装したい
A. ボードジョイントは3〜5mmのクリアランスを取り、アルカリ耐性テープ+硬化収縮の少ないパテで段差を抑え、全面パテで平滑に。吸い込み止めのシーラーを全体に塗ってから上塗りしましょう。
Q4. 古い建物のケイカル板、アスベストは大丈夫?
A. 現行品はノンアスベストです。築年数が古い建物の改修では、材料の年代・製品を調査し、必要に応じて事前分析・適正な処理を行ってください。自治体・専門業者の指示に従うことが重要です。
Q5. ビスの頭が割れてしまう
A. 打ち込み過ぎや下穴不足が原因。トルクを下げ、座堀りせず面一で止める。端部からの距離を確保し、厚物は下穴を推奨します。
チェックリスト(発注・施工前)
- 用途・仕上げ・防火要件に合う製品か(不燃認定番号の確認)
- サイズ・厚み・エッジ形状の整合(割付図と干渉確認)
- ビス種・ピッチ・接着剤の適合(メーカー仕様書準拠)
- 防水・シール・プライマーの計画(特に端部・開口・軒天)
- 粉じん対策・搬送・保管の段取り(工具・人員確保)
ケイカル板は「不燃」「耐湿」「加工性」のバランスに優れ、内装・半外部で頼れる下地材です。ポイントは、用途に合う厚みと正しい下地・目地・端部処理。この記事を手元の虎の巻として、現場で迷ったときにサッと見返してもらえたらうれしいです。安全第一で、品質のよい仕上がりを一緒に目指しましょう。