天井カセットエアコンを徹底解説|種類・設置のコツ・注意点まで【内装現場のプロがやさしく解説】
「天井カセットエアコンって何?」「天カセってよく聞くけど、壁掛けと何が違うの?」——内装や設備の知識がないと、現場の会話が早口に感じて不安になりますよね。この記事では、建設内装の現場で本当に使われている言い回しや、選定・設置・メンテナンスの要点を、専門用語をかみ砕きながら丁寧に解説します。読み終わるころには、「天カセ」の全体像がつかめて、打ち合わせや現場確認で迷わなくなります。
現場ワード(天井カセットエアコン)
| 読み仮名 | てんじょうカセットエアコン(略称:てんカセ) |
|---|---|
| 英語表記 | Ceiling Cassette Air Conditioner |
定義
天井カセットエアコンとは、天井の内部(天井懐)に室内機本体を埋め込み、露出するのは化粧パネルと吹き出し口のみという形のエアコンを指します。オフィスや店舗、商業施設、集合住宅の共用部などで多用され、見た目がすっきりして意匠性に優れるのが特徴です。現場では「天カセ」「カセット形」「天井埋込形」と呼ばれることもあります。
天井カセットエアコンの基礎知識
仕組みと構成
天井カセットエアコンは、室外機と室内機で構成され、冷媒配管・ドレン配管・電源/通信配線で接続されます。天井の中に室内機を吊り込み、下から化粧パネルを取り付けることで、天井面とフラットに近い仕上がりが可能です。吹き出しはパネルの周囲から行い、吸い込みは中央のグリルから行うのが一般的です。
ルーバー(吹き出し口の羽)の角度や運転モードを調整することで、風当たりを弱めたり、室内の温度ムラを抑えたりすることができます。リモコンは壁付けの有線タイプや、ワイヤレスタイプ、複数台を一括管理する集中コントロールなど、用途に応じて選択されます。
種類(吹き出し方向と設置用途)
現場でよく出てくるバリエーションは、主に吹き出し方向の違いです。
- 4方向吹き出し:最も一般的。オフィスや店舗のベースに。均一な気流が作りやすい。
- 2方向吹き出し:細長い空間や廊下、壁際のゾーニングに適する。
- 1方向吹き出し:壁際や梁形状が複雑な場所、奥行きの浅い天井懐で採用されることがある。
また、家庭用マルチエアコンのカセット形と、業務用のパッケージエアコン(店舗・事務所用)で仕様が異なります。容量、電源、制御方式、メンテナンス性など、用途に合わせた選定が重要です。
どんな空間に向いている?
- 意匠性を重視した空間(天井面をフラットにしたい)
- 室内の中央付近から均一に送風したいオフィスや店舗
- 家具や装飾が多く、壁掛け機が置きにくいレイアウト
一方で、天井懐が極端に浅い、点検口の確保が難しい、上階の制約が厳しいなどの場合は、天井カセット以外の方式(壁掛け、天吊り、ビルトインダクト形など)も検討します。
天井カセットと他方式の違い
- 壁掛け形:コストと施工性が良く、メンテナンスが容易。意匠性と気流の広がりは天カセに劣る場合あり。
- 天吊り形(露出):天井から露出で吊るタイプ。天井懐がない場所でも設置しやすい。
- ビルトインダクト形:ダクトで複数の吹き出し口へ送風。意匠性が高いが、設計・施工難易度やコストは上がる。
メリット・デメリット(現場目線)
メリット
- 意匠性が高い:露出するのは化粧パネルのみで空間がすっきり。
- 気流の均一性:4方向吹き出しは室内の温度ムラを抑えやすい。
- レイアウト自由度:壁面がふさがっていても設置しやすい。
デメリット
- 天井懐が必要:本体の高さや吊り込みスペース、配管ルートを確保する必要がある。
- メンテナンス導線:フィルター清掃・点検のための点検口や脚立が必要。
- 施工の手間:下地補強、吊りボルト、ドレン勾配の確保など、施工精度が求められる。
現場での使い方
言い回し・別称
- 天カセ(てんカセ)
- カセット形/天井埋込形
- 4方向(よんほうこう)、2方向(にほうこう)、1方向(いちほうこう)
使用例(3つ)
- 「この会議室は天カセの4方向でいきます。パネル割付、照明と干渉してないか確認お願いします。」
- 「梁下が低いので角部は2方向の天カセに切り替えましょう。点検口の位置も見直しです。」
- 「ドレンは自然降下でいけないので、ポンプ付きの天カセに変更、ルート図を更新します。」
使う場面・工程
- 設計・計画段階:機種選定、天井割付、配管・配線ルート検討、点検口位置の決定。
- 内装下地段階:吊りボルトや補強、墨出し、仮吊り。
- 配管・配線段階:冷媒配管、ドレン配管、電源・通信配線の敷設。
- 仕上げ段階:石膏ボード閉じ、パネル取付、化粧仕上げ。
- 引渡し前:真空引き・試運転、ドレン排水確認、リモコン設定。
関連語
- 室内機・室外機/冷媒配管/ドレン配管/化粧パネル/ルーバー/リモコン(有線・無線・集中)
- 天井下地(軽天)/吊りボルト/点検口/天井懐/天井割付
- ドレンアップポンプ/凝縮水(ドレン)/結露対策(保温)
- パッケージエアコン/ビルマルチ/マルチエアコン
選び方のポイント(初心者も失敗しない視点)
1. 部屋の用途とレイアウト
オフィスの執務室や店舗フロアなら4方向が扱いやすい選択肢です。壁際や細長い通路なら2方向・1方向も検討。人の滞在位置や机配置、サイン・什器との干渉を事前に確認します。
2. 設置スペース(天井懐)と点検性
天井懐の高さや梁・ダクト・照明器具との干渉は要チェック。フィルターの出し入れ、電装品の点検に必要なスペースと点検口位置を、図面と現地で二重に確認します。
3. 電源方式と容量帯
機種ごとに電源方式や容量帯が異なります。リニューアル時は既存の電源設備や分電盤の余裕、室外機の置き場も合わせて検討します。迷ったらメーカー仕様書に合わせて電気工事と事前摺合せを。
4. ドレン排水の取り方
自然勾配で重力排水できるのが理想ですが、ルートが取りにくい場合はドレンアップポンプ付きの機種やオプションを選びます。排水の最終処理先(既存のドレン系統や雑排水)もルールに従って計画しましょう。
5. 意匠性(パネル色・サイズ)
天井面と調和する色味(白系が一般的)や、照明・点検口・スプリンクラーとの取り合いを考慮したパネル割付が重要です。美観とメンテナンス性の両立を意識すると、後悔がありません。
設置の流れと現場のコツ
1. 事前計画・墨出し
天井割付図で位置決め。梁・ダクト・照明・点検口と干渉しないかを確認し、室内の風の流れも想像。吸い込み口付近に熱源や吸気口が直撃しないレイアウトが理想です。
2. 下地・吊り込み
天井下地に合わせて吊りボルトと補強を設け、室内機を水平に仮吊りします。水平が狂うとドレン排水に支障が出るため、水平器で丁寧に確認。施工中は化粧パネルが傷つかないよう、後付けにするか養生を徹底します。
3. 配管・配線
冷媒配管は曲げ半径や継手の品質に注意し、保温材を適切に施工。ドレン配管は十分な下り勾配を確保し、逆勾配やたるみがないように配管サポートを配置します。電源・通信は系統を間違えないよう結線図でダブルチェック。
4. 試験・仕上げ
冷媒回路は真空引きで乾燥・気密確認。ドレンは給水試験で漏れや排水不良がないか確認します。天井ボードを閉じたら化粧パネルを取り付け、外観・水平・ルーバー動作を確認します。
5. 試運転・引渡し
メーカー手順に従い試運転。運転音、吹き出し温度、リモコン設定、タイマーや集中制御の連動を確認。フィルター清掃の方法と頻度、点検口位置を引渡し時に共有します。
よくある失敗と予防策
- 点検口不足:フィルターは外せても電装品に手が届かない配置はNG。初期設計で点検口の大きさ・位置を決めておく。
- ドレン逆勾配:小さな段差や配管のたるみで水が溜まる。配管固定ピッチと水平確認を徹底。
- 風当たりのクレーム:デスク直上やレジ周りに直風が当たると不快。ルーバー角度と設置位置で配慮。
- 他設備との干渉:照明、感知器、スプリンクラーヘッドとの離隔を事前調整。
- 結露:保温不良や隙間風で結露が発生することがある。保温材の継目処理・気密の確保を丁寧に。
メンテナンスと運用の基本
フィルター清掃
フィルターの目詰まりは能力低下や電力増に直結します。使用環境により頻度は変わりますが、粉塵の多い店舗・厨房周りでは短いサイクルで点検しましょう。天井が高い場合は安全な足場・脚立を確保します。
ドレン系の点検
運転開始直後や冷房強運転時に、ドレンの流れと漏れを確認。ポンプ付きの場合は作動音や排水をチェックし、異音・過負荷の兆候があれば早めに点検します。
リモコン・設定
集中制御や節電設定を導入する場合、現場の運用に合わせて温度下限・上限やタイマーを適正化。使い勝手が悪いと無理な運用になり、不具合の原因にもなります。
メーカー例(代表的な空調メーカー)
- ダイキン:業務用パッケージから家庭用までラインアップが広い。
- 三菱電機:店舗・オフィス向け機種のバリエーションが豊富。
- 日立グローバルライフソリューションズ:堅実な業務用空調の実績を持つ。
- 東芝キャリア:ビル用マルチなどの業務用分野で採用例が多い。
- パナソニック:省エネ性や操作性に配慮した機種を展開。
各社とも天井カセット形を扱っており、細かな仕様やオプションはメーカーごとに異なります。更新案件では既存システムとの互換性、リモコン・集中制御の連携、設置寸法の違いに注意します。
意匠と施工のすり合わせポイント
- パネル割付:照明、点検口、スプリンクラー、煙感知器との位置関係を綺麗に揃える。
- 色味・意匠:天井材の色と反射具合を考慮。パネルの段差や影が出ないよう下地レベルを精度良く。
- 騒音・風量:静かな空間では風量設定やモード選択を運用ルールに組み込む。
- 清掃導線:家具配置や什器高さを想定し、脚立や清掃機材が入るか事前確認。
ケース別アドバイス
リニューアル(入替)工事
既存の天井開口や配管を流用する場合でも、室内機の寸法・吊り位置・排水方向が変わることがあります。天井を閉じる前に仮合わせし、化粧パネルのチリや面一感を確認すると手戻りが防げます。
新築・インテリア重視の現場
パネルが目立たない位置に配置する、吹出口の見え方を意識して家具配置と合わせる、ルーバー向きで景観を損ねないようにするなど、建築と設備の連携が鍵です。
厨房近接・粉塵が多い環境
フィルター清掃の頻度アップ、グリスミストや粉塵の流入を考えた設置位置の配慮、ドレンの詰まり対策が重要。必要に応じて換気計画の見直しも検討しましょう。
天井カセットは「換気」ではない
勘違いされやすい点として、天井カセットエアコンは空気を冷やす・暖める装置であり、新鮮な外気を取り入れる「換気設備」とは役割が異なります。室内の空気質を保つには、別途換気計画(機械換気・自然換気)が必要です。
ミニ用語辞典(現場でよく出る関連ワード)
- 天井懐(てんじょうふところ):天井内部の空間。室内機や配管が入るスペース。
- 吊りボルト:室内機を上部構造から吊るためのボルト。揺れ・水平を調整。
- 化粧パネル:室内から見える外装部品。吸込みグリルと吹出し口を含む。
- ドレン:冷房時に発生する結露水。ドレン配管で排出する。
- ドレンアップポンプ:ドレンを汲み上げて排水する小型ポンプ。
- 集中コントローラ:複数の室内機を一括管理する装置。
よくある質問(FAQ)
Q1. 天井が低いのですが、天カセは設置できますか?
本体高さと天井懐が確保できれば設置可能です。ただし、梁や既存設備との干渉、点検口の確保が難しい場合は、天吊り形や壁掛け形など別方式を検討することがあります。現地調査で判断しましょう。
Q2. 風が直接当たって寒い(暑い)とクレームにならない?
ルーバー角度や風量設定で緩和できます。設置位置を人の滞在位置からずらす、2方向・1方向を選ぶ、家具レイアウトと合わせて調整することで多くは改善可能です。
Q3. メンテナンスは難しい?
フィルター清掃は定期的に必要ですが、構造を覚えれば作業はシンプルです。点検口が適切な場所・サイズで確保されていれば、点検や部品交換もスムーズです。
Q4. ドレンのトラブルが心配です。
逆勾配や配管詰まり、ポンプ不具合が主原因。施工時の勾配確保・固定、運用時の定期点検と給水試験で予防できます。
まとめ:天井カセットを選ぶなら「計画・施工・運用」の三拍子
天井カセットエアコン(天カセ)は、見た目がすっきりし、空間全体を快適にしやすい頼れる空調方式です。一方で、天井懐の確保、ドレン排水、点検口など、計画段階の配慮が欠かせません。現場では、
- 用途・レイアウトに合う吹き出し方向を選ぶ
- 天井割付と点検性を両立する
- ドレンと配管ルートを安全第一で計画する
この3点を押さえれば、設置後のトラブルをぐっと減らせます。もし迷ったら、メーカーの仕様書と現場の実情を突き合わせて、内装・設備・電気の3者で早めにすり合わせるのが成功への近道です。天カセの基本を理解して、気持ちよく使える快適空間を一緒に作っていきましょう。









