内装現場の「トロッコ」徹底解説:意味・言い回し・選び方・安全対策まで
「トロッコで運んどいて」「トロッコ回しといて」——初めて現場に入ると、こんな声が飛び交って戸惑うことがありますよね。この記事では、建設内装現場で日常的に使われる現場ワード「トロッコ」の意味から、具体的な使い方、安全に使うためのポイント、選び方のコツまで、やさしく丁寧に解説します。読み終えるころには、「トロッコって何?」というモヤモヤが解消され、明日から自信を持って現場で使える知識が身につきます。
現場ワード(トロッコ)
読み仮名 | とろっこ |
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英語表記 | Flatbed cart(trolley/dolly) |
定義
内装現場で言う「トロッコ」とは、資材や工具、廃材を現場内で運搬するための四輪の台車(平台車)を指す現場用語のことです。元は鉱山などの小型貨車を指す言葉ですが、建設の現場では「押して運べる台車」全般をカジュアルにまとめて「トロッコ」と呼ぶことが多く、特に平らな荷台にキャスターが付いた平台車、石膏ボードを立てて運べるボード台車、荷崩れ防止の柵が付いたカゴ台車などを含みます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では、状況に応じて以下のような言い回しが使われます。
- 台車/平台車:より一般的・正式な呼び方。事務所や搬入業者とのやりとりでも通じます。
- ドーリー(dolly):映画や舞台の運搬機材の呼称から来ており、平台車を指すことがあります。
- ボード台車:石膏ボード専用に設計された台車。ボードを立て掛けて運べます。
- カゴ台車(ロールボックスパレット):周囲にメッシュの柵があるタイプ。小物・箱物に便利。
- ネコ:一輪車の俗称。用途は似ていますが「トロッコ」とは別物。
使用例(3つ)
- 「ボード3枚ずつでいいから、トロッコでエレベーター前まで回しといて。」
- 「このルート狭いから、カゴじゃなくて平台のトロッコでいこう。」
- 「廃材は分別して、木はネコ、ボードはトロッコで一気に出すよ。」
使う場面・工程
トロッコは、内装のほぼ全工程で活躍します。代表的な場面は以下の通りです。
- 搬入初日:軽量鉄骨(LGS)やランナー、石膏ボード、ベニヤ、建具枠などの大量搬入。
- 間仕切り・ボード貼り:各室への材料配り(間配り)。
- 仕上げ前:床材・クロス・巾木などの箱物資材の室内搬送。
- 解体・改修:分別した廃材の集積場・ピットへの搬出。
- 設備・電気との共用:盤・ダクト・配管材などの現場内移動。
関連語
- 養生:床・壁を保護するシート、ベニヤ、養生ボード。トロッコ使用前に敷設が基本。
- ラッシングベルト/バンド:荷締め・荷崩れ防止用。
- 角当て:荷締め時に資材角を守る保護材。
- スロープ:段差越えのための簡易傾斜板。
- ハンドパレット(ハンドリフト):パレットごと持ち上げて運ぶ機器。台車とは別カテゴリー。
トロッコの種類と特徴
平台車(フラットタイプ)
最も汎用性が高いタイプ。平らな荷台に四輪キャスターが付いており、箱物、軽天材の束、ベニヤ、工具箱など幅広く対応します。荷台サイズはおおむね600×900mm前後から、長尺に対応した大型まで。静音キャスターのモデルはオフィスビル夜間工事でも使いやすいのが特長です。
ボード台車(石膏ボード用)
石膏ボードを立て掛けて運べる専用台車。V字状の支えやパイプフレームでボードが倒れにくい構造になっています。枚数が多い場合の館内搬送や、狭い通路での取り回しに有利です。荷崩れ防止のベルトを併用すると安全性が上がります。
カゴ台車(ロールボックスパレット)
四方のうち三辺または四辺がメッシュで囲われた台車。箱詰めした副資材や金物、養生材の運搬に便利で、荷崩れしにくいのが利点。エレベーター積載の際は寸法・重量の上限確認が必須です。
長尺材対応・特殊台車
LGSの長尺材やレールなど、3m級の長物に対応したロングタイプもあります。キャスター径が大きく段差に強いモデル、ストッパー付きで固定できるモデルなど、現場の条件に合わせた選択が有効です。
選び方のチェックリスト
1. 耐荷重
想定する最大荷重の1.2〜1.5倍を目安に選ぶと安心です。一般的な平台車は150〜300kg程度、プロ向けには500kgクラスもあります。石膏ボードは1枚あたり約10〜15kg(サイズや厚みにより増減)になるため、まとめて運ぶ枚数で計算します。
2. 荷台サイズ・形状
通路幅・エレベーター寸法・建具開口の幅を基準に、最小回転半径も考慮して決めます。大きすぎると小部屋での取り回しが悪く、小さすぎると往復回数が増えて非効率です。ボード台車はボードの長辺に対して十分な支持面が取れるものを選びましょう。
3. キャスターの径・材質
- 径が大きいほど段差に強く、押し心地が軽くなります。
- 材質はゴム(静音・床に優しい)、ウレタン(耐摩耗・静音バランス)、ナイロン(転がり軽いが硬い)など。内装の床養生を傷めにくい静音タイプが無難です。
- 自在キャスターと固定キャスターの組み合わせで直進性と旋回性のバランスを調整できます。
4. ハンドル・ストッパー
折りたたみハンドルは保管・搬送時に便利。足踏み式ストッパーは傾斜やエレベーター乗り降りで有効です。頻繁に停止・積み替えをする現場ではストッパー付きが安全です。
5. 騒音対策
オフィスビルや夜間工事では、静音キャスターや防音ラバー付きデッキを選ぶとクレームを防げます。床との接触音、段差越えの衝撃音を減らす工夫がポイントです。
6. メンテナンス性
キャスターの交換のしやすさ、ベアリング部の清掃性、ボルトの増し締めのしやすさなど、長く使う前提で確認します。消耗部品が入手しやすい汎用規格もメリットです。
安全な使い方・現場ルール
- 床養生を優先:トロッコを使う前に、通路とエレベーター前の養生を完了させます。床材の欠け・凹み、傷のトラブルを予防します。
- 過積載禁止:耐荷重を超えない。特にボード台車は片寄せ積みで片荷重になりやすいので注意。
- 重心管理:重いものを下・中央に、背の高い荷はベルトで固定。上から見て荷台の外周を超えないように。
- 視界確保:積みすぎで前が見えない状態はNG。必要なら誘導者を付ける。
- 段差・スロープ:正面からゆっくり進入。斜面では必ずストッパーを使用し、単独で手放さない。
- エレベーター内のマナー:先に人員が乗り込み進行方向を確保、荷が動かないか再確認。扉・内装の接触防止養生を徹底。
- 通路の優先権:共用部やテナント在館時は歩行者優先。角では「声掛け」や「一旦停止」を徹底。
- 手指・足元の挟み込み防止:回転キャスターの付近、壁際の角当たりでの手詰めに注意。手袋を着用し、靴は先芯入りが基本。
- 休憩時の置き方:通路を塞がない、斜面に置かない、ストッパーを掛ける。避難経路は必ず確保。
メンテナンスと保管
- キャスター清掃:糸くず・ビニール・粉じんが絡むと走行抵抗増や異音の原因に。定期的に除去。
- ボルトの増し締め:振動で緩みやすい箇所を点検。ガタつきは重大事故の元です。
- ベアリング点検:回転が渋い・異音・偏摩耗があれば早めにキャスター交換。
- 荷台面の割れ・凹み:合板デッキは欠けやすいので早期補修。樹脂デッキのひびも交換目安。
- 保管:通路を塞がない所へ。積み重ね可能な折りたたみタイプは省スペースで便利。
代表的メーカーと特徴の傾向
トロッコ(台車)は多くの国内メーカーから供給されています。現場で見かける代表例を挙げ、傾向を簡単に紹介します。
- トラスコ中山(TRUSCO):プロ向け汎用品のラインナップが豊富。サイズ・耐荷重・静音など選択肢が広く、消耗品の入手性も良好。
- 花岡車輌:業務用台車の専業メーカーとして知られ、静音性や走行性に配慮したモデルが多いのが特長。
- サカエ(SAKAE):物流・保管機器の総合メーカー。堅牢で安定感のある平台車やカゴ台車を展開。
- アイリスオーヤマ:折りたたみ台車などコスパの良いモデルを展開。軽作業や予備機として採用されることもあります。
メーカーにより細部の仕様(キャスター径、デッキ材質、ストッパー形状など)が異なるため、現場の条件(段差の有無、静音性の必要度、エレベーター寸法)と照らして選定しましょう。
現場で役立つ実践テクニック
- 材料の「間配り」は短距離・小分けで:一度に大量に積まないで、各室ごとに必要量だけ小分け搬送すると、荷崩れ・無駄な往復が減ります。
- 段差は手前で一旦停止→角度づけ:荷台をわずかに持ち上げるイメージで前輪から段差に当てるとショックが少ない。
- 狭い通路は「先入れ後出し」:出しやすい順で積載。奥の部屋の資材から先に運び入れると回送がスムーズです。
- 混在現場は「声掛け三原則」:曲がる前・出る前・止まる前に周囲へ一声。事故の多くはヒューマンエラーの積み重ねです。
よくある疑問Q&A
Q. 「トロッコ」と「ネコ(手押し一輪車)」はどう使い分ける?
A. フラットで広い通路や室内ではトロッコが安定して早いです。凸凹や未舗装、狭い場所や短い階段スロープなど段差だらけの環境ではネコが有利。現場の地形と荷物の形状で使い分けましょう。
Q. ビルの共有部で音がうるさいと言われたら?
A. 静音キャスターへ切り替える、段差部にゴムマットやスロープを敷く、夜間はスピードを落とし衝撃を減らすなどで対策できます。荷台にゴムシートを一枚敷くだけでも振動音が軽減します。
Q. 石膏ボードは何枚まで運べる?
A. 台車の耐荷重とボードのサイズ・厚みによります。安全側で計算し、バンドで固定、視界を妨げない高さに抑えるのが基本です。無理せず往復回数を増やす方が結果的に速く安全です。
Q. エレベーターに入らない…どうする?
A. まずは寸法を事前確認。長尺材は斜め差しで収まる場合がありますが、エレベーターや内装を傷つけないよう養生を追加し、誘導者を配置。どうしても入らない場合は搬入計画を見直し、長さの分割や別ルート・搬器の検討が必要です。
新人さんへのアドバイス(現場ワードの使い方)
- 「台車」でもOK:初対面の他業者には「台車」で伝え、雰囲気を掴んだら「トロッコ」という現場語も使えるようにするとスムーズです。
- 指示は具体的に:「平台のトロッコで」「ボード台車で」「カゴで」と種類まで言えると誤解が減ります。
- 進路確認は自分で:押し始める前に、通路の障害物・段差・人の動き・エレベーターの待ち状況を確認する癖をつけましょう。
チェックリスト(出発前の5秒確認)
- 荷の固定はOK?(ベルト・段ボールの破れなし)
- 耐荷重・重心はセーフ?(無理な積み方になっていない)
- 進路は安全?(養生、段差、開口幅、エレベーター確認)
- ストッパーは解除/作動できる?(動作点検)
- 声掛け・誘導は必要?(前方視界の確保)
まとめ
「トロッコ」は、内装現場の生産性と安全性を左右する基本中の基本ツールです。言葉の意味は「四輪の台車」全般ですが、平台車・ボード台車・カゴ台車など種類によって得意分野が異なります。選ぶ際は、耐荷重・サイズ・キャスター・静音性・ストッパーの有無をチェック。使う際は、床養生・過積載防止・重心管理・声掛け・段差対策といった基本を守ることが何より大切です。現場で「トロッコお願い」と言われても、この記事のポイントを押さえておけば、迷わず安全で効率の良い運搬ができます。まずは1台、現場に合ったトロッコを確保し、明日の作業から実践してみてください。安全第一で、気持ちよく段取り良く、現場を回していきましょう。