内装現場で頻出の「下紙」って何?意味・使い方・注意点をプロが分かりやすく解説
「職人さんが『下紙(したがみ)剥いで!』って言ってるけど、何のこと?」——初めて内装現場に入ると、こんな疑問にぶつかる方がとても多いです。この記事では、内装工事で日常的に使われる現場ワード「下紙」の意味から、具体的な使い方、作業のコツ、トラブル対策まで、プロの視点でていねいに解説します。読み終わるころには、会話の意図がハッキリわかり、現場で実践できるレベルの知識が身につきます。
現場ワード(下紙)
| 読み仮名 | したがみ |
|---|---|
| 英語表記 | release liner / backing paper |
定義
内装現場でいう「下紙」は、主に粘着材や糊付き製品の「粘着面を保護している剥離紙(ライナー)」を指す現場用語です。両面テープ、自己粘着タイプの巾木や見切り材、内装用化粧フィルム(例:インテリアフィルム)、ガラス飛散防止フィルム、のり付き壁紙など、貼る直前まで粘着面を守るために裏側に付いている紙(あるいはフィルム)を、職人同士の会話では「下紙」と呼ぶことが多いです。
現場や職種によっては、床や作業台の上に「下に敷く紙(養生紙・敷き紙)」を指して「下紙」と言うこともありますが、一般的・頻出の意味は剥離紙=ライナーです。正式名称としては「剥離紙」「離型紙(りけいし)」「ライナー」「バックアップ紙」などが使われます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場で耳にする代表的な言い回しや別称は次のとおりです。
- 「下紙(したがみ)」「裏紙(うらがみ)」
- 「剥離紙(はくりし)」「離型紙(りけいし)」「ライナー」
- 「バック紙」「台紙」「セパ(=セパレーターの略)」
製品によって紙ではなく、ポリエステル(PET)やポリプロピレン(PP)などのフィルムが使われる場合もあり、その場合も慣習的に「下紙」と呼ばれることが多いです。
使用例(会話)
現場での具体的な会話例を3つ挙げます。
- 「この両面、片側だけ下紙ちょい残して。位置決めしたら一気に抜くよ。」
- 「ダイノック貼るときは、角から下紙2センチだけ折り返して“送り”でいこう。」
- 「巾木はのり付きだから、ホコリ飛ばないところで下紙剥がして。粘着面、手で触らないようにね。」
使う場面・工程
下紙が関わる代表的な場面は以下の通りです。
- 内装用化粧フィルム施工(例:建具・什器の意匠替え)
自己粘着の意匠フィルムは、裏面の下紙を少しずつ剥がしながら「送り貼り」で施工します。位置決め→仮着→下紙を抜き取り→本圧着→端部処理、という流れが基本です。
- ガラスフィルム施工(飛散防止・目隠し等)
水貼りでもドライでも、ガラス面に当てた状態で下紙を剥がし、貼り始めの位置がズレないようにスキージーで追い出します。下紙の扱いが仕上がりの気泡やダスト混入に直結します。
- 両面テープ・フォームテープの使用(見切り材や金物の仮固定、巾木施工の補助など)
片側の下紙を先に剥がして下地へ圧着し、もう片側の下紙を「タブ残し」にしておくと位置合わせが容易。最終位置が決まってからタブを引いて本固定します。
- のり付き巾木・のり付きパネル・のり付き壁紙
粉塵の少ない場所で下紙を剥がし、粘着面に触れないよう搬送。角や入隅は短辺側から少しずつ下紙を抜くとシワになりにくいです。
- 養生材(自己粘着タイプの養生シート・見切りテープ)
床や幅木の養生で、粘着力の弱い再剥離タイプを使う場合も下紙の管理が重要です。埃が入ると密着不良の原因に。
関連語
- 剥離紙・離型紙(リケイ紙):粘着面から容易に剥がれるよう、表面に離型処理(シリコーン等)が施された紙・フィルム。
- ライナー:英語「release liner」の現場略称。
- セパレーター(セパ):剥離紙の別称。特にフィルム製ライナーで使われがち。
- 養生紙:床や作業台に敷く保護紙。下に敷く紙という意味で「下紙」と呼ぶ人もいるが、本来は用途が異なる。
- タブ:下紙を少し残して“つまみ”にした部分。位置決め後に引き抜くための工夫。
- 送り貼り:下紙を少しずつ抜きつつ、スキージーなどで気泡を逃しながら連続的に貼る技法。
下紙の役割と仕組み
下紙の主な役割は「粘着面の保護」「埃・異物の付着防止」「作業性の確保」です。剥離紙には表面に離型処理(多くはシリコーンコート)がなされ、粘着面に強くくっつきすぎないよう設計されています。製品によっては、紙ライナー(クラフト紙・グラシン紙など)、フィルムライナー(PET・PP等)があり、それぞれに特徴があります。
- 紙ライナー(クラフト・グラシン等)
手でちぎれる、折り癖が付きやすい、静電気を帯びにくい。軽作業で扱いやすい反面、湿気で波打ちやすいことも。
- フィルムライナー(PET・PP等)
寸法安定性が高い、透明で位置合わせしやすいものもある、強度があり途中で切れにくい。静電気を帯びやすいので埃管理が必要。
- 片面離型/両面離型
両面テープなどでは、ライナーの片側のみ離型処理のものと、両面に離型処理があるものがあり、剥がしやすさや巻きの安定性が異なります。
プロが実践する下紙の扱い方(コツと手順)
- 位置決めの基本
貼り始めの角で「下紙を5〜20mmだけ折り返して仮着→スキージーで軽く仮圧着→ズレがないことを確認→下紙をゆっくり抜きながら本圧着」。これが最もトラブルが少ない手順です。
- タブ残しでリカバリー確保
長尺物や大型面材は、下紙の端を数センチ残して「タブ」を作ると、いざという時に貼り直しや微調整がしやすくなります。
- 粘着面は触らない
皮脂や手汗は密着不良の原因。下紙の上から持つ、または手袋を使用。必要なら粘着面側の角をちょい折りして持ち代を作ります。
- 埃対策
フィルムライナーは静電気で埃を呼びやすいので、周囲の清掃→ミストで飛塵抑制→アース付きツールの活用が有効です。
- 折りシワの回避
下紙を強く折ると、粘着面に折り癖が転写されることがあります。巻き癖を使って自然に反らせ、無理に折り曲げないのがコツ。
- 抜く方向と角度
下紙は被着体に対し「低角度」で引くと、粘着面に応力が掛かりにくく、シワやエアの混入が減ります。特に寒冷時はゆっくり。
- 温度管理
低温環境では粘着力が立ち上がりにくく、下紙剥離時に粘がついてくることがあります。可能なら10〜30℃の範囲で作業を。
よくあるトラブルと対策
- 途中で下紙がちぎれた
無理に引っ張らず、一旦圧着を緩めて別方向から下紙端を探す。紙ライナーならスパチュラやカッターの背で軽くこすり、層を分けて再スタート。再発防止には、引き角度を低く・一定速度で。
- 埃・ゴミが粘着面に入った
小粒ならピンセットで除去し、アルコールで軽く拭って再圧着。広範囲なら貼り替えが無難。作業前の周辺清掃とエアブローの徹底が最善策。
- 位置がズレた/斜行した
タブ残しで段階貼りにするとズレが出ても戻せます。大判は2人作業にし、1人がライナー管理、もう1人がスキージー担当で同期。
- 糊残りが出た
高温放置や経年でライナーと粘着剤が分離しにくい場合がある。入荷時にロット・使用期限を確認し、古い材料は先に使う。保管は直射日光・高温多湿を避ける。
- 剥がす方向を間違えて表面を傷つけた
裏表のマーキング(印刷)を確認。迷ったら角をわずかにめくって確認する癖を。表面保護フィルム(保護テープ)と下紙を取り違えないこと。
メーカーと代表的な対象製品(例)
下紙そのものは「貼る材料」に付属するため、材料側のメーカー名で認識されます。以下は現場でよく見かけるカテゴリと代表メーカーの例です(製品仕様はロットや型番で異なるため、詳細は各社の最新カタログを確認してください)。
- 両面テープ・フォームテープ
3M(スコッチ/3M VHBなど)、ニチバン(ナイスタック等)、積水化学工業、寺岡製作所、コニシなど。紙ライナーやフィルムライナーを採用。
- 内装用化粧フィルム(インテリアフィルム)
3M(ダイノック)、タキロンシーアイ(ベルビアン)など。大判施工でのライナー管理が品質に直結。
- ガラスフィルム
スリーエム ジャパン、リンテック、サンゲツなど。施工時に下紙を水で湿らせる手順が指定されることも。
- 自己粘着タイプの巾木・見切り材・アクセサリー
内装材各社(例:サンゲツ、東リ、リリカラなど)のラインアップに自己粘着タイプが存在する場合があり、製品に下紙が付属します。
注意:同一カテゴリーでも「糊付け工法(ウエット)」と「自己粘着(ドライ)」が混在します。下紙が付かない(=そもそも粘着材が無い)製品もあるため、施工要領書を必ず確認してください。
現場で迷わない「見分け方」と指示の出し方
- 見分け方
裏面に印刷や艶の違いがあり、爪でこすると微妙に滑る面が下紙側。端部の層をライトで透かして確認すると、粘着層とライナー層の境界が見えます。
- 指示の出し方(例)
「下紙2センチだけ残して仮着」「タブは左上」「抜く時はスキージーに合わせて低角度」など、量・位置・角度まで具体化すると連携がスムーズ。
- 保管・搬送
立て掛け保管でライナー側に過度の曲げを掛けない。高温車内放置NG。搬送時は角潰れと埃付着に注意。
用語辞典ミニガイド(下紙まわり)
- 下紙(したがみ)
粘着面保護の剥離紙・ライナーを指す現場語。場合により養生紙を指すことも。
- 剥離紙(はくりし)/離型紙(りけいし)
粘着面から容易に剥がすためのコーティングが施された紙。正式用語。
- ライナー(liner)
英語由来の一般呼称。release linerと同義。
- バック紙/裏紙
裏面側についている紙の総称。業界や会社で呼び分けが異なる。
- タブ
下紙を意図的に残して作る摘み。位置決め後に引き抜く。
- 養生紙
床・台の保護用に敷く紙。下紙と混同しない。
環境・廃棄のポイント
下紙は作業後に多量の紙くず・フィルムくずとして発生します。一般的に、建設現場では「産業廃棄物(紙くず・プラ類)」として扱われる場合があり、区分・処理方法は元請けや自治体のルールに従います。粘着剤が多量に付着したものは他の紙と分別を求められることも。風で舞いやすいため、作業直後に袋詰めし、飛散防止を徹底しましょう。
安全・品質を守るためのチェックリスト
- 開始前に:現場の清掃、静電気対策、材料のロット・使用期限確認。
- 施工中に:下紙の剥がし角度は低く、一定速度。タブ残しでリカバリー確保。
- 施工後に:端部の密着確認(ローラー・ヘラで増圧)、下紙くずの即時回収。
- 保管時に:直射日光・高温多湿を避け、立て掛け時は下紙側の折れ防止。
Q&A:初心者が迷いやすいポイント
- Q. 下紙と養生紙の違いは?
A. 下紙は粘着面を保護するために製品に付属する紙(ライナー)。養生紙は床や台を保護するために下に敷く紙。用途がまったく異なります。
- Q. 英語で何と言えば伝わる?
A. 一般に「release liner」または「backing paper」で通じます。現場英語だと「Peel the liner off.」などと指示します。
- Q. 下紙は全部先に剥がしてから貼っていい?
A. 大判や長尺ではNG。途中で埃が付いたり、位置ズレが起きやすい。基本は“送り貼り”で徐々に抜きます。
- Q. 粘着面を手で触ってしまったら?
A. 小面積ならアルコールで軽く脱脂して試す手もありますが、意匠材は仕上がりに影響する場合が多い。原則は触らない、触れたら貼り替えを検討。
- Q. フィルムの保護シートと下紙の見分けは?
A. 保護シートは表面側に貼られる透明フィルムで、施工後に剥がす前提。下紙は裏面の粘着保護。印刷や艶、位置で判別します。
ケーススタディ:内装フィルムの貼り替え
状況:扉面に内装用化粧フィルムを新規施工。
段取り:脱脂→下地調整→プライマー→位置決め→下紙5〜10mm折返し→仮着→下紙を引き抜きながらスキージーで圧着→ヒートで入隅処理→保護フィルム剥離→最終検査。
ポイント:下紙は角側から低角度で引き、シワが出たら一旦戻して整える。埃が入った場合は早期に判断して差し替え。仕上がりの直線性は“下紙の抜き方”で決まると言っても過言ではありません。
ミスを減らすためのチーム運用
- 役割分担
大判施工は「ライナー担当」「スキージー担当」「見張り(埃・ライン確認)」の3名で組むと安定。2名の場合も役割を明確に。
- 合図・コール
「タブOK」「ストップ」「低角度」「抜き再開」など短いコールを事前に合意。手元に集中しても意思疎通できるようにします。
- 資機材の準備
スキージー、フェルト、ローラー、カッター(替刃多め)、ピンセット、アルコール、ウエス、静電気対策スプレー、ゴミ袋(自立型)などを先に配置。
まとめ:下紙を制する者は仕上がりを制す
下紙(したがみ)は、内装現場で貼り仕事に欠かせない「粘着面の守り役」。単なる“紙”と侮らず、剥がす順序や角度、タブの取り方、埃対策などの基本を押さえるだけで、仕上がり品質と作業スピードが大きく向上します。今日からは、職人の「下紙、2センチ残しで!」というひと言の意味が、具体的な動作に落とし込めるはず。現場ワードを正しく理解し、気持ちのよい連携と美しい仕上がりを実現していきましょう。

