現場の角を守る「コーナーガード」完全ガイド—種類・選び方・施工の勘どころ
「壁の角がすぐ欠けてしまう」「搬入のたびに出隅がボロボロになる…」そんなお悩み、現場では本当によくあります。そこで活躍するのが“コーナーガード”。ただ、ひと口にコーナーガードといっても、養生用から常設の仕上げ材まで種類はさまざま。素材や固定方法、内装制限の有無など、選びを間違えると「すぐ外れる」「見た目がちぐはぐ」「法規に合わない」といったトラブルの原因になります。本記事では、建設内装の現場で実際に使われる言い回しから、種類・選び方・施工の要点、メーカーの特徴まで、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。
現場ワード(コーナーガード)
読み仮名 | こーなーがーど |
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英語表記 | Corner guard(Edge guard) |
定義
コーナーガードとは、壁や柱の出隅(でずみ:外側に出た角)に取り付け、衝撃や擦れによる欠け・汚れ・凹みを防ぐ保護材の総称です。工事中の一時的な養生目的のものから、建物引渡し後も常設する仕上げ材まであり、素材は樹脂(PVC、ABS、ウレタン)、金属(アルミ、ステンレス)、透明樹脂(ポリカーボネート)など多様です。安全面(角のR取り)や衛生面(清掃性・耐薬品性)、意匠(色・質感)にも配慮された製品が存在します。
コーナーガードの役割とメリット
コーナーガードは単なる“保護材”にとどまりません。現場の事故・やり直し・クレームを減らし、建物の長寿命化と美観維持に寄与します。具体的なメリットは次の通りです。
- 欠け・割れの防止:石膏ボードの出隅や塗装・壁装の角は最も弱い部位。台車・什器の当たりから守ります。
- 人身事故の低減:角を丸めたタイプは、転倒時や接触時にケガをしにくい形状です。
- 美観維持・清掃性向上:擦り傷や汚れがつきにくく、拭き取りやすい面材を選べば日常管理が楽になります。
- 維持管理コストの抑制:壁の補修・再塗装・クロス張り替えの頻度を下げ、ライフサイクルコストを抑えます。
種類と素材の違い
常設タイプと養生タイプ
現場では大きく「常設(仕上げ)タイプ」と「養生(仮設)タイプ」に分かれます。
- 常設タイプ:仕上げ材の一部として出隅に恒久的に取り付けます。病院・学校・オフィス・ホテル・共用部など高頻度で接触が起きる箇所に採用。色柄・R形状・不燃・準不燃の認定有無など、設計要件に合わせた製品を選定します。
- 養生タイプ:工事中や入退去時の搬入出に備え、一時的に角を守るためのクッション材。撤去性が良く、糊残りが少ないテープやバンドで固定。発泡体や軟質樹脂が主流です。
素材別の特徴
使用場所と目的に応じて素材を選びます。
- PVC(塩ビ):衝撃吸収性・価格バランスが良くカラーバリエーション豊富。医療・教育施設などで広く使われます。難燃グレードや抗菌・防汚仕様のラインアップがある製品も。
- ABS・ウレタン・ゴム:クッション性が高く人身事故の抑制に有利。工場・倉庫・バックヤードの角や低い位置の保護に適します。
- アルミ:剛性が高く、シャープな意匠。オフィス・商業施設など意匠性を求める空間に。キズは入りやすいが仕上がりは美しい。
- ステンレス(SUS):衛生性・耐薬品性・耐久性に優れるため、厨房・医療・食品関連での採用が多い。ヘアライン仕上や鏡面など意匠も選べます。
- 透明ポリカーボネート:下地の意匠を活かしながら角だけ保護。視認性が高く、後付けでも空間になじみやすい。
- 木質:温かみのある意匠空間向け。局所的な保護と意匠アクセントを両立。ただし耐衝撃性は素材と塗装で差が出ます。
形状・寸法の基本
もっとも一般的なのはL字形状(90°)。角部のRが大きい壁にはラウンドタイプ(R形状)やU字・ハット形状を使うこともあります。見付け幅は片側20〜50mm程度が多く、定尺は1,000〜3,000mmが一般的。両面テープ、接着剤、ビス、クリップなどで固定します。常設タイプは「巾木や手すりとの取り合い」寸法も事前に確認が必須です。
選び方(用途別の判断基準)
最適なコーナーガードを選ぶポイントを、用途ごとに整理します。
- 医療・介護施設:車椅子・ストレッチャーの衝突頻度が高い。クッション性と耐衝撃性を重視。衛生管理の観点から耐薬品性や抗菌・防汚仕様を検討。内装制限のかかる部位では不燃・準不燃の認定有無も確認。
- 学校・公共施設:往来が多く、メンテの容易さと耐久性が要。明確な色で視認性を上げると安全面にも寄与。
- オフィス・ホテル:意匠に調和する素材感(アルミ・SUS・透明ポリカ)を選定。後付けの場合は既存仕上げに与える影響(糊残り・穴あけ)も考慮。
- 工場・倉庫・バックヤード:黄色/黒の警告色など視認性・安全性最優先。厚みのあるクッション材で衝突エネルギーを吸収。
- 工事中・入退去時:撤去性の良さが最重要。養生テープの選定と、下地を傷めない固定方法を徹底。
共通して見るべきチェック項目は以下です。
- 角のRと直角精度:仕上げの角度が鈍角/鋭角だと浮き・剥がれの原因。ラウンド対応品や可撓性の高い製品を選ぶ。
- 衝撃レベル:台車・什器・車椅子など接触対象の質量と速度を想定し、厚み・素材硬度を決める。
- 施工方法:両面テープ/接着剤/ビスのどれが適切か。騒音や粉塵制限がある現場ではテープ施工が有利。
- 交換性:消耗を見越して、容易に貼り替えられる仕様(下地受け金物+カバーなど)も選択肢。
- 法規・性能:内装制限(不燃・準不燃)やF☆☆☆☆等の揮発性有機化合物規制、衛生基準の確認。
施工前の確認事項
小さな見落としが大きな手戻りに直結します。着手前に次を確認しましょう。
- 下地の平滑度・直角:レーザーや定規で出隅の通りを確認。凹凸が大きい場合はパテ調整。
- 取り合い:巾木、腰壁、手すり、サイン、ドア枠、床見切りとの干渉をチェック。高さ基準(FL+○○)を統一。
- 接着面の清掃:埃・油分・水分は密着不良の原因。アルコールで脱脂し、必要ならプライマーを使用。
- 温度・湿度:低温時は接着力低下。メーカーの施工可能温度を確認し、仮設暖房や圧着時間を調整。
- ビス固定可否:防火被覆・設備配管の有無を図面と探査で確認。貫通事故を防ぐ。
施工手順(常設タイプの基本)
製品により細部は異なりますが、代表的な流れを示します。
- 墨出し:高さ・中心をマーキング。複数階でそろえる場合は基準階を決めて通りを合わせる。
- 下処理:角の欠けを補修し、パテ研磨でエッジを整える。清掃・脱脂を徹底。
- 仮合わせ:定尺を現地寸法に合わせてカット(アルミ・SUSは切断機、樹脂はカッター/鋸)。巾木・手すりとの納まりを再確認。
- 固定:両面テープは外周+中央に均等貼り、圧着ローラーで密着。接着剤は指定量をムラなく塗布。ビス止めは皿取り・ピッチ管理(例:端部50〜100mm、以降200〜300mm)で浮きを防止。受け金物+カバーの二重構造はまず受けを取り付け、最後にカバーをはめ込み。
- 仕上げ:端部のコーキングが必要ならシーラントで微小な段差を納め、はみ出しを拭き取り。
- 養生:施工直後は衝撃を避け、必要に応じて軽い養生や注意喚起サインを掲示。
施工手順(養生タイプの基本)
短期間での設置・撤去性が重要です。
- 清掃:埃や粉じんを払う。塗装・壁紙の弱い面には粘着力の低い養生テープを選定。
- 取付:発泡クッションやコーナーパッドを角に差し込み、テープやバンドで固定。台車の動線側を厚くするなど局所補強も有効。
- 撤去:糊残りが出ないようゆっくり剥がす。残った場合は専用リムーバーやアルコールで除去(仕上げを傷めない範囲でテストしてから作業)。
注意:長期放置はテープ痕や変色の原因。必要期間のみ設置し、定期的に状態を点検しましょう。
現場での使い方
職人同士の会話では、場面に応じてさまざまな言い回しや別称が登場します。ニュアンスを知っておくと意思疎通がスムーズです。
- 言い回し・別称:コーナー、角当て、出隅ガード、コーナークッション、養生コーナー、アングル(※金属の場合の通称)、見切り(意匠兼用の場合)など。
- 使用例(3つ):
- 「エレベーター前の柱、養生コーナー増しといて。台車が当たるから。」
- 「この廊下は常設のコーナーガードでR付け。手すりと高さ合わせで。」
- 「アルミのコーナー、巾木の上で止めずに床まで通しで。ビスピッチ200でいこう。」
- 使う場面・工程:下地調整(出隅の通り出し)→仕上げ前の常設取付、または搬入時の一時養生。引渡し前の補修・交換もよくある業務。
- 関連語:
- 出隅・入隅:コーナーガードは基本「出隅」用。入隅側はクッションやシーリングで対応することが多い。
- コーナービード:ボード下地の角出し金物。コーナーガードはその外装側に付く別部材。
- 巾木・見切り材:取り合いが多い部材。高さや納まりを事前に調整。
代表的なメーカーと特徴(例)
以下は日本国内でコーナーガードや壁保護材、現場用クッション材を取り扱う代表的なメーカーの一例です。製品仕様・認定の有無は最新カタログで必ず確認してください。
- 大建工業(DAIKEN):医療・教育施設向けの壁保護材・コーナーガードを展開。意匠性と耐久性のバランスが良く、用途に応じたグレードを選べます。
- ナカ工業(NAKA):手すり・壁保護材の専門メーカー。アルミや樹脂のコーナーガード、衝撃緩和型のラインアップがあり、医療・福祉施設での実績が豊富です。
- TRUSCO中山(TRUSCO):プロツール総合ブランド。工事中の養生向けコーナー保護材やクッション材を幅広く扱い、即納性に強みがあります。
- ミドリ安全:安全用品メーカー。工場・倉庫・バックヤード向けのコーナークッションや注意喚起色(黄/黒)の安全保護材をラインアップしています。
よくある失敗と対策
- すぐ剥がれる:脱脂不足・低温施工・圧着不足が典型。施工環境の温湿度管理、プライマー使用、圧着時間の確保で改善。
- 端部が浮く:角が鈍角/鋭角で合っていない。ラウンドタイプや可撓性の高い材に変更、または下地補修で直角に近づける。
- 見切りと干渉:巾木や手すり、ドア枠と高さがぶつかる。事前の納まり検討(断面スケッチ)と寸法調整が必須。
- 傷・指紋・接着剤はみ出し:施工時の手袋着用、養生テープでマスキング、はみ出しは硬化前に拭き取り。
- 法規不適合:内装制限部位に不燃・準不燃認定のない製品を使ってしまう。設計者・監理者と製品認定の適用範囲を事前確認。
- テープ痕が残る(養生):長期貼りっぱなし、強粘着の使用が原因。期間を決めて定期確認し、弱粘着や再剥離タイプを選ぶ。
メンテナンスと交換のコツ
常設タイプは消耗部材と割り切り、交換容易性も考慮しましょう。
- 日常清掃:中性洗剤+柔らかい布で拭き取り。金属は仕上げに応じて専用クリーナーを使用。
- 部分交換:受け部材+カバー構造ならカバーのみ取り替え可能。色味のロット差を考慮して同ロットを確保できると理想。
- 接着剤・テープの残渣:無理に削らず、適合リムーバーで溶解→拭き取り。仕上げを傷めないか目立たない位置で事前テスト。
図面・発注の書き方(例)
設計・発注時は、次のような情報を明記すると誤発注や現場混乱を減らせます。
- 製品名/型番/メーカー
- 素材・色・仕上げ(例:PVC、ライトグレー、R付)
- 寸法(見付け幅・厚み・長さ)
- 固定方法(両面テープ・接着剤・ビス)と必要副資材(プライマー等)
- 法規・性能(不燃・準不燃、F☆☆☆☆ 等)
- 取り合い条件(巾木高さ、手すり位置、床見切りとの関係)
図面表記では「CG」「コーナーガード」「壁保護材(出隅)」などの注記を用い、断面詳細で取り合いと固定方法を明示すると施工精度が上がります。
用途別のおすすめ構成例
現場経験に基づく、代表的な構成例を紹介します(実際は設計条件・法規に従って選定ください)。
- 医療施設の廊下出隅:準不燃認定のPVCコーナーガード+受け金物+カバー構造。高さは巾木上端から手すり上端をまたいで通し、R付で人肌接触に配慮。
- オフィスのエレベーターホール:アルミまたはSUSヘアラインのL型。ビス頭を嫌う場合は両面+接着剤の併用でフラットな意匠に。
- 倉庫のバックヤード:厚手のウレタンクッションに黄/黒ライン。台車の進入側を重点保護。抜け止めにバンド固定を併用。
- 入居時搬入ルート:発泡コーナーパッド+弱粘着養生テープ。曲がり角は二重貼りし、サインで注意喚起。
安全と法規への配慮
内装制限のある用途では、壁に設置するコーナーガードも対象となる場合があります。不燃・準不燃の認定を有する製品の採用、あるいは不燃下地+金属カバー等で対応しましょう。また、保育・高齢者施設では角部のR寸法や硬度を配慮し、頭部や身体が接触しても安全性が確保できる仕様を優先してください。
ケーススタディ:不具合から学ぶ改善例
新築商業施設で、引渡し直後に出隅のPVCコーナーガードが一斉に浮いた事例がありました。調査すると、施工日は気温が低く、脱脂も不十分。さらに搬入の衝撃で初期接着が破断していました。改善策として、施工温度の確保(仮設暖房)、プライマー併用、圧着ローラーでの押さえ時間延長、端部のビス併用(目立たない位置)を実施。以後は再発なし。小さな手順の積み重ねが品質を左右します。
よくある質問(FAQ)
- Q. コーナーガードは後付けしても大丈夫?
A. 可能です。既存仕上げの状態(塗装・クロスの密着、汚れ)を確認し、脱脂・プライマー処理を行えば良好に付きます。穴あけが難しい場所は両面テープ+接着剤の併用が有効です。 - Q. どのくらいの高さまで付ける?
A. 衝突の多い範囲をカバーするのが基本。巾木から1,000〜1,200mm程度までが一つの目安ですが、車椅子・台車の高さや手すり位置に合わせて調整します。縦に連結して天井まで通すケースもあります。 - Q. 汚れが目立ちにくい色は?
A. 中明度・中彩度のグレーやベージュ系は傷や埃が目立ちにくく、空間にもなじみやすい傾向です。 - Q. ステンレスは指紋が目立つ?
A. 鏡面は目立ちやすいです。ヘアラインやバイブレーション仕上げを選ぶと指紋や擦り傷が目立ちにくくなります。 - Q. 養生テープの糊残りを防ぐには?
A. 期間を短く、弱粘着や再剥離タイプを使用。高温多湿を避け、剥がすときは低角度でゆっくり。下地が弱い塗装面には直貼りを避け、間に養生シートをかませましょう。
まとめ:角を制する者は仕上げを制す
出隅は最も傷みやすく、最も目につく場所。だからこそ、計画段階で用途に合ったコーナーガードを選び、現場では「下地の通り」「取り合い」「施工環境(温湿度・脱脂)」という基本を外さないことが、引渡し後の満足度と保全コストに直結します。常設タイプと養生タイプを使い分け、必要に応じて不燃・準不燃や衛生性の要件も満たす—この当たり前の積み重ねが、クレームのない現場と美しい仕上がりをもたらします。迷ったら、設計者・監理者・メーカー技術窓口と早めに相談し、最短距離で正解にたどり着きましょう。角が守られれば、現場の信頼も守られます。