- 工事現場でよく聞く「戸車」をまるごと理解するガイド—意味・種類・選び方・交換の実務ポイント
- 現場ワード(戸車)
- まずは「戸車」の構造と役割
- 主な種類(基本の見分け方)
- 材質と性能の考え方
- レール形状の確認が最優先
- 選び方の手順(現場の実務フロー)
- 正しく測るコツ(既存品が不明なとき)
- 取り付け・交換の流れ(安全第一で)
- 調整とメンテナンス(長持ちさせるコツ)
- よくあるトラブルと対処
- 現場での使い方
- どのくらいの耐荷重を選ぶべき?
- 静音・長寿命のための小さな工夫
- 代表的なメーカーと特徴(例)
- 安全と作業上の注意
- 用語辞典(関連語ミニ解説)
- ケース別の選定例
- プロの現場でのチェックリスト
- DIYでもやれる?判断基準
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:戸車が分かれば、引き戸の悩みはほぼ解決できる
工事現場でよく聞く「戸車」をまるごと理解するガイド—意味・種類・選び方・交換の実務ポイント
引き戸やサッシが重くて動かない、床に擦れて音がする、建て付けが合わない。そんなとき現場の職人が真っ先に疑うのが「戸車(とぐるま)」です。名前は聞いたことがあるけど、どこにある部品?どう選ぶの?自分で交換できる?と不安になりますよね。本記事では、建設内装の現場で実際に使われる言い回しとともに、戸車の基礎から種類、選定のコツ、取り付け・交換、調整・メンテまで、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説します。読み終える頃には、「どの戸車を買えばいい」「どこを調整すれば直る」が具体的にイメージできるはずです。
現場ワード(戸車)
| 読み仮名 | とぐるま |
|---|---|
| 英語表記 | Sliding door roller / Bottom roller(サッシや引き戸の下車) / Sash roller |
定義
戸車とは、引き戸・サッシなどの建具をスムーズに動かすために、戸の下(または上)に取り付ける小さな車輪(ローラー)部品の総称です。レールと組み合わせて荷重を受け、転がりで摩擦を小さくし、戸の走行・建て付け調整を可能にします。形状はレールに合うようにV溝・U溝・平(フラット)などがあり、材質や直径、耐荷重、調整機構の有無が選定上の要点になります。
まずは「戸車」の構造と役割
引き戸が軽く動くのは、戸の荷重を「滑り」ではなく「転がり」に置き換えているからです。戸車は小径のローラー(車輪)と軸、ハウジング(取付け金具)で構成され、戸の下辺や内部に取り付けられます。レール形状と車輪形状が適合していれば、荷重が安定し、戸のガタつきや傾きも調整できます。逆に、レールと車輪の形が合っていない、摩耗・破損・固着がある、荷重オーバー、取付け位置が狂っている—こうした要因で動きが重くなったり、段差で引っかかったり、騒音や擦り傷の原因になります。
主な種類(基本の見分け方)
1. 荷重方式で分ける
- 底車(下荷重)タイプ:戸の下に戸車があり、床側レールの上を走る最も一般的な方式。室内引き戸やアルミサッシの多くがこれ。
- 上吊り(吊り車)タイプ:上部レールからハンガーで吊る方式。床側にレールが不要で段差が少ない。重量戸や建具の意匠性重視で用いられる。現場では「吊り車」と呼び分けることも。
2. レール適合で分ける(車輪の溝形状)
- V溝(V形)ローラー:V字レール用。直進性が高く、細いレールでも安定しやすい。
- U溝(U形)ローラー:U字レール用。接地幅が広く、荷重を分散しやすい。
- 平(フラット)ローラー:平レール・フラットバー用。段差が少ない納まりで用いられる。
3. 取り付け形状で分ける
- 埋め込み(戸内蔵)タイプ:戸の底板に埋め込む。見た目がすっきり。サッシや既製品建具に多い。
- 外付け(面付け)タイプ:戸の側面・下面にビス留め。後付け改修で使いやすい。
- 調整機構付:上下(高さ)微調整ネジが付いており、建て付け調整が容易。
材質と性能の考え方
車輪の材質は、走行音、耐摩耗性、レールへの攻撃性に直結します。よくある選択肢は以下です。
- 樹脂(ナイロン・POMなど):静音・床傷つきにくい・コスト良好。一般住宅向けの定番。
- ゴム・ポリウレタン系:静音性とグリップに優れるが、荷重・耐久は製品差が大きい。
- 金属(ステンレス・真鍮):耐久・耐荷重に強い。ただしレールを痛めやすく、音も出やすい。屋外のサッシや重い建具で採用例あり。
- ベアリングの有無:ベアリング内蔵は回転が滑らかで長寿命・静音。粉塵や水分が多い環境ではシールドタイプが有利。
レール形状の確認が最優先
戸車選びで最重要なのは「今あるレールの形」と「車輪径の収まり」です。現場ではまずレールを目視し、指先で触れてVかUか、フラットかを確認します。レール幅・高さもスケールで測ります。レールが摩耗して形が変わっている場合は、レール自体の交換や被せレールの検討も視野に入れます。
選び方の手順(現場の実務フロー)
現行の戸車の型番が分かれば同等品に交換するのが最短です。型番不明・既存が廃番でも、次の要素を押さえれば代替選定が可能です。
- レールとの適合:V/U/平の一致。レール幅・高さも要確認。
- 車輪径・全高:戸の見付け寸法に収まるか。全高が高すぎると戸が持ち上がり、敷居やレールから外れることがあります。
- 取付ピッチ・ビス径:既存の穴位置・ビス径と合うか。外付けはある程度融通が利くが、埋込は合致が重要。
- 耐荷重:戸1枚当たりの重量を見積もり、余裕を持った耐荷重(片側1個あたりの許容×2以上が目安)。
- 調整機構:建て付け調整が必要なら上下調整ネジ付を選ぶ。
- 使用環境:水回り・屋外はステンレスや防錆仕様、粉塵多い場所はシールドベアリングが有利。
正しく測るコツ(既存品が不明なとき)
- 戸の外し方を確認:戸先の戸当たりや上部ガイドを外し、無理なく戸を上げ下げして外す。
- 戸車の寸法を採寸:車輪径、全高、取付ベースの幅・長さ、ビスピッチ、車輪の溝形状をノギスまたはスケールで。
- レール寸法:レールの幅・高さ・開口角度(Vの角度)をざっくり把握。写真も撮っておくと選定が楽。
- 戸の重量の目安:材質(木製・ガラス入り・アルミ)、サイズ(高さ×幅×厚み)から概算。迷えば余裕のある耐荷重を選ぶ。
取り付け・交換の流れ(安全第一で)
工具の基本:プラスドライバー、マイナスドライバー、六角レンチ(調整用)、スケール、ペンチ、養生テープ、手袋。重量戸は二人作業を推奨します。
- 1. 準備と養生:床やレール周りを養生。戸先・戸当たり・上部ガイドを外す。
- 2. 戸を外す:戸を持ち上げて手前に引き、下側をレールから外す。無理なこじりは禁物。
- 3. 既存戸車の取り外し:ビスを外し、位置・方向をメモ。左右で高さが違う場合は記録する。
- 4. 新品の仮付け:左右の取付高さをそろえ、調整ネジは中央付近にしておく(上げ下げ余裕を確保)。
- 5. 取り付け本締め:ガタがないように固定。樹脂材は締めすぎて割らないこと。
- 6. 建て付け調整:戸を戻し、隙間・こすれ・戸先の直線を確認しながら上下調整。戸先が下がると擦り、上げすぎるとレールから外れやすくなります。
- 7. 仕上げ:戸当たり・ガイドを戻し、走行テスト。異音・蛇行がないか確認。
調整とメンテナンス(長持ちさせるコツ)
- 上下調整ネジ:戸先の隙間均一、召し合わせ(戸と戸の当たり)ラインがまっすぐになるよう微調整。
- レール清掃:ゴミ・ホコリ・砂は天敵。ブラシと掃除機で乾式清掃が基本。
- 潤滑剤:シリコン系ドライスプレーが無難。油性が強い潤滑油はホコリを呼びやすい。木部や床に付かないよう養生して軽く塗布。
- 定期点検:ガタ、偏摩耗、割れ、ベアリングのゴリ感は交換サイン。異音が出たら早めに対処。
よくあるトラブルと対処
- 重くて動かない:レールと戸車の形状ミスマッチ、レールの変形・汚れ、戸の傾き。まず清掃→調整→戸車交換の順で。
- カタカタ音・金属音:ベアリング破損、軸の摩耗、車輪割れ。戸車の交換が確実。
- 戸がレールから外れる:全高が高すぎる・傾き・上げすぎ。適正な全高の戸車に変更し、ガイドの位置も確認。
- 床を擦る:戸先が下がっている。上下調整で上げる、または車輪径・全高を見直す。
- 片側だけ重い:左右の高さ不均一、戸の反り。左右の調整量をそろえる、建具自体の補修も検討。
現場での使い方
戸車という言葉は、現場では次のような言い回し・文脈で使われます。初心者の方は「別称」「使う場面」を知っておくと会話がスムーズです。
言い回し・別称
- コマ(襖・障子の小型戸車を指すことが多い)
- 下車(げしゃ)/上車:上下の区別をする言い方
- 吊り車(上吊り引戸のローラー)
- 走行ローラー/ガイドローラー(機能名で呼ぶことも)
使用例(3つ)
- 「こっちの引き戸、戸車が減ってレールに当たってる。調整してもダメなら交換しよう」
- 「レールがVだから、U溝の戸車は合わないよ。同等品かベアリング入りのVにしよう」
- 「戸先が下がってるね。右の戸車を2ミリ上げて、召し合わせをそろえて」
使う場面・工程
- 建具の建て込み時の最終調整(引き渡し前の建て付けチェック)
- リフォーム・メンテでの交換(動作不良、異音、摩耗対策)
- 既存レールに合わせた金物選定(品番特定・寸法採寸)
関連語
- 敷居/鴨居:下レール/上レールの周辺部材
- レール:戸車が走る金物。Vレール、Uレール、フラットバーなど
- 召し合わせ:引き違い戸の中央で合わさる部分
- 戸当たり:戸を止めるための当て木・金物
- 建て付け:戸の傾き・隙間・擦りの総合的な状態
どのくらいの耐荷重を選ぶべき?
戸の重量は材質とサイズで大きく変わります。たとえば一般的な室内木製引き戸(幅800×高2000×厚30mm前後)でおおむね10~20kg程度、化粧ガラス入り・無垢材などで30kgを超えることもあります。戸車は左右で2個使いが基本なので、「戸1枚の重量」≤「戸車1個の許容荷重×2」に、さらに安全率(2~3割の余裕)を持たせると安心です。重いガラス戸・外部サッシ・間仕切りの大型引き戸は、メーカー指定の専用品(ベアリング・防錆・高耐荷重)を選定しましょう。
静音・長寿命のための小さな工夫
- レール端の面取り:端部の角をわずかに面取りすると乗り上げ時のショックが減り、音も低減。
- ガイドの位置決め:上部ガイドや下ガイドの押さえを適正に。締めすぎると重く、緩いと蛇行します。
- 段差解消:レール継ぎ目の段差は薄板や補修材で均す。段差は戸車の寿命を縮めます。
代表的なメーカーと特徴(例)
戸車は建具金物メーカーの一般品と、サッシ・建具メーカーの純正部品に大別されます。既製品建具・アルミサッシは純正品の品番指定が最も確実です。
- LIXIL(リクシル):住宅用サッシ・引戸の純正戸車を展開。既存サッシの交換用部品も型式指定で入手可能。
- YKK AP:アルミサッシ全般。サッシの品番から戸車を特定して交換するのが基本。
- 三協アルミ:サッシ・引戸システム。純正レールと戸車の組み合わせで性能を担保。
- スガツネ工業:建具金物の総合メーカー。上吊り引戸やレールシステム、ローラー金物を幅広く扱う。
- ハーフェレ(Häfele Japan):輸入金物の定番。上吊り引戸や重量用ハードウェアもラインアップ。
注意:既存が上記メーカーの純正品の場合、互換汎用品では合わないことがあります。サッシ枠や建具側の刻印・シールから製品名・年式を確認し、純正部品での交換を優先しましょう。
安全と作業上の注意
- 重量戸は二人以上で:腰・指の挟み込み事故を防ぐ。手袋・安全靴着用。
- ガラス建具は養生必須:角に養生テープ、安定した壁面に立て掛け。転倒防止を徹底。
- 賃貸・共用部は事前承認:原状回復や管理規約に配慮し、勝手なレール交換を避ける。
- 電動工具使用時は下地確認:ビス貫通で配線・配管を傷つけない。
用語辞典(関連語ミニ解説)
- 戸車(とぐるま):引き戸を転がして支えるローラー部品。
- 吊り車(つりぐるま):上部レールから吊る引き戸のローラー。
- レール:戸車の走行路。V/U/平の形状がある。
- 敷居・鴨居:下枠・上枠に相当する木部・金物。
- 召し合わせ:引き違い戸の接合ライン。ここが揃うと見た目が美しい。
- 建て付け:戸の水平・垂直・隙間・擦りを含む総合的な状態。
- ベアリング:回転を滑らかにする軸受け。戸車の回転性能・耐久に寄与。
ケース別の選定例
- 和室の襖が重い:小型のコマ(戸車)摩耗が原因のことが多い。同等径・同形状の静音樹脂タイプに交換。
- 室内引き戸が床を擦る:上下調整ネジ付きの戸車なら上げ調整。調整がない場合は全高見直しの上で交換。
- 古いアルミサッシがガタつく:サッシメーカーの純正戸車を品番指定で取り寄せ。左右で高さをそろえて交換。
- 段差をなくしたい:上吊り引戸(吊り車)+フラットガイドを検討。床側のレールが不要になり掃除が楽。
プロの現場でのチェックリスト
- レール形状(V/U/平)と寸法を写真+メモで記録
- 既存戸車の寸法・ピッチ・全高・材質・調整機構の有無を採寸
- 戸の重量と使用頻度(住宅/店舗)を想定して耐荷重を選ぶ
- 取付後の建て付け(隙間・擦り・召し合わせ・クローザーの効き)を最終確認
- ユーザーにメンテ手順(清掃・潤滑・異音時の対応)を共有
DIYでもやれる?判断基準
- やりやすい案件:室内木製引き戸の外付け戸車交換、上下調整のみ、レール清掃。
- プロに依頼したい案件:大型・重量戸、ガラス入り、サッシ純正品の特定が必要、レール交換や框加工が伴う場合。
よくある質問(FAQ)
Q1. V溝とU溝、見分け方は?
レール上面の形を横から見ると、Vは鋭角の山、Uは丸みのある谷形です。触るとVは角、Uは丸い感触。迷えばスマホで接写し、金物店で確認しましょう。
Q2. 潤滑に油を差したら動きが重くなりました。
油性潤滑はホコリを巻き込んで後日重くなりがち。シリコン系ドライスプレーや乾式のグラファイト系が無難。まず清掃、その後に最小限の潤滑が基本です。
Q3. 戸車の直径が少し違っても大丈夫?
全高が変わると戸の位置が上下にずれ、擦りや外れの原因になります。同径・同等全高が基本。やむなく変えるときは左右同時に交換し、ガイドも含めて再調整しましょう。
Q4. ベアリングなしよりありの方が良い?
使用頻度が高い、重量がある、静音性を求めるならベアリング入りが有利。コストは上がりますが、回転の滑らかさと寿命に差が出ます。
Q5. 純正品が廃番でした。どうすれば?
寸法・形状・耐荷重を採寸し、汎用戸車から近いものを選定します。レール形状が特殊な場合はレール側の更新やアダプタの検討も。判断に迷えば建具店・金物店に写真と寸法を持参するとスムーズです。
まとめ:戸車が分かれば、引き戸の悩みはほぼ解決できる
戸車は小さな部品ですが、動き・音・安全性・見映えに直結する重要パーツです。レール形状の適合、車輪径と全高、耐荷重、調整機構という基本さえ押さえれば、交換や調整は難しくありません。まずはレールと既存品の確認、清掃と調整から。改善しなければ、同等品への交換を検討しましょう。現場でも家庭でも、この順番で対処すれば、多くの不具合は短時間で解消できます。困ったときは本記事のチェックポイントに立ち返って、確実に進めてください。



