戸当(とあて)徹底ガイド:意味・用途・種類・取付位置のコツまで、現場目線でやさしく解説
「戸当って何?」「ドアストッパーと何が違うの?」——建設内装の図面や現場でよく飛び交う言葉ですが、はじめてだと少し分かりにくいですよね。本記事では、現場での実務を踏まえて「戸当(とあて)」の意味から種類、設置の考え方、会話での使われ方まで、初心者にもイメージしやすいように丁寧に解説します。読み終わる頃には、「この場面は床付のマグネットタイプだな」「ここは干渉が出るから壁付が安全だ」など、実践的な判断ができるようになります。
現場ワード(戸当)
| 読み仮名 | とあて(現場読み)/とあたり(正式) |
|---|---|
| 英語表記 | Door stop/Door stopper(磁石で保持するものは Door holder, Magnetic door stop とも) |
定義
戸当(とあて)とは、開き戸(ドア)が開き過ぎて壁・巾木・建具金物(レバーハンドルやドアクローザー等)を傷つけないよう、所定の位置で開放を制限・停止させるための小さな金物(ストッパー)の総称です。日本の現場では「戸当り/戸当たり」「ドアストッパー(ストップ)」「マグネット戸当(キャッチ)」などの呼び方も広く使われます。役割は大きく、(1) 衝突・破損の防止、(2) 開放角度の管理、(3) 開け放し保持(マグネット式等)です。戸当は床や壁、場合によってはドア側に取り付け、形状や機能は用途・仕上げ・下地条件に合わせて選定します。
戸当の役割とメリット
戸当は小さな金物ですが、建物の使い勝手と寿命に直結します。主な役割とメリットは次の通りです。
- 壁・巾木・クロス・タイル・家具などの損傷防止(ハンドルやドア角が壁を突く事故を防止)
- ドアクローザーや丁番への過負荷を軽減し、金物の寿命を延ばす
- 所定の開放角度を確保し、動線や家具配置の計画どおりに運用できる
- マグネット式なら扉の開け放しができ、採風・作業・清掃時に便利
- 音と衝撃を和らげ、快適性と安全性を向上(ゴムや樹脂バッファーの効果)
種類と特徴(形状・機能別の選び方)
取付位置による分類
設置場所によって使い勝手と納まりが変わります。下地や仕上げ、掃除のしやすさ、つまずきリスクなどを総合して選びましょう。
- 床付(フロアストッパー)タイプ:床面に固定。安定性が高く汎用的。清掃道具やロボット掃除機との干渉、つまずき対策に注意。
- 壁付(ウォールストッパー)タイプ:壁面に固定。床面すっきりでつまずきにくい。石膏ボード壁は確実な下地(合板・間柱)または適合アンカーが必要。
- ドア側取付タイプ(アーム・フック等):ドア側や把手側に補助機構を付ける方式。特殊納まりや家具に近い用途で採用されることがあります。
機能による分類
- 標準(当てゴム)タイプ:衝突を緩和して止める基本形。最もシンプルで価格も抑えめ。
- マグネット(キャッチ)タイプ:磁力で開放保持が可能。扉を開けた状態をキープでき、住宅や病院・施設で人気。
- バッファー内蔵タイプ:ショック吸収性が高く、静かに止めたい空間で有効。
- 折りたたみ・フック付きタイプ:足で操作して一時的に固定するものなど。清掃時や搬入時に便利。
素材・仕上げの選び方
耐久性・防錆性・意匠性・コストのバランスで選定します。周辺金物や室内テイストとの統一感も大切です。
- ステンレス(SUS304等):耐食性が高く、公共・商業施設でも定番。ヘアライン(HL)や鏡面など仕上げ多彩。
- 亜鉛ダイカスト:成形自由度が高くデザイン性に優れる。メッキ・塗装仕上げでコストと意匠の両立。
- 真鍮:高級感があり、経年変化も味わい。クラシック・ホテル・邸宅に好相性。
- 樹脂・ゴム:当たり部に用い衝撃吸収と静音性を確保。交換可能なパーツがあると保守が楽。
- カラー仕上げ:サテンニッケル、ブラック(艶消し)、ブロンズなど。ハンドルや丁番との色合わせが基本。
取付位置と寸法の考え方(図面最優先+現場調整)
戸当の位置は「設計図・製作図・メーカー指示が最優先」です。以下は一般的な考え方で、最終判断は現場条件に合わせてください。
- どこを守るかを明確に:多くは「把手(レバーハンドル)や扉角が壁・巾木に当たらない位置」で止めます。
- 開放角度の設定:通行・家具配置・採風などの計画に合わせ、必要角度で確実に停止する位置を選ぶ。
- 床付の基本イメージ:扉の開き側に設置し、扉が所定角度で戸当に当たる位置。巾木や見切、床見切との干渉回避がポイント。
- 壁付の基本イメージ:レバーやドア角が壁面に触れる前に、戸当の弾性部に当たる位置・高さにセット。確実な下地を確保。
- 安全・衛生配慮:つまずきやすい導線には低背・壁付を優先。ロボット掃除機の走行やモップ清掃の妨げにならない配置を検討。
- 設備・下地の確認:床暖房配管、二重床、遮音マット、防水層、壁内配線の位置を事前確認。穿孔前の探査や監督確認が必須。
- 意匠の整合:ハンドル・丁番・戸先のラインと揃える、巾木高さと見た目を合わせるなど、納まりの美しさも加味。
なお、具体寸法の「○mm固定」のような一律値は現場により適さない場合が多いため、必ず実物合わせで微調整してください。
施工手順とコツ(床付・壁付)
床付タイプの基本手順
- 位置出し:扉を実開閉して当たり位置を確認。養生した上で墨出し・位置マーキング。
- 下地確認:床暖房・二重床・防水層の有無を監督に確認。アンカーが必要か検討。
- 穿孔・固定:メーカー指定径で穿孔し、プラグまたはビスで固定。ステンレスは下穴を正確に。
- 当たり調整:扉を当てて角度・接触面を確認。緩衝ゴムやマグネットの効き具合を点検。
- 仕上げ:ビス頭方向の揃え、保護キャップ装着、清掃。周囲の傷・汚れをチェック。
壁付タイプの基本手順
- 下地確保:石膏ボードの場合は合板下地や間柱を探して固定。下地がない場合は適合アンカーを選定。
- 高さ決定:レバーや扉角の当たり位置に合わせて設定。巾木や見切のラインと整えると見え方が良い。
- 固定・調整:水平・垂直を確認しながらビス止め。扉を実開閉して当たり具合を微調整。
施工上の注意
- 設備に傷をつけない:床暖房・配線・防水層を貫通しないよう事前確認と養生を徹底。
- 騒音対策:コンクリートへの穿孔は時間帯・近隣配慮。集塵と清掃をセットで実施。
- 共用部の安全:つまずきや清掃のしやすさを優先。角の立った形状は避けるかカバー付きに。
- ステンレスの腐食防止:鉄粉を付着させない、異種金属接触を避けるなど基本管理を行う。
現場での使い方
戸当は図面記号で「戸当」「戸当り」「DS(Door Stop)」などと表記され、現場では短く「とあて」と呼ばれます。言い回しや関連用語を押さえておくと会話がスムーズです。
言い回し・別称
- 別称:戸当り/戸当たり/ドアストッパー/ドアストップ/マグネット戸当(キャッチ)/フロアストッパー/壁付ストッパー/当てゴム
- 言い回し例:「把手が壁に当たらないように戸当を入れて」「ここはマグネット戸当で開放保持」「床付はつまずくから壁付に変更」
使用例(会話例・3つ)
- 「この建具はレバーが長いから、戸当は壁付で当たり位置上げておいて。」
- 「搬入多い部屋なので、マグネット戸当で開け放しできるようにしてほしい。」
- 「床暖房入ってるから穿孔位置要注意。監督確認してからフロアストッパー付けよう。」
使う場面・工程
- 建具吊り込み後の金物取り付け工程で設置することが多い(開閉の実測が必要なため)。
- 内装仕上げ(巾木・クロス・床仕上げ)との取り合い確認後に最終位置決め。
- 引渡し前の動作確認・キズチェックで微調整と養生を外して仕上げ。
関連語
- 丁番/ピボット:扉の回転支点。開き方向・クリアランスに影響。
- ドアクローザー:閉まり速度・勢いを制御。戸当と組み合わせて安全性を高める。
- レバーハンドル/握り玉:壁への接触点となりやすく、戸当の位置決めに直結。
- 巾木・見切り:納まりと見映えの基準。干渉や傷防止を考慮。
よくある不具合と対策
- 当たり位置がズレて壁や巾木に接触する:実開閉で角度確認→再位置決め。マグネットの吸着中心も合わせる。
- ゴムの劣化・脱落:部品交換が可能な製品を選ぶ。消耗品の在庫・品番を控えておく。
- 磁力が弱く開放保持できない:重量扉や強風下では磁力の高いタイプや補助金物を選定。設置距離を最適化。
- つまずきや清掃の邪魔:低背タイプや壁付に変更。清掃動線のヒアリングを事前に。
- ビスが効かない(抜ける):適切な下地・アンカーを使用。穴あきボードには空転防止のアンカーを選定。
- 金属音・衝撃が大きい:バッファー付きや大径ゴムに変更。扉側の当たり面に保護シートを貼る方法も。
メンテナンス・交換の目安
- 定期点検:開閉動作時の接触位置・ガタつき・緩みをチェック(半年~1年に一度が目安)。
- 清掃:砂塵が磁石面に付くと吸着力低下。柔らかい布で定期清掃。
- 部品交換:ゴム硬化や変形、メッキ剥がれは交換サイン。ネジ緩みは増し締めで対応。
メーカーと代表的なカテゴリ(参考)
戸当は多くの建築金物メーカーから供給されています。以下は日本国内で入手しやすい代表的なメーカー例です(各社とも床付・壁付・マグネット等のラインアップを幅広く展開)。詳細は各メーカーの最新カタログをご確認ください。
- スガツネ工業(LAMP):建築金物の総合メーカー。機能性とデザインのバランスがよく、パーツ入手性も高い。
- カワジュン(KAWAJUN):意匠性に優れ、ホテル・商業施設でも採用例多数。仕上げバリエーションが豊富。
- 長沢製作所:ドア金物全般を展開。堅牢で現場調達がしやすい。
- ユニオン(UNION):デザイン性の高い建築金物で知られ、空間に合わせた意匠選定が可能。
- 日本ドアチェック製造(NEW STAR):ドアクローザーで有名。関連金物の組み合わせ提案がしやすい。
見積り・発注のコツ(品番の読み方と指定事項)
戸当は小物ですが、指示が曖昧だと誤手配や現場手戻りの原因になります。以下を押さえて発注・連絡しましょう。
- 取付位置:床付/壁付/ドア側取付(必要なら開放保持の有無)
- 機能:標準/マグネット(キャッチ)/バッファー内蔵/折りたたみ等
- 材質・仕上げ:SUS HL/鏡面/黒塗装/サテンニッケル等(周辺金物と合わせる)
- サイズ・高さ:当たり位置の高さ・突出寸法(図面がある場合は図番で指定)
- 下地条件:コンクリート/木下地/石膏ボード(必要アンカーやビス種)
- 数量・設置場所:部屋名・建具番号・片開き/両開きなどの情報を併記
- 特記事項:床暖房の有無、清掃機器の走行、つまずき配慮、バリアフリー要件など
ケース別の選定ヒント
- 住宅の個室ドア:床付・小型の標準タイプが無難。開け放し用途が多いならマグネット式。
- 保育・教育施設:安全性と静音性を重視。大径ゴムの壁付やバッファー内蔵タイプが有効。
- オフィス:清掃性を重視して壁付、意匠はハンドルと統一。会議室はマグネット保持が便利。
- 病院・高齢者施設:つまずき回避が最優先。壁付で突出を抑え、角を立てない形状を選ぶ。
- 商業施設・共用部:耐久性・メンテのしやすさ重視。部品供給が安定したメーカーを優先。
よくある質問(FAQ)
戸当とドアクローザーがあれば、壁の保護は十分ですか?
多くの場面で十分ですが、長いレバーハンドルやドア角が壁に近い場合は追加の保護(壁側に小型の戸当、コーナーガード等)が有効です。実開閉で接触点を必ず確認してください。
床暖房がある場所でも床付の戸当を付けられますか?
可能な場合もありますが、配管や温水マットの位置確認が絶対条件です。監督・設備図で確認し、必要なら壁付タイプに切り替えるのが安全です。
マグネット戸当がすぐ外れて保持できません。
扉重量や気流に対して磁力が不足している可能性があります。より強力なタイプへ変更するか、位置調整、補助金物の併用を検討してください。吸着面の汚れ除去も効果があります。
巾木が高くて当たり位置が合いません。
壁付は巾木上での取付やスペーサー利用で調整可能です。床付に変更する、あるいは扉側に当て部材を追加する方法もあります。納まりを検討し、意匠との整合を取ってください。
まとめ
戸当(とあて)は、扉を守り、空間の使い勝手を支える重要な建築金物です。床付/壁付、標準/マグネットなど種類は多彩ですが、肝は「何を守るか」「どの角度で止めたいか」「下地・清掃・安全の条件は何か」を明確にし、図面最優先で現場実測・微調整を行うこと。この記事のポイントを押さえれば、初めての方でも適切な選定・設置ができるはずです。迷ったら、開閉の実測と関係者への確認を丁寧に。小さな金物ですが、その一手間が仕上がりと長期の安心を大きく左右します。



