ペアガラスをゼロから理解:仕組み・選び方・現場での注意点まで
「ペアガラスって何?複層ガラスとどう違うの?」「結露や暑さ寒さに効くの?」——はじめての方ほど、名前は聞くけど実態が曖昧で不安になりますよね。この記事では、建設内装の現場で実際に使われる言い回しや発注のコツまで、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説します。仕組みからメリット・注意点、現場での使い方まで一通りわかれば、商品選びや打合せ、施工の失敗がぐっと減らせます。
現場ワード(ペアガラス)
| 読み仮名 | ぺあがらす |
|---|---|
| 英語表記 | double glazing / insulated glass unit(IGU) |
定義
ペアガラスとは、2枚の板ガラスをスペーサーで一定の間隔を保って密閉し、間に乾燥した空気またはガス層を設けた「複層ガラス」の通称です。断熱・遮熱・防露(結露抑制)・遮音などの性能向上を目的に住宅からオフィスまで幅広く採用されます。現場では「ペア」「複層」「二重ガラス(俗称)」と呼ばれることもあります。
仕組みと構成
ペアガラスは「ガラス+中空層+ガラス」というサンドイッチ構造で、熱の伝わりやすさを抑えるのが基本的な考え方です。中空層が熱の通り道を遮り、さらに特殊コーティング(Low-E)やガスを加えることで性能を引き上げます。
基本構成
- 板ガラス(室外側・室内側):透明ガラス、型板(くもり)ガラス、合わせガラスなど用途に応じて選択
- 中空層:乾燥空気またはアルゴン等のガスを充填した層。厚みは6〜16mm程度が一般的
- スペーサー:2枚のガラスの間隔を維持する枠部材。アルミや樹脂・ステンレスなど。内部に乾燥剤を持つ構造が一般的
- 封着シール(シーリング):中空層を外気と遮断するためのシール。一次・二次シールの二重構造が多い
性能のカギになる要素
- Low-Eコーティング:ガラス内面に金属膜をコーティングし、熱線(遠赤外線)を反射。断熱タイプ・遮熱タイプがある
- 中空層の厚み:厚いほど断熱・遮音に有利だが、サッシの溝幅や重量とのバランスが必要
- 充填ガス:アルゴンなどの不活性ガスは空気より熱伝導率が低く、断熱性能を高める
- スペーサーの材質:熱橋を抑える「暖かいスペーサー(樹脂・ステン等)」は縁部の結露リスク低減に有効
メリットと注意点
メリット
- 断熱性の向上:冬の冷え込み・夏の暑さを抑え、空調効率を改善
- 結露の抑制:特に室内側の結露が発生しにくくなる(条件によりゼロにはならない)
- 遮音性の向上:中空層が音を減衰させ、単板ガラスより静かに
- 快適性の向上:窓際の体感温度の改善、日射反射によるまぶしさ軽減(Low-E遮熱タイプ)
- 省エネ・光熱費の低減:適切な仕様選定で暖冷房負荷が下がる
注意点・デメリット
- 重量が増える:ガラスが2枚になるため、搬入・施工時の負担増。ヒンジ・戸車の負担にも留意
- コストが上がる:単板と比べ材料費が高い。仕様(Low-E・ガス・スペーサー)により差が大きい
- サッシとの相性:既存サッシの溝幅・荷重許容・パッキン形状により入替可否が変わる
- 熱割れの注意:部分的な日射・カーテン密着・熱源近接でガラスに応力集中が起こりやすい
- 内部結露(ガラス間の曇り)は製品不良・寿命のサイン:修理は基本的にガラスユニット交換
寸法・仕様の呼び方を読み解く
現場では「3-12-3」などの表記を見かけます。これは一般に「室外側ガラス厚3mm—中空層12mm—室内側ガラス厚3mm」を意味します。Low-Eやガス、合わせガラスなどを含めると、表記はメーカーや流通で少し差がありますが、以下のような読み方が基本です。
- 3-12-3:透明3mm+中空層12mm+透明3mm
- Low-E3-16-3:室内側または室外側のどちらかのガラスがLow-E、16mm中空層(Low-E面位置は仕様書で確認)
- 3-A12-3:中空層12mmにアルゴン(A)を充填(略記は流通により異なる)
- 5-12-5(型):型板ガラス(くもり)を指定する場合は「型」「フロスト」などの注記を付す
Low-E膜の面位置は「外1/内2/内3/外4」のように面番号で指定することがあります(4枚構成では1〜4面、2枚構成のペアガラスでは室外側から数えて1面→外側ガラス外面、2面→外側ガラス内面、3面→内側ガラス外面、4面→内側ガラス内面)。面位置は遮熱・断熱性能や清掃性に関わるため、発注前に必ず仕様書で確認しましょう。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「ペア」「ペアガラ」「複層」「二重ガラス(俗称)」と呼ばれることがあります。見積や発注書では「複層ガラス」「Low-E複層ガラス」と表記されるのが一般的です。呼称が共通認識になっているか、打合せで一度確認しておくと行き違いを防げます。
使用例(3つ)
- 「この腰窓はペアでいきます?Low-Eの遮熱で南面だけグレード上げときます。」
- 「サッシ溝幅が狭いから、3-6-3の薄めのペアで納めないと入らないですね。」
- 「アルゴン入り指定だけど、面3Low-Eで合ってる?ステッカー位置も確認お願いします。」
使う場面・工程
- 新築・リフォームのサッシ選定時(窓種・ガラス仕様の検討)
- 内装工事でのガラス入替・障子組み替え時(既存サッシに合わせたユニット交換)
- 省エネ改修・結露対策の提案時(方位別の仕様分け、Low-Eの採用要否)
- 見積・発注段階(厚み・サイズ・面位置・ガス有無・型/透明・安全仕様の指定)
関連語
- 複層ガラス/Low-Eガラス/合わせガラス/強化ガラス
- スペーサー/セッティングブロック/ビート・パッキン/シーリング
- 遮熱/断熱/日射取得/熱貫流率(U値)/日射熱取得率(η値)
- 熱割れ/内部結露/外気側結露/ガス漏れ
選び方の実践ポイント(失敗しないためのチェックリスト)
- 目的を明確に:結露抑制か、夏の遮熱か、冬の断熱か、遮音か。目的に合う仕様を選ぶ
- 方位で使い分け:南・西面は遮熱Low-E、北面は断熱寄りなど、日射条件で選定
- 中空層厚とサッシ溝幅:既存サッシに収まるかを最優先で確認(溝幅・押さえ・パッキンの互換)
- 安全性:人が触れる高さ・割れた時のリスクがある場所は「合わせ」や「強化」を検討
- 視線配慮:浴室や道路面は「型板(くもり)」、採光とプライバシーのバランスを取る
- Low-E面位置:清掃・耐久・結露特性に影響。標準推奨位置を確認し、ブラインドやカーテンとの距離も考慮
- ガス充填の有無:性能は上がるがコストも上がる。効果と予算のバランスを検討
- スペーサーの種類:樹脂・ステンレスなどの「暖かいスペーサー」は縁部結露対策に有効
- 色味と映り込み:Low-Eは若干の反射・色味が出る場合がある。ショールームやサンプルで確認
- 将来の交換性:特殊サイズや特殊膜仕様は納期・価格が上がることがある。長期運用も視野に
施工の勘所(内装・ガラス入替の現場目線)
- 採寸は「有効見付け寸法」「呼び寸法」を整理:サッシの押さえ形状・クリアランスを実測
- セッティングブロック:ガラス荷重を枠に正しく伝達するための要。位置・数量・硬度を守る
- シール材の相性:ガラス・スペーサー・サッシ材質(アルミ・樹脂)に適合するものを選定
- ドレン・水密の確保:排水経路を塞がない。コーキングの打ち回しは通気・排水を妨げないように
- Low-E面の向き間違い防止:面位置のステッカーや指示票で取り違いを防ぐ(施工前に口頭復唱)
- 養生・搬入経路:ペアガラスは重く割れにくいが、一度欠けると破損が広がりやすい。角保護は必須
- 熱割れ対策:カーテンや家具をガラスに密着させない。ストーブ・ヒーターの至近設置は避ける
- 清掃時の注意:Low-E面を露出面にしない仕様が一般的。研磨剤・金属たわしは厳禁
よくあるトラブルと対策
- ガラス間の曇り(内部結露):シール性能低下等が原因。ユニット交換が基本対応
- 縁部結露:室内の湿度が高い、熱橋が強い場合に発生。換気・加湿調整、暖かいスペーサー採用で改善
- 納まらない・押さえが効かない:厚みやクリアランスの見誤り。溝幅・押さえ部材を発注前に再確認
- 色味・反射の指摘:Low-E特有の外観変化。事前に見本確認、方位ごとに仕様を分ける
- 熱割れ:部分的遮蔽(日よけ・看板・フィルム)や局所加熱が原因。遮蔽物の配置・フィルム選定に注意
メンテナンスと寿命の考え方
ペアガラス自体は消耗品ではありませんが、長年の紫外線・温度変化・応力でシールが劣化すると、ガスや乾燥状態が保てなくなり内部結露が起きることがあります。日常のメンテナンスとしては、周辺のパッキン・シールの割れや硬化、枠の歪み、ドレンの詰まりを定期的に点検すると良いでしょう。清掃は中性洗剤を薄めて柔らかい布で。研磨性のあるスポンジや薬品は避けます。
代表的なメーカー・流通
ペアガラス(複層ガラス)は、国内外のガラスメーカー・サッシメーカー・地域のガラス加工会社が幅広く供給しています。以下は日本で流通の多い例です(順不同)。
- AGC株式会社(AGC):建築用フロートガラスやLow-Eガラスなど幅広いラインアップを持つ大手ガラスメーカー
- 日本板硝子株式会社(NSG Group):建築用ガラス全般を扱う大手。遮熱・断熱など各種機能ガラスを展開
- YKK AP株式会社:サッシメーカー。樹脂・アルミ樹脂複合サッシとLow-E複層ガラスを組み合わせた窓製品を多数展開
- 株式会社LIXIL:サッシ・建材の総合メーカー。住宅用窓としてLow-E複層ガラス搭載モデルを多く供給
- 三協立山株式会社(三協アルミ):住宅・非住宅向けのサッシ製品に複層ガラスを採用
実際の調達は、サッシ一体での手配、あるいは既存枠を活かしたガラスのみ交換など、工事内容に合わせて選択します。地域のガラス店・施工店が加工・納入を担うケースも一般的です。特定の商標名やシリーズ名は各社で異なるため、性能値(U値・η値・遮音等級など)で比較検討するのがおすすめです。
用途別おすすめの考え方
- 結露対策優先(北面・水回り):断熱タイプLow-E+暖かいスペーサー。室内湿度の管理もセットで
- 夏の暑さ対策(南・西面):遮熱タイプLow-E。庇・外付けブラインド等の日射遮蔽も併用で効果大
- 静音重視(道路沿い・鉄道沿い):中空層厚を厚めに。ガラス厚を変える「非対称構成」も検討
- 安全重視(人が当たる・飛散危険):合わせガラスや強化ガラスとの組み合わせを選択
- 既存枠活用リフォーム:枠の溝幅・気密部材の状態を確認し、収まる構成厚のユニットを選定
打合せ・発注時のチェックフォーマット(例)
- 設置場所・方位:例)リビング掃出し 南面
- サイズ(呼び)と有効寸法:W×H、厚み限界
- ガラス構成:例)Low-E3-16-3、型/透明、色、合わせ/強化の要否
- 中空層:厚み、ガス充填の有無
- スペーサー:材質(アルミ/樹脂等)、色の希望
- Low-E面位置:例)3面、ステッカー位置の指定
- サッシ種別:アルミ/樹脂/複合、押さえ方式、パッキン情報
- 現場条件:搬入ルート、足場の有無、施工日程、既存ガラスの処分
よくある質問(Q&A)
Q1. ペアガラスと複層ガラスは同じですか?
A. はい。一般に、2枚ガラス+中空層の構成を「複層ガラス」と呼び、その通称として「ペアガラス」が使われます。メーカーやカタログでは「複層ガラス」表記が多いです。
Q2. ペアガラスにすれば結露は完全になくなりますか?
A. 条件によっては大幅に減らせますが、室内の湿度が高い・縁部が冷えやすいなどの環境では結露が出る場合があります。換気や加湿の調整、スペーサーの選定、カーテンの掛け方なども併せて対策しましょう。
Q3. 既存サッシに後からペアガラスだけ入れ替えできますか?
A. サッシの溝幅・押さえ方式・荷重許容・パッキン形状によります。薄型の複層ガラスにするなど工夫で対応可能なこともありますが、場合によってはサッシごとの更新が必要です。現物確認が必須です。
Q4. Low-Eの「遮熱」と「断熱」はどう違いますか?
A. 遮熱は夏の日射を反射して室内の温度上昇を抑える方向、断熱は冬に室内の熱を逃がしにくくする方向のチューニングです。地域や方位に応じて使い分けると効果的です。
Q5. フィルムを貼っても大丈夫?
A. 断熱・遮熱フィルムの中には熱割れリスクを高めるものがあります。ガラス仕様(Low-Eの有無、色、厚み)に適合するフィルムを選び、メーカーの適合表・保証条件に従ってください。施工前に適合確認は必須です。
用語ミニ辞典
- Low-E(ローイー):低放射コーティング。熱線を反射して断熱・遮熱性能を高める
- U値:熱の伝わりやすさ(熱貫流率)。数値が小さいほど断熱性が高い
- η値:日射熱取得率。数値が小さいほど日射の入り込みを抑える
- スペーサー:ガラス間の枠材。性能と縁部の結露に影響
- セッティングブロック:ガラス荷重を支える支持材。位置が不適切だと割れ・歪みの原因に
- 熱割れ:温度差による応力で生じる割れ。部分的な遮蔽・熱源の近接に注意
現場プロのひとことアドバイス
「まず目的を決める」「サッシの許容を確認する」「Low-E面の向きを間違えない」——この3点を押さえるだけで、ペアガラスの施工は一気に安定します。発注票には、ガラス構成・中空層厚・面位置・型/透明・ガス有無・安全仕様を必ず明記。疑問が残ったら、サンプルと仕様書で関係者全員の認識を揃えましょう。
まとめ
ペアガラス(複層ガラス)は、2枚のガラスと中空層で熱や音の伝わりを抑える、住まいの快適性と省エネに直結する重要部材です。Low-Eやガス、スペーサーなどの要素を理解し、目的と現場条件に合わせて選ぶことで、結露・暑さ寒さ・騒音といった悩みを効果的に軽減できます。現場では、呼称の共通化、サッシ適合、面位置の確認、施工手順の基本を守ることが成功のカギ。この記事を手引きに、失敗の少ない選定・施工につなげてください。









