現場で聞く「誘導灯」をゼロから理解する:種類・仕組み・施工の勘所までやさしく解説
「誘導灯って非常灯と何が違うの?」「どれを選べばいいのか分からない…」――内装・設備の現場で初めてこのワードに出会うと、だれもが一度はつまずきます。この記事では、建設内装の現場で日常的に使われる「誘導灯」の意味から、種類、設置の考え方、選び方、施工上の注意点まで、初心者の方にも分かりやすく丁寧に解説します。現場で恥をかかない基本と、すぐに役立つ実務のコツをまとめました。読み終えるころには、図面や打合せで自信を持ってやり取りできるようになります。
現場ワード(誘導灯)
読み仮名 | ゆうどうとう |
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英語表記 | Exit sign(Emergency exit sign) |
定義
誘導灯とは、火災や停電などの非常時に避難口や避難経路の方向を示し、人を安全に外へ誘導するための常時点灯サイン(緑の非常口マーク等)です。通常時は点灯し続け、停電時には内蔵の蓄電池で一定時間点灯を維持します。見た目が似ていて混同されがちな「非常用照明(非常灯)」は、停電時のみ床面照度を確保するための照明器具で、役割が異なります。
誘導灯の基本知識
誘導灯の役割と仕組み
誘導灯の役割は「避難方向の提示」と「避難口の明示」です。緑地に白い走る人のピクトグラム(非常口マーク)が一般的で、視認性が高いことが求められます。通常は商用電源で点灯し、停電時には内蔵蓄電池等の非常電源に自動で切り替わり、所定時間の点灯を確保します。器具本体には点検用スイッチや表示ランプが備わり、バッテリーの劣化や充電状態を自己診断できる製品も一般的です。
主な種類(現場で押さえる分類)
用途や設置場所により、以下のように分類されます。
- 用途別
- 避難口誘導灯:出口(避難口)そのものを示す。
- 通路誘導灯:避難通路の方向転換や分岐、長い通路の途中に設置。
- 客席誘導灯:劇場・ホールなど客席の足元や通路などに設置。
- 表示面
- 片面型:片側だけに表示板があるタイプ(壁付や片側から見る場所)。
- 両面型:両側に表示を持つタイプ(廊下中央や天井吊り)。
- 取り付け方式
- 壁付・天井直付・天井埋込・天井吊下の各タイプ。
- 電源方式
- 内蔵電源型(本体に蓄電池搭載)。
- 集中電源型(別置の電源盤から各器具へ非常電源を供給)。
- 視認距離・サイズ
- 視認距離の違いで複数サイズがあり、空間規模に応じて選定(例:遠距離用・中距離用・近距離用)。
- 環境性能
- 防雨・防湿タイプ、耐塵タイプ、低温環境対応など設置環境に合わせた仕様。
法令・設置の考え方(概要)
誘導灯の設置は、建物の用途・規模・収容人員等により、消防法や建築基準法に基づいて求められます。どこに何台、どの向き・高さで設置するかは、建物計画や避難経路計画とセットで決まります。新築・大規模改修では所管の消防機関との協議や検査が必要になるのが一般的です。細かな数値基準は建物の条件で変わるため、実務では必ず最新の法令・告示・メーカー資料・図面指示を確認してください。
現場での使い方
言い回し・別称
- 非常口サイン/非常口表示
- ピクト(ピクトグラム)
- グリーン(緑のサインを指す俗称)
- 避難口サイン/通路サイン
使用例(3つ)
- 「この通路、曲がり角に通路誘導灯もう一台足そう。視認が弱い。」
- 「ここは両面の吊下げに変更、矢印は右向きに差し替えて。」
- 「停電試験で誘導灯のバッテリー確認します。点検スイッチ押しますね。」
使う場面・工程
- 現地調査・計画:避難経路と見通しを確認し、必要台数と位置を仮決定。
- 機種選定:用途(避難口/通路)・視認距離・片面/両面・取付方式・環境仕様を確定。
- 墨出し・開口:天井や壁の開口寸法・補強下地を確認。吊り金物やボックス位置を決める。
- 配線・結線:常用電源、非常電源(または内蔵バッテリー接続)、リモコン線等を正極性で施工。
- 器具取付:水平・直角・向き(矢印方向)を厳守し、表示板を忘れず装着。
- 試験・引渡し:点灯・停電試験、自己点検表示、外観・固定強度を確認。必要に応じて消防検査に立会い。
関連語
- 非常用照明(非常灯):停電時に床面照度を確保する照明。誘導灯とは役割が異なる。
- 表示板(パネル):矢印方向や避難口マークを示す板。左右差し替え可のものが多い。
- 自己点検機能:器具がバッテリーや回路を自動診断し、異常を表示する機能。
- 集中電源盤:複数の誘導灯へ非常電源を一括供給する装置。
- 消防設備点検:法に基づく定期点検。機器点検や総合点検を行い、報告が必要。
施工のコツとよくある失敗
現場で起きやすいミス
- 矢印の向き間違い:表示板の左右入れ替えを失念し、避難方向と逆になる。
- 片面/両面の取り違い:計画では両面なのに片面を発注・手配してしまう。
- 取付高さ・位置の不適正:障害物で隠れたり、曲がり角の手前に不足が出る。
- 電源回路の混在:非常用回路の取り回しや結線を誤り、停電時に点灯しない。
- バッテリー接続忘れ:内蔵電池のコネクタ挿し忘れで停電試験が不合格。
- 表示板の保護フィルム剥がし忘れ:引渡し後に気づき見栄えが悪くなる。
- 天井補強不足:吊下げや埋込で下地が弱く、たわみやビビり音が出る。
配線・固定のポイント
- 停電試験を想定して、常用/非常の系統と極性を明確に。端子台のマーキング徹底。
- 器具の水平器確認は必須。特に吊下げ・両面型は少しの傾きでも目立つ。
- 開口は器具図で寸法確認。リニューアルでは化粧プレートで既存開口を隠せるタイプを活用。
- 表示板は施工終盤で装着し、キズ・汚れを防止。保護フィルムは完了検査前に剥がす。
検査・引き渡し前チェック
- 通常点灯・停電点灯の両方を試験(器具のテストボタンやブレーカー操作)。
- 自己診断表示に異常なし(緑点灯等)を確認。エラー時はバッテリー・結線再確認。
- 矢印方向、表示の視認性(遠近・死角)を実地で確認。
- 器具固有ラベル・型番・適合マークが見えるか、付属書類が揃っているか。
選び方ガイド(失敗しないチェックポイント)
「とりあえず緑のやつ」で選ぶと、検査や運用でつまずきやすいです。以下の観点を順に確認しましょう。
- 用途種別:避難口用か通路用か(客席用が必要な用途も)。
- 視認距離・サイズ:空間の大きさ、見通し、設置高さから適正サイズを決定。
- 表示面:片面/両面。通路中央やホールには両面が便利。
- 取付方式:壁付・直付・埋込・吊下。下地や天井仕様と干渉がないか。
- 矢印方向:左・右・下向きなど、避難経路に合わせて選択(差し替え可タイプが便利)。
- 電源方式:内蔵電源型か集中電源型。改修では内蔵が取り回ししやすいことが多い。
- 環境条件:防雨・防湿、低温、粉じん等の条件に適合するか。
- 保守性:自己点検機能、バッテリー交換の容易さ、表示板の汚れにくさ。
- 意匠:天井・壁仕上げと調和するデザイン・器具色・フレーム幅。
- 更新/改修:既存開口やビスピッチを隠せる更新用化粧プレートの有無。
メンテナンスと点検
誘導灯は「付けて終わり」ではありません。正常に機能することが最重要なので、定期点検と消耗品(主に蓄電池)の交換計画が欠かせません。消防用設備等の点検は、建物用途などに応じた周期が定められており、一般に機器点検はおおむね半年、総合点検は年1回が目安とされています(建物種別により異なる場合があるため、実務では所管の消防機関や法令を必ず確認してください)。
- 月次・日常点検:点灯状態、自己診断表示(異常ランプ)を目視で確認。
- 半年・年次点検:停電試験、バッテリー動作、器具清掃、固定強度、表示板の退色・破損確認。
- 記録:点検結果を帳票化し保存。必要に応じて報告。
交換の目安
蓄電池は消耗品です。設置環境や使用条件で寿命は変わりますが、数年単位での交換を見込み、点検で容量低下や異常表示が出たら早めに交換します。LED光源は長寿命とはいえ、経年で輝度低下が起きます。表示板の黄ばみ・擦り傷も視認性に影響するため、清掃や更新部材の手配を計画的に行いましょう。
代表的メーカーと特徴
- パナソニック:全国的に流通・在庫が厚く、更新用リニューアル部材も充実。自己点検機能付きモデルが豊富。
- 三菱電機:ビル設備分野に強く、集中電源方式やシステム連携の提案力に定評。
- 東芝ライテック:照明器具全般に強く、意匠・省施工の更新モデルを展開。
- 大光電機:内装デザインと調和する器具バリエーションが多く、店舗・商業施設で採用例多数。
- オーデリック:デザイン性とコストバランスの良いラインナップを持つ。
- 岩崎電気:屋外・大型空間の照明に強く、防雨・耐環境仕様の選択肢がある。
メーカーごとにサイズや表示板の互換性、更新用プレートの形状が異なるため、改修時は「既存メーカー・開口寸法・器具型式」を現調で必ず確認しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 誘導灯と非常用照明(非常灯)の違いは?
誘導灯は避難方向や出口を示すサインで、原則として常時点灯します。非常用照明は停電時に床面の明るさを確保する照明で、通常時は消灯しているのが一般的です。役割が違うため、どちらか一方で代替することはできません。
Q2. 緑の誘導灯は普段消してもいいの?
誘導灯は通常時も点灯していることが前提です。勝手に消灯・減光すると安全性や法令適合に抵触する恐れがあります。タイマーやスイッチで任意消灯するような運用は避け、必要な場合は所管機関やメーカーのガイダンスに従ってください。
Q3. バッテリーが寿命を迎えるとどうなる?
通常時の点灯は維持されますが、停電時に所定時間点灯できなくなります。自己診断表示で異常が出ることが多いので、点検時に早期発見・交換対応を行いましょう。
Q4. 蛍光灯式からLED式へそのまま入れ替え可能?
多くのメーカーが改修用(リニューアル)モデルや化粧プレートを用意しています。既存開口やビスピッチ、電源方式の確認が重要です。器具の種類変更や設置位置変更を伴う場合は、関係法令や所管機関の確認・協議を行ってください。
用語ミニ辞典
- 避難口誘導灯:避難口(出口)を直接示す誘導灯。
- 通路誘導灯:避難通路上や曲がり角に設置し、進行方向を示す誘導灯。
- 客席誘導灯:劇場などの客席通路に設ける低位置の誘導灯。
- ピクトグラム:図記号。非常口の走る人マークなど。
- 表示板(サイン):矢印や避難口マークが描かれた板。左右入れ替え可のタイプが多い。
- 内蔵電源型:器具本体に蓄電池を内蔵する方式。
- 集中電源型:別置盤で非常電源を一括管理し、各器具に供給する方式。
- 自己点検機能:器具自身が定期的にチェックを行い、異常を表示する機能。
- 片面/両面:表示面の数。見る方向に合わせて選定。
- 更新用化粧プレート:既存開口を隠すアタッチメント。改修現場で役立つ。
実務で役立つチェックリスト
- 図面の用途種別(避難口/通路/客席)と視認距離要件を確認したか。
- 片面/両面、取付方式、矢印方向は確定しているか。
- 常用/非常の配線系統、バッテリー接続方法を班内で共有したか。
- 障害物や意匠スリットで視認が阻害されないか、実地で確認したか。
- 停電試験の段取り(ブレーカー操作可否、時間帯、立会者)を調整したか。
- 点検・報告の体制(誰がいつ何を記録するか)を決めたか。
まとめ:誘導灯は「見える・わかる・動く」の三拍子が命
誘導灯は、非常時の命綱。普段から「よく見える位置にあるか(見える)」「進む方向が一目で分かるか(わかる)」「停電でも点くか(動く)」を意識して選定・施工・点検することが、プロの基本です。種類や法令は奥深いですが、この記事のポイントを押さえ、迷ったらメーカー資料と所管の指示を必ず確認しましょう。現場での一言――「矢印の向き、停電試験、チェック済みです」――が言えるようになれば、誘導灯はもう怖くありません。