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【現場用語「逃げ」とは?意味・使い方・具体例を徹底解説!建設内装プロが分かりやすく解説】

「逃げ」って何?内装現場で失敗しないための意味・実務・寸法の考え方をプロが解説

「現場で“ここは逃げ取っておいて”って言われたけど、何をどうすれば正解?」そんな不安、よくわかります。内装や建築の世界では、職人同士の会話に独特の現場ワードが多く、初めての人ほどつまずきがち。この記事では、内装施工の現場で頻出する「逃げ」という言葉について、意味・使い方・具体例・失敗しないコツまで、やさしく丁寧に解説します。読み終わるころには、「逃げ」を自信を持って判断・指示できるようになります。

現場ワード(キーワード)

読み仮名にげ
英語表記clearance(必要に応じて allowance / tolerance と表現)

定義

内装・建築現場での「逃げ」とは、部材同士や躯体と仕上げが干渉しないように、あらかじめ寸法の余裕(すき間・ゆとり)を意図的に確保すること、またはその寸法のことです。材料の伸縮、製品個体差、施工誤差、後工程の作業スペース、取り合いの見え方調整など、様々な不確定要素を吸収するために設けます。会話では「逃げを取る」「逃げを見る」「逃げ寸法」「逃げ代(しろ)」などと表現されます。なお、「手を抜く」ことではなく、品質を安定させるための専門的な設計・施工判断です。

現場での使い方

言い回し・別称

  • 逃げを取る/逃げを見る/逃げをもらう
  • 逃げ寸法/逃げ代(しろ)
  • クリアランスを確保する(現場カタカナ表現)
  • あそびを持たせる(機能的な余裕を指す場合)
  • 見切りで逃がす(見切り材やシールで段差・誤差を吸収)

使用例(3つ)

  • 「この造作カウンター、壁際は5ミリ逃げ見て。最後にシールで仕上げよう。」
  • 「フローリングは周囲8〜10ミリ逃げ必須ね。伸縮の逃げがないと後で突き上げるよ。」
  • 「建具枠と扉のクリアランス、左右2ミリ・上下3ミリで。枠の歪み分の逃げを計算しておいて。」

使う場面・工程

  • 木工造作:カウンター・棚板・家具の壁際、天井際の調整
  • LGS・PB(軽量鉄骨・石膏ボード):枠回りや開口部の取り合い、点検口・器具周り
  • 床工事:フローリング・長尺シートの周囲、巾木の上・下の納まり
  • 建具:扉と枠、レールと扉、クローザー・金物の可動域
  • タイル・石:入隅・出隅の通り、器具・カウンター取り合い
  • 設備・電気:配管・ダクト・器具と仕上げの干渉回避、メンテナンススペース

関連語

  • クリアランス:部材間のすき間のこと。逃げとほぼ同義で使われる。
  • あそび:可動部や取り付け位置の調整余裕。逃げより機能寄りの文脈で使うことが多い。
  • チリ:見付け寸法の出幅。見た目(意匠)上のラインをそろえる際に調整。
  • 見切り(材):異なる仕上げの取り合いで誤差を吸収し、境界を美しく見せる部材。
  • 伸縮目地:温度・湿度変化による動きを許容するための目地。広い面の割れ防止。
  • シール(コーキング):微細な隙間を埋め、見た目・防水・防塵を担う。過度な充填で逃げ不足を隠すのはNG。

なぜ「逃げ」が必要か(基礎理解)

現場は図面どおりにいかない前提で動いています。躯体の歪みや仕上げ厚のばらつき、材料の吸湿・乾燥による伸縮、施工順序の制約、製品ごとの許容差など、誤差要因は必ず存在します。逃げは、この「現実の不確かさ」を吸収し、仕上がりを美しく・機能的に保つための安全弁です。逃げを適切に設けることで、以下の不具合を防げます。

  • 材料の突き上げ・反り・割れ
  • 扉のこすり、閉まらない・戻らない
  • 配管・器具の干渉による振動や異音
  • 仕上げ端部の欠け・目地割れ・シール切れ
  • 見付けラインの乱れや意匠破綻

逃げの決め方・基本ルール

逃げは「なんとなく」ではなく、根拠をもって設定します。現場で使える判断手順は次のとおりです。

  • 製品仕様を最優先:メーカーが示す「取付クリアランス」「許容差」「伸縮に関する注意」を確認。
  • 仕上げ厚を積み上げる:下地から最終仕上げまでの厚みを合算し、取り合いに反映。
  • 可動域・メンテ性:扉の開閉角、引戸の走行、点検・交換スペースを確保。
  • 見え方の優先順位:正面・目線付近のラインを基準に、見えにくい側で逃げを取る。
  • 現調の実測:躯体の通り・直角・レベルを実測し、必要逃げを実寸で判断。
  • シール頼みは避ける:シールは仕上げであり、寸法誤差の主処方ではない。
  • 将来の動きを見る:木質材の含水率変化、金属の熱伸び、床暖房の影響などを加味。
  • 記録と共有:逃げ寸法はスケッチや図に明記し、関係者(設計・他業者)と認識統一。

逃げ寸法の目安と実務例(代表的なケース)

以下は現場で一般的に用いられる「目安」です。最終判断は必ず製品仕様・設計方針・現場条件を優先してください。

  • フローリングと周囲の壁・柱:8〜10mm(伸縮逃げ)。幅広材や床暖房は上限寄り。
  • 巾木と床:1〜2mm程度のシール目地、または床先行で巾木被せ(見切りで吸収)。
  • 家具・カウンターの壁際:3〜5mm。長尺物は通り調整のため5mmを基準に。
  • 建具(開き戸)扉と枠:左右1.5〜2.0mm、上2.5〜3.0mm、下7〜10mm(床材・敷居条件で調整)。
  • 引戸の戸尻・戸先:1.5〜2.5mm(製品規定優先)。
  • ボードと開口枠:3mm前後。見切り縁やシールで納める場合はその幅に合わせて。
  • 天井点検口まわり:3mm程度。パテ割れ防止に微細なクリアランスを設ける。
  • タイルとカウンター・浴槽:3〜5mm(シール設計幅に準拠)。
  • 造作材の取り合い(木口同士):0.5〜1.0mmの通り調整(化粧面はチリで吸収)。
  • 配管貫通部と仕上げ:5〜10mm(防火区画・防露要件に応じた充填材で処理)。

注意:耐火・防火・防煙区画、外部防水、バリアフリー寸法など法規・性能に関わる取り合いでは、逃げの取り方に制約がある場合があります。必ず設計・監理者の指示に従ってください。

仕上げ別「逃げ」の考え方

木質(造作・家具)

木は吸湿・乾燥で動きます。長手方向の反り・ねじれも想定し、壁際や天井際に3〜5mmの逃げを基本とし、見切り・巾木・シールで美観を確保。取り付けビス穴は長穴で微調整できるようにすると実務的です。

LGS・ボード

開口枠や既存躯体との取り合いは、ボード端部の欠け防止に3mm前後のクリアランスを設けます。パテで面一に無理やり詰めるとひび割れの原因。伸縮を見込んだ見切り材の活用が安定します。

床(フローリング・シート)

床は面積が大きく、伸縮の影響が顕著。周囲で8〜10mmの逃げ、広い空間は伸縮目地の検討が有効。巾木先行・床先行の納まりを工程段階で統一しておくことが重要です。

建具・金物

扉は季節・湿度・荷重で微妙に動きます。製品規定のクリアランスを守り、蝶番・クローザー・戸車の調整域を残すこと。下端は敷物や将来の床仕上げ変更も考慮します。

タイル・石

硬質材は割れやすいため、入隅・器具際の逃げはシール幅に合わせて確実に確保。下地の通りに難がある場合、見切り材でラインを整える判断が安全です。

設備・電気

器具の交換・点検動線を「逃げ」として事前に設けます。貫通部は防火・防水・気密の要件を満たす材料・工法で処理します。

失敗例とリカバリー(現場あるある)

逃げ不足で干渉・割れ

症状:扉がこする、フローリングが突き上げる、タイル目地が割れる。対策:見切り材の追加、薄見切りでライン修正、扉の削り調整(塗装・化粧の再仕上げを前提)、床周囲のシール目地化など。ただし構造・防火に関わる削りはNG。監理者と必ず協議。

逃げ過多で見た目が悪い

症状:隙間が広すぎて影が目立つ、シールが太って汚い。対策:見切り材で納まり変更、チリを揃え直す、シール色・種類を変更(低モジュラス・ノンブリードなど仕様に適合したものに)。

シール頼みで経年不良

症状:シール切れ・汚れ・剥離。対策:下地調整・プライマー適合確認、設計上の逃げ寸法を取り直し、適正幅・厚みで打ち替え。

図面・指示書での「逃げ」の読み方

図面では「逃げ◯mm」「クリアランス◯mm」「見切りで納める」などと注記されることがあります。ディテール図に寸法がない場合は、製品資料の取付必要寸法を参照し、設計者に確認を取るのが基本です。現場で独断の逃げ変更は、見え方・性能・責任の面でリスクが高いため、記録付きの承認を得ましょう。

コミュニケーションのコツ(トラブルを防ぐ)

  • 基準面を宣言する:「正面基準」「右側通り優先」など、どちらで見せるかを共有。
  • 逃げは数値で伝える:ざっくりではなく「3mm」など具体に。許容範囲もセットで。
  • 写真とスケッチ:取り合いはスマホ写真に寸法を書き込み、チャットで即共有。
  • 工程前倒しの確認:先行工種が逃げを必要とする場合、段取り会で合意形成。
  • シール色・見切り種類:最終の見た目に直結。モックアップやサンプルで決める。

似た言葉との違い

  • 逃げ:干渉・誤差・伸縮を吸収するための寸法的ゆとり。主として静的・幾何学的配慮。
  • あそび:可動部や取付調整が可能になる余裕。機能的・動的な意味合いが強い。
  • 公差(tolerance):製造・施工で許される寸法のばらつき範囲。設計・品質管理用語。
  • 見切り:異種仕上げの境界を整える部材・納まり。逃げの見え方を良くする手段。

チェックリスト(着工前・取付前に)

  • メーカーの取付要件・クリアランスは満たしているか
  • 仕上げ厚の合算は正しいか(下地から最終まで)
  • 可動域・メンテスペースは確保済みか
  • 見せる面・隠す面の優先順位は合意済みか
  • シール・見切り材の種類・色・幅は決定済みか
  • 逃げ寸法を図面・メモに残し関係者へ共有済みか

よくある質問

Q. 逃げは何ミリ取れば正解?

A. 一律の正解はありません。製品仕様、材料特性、面の大きさ、見せ方で変わります。本記事の目安を参考にしつつ、必ずメーカーと設計の指示を優先してください。

Q. シールで逃げればOK?

A. シールは仕上げの一部で、主たる誤差吸収の手段ではありません。過度な幅・厚みは汚れ・切れの原因。基本は「部材配置で逃げを設計」し、最後にシールで意匠・防水を整えます。

Q. 逃げを取ると見た目が悪くならない?

A. 見切り材の活用、チリの揃え、影のコントロールで美しく納められます。正面側を通して、見えにくい側で逃がすのがコツです。

Q. 既存との取り合いで逃げが足りない場合は?

A. 無理に詰めず、納まり変更(見切り追加、部材の厚み変更、カット面の化粧処理)を設計・監理者と協議。先に削る・切るは事故の元です。

現場で使える小ワザ

  • 長穴+座金:取り付けの微調整域を確保し、逃げの再調整を楽にする。
  • 先行墨+ゲージ治具:逃げ寸法をゲージ化して、誰がやっても同じ結果に。
  • 仮留めで通り確認:本締め前にライン・チリ・扉の走行をチェック。
  • 二次シール想定:屋内でも水回りは将来の打ち替えを見据えて逃げ幅を設計。

まとめ:良い「逃げ」は仕上がりの安心と美しさをつくる

「逃げ」は、誤差や動きを前提にしたプロの設計・施工判断です。十分な逃げは不具合を防ぎ、少なすぎない・多すぎない適量のバランスが美観を支えます。製品仕様の遵守、仕上げ厚の積み上げ、見せ方の優先順位、実測と共有。これらを押さえれば、現場で迷う場面は確実に減ります。今日から「どこで、どれだけ、なぜ逃げるのか」を意識して、納まりの質を一段引き上げていきましょう。