内装現場で役立つ「台車」ガイド:種類・選び方・安全運用まで一気にわかる
現場で「台車持ってきて!」と指示されたけれど、どれを指すのか、どう使い分けるのかがわからない……そんな不安は誰にでもあります。台車は「重いものを運ぶ道具」以上の存在。作業スピード、現場の安全性、床の保護、騒音対策まで左右する重要アイテムです。本記事では、内装・設備の現場で日常的に使われる「台車」について、種類、選び方、使い方、安全のポイントまでを丁寧に解説します。今日から現場で迷わない、頼れる実践ガイドとしてお役立てください。
現場ワード(台車)
読み仮名 | だいしゃ |
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英語表記 | dolly / hand truck / platform cart |
定義
台車とは、荷物や部材を人力で安全・効率的に搬送するための車輪付き道具の総称。内装現場では、工具・器具の運搬から石膏ボードや床材などの長尺・重量物の搬入まで、工程全体で使用されます。形状は大きく分けて「平台(フラット)」「手押しハンドル付き」「ボード専用」「二輪(ハンドトラック)」などがあり、荷重・床面・搬送ルートに合わせて使い分けます。
台車の主な種類
折りたたみ手押し台車(ハンドル付きプラットフォーム)
床面に優しい樹脂製デッキと折りたたみハンドルを備えた定番。工具箱、段ボール、器具類のまとめ運びに最適。静音キャスターやバンパー付きなら集合住宅・商業施設でも使いやすいです。目安荷重は150〜300kgクラスが一般的。
平台車(ドーリー/板台車)
フラットな板に4輪キャスターだけのシンプルな形。低床で家具・什器・ベニヤ束・袋物の下に差し込んで移動できます。狭い現場での取り回しが軽快。荷崩れ防止にラッシングベルトや滑り止めマットと併用するのが安全です。
ボード台車(石膏ボード・パネル専用)
石膏ボードや化粧パネルを立て掛けて運べる専用台車。支えのフレームと固定用ベルトで板材のたわみや割れを防げます。間口やエレベーター寸法に合わせたサイズ選定が重要。現場で最も“差が出る”台車のひとつです。
二輪ハンドトラック(手押し車)
L字フレームに荷台板がついた二輪式。セメント袋、配管材、家電・什器など縦荷重に強く、段差越えにも比較的強いのが特徴。荷重中心をタイヤ軸へ寄せて持てるため、腰の負担を減らせます。
階段用・悪路用台車
大径タイヤやクローラー機構で段差・外構の悪路を想定したタイプ。マンションの共用部にスロープが無い場合や仮設が取り切れていない現場で活躍します。屋外→屋内へ入る前に車輪の泥落としと床養生の確認が必須です。
静音・フロア保護型(静音台車/クリーン対応)
ウレタンキャスターや防振デッキで騒音を抑え、床への傷・タイヤ痕を軽減。病院・ホテル・オフィス稼働中工事のマストアイテム。エレベーター共用時の苦情抑止にも効果的です。
選び方のポイント(失敗しない基本)
1. 積載荷重と荷台サイズ
まずは運ぶ物の最大重量とサイズを把握します。台車は「均等荷重」で表記されることが多く、偏荷重には弱い場合があります。ボードや長尺材は「はみ出し量」を最小化し、ベルトで必ず固定。通路幅とエレベーター内寸も事前に採寸し、回転半径をイメージして選定しましょう。
2. 車輪(キャスター)の種類
- ウレタン:静音で床傷がつきにくい。屋内向けの定番。
- ゴム:衝撃吸収に優れるが、黒いタイヤ痕が残ることがある。
- ナイロン:転がりが軽く耐久性が高いが、硬くて音が大きめ。
- エアー(空気入り):段差に強いがメンテが必要。屋外寄り。
旋回性を重視するなら自在キャスターを多めに、直進性重視なら固定キャスターを組み合わせます。狭い室内では前側固定・後側自在の構成が扱いやすいことが多いです。
3. ハンドル形状・ブレーキ・付加機能
- ハンドル:折りたたみ式は運搬・収納に便利。固定式は剛性が高く重荷に向く。
- ブレーキ:傾斜・エレベータ待ちで必須。足踏み式ストッパーは使いやすい。
- バンパー:壁・建具のカド保護に有効。曲がり角の接触傷を軽減。
- 滑り止め:デッキのラバーやマットで荷ズレを予防。
狭小現場や夜間工事では「静音型+ストッパー付き」が総合的に安全です。
4. 搬入ルートと床養生
現場の床材(長尺シート、フローリング、磁器タイルなど)に応じて、タイヤ痕・傷の出にくいキャスターを選びます。搬入ルートに段差がある場合はスロープや養生板を用意。エレベーターや共用部の養生計画とセットで考えるとトラブルを避けられます。
5. 収納性と運搬車両
現場間の移動が多い場合、折りたたみやスタッキングできるモデルが便利。軽バンやハイエースの荷室サイズに合わせて複数台を積めるかもチェックしましょう。
現場での使い方
言い回し・別称
- 平台車/板台車/ドーリー:ハンドルなしの低床タイプを指すことが多い。
- 手押し台車/ハンドトラック:ハンドル付きで直進移動がしやすいタイプ。
- ボード台車/ボードキャリー:石膏ボード・パネル専用。
- 二輪車(にりんしゃ):縦持ちで運ぶ二輪の手押し車。
- 静音台車:騒音対策仕様の総称。
使用例(3つ)
- 「玄関からの養生できた? 静音の手押し台車で器具まとめて上げよう」
- 「ボードは立てで入れるから、ボード台車とベルト2本準備して」
- 「家具は平台車で転がして、角はラバー当ててゆっくり回って」
使う場面・工程
解体・搬出ではガラ袋や廃材の移動に平台車が便利。下地・配管工程では配管材や軽天材の束を、ボード工程では石膏ボードの搬入・水平移動をボード台車で。仕上げ工程では腰道具・塗装缶・器具類を手押し台車で一括搬送。引き渡し前は床・壁保護を優先し、静音+バンパー付きで最終動線を確保するのが鉄則です。
関連語(現場でセットで使う用語)
- 養生(ようじょう):床・壁・エレベーターを保護すること。台車は養生計画とワンセット。
- ラッシングベルト/荷締めベルト:荷崩れ防止の固定具。角当て併用で板材の傷を防止。
- 角当て(コーナープロテクター):荷物の角とベルトの当たりを緩和。
- スロープ/敷き鉄板:段差解消。台車の走行ラインに合わせて敷設。
- ストッパー/輪止め:停止時の暴走防止。特に傾斜とエレベーター前で必須。
安全に使うチェックリスト
- 荷重オーバー禁止:台車の定格荷重内で使用し、偏荷重は避ける。長尺材はベルトで固定。
- 通路確保:進行方向の障害物と人の動線を確認。「曲がり角は一旦停止」が基本。
- 床・段差の事前確認:溝・敷居・マットのめくれは転倒の原因。スロープを追加する。
- 合図・声掛け:複数人作業は「止まります」「右振り」「段差上がります」など合図を統一。
- ブレーキ・ストッパー使用:エレベーター待機時や斜面、風のある外構では必ずロック。
あわせて、手袋や安全靴の着用、荷台上の飛び出し防止、視界を塞ぐ積み方をしない、といった基本も徹底しましょう。
現場マナーとトラブル防止
- 騒音配慮:稼働中施設では静音キャスターを選び、早朝・夜間は速度を落とす。
- 共用部管理:エレベーター内養生、通行人優先、待機場所は出入口を塞がない。
- 汚れ対策:屋外走行後は車輪の泥・砂を拭き取り、黒ゴム痕が出やすい床はウレタン車輪に交換。
- 壁・建具保護:角部材にスポンジやカバーを当て、曲がり角は面で回す。
- 保管場所の明示:共用通路に置きっぱなしにしない。倒れやすい立て掛けもNG。
メンテナンスと日常点検
キャスターのガタつき、車軸の曲がり、ボルトの緩み、デッキ割れは即点検・交換対象。異音(キイキイ、ガラガラ)はグリス切れやベアリング摩耗のサインです。ウレタンタイヤの剥離、フロアに付着した金物・砂の巻き込みにも注意。月次で簡易点検、繁忙期や重量運搬が多い現場では週次点検がおすすめです。
- 清掃:使用後にホコリ・砂を落とす。室内持込み前にタイヤ拭き。
- 増し締め:キャスタープレートのボルトを定期的に締め直す。
- 交換部品:キャスターは消耗品。同径・同仕様で4輪同時交換が基本。
- 保管:直射日光・雨ざらしを避け、荷物を載せたまま保管しない。
よくある失敗と対策
- 石膏ボードが割れた:専用ボード台車+ベルト固定+路面段差にスロープを使用。人力で「抱える」より安全。
- 床にタイヤ痕が付いた:黒ゴムからウレタンへ変更。養生ボードを敷き直し、旋回時はゆっくり。
- 台車が暴走した:ストッパー未使用が原因。停止時は必ずロック。傾斜は二人作業に切替。
- エレベーターに入らない:事前採寸不足。荷物サイズだけでなく台車の全長・回転余裕を含めて計画。
- 曲がり角で壁キズ:ハンドル側を内側にして小回り、角にバンパー養生、速度を落として面で通過。
代表的なメーカーと特徴
特定製品を推すのではなく、現場でよく目にするメーカーの特徴を把握しておくと選定がスムーズです。
- 花岡車輌(はなおかしゃりょう):業務用台車の老舗メーカー。静音・高耐久モデルなど現場仕様が豊富。
- 金沢車輌:物流・業務向けのラインアップが広く、堅牢性に定評。サイズ・荷重バリエーションが選びやすい。
- トラスコ中山(TRUSCO):プロ向け工具の総合流通。自社ブランド台車も流通量が多く、入手性が高い。
- アイリスオーヤマ:折りたたみ台車などコストパフォーマンスのよいモデルを展開。軽作業・サブ機にも。
メーカーをまたいで「静音」「ストッパー付き」「床保護」など機能キーワードで探すと、必要条件に合うモデルにすばやく辿り着けます。
台車と内装品質の関係
台車は単なる運搬ツールではなく、内装品質と工期に直結します。適切な台車選定と運用で、荷物破損や床・壁の補修工事が減り、クレーム対応時間も削減。搬入・搬出の生産性が上がれば、職人の手元作業に時間を回せます。つまり、良い台車の運用は「現場の利益」に直結する投資です。
現場での“気の利くひと言”
- 「ボードは立てで行くから、台車は低速・段差前で一旦止まろう」
- 「床が仕上がったから、今日から静音ウレタン車輪に入れ替えます」
- 「エレベーター待機中はストッパー入れて、ドア養生に当てないでね」
こうした声掛けが事故やトラブルを未然に防ぎ、現場の信頼感につながります。
ミニ辞典:台車まわりの基礎知識
- 均等荷重:荷台全体にバランスよく載せたときの許容荷重。片寄せ載せはNG。
- 自在キャスター/固定キャスター:自在は方向自由、固定は直進安定。組み合わせで操縦性が決まる。
- ノーパンクタイヤ:空気入れ不要でパンクしにくいタイヤ。屋外搬送で便利。
- デッキ:荷物を載せる床板部分。樹脂は静音・軽量、スチールは剛性に優れる。
- バンパー:荷台の縁に付く緩衝材。壁・建具の保護に有効。
まとめ:台車は「選定」と「運用」で差がつく
内装現場での台車は、作業効率・安全・品質を支える基礎装備です。まずは工程と搬送物に合った種類を選び、床や周囲環境に応じてキャスターを最適化。荷重・固定・合図の基本を守り、定期的な点検でトラブルを未然に防ぎましょう。今日の現場から、静音・ストッパー・養生の三点セットを意識するだけでも体感が変わります。迷ったら「何を、どこに、どう運ぶか」を起点に、台車を味方につけて、安全で気持ちのよい現場づくりを進めていきましょう。