防火区画の基礎から現場実務まで:はじめてでも迷わない要点ガイド
「防火区画って図面にたくさん線が引いてあるけど、結局何をどうすれば正解なの?」——内装の初心者が最初につまずきやすいのが、この現場ワードです。言葉は聞いたことがあっても、実際にどの材料で、どこまでやればよいのかは、現場の状況や法令、メーカー仕様によって変わります。本記事では、建設内装の現場で「防火区画」を確実に押さえるための基本から、図面の読み方、施工の要点、検査で指摘されやすいポイントまで、やさしく丁寧に整理しました。読み終えるころには、区画の意図を理解し、どの工程で何を確認するかがはっきりするはずです。
現場ワード(防火区画)
読み仮名 | ぼうかくかく |
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英語表記 | Fire compartment / Compartmentation |
定義
防火区画とは、建物の内部を壁・床・天井などの構造や防火設備で区切り、火災時に炎や高温ガス、煙が他の区画へ短時間で広がらないようにするための「区切られた空間」のことです。法令で定められた性能(耐火・準耐火・防火など)や時間(例:45分、1時間、2時間等の区画性能)があり、その性能を満たす仕様・工法で連続的に囲うことが求められます。区画線がどれだけ綺麗に引かれていても、貫通部や開口部の処理が甘いと機能しません。壁や床の本体だけでなく、扉・ダクト・配管・ケーブルなど「穴」や「継ぎ目」まで含めて一体のシステムとして成立しているのがポイントです。
なぜ防火区画が必要なのか:目的と効果
防火区画の目的は大きく3つです。第一に、避難時間の確保。火と煙の広がりを遅らせることで、人命を守ります。第二に、延焼の抑制。建物全体の被害拡大を防ぎ、消火活動の安全性を高めます。第三に、法令順守と事業継続。設計時の防火計画に合致した施工をすることは、建築基準法・消防法などへの適合だけでなく、引渡し・保険・検査をスムーズにするうえでも不可欠です。
現場感覚で言えば、「炎と煙の通り道を作らない」ことがすべて。壁や床でしっかり囲い、開口や貫通は“必ず”防火仕様で塞ぐ。これが実務上の核です。
法令と基準のざっくり整理(現場向け)
詳細は設計者・監理者の指示に従うのが大前提ですが、現場目線での把握ポイントは次のとおりです。
- 建築基準法・関連告示:防火区画の位置・性能(耐火/準耐火)・大きさ・竪穴区画などが規定されます。
- 消防法:用途や設備側の要件、防火設備の維持管理、ケーブルやダクトの貫通措置などが関係します。
- 認定・評定・メーカー仕様:耐火区画を構成する壁、床、貫通部の処理などは、認定を受けた仕様(材料・厚み・留め付けピッチ等)で施工する必要があります。
- 検査:中間・完了・消防同意等で、区画の連続性、開口部の防火設備適合、貫通部の処理、写真記録が確認されます。
現場の合言葉は「認定通りにやる」。似ている材料やピッチで“だいたい”寄せると不適合になるリスクが高いので要注意です。
図面の読み方と確認ポイント
防火区画は、設計図・平面詳細図・防火区画図(ハッチング・太線・記号)で示されます。チェックの勘所は以下です。
- 区画線の連続性:壁、柱、梁、床をまたいで「途切れていない」か。梁下で止まってしまうなどの断絶に注意。
- 性能の等級:45分・1時間・2時間など、区画ごとの要求時間が一致しているか。
- 開口部:扉・窓・設備開口は「防火設備」や「シャッター」など指定があるか。
- 貫通想定:設備図と突き合わせ、ダクト・配管・ケーブルの貫通位置・本数・スリーブ有無を事前に整理。
- ディテール図:壁見切り、梁貫通、二重天井の取り合い、LGS下地の納まり、シーリングの種類と厚さ。
図面に迷いがあれば、元請・設計・設備と「事前協議」を。とくに貫通部は後追いだと苦労が大きいので、着工前にすり合わせるのが鉄則です。
防火区画の主な種類と用語
現場でよく出てくる区画のタイプを整理します。
- 耐火区画/準耐火区画:一定時間、炎や高温の侵入を防ぐ区画。要求時間は用途・規模で変動。
- 竪穴区画:階段室、吹抜け、エレベーターシャフト等、縦方向の空間を区切る区画。上階への火勢拡大を防止。
- 異種用途区画:用途の異なる室や火災危険度が高い室(機械室、電気室等)を区切るための区画。
- 防煙区画:主に煙の拡散を抑える区画。防火区画と目的が異なるため、仕様も別。天井懐やスリットの扱いに注意。
- 面積区画:大空間を所定の面積ごとに分割する区画。倉庫・工場・商業施設で登場。
呼び方は現場では「1H(ワンアワー)区画」「2H」「準耐」など省略されがち。意味を取り違えないよう、図面の凡例で符号・記号を必ず確認しましょう。
材料・工法の基本(代表例とメーカー)
各区画は「認定仕様」に沿って構成します。代表的な材料・工法の例を挙げます(実施工は必ず各メーカーの最新仕様書・認定書を確認)。
- 壁の区画構成:石膏ボードの複数枚張り、ケイ酸カルシウム板、ALCパネル、耐火間仕切りパネルなど。下地は軽量鉄骨(LGS)・鋼製スタッド等。
- 床・スラブの区画:鉄筋コンクリート(RC)やデッキスラブに所定厚さ、上下面の被覆や目地処理。
- 開口部(防火設備):防火戸・耐火シャッター・耐熱ガラス。規格適合品を選定し、隙間・沓摺・シールも含めて性能確保。
- 貫通部の処理(ファイアーストップ):耐火シーラント、モルタル、巻付け材、ケーブル用ブロック、ダンパー等で認定工法に従い処理。
代表的なメーカー(五十音順、例):ニチアス(耐火・防火材、貫通部材)、ヒルティ(各種ファイアーストップシステム)、吉野石膏(各種石膏ボード・耐火間仕切り構成)、ケイミュー(ケイカル板等のボード類)、YKK AP・LIXIL・文化シャッター(防火設備:防火戸・シャッター等)。選定は設計指定が基本で、互換は不可のことが多い点に注意してください。
施工の流れとチェックポイント(内装目線)
工程ごとに「やるべき確認」を明確にしておくと、手戻りが激減します。
- 着工前打合せ:防火区画図・設備図の突合、貫通位置と本数の確定、使用工法の認定書・仕様書を各社で共有。
- 墨出し:区画壁の芯、梁下の高さ、天井懐内の区画継続ライン(防煙区画の有無も)をマーキング。
- LGS下地:スタッド間隔、胴縁ピッチ、開口補強、梁・柱取り合いの当て板や被覆納まりを確認。認定の留め付けピッチを厳守。
- ボード張り:枚数・板厚・貼り方(目地ずらし等)、ビスピッチ、目地処理。認定通りであることを写真記録。
- 開口部:防火戸枠の取付許容差、隙間、沓摺のシール材種別、煙返しの有無を確認。
- 設備貫通:スリーブ径、ケーブル束の実径に合わせたスペーサ、充填深さ、裏表の両面処理、ラベル表示(工法・日付・担当)。
- 中間検査・自主検査:区画の連続性、貫通未処理の洗い出し、仕様書との整合。是正は必ず写真で残す。
施工記録は「誰が・いつ・どの工法で・どの位置を処理したか」を写真と共に明記。引渡し時のエビデンスになるだけでなく、将来の改修・増設時に生命線になります。
よくある不具合と是正のコツ
現場で頻出するミスと対策をまとめます。
- 天井懐で区画が切れている:二重天井で壁が上まで達しておらず、防煙・防火が途切れる。上部閉塞や煙返し板の追加で連続性を確保。
- 設備の「あと貫通」:配管・ケーブルの増設で勝手に穴を開け、未処理のまま放置。貫通管理ルール(開口申請・処理後のラベル貼付)を徹底。
- 材料の取り違え:耐火シーラントと単なる難燃シーラントの混同。缶やカートリッジの製品名・色・型番・使用部位を相互確認。
- 認定外の納まり:厚みやビスピッチを“現場合わせ”で変更。小さな違いでも性能に直結するため、必ず認定仕様へ合わせて是正。
- 扉周りの隙間:防火戸の建付け不良、ガスケット欠落。製品の調整手順に沿って隙間調整・部材補修を実施。
是正の基本は「認定図に戻る」。判断がつかない場合はメーカー技術窓口へ相談し、承認メールや社内記録を残しましょう。
現場での使い方
言い回し・別称:
- 「区画」「耐火区画」「準耐」「1H(ワンアワー)」「2H」「竪穴(たてあな)区画」「防煙区画」など。
- 「ファイアーストップ」「貫通処理」「区画切る(区画を成立させるの意味)」も現場用語として定着。
使用例(3つ):
- 「ここ竪穴区画だから、梁下までボード立てて上部もしっかり塞いでね。」
- 「設備さん、この配管の貫通、認定工法で処理済み? ラベルと写真も残しておいて。」
- 「このラインで1時間区画に切り替わるから、下地から仕様変えるよ。ビスピッチも認定通りで。」
使う場面・工程:
- 着工前の施工計画打合せ(区画図の共有、貫通管理ルールの決定)
- 墨出し・LGS下地・ボード張り(区画の連続性を物理的に作る工程)
- 開口部の建具取り付け(防火設備の適合確認)
- 設備貫通の施工・是正(火止め、ダンパー、シーリング充填)
- 自主検査・中間検査・完了検査(写真記録、指摘是正)
関連語:
- 防火設備(防火戸・シャッター・耐熱ガラス)
- 耐火構造/準耐火構造、告示仕様、認定工法
- 竪穴区画、防煙区画、異種用途区画、面積区画
- 貫通部(スリーブ、ダクト、配管、ケーブル)、ファイアーストップ
新人でも外さない「判断の順番」
迷ったら次の順で確認します。
- 1. その場所は区画か?(図面でライン・凡例確認)
- 2. 要求性能は?(45分・1H・2H/防煙)
- 3. 採用仕様は?(認定番号・メーカー・部材厚・ビスピッチ)
- 4. 連続しているか?(梁・天井懐・柱・床で途切れていないか)
- 5. 穴はないか?(開口・貫通・見切り・目地の処理)
- 6. 記録は残したか?(写真・ラベル・納まりスケッチ)
この順番を徹底すれば、大半のトラブルは事前に防げます。
防火区画と防煙区画の違い(よくある疑問)
防火区画は炎・高温から守る「耐火時間」を要求されます。一方、防煙区画は主に煙の広がりを防ぐことが目的で、天井面やスリットの処理、扉の隙間の扱いなどが異なります。同じ「区画」でも、要求性能が違うため、材料や工法も変わります。図面で混同しないことが大切です。
貫通部処理の実務ポイント(ファイアーストップ)
区画を貫通する要素(配管、ダクト、ケーブル束、トレイ等)は、火災時の「抜け道」になりがちです。だからこそ、貫通部の処理は現場最大の要注意ポイントです。
- 認定工法の選定:貫通物の種類(可燃/不燃)、径、束ね方、貫通角度、周囲母材で工法が変わる。
- 事前のスリーブ管理:設備側と径・位置を確定し、むやみに大きくしない。隙間が大きいほど処理が難化。
- 充填の厚みと両面処理:片面だけのシールはNGのことが多い。断面写真や深さゲージで実測。
- 可動や増設への配慮:将来の配線増設を見越し、モジュール型ブロックシステムの採用も検討。
- マーキング・ラベル:工法名、材料、施工日、施工者を明記し、図面に位置を反映。
検査に強い書類・写真の残し方
「やった」だけでは通りません。「やった証拠」を整えるのがプロの仕事です。
- 材料証明:製品ラベル、納品書、型番が写る写真。
- 工程写真:下地、ボード1枚目、2枚目、目地処理、貫通両面の施工前中後。
- 位置特定:平面図へのプロット、通し番号、スケール当て。
- 是正記録:指摘事項、是正前後の比較、再検印。
写真は「近景・中景・遠景」の3点セットが基本。どこを、どの工法で、どれだけやったかが第三者に伝わる構図を意識しましょう。
コストと工期の感覚(目安の考え方)
防火区画は「事前調整」に時間をかけるほど、総コストが下がります。逆に、あとから貫通や是正が発生すると、仕上げの剥がし・復旧・調整に大きな手戻りが発生。貫通位置の確定、スリーブ設置、認定工法の選定を前倒しし、工程の山場(天井閉め前・ボード二枚目前)で必ず合同確認を入れるのが効きます。
安全とメンテナンスの視点
引渡し後も、テナント入替や設備更新で貫通や開口は繰り返し発生します。建物の安全を維持するには、次の運用が効果的です。
- 貫通管理台帳:位置、工法、施工者、日時を記録し、更新時に参照。
- ラベル徹底:現地で工法が一目で分かるように貼付。
- 改修時の申請ルール:開口前の承認、施工後の写真提出を義務化。
「工事して終わり」ではなく、「運用で守る」まで視野に入れると、建物の安全性が長期にわたって保たれます。
関連用語ミニ辞典
- 防火設備:火災時に延焼を防ぐ機能をもつ扉・シャッター・窓など。規格適合が必須。
- 耐火/準耐火:所定時間、構造体が火災に耐える性能区分。壁・床・柱・梁などに適用。
- 竪穴区画:階段室や昇降路など縦に連続する空間を区切る区画。
- ファイアーストップ:区画を貫通する部分を塞いで延焼・煙拡大を防ぐ措置の総称。
- 認定工法:試験により性能が確認され、番号で管理される仕様。材料・厚み・ビスピッチ等まで厳密に定義。
ケーススタディ:オフィス改修での落とし穴
既存オフィスのレイアウト変更で、天井まで届かないパーティションを設置したところ、防煙区画が途切れ、煙感知器の作動遅延リスクが指摘された事例があります。対策として、上部に煙返し板を増設し、天井懐の防煙ラインを回復。さらに、ケーブル増設の貫通部が未処理だったため、認定システムで再処理。写真と台帳を整えて検査をクリアしました。改修では「既存が正しい」とは限らない点に要注意です。
現場で役立つチェックリスト(抜粋)
- 区画ラインは梁・天井懐まで連続しているか
- 要求性能(時間)と採用仕様(認定)が一致しているか
- 防火設備(扉・シャッター)の隙間・ガスケットは適正か
- 貫通部は両面処理・充填厚・周囲清掃まで完了しているか
- 写真・ラベル・台帳は整備済みか
Q&A:初心者の疑問に答えます
Q. 難燃材で塞いでおけば十分ですか?
A. いいえ。難燃と耐火は別物。区画には「耐火・準耐火」などの性能が求められるため、認定工法に合致する材料と施工が必要です。
Q. ボードを1枚追加すれば1時間耐火になりますか?
A. 枚数だけで決まりません。板厚、貼り順、目地ずらし、ビスピッチ、下地などを含めて「仕様セット」で性能が成立します。
Q. ケーブルを一本追加したいのですが、既存のシールを少し切って通してもいいですか?
A. 原則NG。既存工法の再現または増設対応の認定システムを使用し、施工後に復旧・記録してください。
Q. 図面にない小さな穴(アンカー穴等)は問題になりますか?
A. 区画の連続性を損なう恐れがあります。小さくても認定に沿った補修が必要な場合があります。監理者へ確認を。
コミュニケーションのコツ(多職種連携)
防火区画は内装、設備、建具、電気、消防がまたがる「横断分野」です。手戻りを防ぐコツは、着工前に「貫通管理ルール」「認定工法の共有」「検査の写真要件」を紙一枚にまとめ、全社で運用すること。現場では職種ごとに見ている点が違うため、共通言語を用意するとミスが激減します。
最後に:防火区画は“線”ではなく“仕組み”
図面の線に惑わされがちですが、防火区画は「材料×工法×連続性×開口・貫通処理×記録」の総合格闘技です。初心者の方は、まず「認定通りに作る」「区画を途切れさせない」「穴は勝手に開けない」の3点を徹底してください。慣れてくると、図面を見た瞬間に「ここが弱点になる」とわかるようになります。今日の現場から、ひとつずつ実践していきましょう。